法学民事法民法コンメンタール遺失物法

条文

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【拾得者の義務】

第4条
  1. 拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。ただし、法令の規定によりその所持が禁止されている物に該当する物件及び犯罪の犯人が占有していたと認められる物件は、速やかに、これを警察署長に提出しなければならない。
  2. 施設において物件(埋蔵物を除く。第3節において同じ。)の拾得をした拾得者(当該施設の施設占有者を除く。)は、前項の規定にかかわらず、速やかに、当該物件を当該施設の施設占有者に交付しなければならない。
  3. 前二項の規定は、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第35条第3項に規定する犬又は猫に該当する物件について同項の規定による引取りの求めを行った拾得者については、適用しない。

解説

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『遺失物法等の解釈運用基準について(警察庁丙地発第22号平成19年8月10日警察庁生活安全局長通達)』より

  1. 第1項関係
    1. 返還義務及び提出義務
      1. 「速やかに」と規定されているのは、遺失者の利益の観点からは一刻も早く公告をする必要があるためであるが、拾得者にも様々な事情があり得ることから、例えば、勤務上あるいは私生活上の用務を中断してまで直ちに物件の提出に赴くことまで求めるものではなく、他方で、自ら遺失者に連絡をして返還する意思がない場合において、提出に赴く時間的余裕があるときは、時間をおかずに提出をしなければならないものと解される。
      2. 「返還」とは、物件の占有を遺失者に移転させることをいうが、例えば、物件の遺失者が判明し、連絡が取れた場合には、当該遺失者が物件を引き取りに来たときにこれに引き渡せば足り、物件を引き渡すために遺失者の元に赴くことまで求めるものではない。なお、物件を遺失者に返還するために必要な範囲内で、例えば、携帯電話に記録された電話番号、手帳に記載された連絡先など、物件に記録された事項その他物件の内容を確認することができる。
      3. 「提出」とは、物件を持参して、これを差し出すことをいうが、長大な物件等であって拾得者が持参することが困難であると認められるものについては、拾得者からの通報を受けた警察署員が物件の所在する場所に赴いてこれを当該拾得者から引き取ることとしても差し支えない。
        「警察署長に提出」するとは、行政庁としての警察署長に提出することをいい、現実には、警察署、交番及び駐在所に物件を持参し、警察職員に提出すれば足りる。また、物件の提出があったときは、拾得場所が当該警察署の管轄区域内であるか否かにかかわらず、これを受理すること。
    2. 提出を受ける場所
      物件の提出を受ける窓口は、原則として、警察署、交番及び駐在所となるが、そのほか、警備派出所及び鉄道警察隊の施設その他の警察本部の施設についても、交番又は駐在所に準じて拾得者から物件が持参される可能性が高い施設であって、物件の内容を確認して関係書類を作成し、及び物件を適切に保管するための設備を有しているものについては、物件の提出を受けることができるようにすること。
      物件の提出を受けることができる警備派出所及び警察本部の施設については、都道府県警察の訓令等により指定しておくとともに、これらの施設において物件の提出を受けるものとする旨を広く都道府県民に周知すること。なお、警察本部の施設において物件の取扱いを行う警察職員については、あらかじめ指定する警察署長の指揮監督を受けて物件の取扱いを行うべき旨を都道府県警察の訓令等に定めておくこと。
    3. 祭礼時等における対応
      祭礼等の雑踏警備に係る現地指揮所等を設置する場合において、交番又は駐在所に準じて拾得者から物件が持参される可能性が高く、かつ、雑踏警備に従事する人員に余裕があり、物件の内容を確認して関係書類を作成し、及び物件を適切に保管することができるときは、現地指揮所等においても物件の提出を受けることができるようにすること。なお、祭礼等の開催場所が法第2条第5項の施設に該当する場合は、法第4条第2項の規定に基づき、拾得者は施設占有者に物件を交付しなければならないことから、雑踏警備に係る事前指導を主催者に行う際に、主催者が設置する運営本部等に物件の交付を受ける窓口を設置すること、当該窓口の設置を広く広報すること等を併せて指導すること。
    4. 警ら等の際に提出の申出を受けた場合
      警察官が警ら等の所外活動に従事している場合には、拾得者から物件の提出の申出を受けたとしても、物件の内容を確認して関係書類を作成することや物件を適切に保管することが困難である。したがって、このような場合には、拾得者に対し、警ら等の用務に従事しているため物件の提出を受けることができない旨を十分に説明し、最寄りの警察署又は交番等(交番若しくは駐在所又は指定を受けた警備派出所若しくは警察本部の施設をいう。以下同じ。)において提出を行うよう教示するとともに、支障のない限り警察署又は交番等まで案内するなどの措置をとること。
    5. 交番等に勤務員が不在の場合の対応
      警ら等のため交番等に勤務員が不在の時に来所した拾得者に不便を来すことのないよう、不在時転送電話等を活用して交番等の不在時における拾得者の来所を把握するようにするとともに、拾得者が勤務員の不在時に交番等に来所した場合には、当該交番等に警察職員を出向かせ、又はこれにより難い場合には他の窓口を教示するなどの措置をとること。
    6. 法令の規定によりその所持が禁止されている物
      「法令の規定によりその所持が禁止されている物」には、行政庁の許可、免許等があれば所持することができる物も含まれる。
      これには、例えば、
      等が該当する。
      他方で、
      のように、正当な理由がない場合にその所持が禁止されているに過ぎないものについては、「法令の規定によりその所持が禁止されている物」には該当しない。
      ここでいう「所持」とは、人が物を事実上支配している状態にあることをいい、自己のためにする意思を持って物を事実上支配している状態にあることを意味する「占有」に比べ、その指す範囲は広い。また、「所持」といえるためには、現実にその物を握持している必要はなく、よって、家屋内に物を保管し、又は使用人をして保管させることも、その物を事実上支配下に置くものであるので「所持」ということができる。したがって、例えば、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号。以下「動愛法」という。)第26条第1項において特定動物について禁止されている「飼養」又は「保管」、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)第4条において特定外来生物について禁止されている「飼養等」もここにいう「所持」に該当する。なお、拾得者が、当該物件について、法令の規定によりその所持が禁止されていることを知らなかった場合については、警察署長に提出せずに当該物件を遺失者に返還したとしても、法第4条第1項ただし書には反しない。
    7. 犯罪の犯人が占有していたと認められる物件
      「犯罪の犯人が占有していたと認められる物件」とは、犯罪行為を組成した物、犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物、犯罪行為によって生じ、又はこれによって得た物等であって、犯罪の犯人が占有していたと認められる物件をいい、当該物件の状態、当該物件を拾得した状況等から客観的に判断されることとなる。
  2. 第2項関係
    1. 施設における拾得者の義務
      施設において物件を拾得した拾得者は、原則として当該施設の施設占有者に物件を交付しなければならないこととされているが、これは、施設において物を遺失した者は、まずは当該施設に問い合わせることが多いと考えられることから、拾得者に施設占有者への物件の交付を義務付けておけば、物件の早期返還が図られると考えられたためである。また、「速やかに」と規定されているのは、遺失者から施設占有者に対する問い合わせがあった場合に、施設占有者がこれに対応できるようにする必要があるためである。そして、施設には施設占有者が常駐しており、施設における拾得者は容易に当該施設占有者に物件を交付することができること、及び拾得者の物件に関する権利の喪失に関して規定する法第34条において、第2号では「拾得の日から1週間以内に第4条第1項の規定による提出をしなかった拾得者」と、第3号では「拾得の時から24時間以内に交付をしなかった第4条第2項に規定する拾得者」と規定されていることにかんがみれば、同項の「速やかに」は同条第1項の「速やかに」よりは短い期間を指すものと解される。したがって、「施設において物件」の「拾得をした拾得者」は、特段の事情のない限り、直ちに施設占有者に交付をしなければならない。
      他方で、施設において埋蔵物が拾得された場合には、通常、その遺失者が施設に問い合わせをするとは考えられず、むしろ一刻も早く公告をした方がその早期返還が図られると考えられたことから、拾得者に施設占有者

への交付を義務付けず、法第4条第1項の規定により遺失者への返還又は警察署長への提出を義務付けることとされたものである。

    1. 施設において拾得をした拾得者が物件を直接警察署又は交番等に持参した場合の対応
      施設において拾得をした拾得者(当該施設の施設占有者を除く。)が物件を直接警察署又は交番等に持参した場合において、当該施設の施設占有者の同意が得られたときは(あらかじめ文書により包括的に同意を得ることとしても差し支えない。)、当該拾得者が当該施設占有者に法第4条第2項の規定による交付を行ったものとみなすとともに、当該拾得者が当該施設占有者の使者の立場で法第13条第1項の規定による提出をしたものとみなして取り扱うものとすること。なお、当該拾得者が当該施設占有者に法第4条第2項の規定による交付を行ったものとみなされるのは、当該拾得者が物件を直接警察署又は交番等に持参し、かつ、当該施設占有者の同意が得られたときであり、したがって、拾得者が拾得の時から24時間を経過した後に警察署又は交番等に物件を持参した場合や、施設占有者の同意を得ることができず、かつ、施設占有者に物件を交付しないまま拾得の時から24時間を経過した場合には、当該拾得者の物件に関する権利は失われる(法第34条第3号)。
      また、当該施設占有者が、遺失者からの問い合わせに適切に対応できるようにするとともに、法第16条の規定による掲示等を行うことができるようにするため、物件の種類及び特徴並びに拾得の日時及び場所を当該施設占有者に通知すること。なお、当該施設占有者の同意が得られなかった場合は、拾得者にその旨を説明し、法第4条第2項の規定に基づき物件を当該施設占有者に交付すること及び拾得の時から24時間以内に施設占有者に物件を交付しなかった場合には物件に関する権利が失われる旨を教示すること。
    2. 所有者の判明しない犬又はねこの取扱い(第3項関係)
      第3項の趣旨は、警察署では動物の飼養や保管に関し専門的な知識を有する職員や専門の施設を有しておらず、他方で、都道府県等(都道府県、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市及び同法第252条の22第1項の中核市(特別区を含む。)をいう。以下同じ。)では動物の飼養や保管に関し専門的な知識を有する職員や専門の施設を有しているため、都道府県等において犬又はねこを取り扱うこととした方が動物の愛護の観点から見て適切であることから、動愛法第35条第2項に規定する犬又はねこに該当する物件について同項の規定による引取りの求めを行った拾得者については、法第4条第1項及び第2項の規定を適用しないこととしたものである。
      なお、飼い主から犬又はねこが所在不明となった旨の申告があったときは、都道府県等に当該飼い主に係る犬又はねこが引き取られている可能性があることから、飼い主の便宜を図るため、飼い主からの申告があった旨を都道府県等の動物愛護担当部局に連絡するなど、当該部局と密接な連携を図ること。

参照条文

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判例

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前条:
遺失物法第2条
(準遺失物に関する民法の規定の準用)
遺失物法
第2章拾得者の義務及び警察署長等の措置
第1節拾得者の義務
次条:
遺失物法第5条
(書面の交付)
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