法学憲法日本国憲法>人権 (日本国憲法)経済的自由権職業選択の自由

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意義 編集

憲法22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と規定する。ここから、職業選択の自由が憲法の保障する人権として導かれる。

職業遂行の自由(営業の自由)もまた、22条1項によって当然に保障されると解されている。なぜなら、職業を選択する自由があっても、それを遂行する自由がなければ、職業選択の自由の保障は実質的に画餅に帰すからである。また、営業の自由は22条のみならず29条の財産権の保障からも導かれるとする説もある。これは財産権の行使の自由が営業の自由と密接不可分であるところから導かれる。

ただ、職業はその性質上、社会的な相互の関連性が強いから、「公共の福祉」による内在的な制約を必然的に蒙ることになる。のみならず、政策的見地から、格差是正のための積極目的の規制も許されると解されている。

違憲審査基準 編集

二重の基準 編集

二重の基準とは、経済的自由権は精神的自由権に比べて広範な立法裁量が認められるという理論である。その根拠として、精神的自由権は民主主義のプロセスを直接に左右する重要な人権であり、いったん規制が加えられると、民主主義のプロセス内における回復が困難であることが挙げられる。他方、経済的自由権は民主主義のプロセスを直接支えるものではなく、規制が加えられたとしても民主政治によって回復が可能であるとされる。一方、経済的自由は濫用された場合の害悪が直接的かつ大きいものなので、規制の必要性も高いとされる。ここから、精神的自由権には優越的地位が認められるとする。

規制目的二分論 編集

経済的自由権の規制には、社会に危険を発生させることを防止するための消極的・警察的目的の規制と、福祉国家思想から導かれ、格差の是正等を目指す積極的・政策的目的の規制とに分類される。積極目的規制は政策的な判断であるから、司法府が介入できる余地は小さく、裁判所は当該規制が著しく不合理なことが明白でない限り介入を控え、合憲とすべきとされる(明白の原則)。

規制目的二分論は、小売市場距離制限事件(最大判昭和47年11月22日刑集26-9-586)において導入された。同判決では小売市場の開設許可条件に設けられた距離制限は積極目的の規制であるとし、明白の原則を採用して合憲とした。同じ枠組を採用した薬局距離制限事件(最大判昭和50年4月30日民集29-4-572)は、薬局の開設許可条件として距離制限を設けた薬事法の規定は消極目的の規制であるとし、厳格な合理性の基準を採用して違憲とした。

規制態様論 編集

違憲審査基準の選択にあたっては、規制の目的のみならず規制の強度をも考慮する必要もある。例えばそれが当該職業への新規参入そのものを規制するのであれば、それは職業選択の自由を直接に制限するものであるから、態様面では強度の規制である。また、規制にあたって設けられた要件が参入者の努力・能力ではどうにもできないような要件である場合、そのような規制は強度の規制であるとされる。

基準の選択 編集

一般に、規制目的二分論に立つ場合には、消極目的規制については厳格な合理性の基準、積極目的規制については明白の原則を用いて判断するという枠組が提示されることが多い。しかし、前述の通り、違憲審査基準の選択にあたっては規制の態様をも考え合わせて考慮すべきである。積極目的規制であっても態様面で強度の規制である場合には、厳格な合理性の基準で判断すべき場合もありうる。

厳格な合理性の基準 編集

  • 立法目的が重要であり
  • 達成手段が目的との実質的関連性を有していなければならない

とする基準である。

実質的関連性とは事実上の関連性という意味であって、関連性が単に論理的に説明がつくというだけでは足りず、その立法が実際に目的を達成するための効果を有しているという立法事実の審査を必要とする。また、薬局距離制限事件のようにLRA(より制約的でない他の手段)の有無を審査する場合もある。

明白の原則 編集

明白に不合理な規制でない限りは、立法府の裁量が認められ、合憲となるとする基準である。