第2章 試験対策: 1 - 2 - 3 - 4

このテキストでは、実技試験について解説します。

気象概況及びその変動の把握

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気象図

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国立環境予報センター/水文気象予報センターによる、地上天気図(2006年10月21日1500UTC)。Lは低気圧の中心を示します。また、熱帯予報センタートロピカルストーム・ポールの位置 (PoSitioN) 情報(北緯16.0度、西経106.9度)を出しています。

気象庁が発表する地上天気図の現在天気において、 は「雨」の一種、 は「雷電」の一種です。下層雲形の は、「積乱雲」の一種です。等圧線は1000hPaを基準に、4hPaごとに実線で描かれます。低気圧の中心気圧は最も内側の等圧線の値とされ、×印のすぐ下に示されています。移動方向を示す⇒の隣には進行速度が書かれてあります。

 
前線の種類は、1. 寒冷前線 2. 温暖前線 3. 停滞前線 4. 閉塞前線 の記号で表されます。

全般海上警報も表示されることがあり、[GW] は海上強風警報を、[SW]は海上暴風警報、FOG [W] は海上濃霧警報を表します。

高層天気図でも風向・風速を矢羽で表しますが、その根元である観測点の斜め上には気温、斜め下には湿数が記されています。短矢羽( )は5ノット、長矢羽( )を10ノット、旗矢羽( )50ノットとされています。等温線が破線で描かれており、850hPa天気図では温度移流を読み取ることができます。等高度線は実線で引かれていて、500hPa天気図を使えば偏西風帯の流れを見ることができます。

 
アメリカ国立気象局米国環境予報センターNAMによる、500mb (ジオポテンシャル)高度・(絶対)渦度18時間予想図(初期時刻:2006年5月15日00UTC)。太実線は高度、細実線は渦度12 (* 10-5s-1) 線でそれ以上は網掛けがされています。Xは渦度の極大値、Nは極小を示しています。

高層解析・予想図の 500hPa高度・(相対)渦度図 において、等高度線が低圧部から高圧部へ波打っていれば気圧の谷を示しています。500hPa面のトラフの位置が地上低気圧の中心より西にずれていると、低気圧はさらに発達します。500hPaのトラフが地上低気圧のほぼ真上にあれば、その低気圧は発達を止めます。流れの右側が負渦度・左側が正渦度のときの渦度0線は、500hPa面の強風帯や下層の前線帯とよく一致します。

 
アメリカ海洋大気圏局国立気象局による、700mb 高度・(相対)湿度・鉛直流18時間予想図(初期時刻:2007年1月29日00UTC)。対流圏中層の風は等高度線にほぼ平行に吹くので日本では省かれます。

500hPa気温、700hPa湿数図 では、水蒸気量の水平傾度が分かります。500hPaの寒気場に地上低気圧が入れば、その温帯低気圧は閉塞過程にあります。 850hPa気温・風、700hPa上昇流図 において、網掛け域は上昇流を示しておりその極値には-XX (hPa/h) の負の鉛直p速度が記されています。700hPa面において寒冷前線は帯状の湿潤域内にあり、その前面には強い上昇流域の帯が見られます。前線活動が活発であれば、強い上昇流が見られます。

 
国立海洋大気圏局気象業務部GFSによる、850mb 高度・気温・風96時間予想図(初期時刻:2006年7月17日18UTC)。高度の1の位は略されています。

850hPa気温・風分布図では、風向と等温線から温度移流を検討します。風と等温線風が直交するほど温度移流は強く、風が等温線と平行に吹けば温度移流はありません。停滞前線の付近では等温線の集中帯があります。

850hPa風・相当温位図から前線の位置・移動を把握でき、等相当温位線が密集した帯の暖気側の縁に前線はあります。雨期の暖湿流の確認もでき、相当温位340K以上で35ノット以上の風だと注意の目安になります。南北で等温線の間隔が広くても等相当温位線の間隔が狭ければ、水蒸気量の水平勾配が大きいことを意味しています。風の水平分布から収束帯も分かり、帯状の降水域に対応します。925hPa風・相当温位図は高度約800m付近の分布を示しており、850hPa面よりも風の収束域が明瞭になることがあります。

 
アメリカ海洋大気庁国立環境予測センターRUCによる、前3時間降水量・地上気圧、500mb 高度12時間予想図(初期時刻 2008年8月26日06:00Z)。日本では降水量をミリメートル単位で表します。

地上気圧・降水量・風予想図を用いると、低気圧の発達や通過などの予想ができます。等圧線は1000hPaから4hPaごとに実線で描かれ、8hPaごと数字が付けられます。Lの略号から最も近い線がその低気圧の中心気圧の値とされます。降水量は予想時刻までの積算量を表し、原則として12時間降水量です。風は海上風が表示されています。強雨の時間帯や、風向・風速の変化も予想できます。降水の極大域では、高相当温位の気流や上昇流との関連も検討します。等圧線の走行が南西から北東で、南側の等圧線の間隔が広く前線のある北側へ狭くなっていると、収束と上昇流により強雨の原因となります。

南北鉛直断面図では、風向・風速、等温線、等相当温位線などが表示された経度線ごとの大気の断面図です。図の右側が南ですが、表示される風向は真上から見たものと同じです。気温と相当温位の南北傾度が大きく、風向と風速の南北での変化が大きいところから、停滞前線などの位置が分かります。

気象パターン

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4月と5月は温帯低気圧が日本を通過します。その寒冷前線は、等温位線や等相当温位線の集中帯の東端にあり、気象衛星画像では帯状の対流雲が見られます。エマグラムの状態曲線をみると、寒冷前線の後面では空気の沈降による逆転層があり、上層が乾燥していて下層で湿潤です。寒冷前線前面の暖域内では、全層において湿数が小さく中層は飽和することもあります。

カタフロント型の寒冷前線の場合、その前線面上の暖気の流れが速いので、湿潤域は850hPa、700hPa、500hPaと上層へいくほど東側に傾いています。レーダーエコー合成図による雲バンドは、地上寒冷前線とほぼ平行ですが東側にかなり離れており、500hPa面の湿潤域に対応することがあります。また、暖気は寒冷前線面を滑降するので、地上の寒冷前線の近辺では対流雲と降水は弱くなります。

6月から7月にかけては梅雨のパターンとなります。北緯30度以南で太平洋高気圧が張り出します。500hPaでブロッキング高気圧、地上でオホーツク海高気圧が見られます。850hPa面では停滞前線に対応して等相当温位線が込んでいて、風のシァが見られます。東経120度から130度にかけて南北の気温差は小さいのですが、湿数の水平傾度は大きくなります。東経140度付近では等温線の間隔が狭くなります。

切離低気圧梅雨前線がセットになることがあります。寒冷低気圧は偏西風の蛇行により生じるので、東進が遅くなります。停滞前線の北側へのキンクから生じた中間規模の低気圧は、寒冷渦に比べて速く動きます。

9月頃には台風がよく日本に上陸します。地上天気図を見ると、円形の等圧線で中心へ向うほど込んでいます。500hPa面では、強い正渦度の極大値が中心にあります。850hPa面では、強い低気圧性の循環場があります。秋雨前線に台風が水蒸気を供給する組み合わせは大雨になります。上層の高気圧性の吹き出しにより、台風の北東端では上層雲が見られることもあります。

10月になると北にあった温帯低気圧が南下し、11月頃までは日本付近を通過します。低気圧が発達中であれば、進行方向前面の850hPa面で暖気移流域・700hPaで上昇流域になり、前線後面の大気は等温線の間隔が狭く寒気移流と寒気下降の状態になります。暖気移流が強いほど上層雲が北側へ張り出し、その縁は明瞭になります。寒冷前線の前面は、下層で気温が高く南西の強い風が吹いています。温暖前線の寒気側の上空では、温暖前線面に対応した逆転層があります。前面の暖気の移流と上昇、後面の寒気の移流と下降が共に弱まると、低気圧は発達しません。

12月頃は東シナ海低気圧が北東方向へ急速に発達することがあります。500hPa面の正渦度の極大値に対応したトラフが経度で10°近く、地上低気圧から西にずれることもあります。下層では暖気移流と暖気上昇、寒気移流と寒気下降が強いほど低気圧は急発達します。温暖前線が通過すると、地上の風は東風から南風に変わります。


気象図

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合同台風警報センターによる日本付近の可視画像(2006年6月9日0600Z)。南西諸島近傍では積乱雲の雲列が見られます。

気象衛星画像において、水蒸気画像は対流圏中・上層の水蒸気の分布を表していて、水蒸気量が多い部分は赤外放射が弱いので白く写ります。上層雲は赤外画像や水蒸気画像で白く見え、可視画像では灰色です。対流雲(積乱雲など)は可視画像・赤外画像ともに明るい白色の団塊状で、鉛直p速度の負の領域があります。層積雲または層雲は、可視画像で白く、赤外画像で暗くなります。層雲または霧は、可視画像で白く滑らか、赤外画像で暗くなります。エマグラムと組み合わせると、大気の状態を立体的に把握できます。レーダーエコー合成図と組み合わせると、降水強度や降水域の特徴が分かります。

 
エマグラム。日本では温位湿球温位の単位がケルビンで、気圧の単位がヘクトパスカルの図を用います。

状態曲線とは気温と露点温度の鉛直分布で、逆転層や湿潤層の把握ができます。高層風、温位、相当温位のデータが加えられる、鉛直分布図もあります。数値予報図の各高度の気象要素と比較することで、地点を読み取ります。高相当温位の下層気流の流入も鉛直分布図で分かり、相当温位が上空へ向って減少すると対流不安定です。

 
アメリカ国立気象課による、ある地点での気象要素。風向・風力:南西20ノッツ、気温:華氏77度(25℃)、視程:5マイル(約8km)、現在天気:しゅう雨露点温度:ファ氏71度(約22℃)、気圧:999.8hPa、気圧変化量:0.3hPa減少、気圧変化傾向:一定後下降、雲量:8分の7、下層雲形:積雲、中層雲形:高積雲、上層雲形:巻雲、過去天気:しゅう雨性降水、雲低の高さ:2000フィート(約600m)です。

局地天気図の地上実況図で、湿数を求めることができます。日本式天気種類の現在天気において、 は「霧雨」、  は「雨」です。視程は米国を除き、01 - 50は100m刻みで05だと0.5kmです。各観測地点の気圧や風向などを考慮して、等圧線やシア・ライン等を描画します。前線の作図においては、まず気温・露点温度や風の水平シアーを把握してから取り掛かります。

地上気象観測値時系列図では、前1時間降水量、気温・露点温度、風向・風速 (m/s) が出力されます。気温や風向の急変を読取り、前線の通過時刻を判断します。ある時刻の2地点間の風向・風速から、収束の強化を見つけることもできます。 メソモデルによる、850hPa気温・露点温度・風時系列予想図では、850hPa面における寒冷前線の通過時間が予想できます。気温が下降し湿数が増え、風向は南寄りから西寄りへ変化します。

メソモデルによる、850hPa風・相当温位15時間予想図では、風向や等相当温位線により低気圧や温暖前線などの位置が判り、850hPa上昇流15時間予想図の上昇流域や前1時間降水量15時間予想図の降雨域に対応します。 メソモデルによる地上風・前1時間降水量予想図を、実況図であるレーダー・アメダス解析雨量図と比べると、収束が実況より弱めに予想されることで、降水の集中度と強さが弱まることがあります。アメダス気温・風分布図から、不連続線を見つけることができます。数値予報モデルの地形図では、地形の効果が分かります。

ウィンドプロファイラによる水平風時系列図は、ある観測局の水平風の連続的なデータが表示され、風向・風速の変化とその高度などを把握できます。南成分の風から北成分の風に急変している層があり時間とともに高度を上げていれば、寒冷前線面が通過しています。 メソモデルによる水平風の予想図には700hPa面や925hPa面のものがあり、大気の構造が分かります。

気象パターン

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地上気象観測値の時系列図を使うと、寒冷前線が通過する地点では風向が南寄りから西寄りに変化し気温が下降することが分かるので、地上の前線の位置を推測することができます。カタ型の寒冷前線が通過した場合、降水はあっても弱いか観測されないこともあり、前線通過後でも地上は湿数が減ります。

梅雨前線に伴う発達した積乱雲群に対応したレーダーエコー合成図のエコー強度の強い部分は、狭い帯状で下層ジェット気流の左側の縁にあります。このとき北東気流が吹く北日本関東地方の太平洋側の下層では、逆転層の下に層雲があり、日本海側との気温差が10℃以上になったり、湿数が0℃で飽和していることもあります。反対に日本海側では快晴晴れとなり、視程はよく気温が上がり湿数は大きくなります。梅雨前線上に温帯低気圧などがある場合、高相当温位の南寄りの強風が斜面に流入する地形性降雨が加わります。

台風が九州に上陸するのと同時に、紀伊半島では高相当温位の南東風が地形により強制上昇し強雨域となることがあります。

西高東低型気圧配置になっても、下層の流れが本州中部の山岳地域で北側と南側に分流し、関東地方南部で合流するとシア・ラインが発生し曇りになることがあります。雲域の南西側にシア・ラインがあるときは、シア・ラインの北東側での北から東の弱い地上風に、南西側での西寄りの強い下層風が乗り上げています。その雲域内のシアラインに近い地点では、上に向かって風向・風速が急変している高度があります。

ある地点の南側を東シナ海低気圧が東北進した場合、地上付近の風向は東→北東→北と反時計回りに変化します。紀伊半島が低気圧の暖域内にあると、南西側の斜面では地形性上昇に伴う降雨となります。この温暖前線が中部地方の山岳地帯にあるとき、関東地方北部では地上に寒気が滞留し地形性の高圧部になることがあり、夜間で降水の蒸発があると顕著になります。


台風等緊急時における対応

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地上天気図での警報事項は英文で書かれます。温帯低気圧の海上暴風警報において、"EXPECTED WINDS 35 TO 55 KT WITHIN 700 NM OF LOW FOR NEXT 12 HOURS" とあれば、今後12時間以内に低気圧から700海里(約1300km)以内では風が35~55ノットになることを予想しています。海上台風警報[TW]は、台風による最大風速が64ノット (32.7m/s) 以上か・24時間以内にその最大風速が予想される場合に発表されます。台風はその最大風速が弱まるにつれ、"Severe Tropical Storm"そして"Tropical Storm"へと格下げがなされます。

 
ハリケーン・カトリーナ進路予報コーン米国立ハリケーンセンター)。

気象庁が発表する台風進路予報図において、予報円に台風の中心が来る確率は70%です。台風が予報円内に進んだときに暴風域に入る恐れのある範囲は暴風警戒域と呼ばれます。暴風域がなくなると予想されれば、その時刻からは暴風警戒域が描かれません。

沿岸波浪図では波の高さを等波高線で表します。この図で表示される波高を有義波高といい、観測した波を高い順に3分の1取り出して平均させた波高のことです。波が進んでくる方向(波向)を示す卓越波向は白抜きの矢印で表示されています。卓越周期は波で海面が上下する周期を示しています。沿岸代表点(A - Zの日本沿岸26地点)の表において、左側のWAVE欄は卓越波向(16方位)・卓越周期(秒) 、波高(メートル)が表示されており、右側のWIND欄では風向・風速を表示しています。

地上気圧・降水量・風予想図では、+ 印の下にある極大値を読み取ることで大雨を予想できます。暴風による高波も推測できます。気圧の急降下による海水の吸い上げも読み取れます。

レーダーアメダス解析雨量図では前1時間降水量 (mm) が表示され、降雨域の移動と発達などが分かります。降水短時間予報図は解析雨量図を初期値とし、降水域の移動・1時間降水量の推移が予想されます。

850hPa気温図で-6℃以下だとが降りやすく、大雪は500hPa気温図で-35℃未満が目安です。

気象パターン

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温帯低気圧の発達などで40ノット(約20m/s)以上の風が予想されているときは、暴風に対する警戒が必要です。海上では沿岸波浪図で高波を予想できます。高波は波の山と谷の落差が大きいことをいい、卓越波向のシアが大きいと三角波が生ずる恐れがあります。

梅雨の時期には積乱雲群による、短時間強雨や大雨突風落雷降雹の現象に注意します。短時間強雨で警戒する災害には「がけ崩れ」「低地への浸水」「中小河川の氾濫」があります。

やませが吹くと「低温」や「日照不足」の気象状況により、農作物に害を与えます。

台風の防災において数時間で非常に激しい降雨になった際に警戒すべき気象災害には、突風害、落雷、低地の浸水、洪水があり、傾斜地では山崩れ・がけ崩れ、土石流にも警戒します。

温帯低気圧の防災上警戒すべき現象には、大雨、暴風・高波、高潮があります。高潮は潮位が上がることをいい、低気圧による吸い上げ効果と、岸へ向かう風による吹き寄せ効果で高潮は発生します。

冬型の気圧配置において大陸沿岸からの風速が同じでも、日本海上の吹走距離(一様な風が吹き渡る距離)が長い、風下にある風浪の方が波が高くなります。