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量子力学とは編集

量子力学の発展編集

古典および量子統計力学編集

デュロン=プティの法則編集

結晶を成す物質の内部エネルギーおよび熱容量を求めよう。議論を簡単にするため、結晶構造の単位である単位胞 1 つをとり、これを 1 つの分子と見なす。このような取り扱いは結晶の具体的構造によらない普遍的な性質を議論する上で重要である。結晶を構成する分子は互いに相互作用するが、最も主要な効果を及ぼすのは最近接格子点上の分子であり、より遠距離にある分子同士の相互作用はそれらの間に存在する分子同士の相互作用として含めることができる。ここまでで扱うべき問題はかなり簡素になったが、結晶分子の運動がそれほど激しいものでない場合には(気体分子運動論の考えを援用すれば、この状況は結晶内部の温度が極めて低いことに相当する)、各分子は固定された平衡点近傍を振動していると見なすことができる。この場合、分子 1 つ 1 つの運動は独立なものとして取り扱うことができ、平衡点近傍で運動する分子 1 個の周りのポテンシャルエネルギー  は、その平衡点を原点として以下のように表すことができる。

 

分子の周りのポテンシャルは   の 3 成分に対応する 3 つの自由度を持っている。 また分子の運動エネルギー  

 

となって   の 3 つの速度成分に対応する 3 つの自由度を持っている。これらの運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和は今、熱振動をする分子 1 個が持つ全エネルギーに対応し、分子のエネルギーの自由度は合わせて 6 と数えることができる。なぜならこのエネルギーは 3 次元空間上を運動する粒子の位置と速度の 6 つの独立変数   によって決定されるからである。

古典的な統計力学において、平衡状態ではエネルギー等分配の法則が成り立つことから、独立に振動する結晶分子からなる系について、自由度 1 つにつき   のエネルギーが分配され、系全体のエネルギー   との間に

 

という関係が成り立つ。ここで   は結晶内部に含まれる結晶分子の数であり、また  ボルツマン定数 熱力学温度である(以下、温度とは熱力学温度のことを指すとする)。ボルツマン定数  アヴォガドロ定数   の積は気体定数   を与える。

 

結晶分子の個数   をアヴォガドロ定数を用いて物質量   に置き換えれば、上述の関係は気体定数を使って以下のように書き直すことができる。

 

気体定数を用いた形式では分子数が現れず、代わりに物質量という量が定義されることに注意しよう。ボルツマン定数を基本定数とする立場では単なる置き換えに過ぎないが、気体定数を基本定数とする場合、ボルツマン定数を用いた形式を与えるには分子の存在をあからさまに認める必要がある。

結晶の1モル当たりの熱容量   は、温度変化に対するエネルギーの増減の割合を全体の物質量で割ったものに相当するから、

 

となる。これは常温 ( ) での結晶の比熱の測定値に一致する。この比熱は温度依存性がなく、常温の固体のモル比熱がほとんど一定であることを示す。固体のモル比熱が常温で一定の値を取るという法則はデュロン=プティの法則 (Dulong-Petit law) と呼ばれる。デュロンとプティはこの法則が多くの物質について良い精度で成り立つことを実験的に発見した人物である。

デュロン=プティの法則が成り立つような系について、常温より遥かに低温の領域においても比熱が一定であることが予想されるが、実験により低温領域では比熱は 0 に収束することを示唆する結果が得られており、低温領域での比熱の温度依存性および比熱の値はデュロン=プティの法則から外れることが知られている。

低温での固体の比熱編集

仮に振動数が  調和振動子のエネルギーは   の整数倍   しか取れないとする(ただし   は負でないとする)。結晶内部の   個の分子をそれぞれ振動数   の調和振動子と見なせることを仮定し、全部で   の自由度を持つ 1 次元調和振動子の集まりとする。

そうすると、断熱理想気体でも各分子のエネルギーが衝突などにより変動するように(気体全体の全エネルギーは一定)、固体の各振動子のエネルギーも   という飛び飛びの値を移り変わっているとする。 そして   個の振動子のエネルギーの平均値は、仮に下記のように「ボルツマン因子を使って計算できるはず」だと仮定する(※ ボルツマン因子について分からなければ、記事『高等学校化学Ⅱ/化学反応の速さ』の反応速度論での説明(高校~大学初級レベル)、または記事『統計力学I ミクロカノニカル集合』のスターリングの公式を用いた統計力学モデルによる説明(大学中級~)を参照。統計力学的には他にも、ラグランジュの未定乗数法を用いてボルツマン因子の導入を行う方法もある)。

1個の振動子がエネルギー   をとる確率  とし、この確率がボルツマン因子に比例するとする。

 

この関数が通常の意味の確率であるためには、すべてのエネルギー状態についての和が 1 に規格化されている必要があるため、比例係数の   は、

 

とならなければならない(なお、このZのような量子統計計算の規格化のための関数のことを「分配係数」または「状態和」という)。このとき確率  

 

となる( 指数関数)。エネルギーの期待値   は、

 

と表すことができる。ここでボルツマン定数と温度の積の逆数を   とし(これは逆温度と呼ばれる)、エネルギーの期待値を逆温度   に関する微分を用いて表せば、

 

より、

 

を得る。ここで具体的に右辺の対数を計算すれば、等比級数の和の公式を用いて、

 

と書き直せるから、結局エネルギーの期待値は

 

と表すことができる。

プランク分布編集

前節で得た調和振動子のエネルギーの期待値について、調和振動子のエネルギー量子   に掛かる関数

 

プランク分布と呼ぶ。温度がエネルギー量子の大きさに比べて充分小さい場合、  より   という関係が成り立ち、プランク分布は、

 

という形に漸近する。

このプランク分布を利用して、結晶内部の比熱を得ることを考える。結晶を独立な調和振動子の集まりと見なす最も簡単な場合について、結晶全体の内部エネルギーがそれぞれの調和振動子のエネルギー期待値の和にほとんど等しいことから、

 

と表すことができる。この場合、結晶分子に対する比熱容量は、

 

となる。この比熱の低温領域での振る舞いは、

 

であり、0 へ収束するという点で低温領域における固体比熱の振る舞いと合致する。高温領域において(ここでいう高温とは調和振動子のエネルギー量子に対してであり、固体の融点温度に比べれば依然低温である)、比熱は

 

となる。高温領域の比熱について、分子比熱   を定積モル比熱   に直すと、

 

となり、これはデュロン=プティの法則に一致する。つまり、エネルギーの量子化という手順を踏むことで低温領域の温度依存性を再現しつつ、常温ではデュロン=プティの法則に漸近するような分布を得られたことになる。


不確定性原理編集

古典物理の範囲でも、波の理論では、波長と位置とは、一つの波では、同時には決められない。なぜなら、パルス波のような境界のハッキリした波は、位置がハッキリしているが、このパルス波のようなギザギザした波形を、正弦波などの三角関数的な滑らかな波の重ねあわせで作るには、多くの種類の三角関数の重ねあわせが必要である。「うなり」を考えれば分かるだろう。波長の種類が多いほど、特定の一波長で代表させる事ができず、波長は不確定になる。

この事は、数学の「フーリエ変換」という理論によって、量子力学を使わないでも、近代数学や古典物理の範囲内でも厳密に計算で証明できる。そして量子力学では、運動量によって波長が決まる。

これまでの理論を組み合わせると、たとえば音波の「うなり」で時間と周波数が両立できないのと同様に、なんらかの横波の合成波でも位置と波長は同時に決められない事がわかる。つまり、「うなり」では、時間と周波数のあいだに不確定性がある。横波の合成波では、位置と波長のあいだに不確定性がある。

量子力学的に重要な結論として、同様に量子力学でも位置と運動量が同時に決められない。よって、量子力学では、位置と運動量のあいだに不確定性がある。我々の住むこの世界の物質を構成する原子や電子などの物質が量子力学の法則にしたがう事から、つまり、この世界では、位置と運動量を同時に厳密には測定できないという制約がある、というのが定説である。

位置を正確に測定しようとすると、どんな測定方法でも、運動量の誤差が大きくなってしまう。同様に、運動量を正確に測定しようとすると、どんな測定方法でも、位置の誤差が大きくなってしまう。このような、位置と運動量の不確定性がある。測定における「誤差」(ごさ)という用語を使うなら、位置 x の誤差 |Δx| と、運動量 p の誤差 |Δp| を、同時には小さくできない、という事である。

古典力学において、そのような不確定が観測されないのは、単に、不確定性によって大きくなる誤差の大きさが、日常的な物理量の大きさとくらべたら、とても小さい値なので、観測者が気が付かないだけである、というのが定説である。

式であらわせば、

 

の程度である。 ここで、

 

の関係である。  は「エイチ・バー」と読む。 h はプランク定数である。プランク定数の値は

 

である

さて、この記事(wikibooks『量子力学』)では今後、位置と運動量が同時に定められないことを前提として認めてしまい、ある物理的状態を表わすために必要な物理量がどんなものであるかを考える。

いくつもある「不確定性」の議論編集

関数の波動性にもとづく数学的なフーリエ解析的な「不確定性」とは別に、波動とは無関係に測定そのものの原理的限界としての「不確定性」を考える場合がある。なお、啓蒙書や、古い物理学書では、これら別々の「不確定性」が、混同されている場合があるので、読者は注意が必要である。さらに、電子の二重スリットの回折実験の結果を、「不確定性」の現象と解釈する流儀もある。

仮に、物理学の量子力学で言われる「不確定性」を、おおまかに以下のように分類したとしよう。

パターンA: 波動的な関数にともなう、数学におけるフーリエ解析的な「不確定性」
パターンB: 波動とは無関係に、測定器が測定対象を擾乱(じょうらん)してしまう、という原理的限界を考えての「不確定性」。
パターンC: 電子の二重スリットの干渉実験の結果を「不確定性」の現象と解釈する流儀。

パターンBの「不確定性」とは、波動とは無関係に、微細な物質を測定する際には、測定器が測定対象にぶつかるなどして、測定対象を動かしてしまう・・・という発想である。極端な事を言えば、「仮に電子に波のような性質が無かったとしても、電子は微細であるので、測定の際には、測定器が電子に近づいたり、ぶつかったりするなどのように、測定器が測定対象を擾乱(じょうらん)してしまう現象が起ってしまうので、電子の位置が動いてしまう。そのため、電子の正確な位置を測れない。」・・・という発想である。

こういう意味で、量子力学の「不確定性」を解釈している物理学書もある。

 
電子の二重スリットの干渉実験
 
二重スリット実験の結果

パターンCの「電子の二重スリットの干渉実験の結果を「不確定性」の現象と解釈する流儀」とは、例えば「二重スリットのうち、どちらのスリットを電子が通ったのか?」という疑問は、そういう疑問は粒子的な疑問であるとして、波動を扱う量子論では無意味な疑問である、とする発想である。

高校物理で習うような(通常の)光についての二重スリットをもちいた干渉実験において、光はスリットの穴の2つのうち、「二重スリット実験で干渉を起こす光は、どちらのスリットを通ったか?」なんて考えない。それと同様に、量子力学においても、電子はどちらのスリットを通ったかは考える必要は無いとする発想である。

もし、どちらのスリットを通ったかハッキリとさせるために(位置をハッキリさせる事に相当する)、もし片方のスリットの穴の付近に測定器を近づけてしまったら、そもそも純粋な「二重スリット」ではなくなってしまい、そもそもキレイな(歪みない)干渉現象が起きなくなってしまうだろうという発想である。そして、干渉結果がゆがんでしまう事を、それは波長(つまり運動量)が歪んだ事だと解釈し、よって、位置と運動量との「不確定性」だと解釈するという流儀である。


さて、一般の読者や大学学部生にとっては、当面は、この数種類もある「不確定性」の区別にこだわる必要はないだろう。なぜなら分野ごとに、どちらの意味の「不確定性」を重視しているかは異なる。なので学生は、それぞれの分野に合わせるが良い。

説明のため、おおまかにパターンAとパターンBとパターンCの3種類だけに分類したが、実は物理学の議論では、もっと多くのパターンが混在しており、いまだに論争中である。例えば、パターンAとパターンBとパターンCを合わせて、ひとつの「不確定性」の用語で説明する、別のパターンもある。これとは別に、さらに、例えば、パターンAの不確定性とパターンBの不確定性とを区別すべきだ、という主張の「不確定性」もある。

このように「不確定性」の説明については、何種類ものパターンがあり、この何種類もの「不確定性」をどう整理するかは、まだ物理学者が議論中なので、学生は深入りする必要は無い。

電子の二重スリットの実験編集

なお、二重スリットの実験では、電子を打ち込む実験の代わりとして、1999年にはツァイリンガーによりフラーレン分子C60を打ち込んだ実験も行われており、C60でも干渉縞を生じることが報告されている。

シュレーディンガー方程式の導入編集

ここからはある物理的な定数を持つことが量子力学的にどのような意味を持つかについて考える。物理的な定数とは例えば、ある物体の持つ位置や運動量のことである。古典力学ではある物体の物理的な状態は位置、運動量などを指定することによって得ることが出来、これらの間に特別な関係は無かった。これらはそれぞれの値を適当に取ってもよい量であったのである。

量子力学的にもある物体の物理的状態を定める量は存在しており、そのような量を定めることで物体がどのような状態にあるかを指定することが出来る。問題なのは、ある場合においてこれらの間に特殊な関係があらわれ、それらの量を任意に選ぶことが出来なくなることである。重要な例として、ある物体の位置と運動量は同時に定めることが出来ない。このことは、古典的には位置と運動量について、運動量が物体の位置を動かす微小変換に関する保存量になっていることによる。このことについては解析力学のネーターの定理が詳しいので、詳細を知りたければ参照せよ。とりあえず量子力学においては、運動量はけっして単なる観念上の量ではなく、物質波の波長に関わる実在的な量である、という事が重要である。

ここで、解析力学の知識を援用して、ある物体の持つエネルギーEが古典的にハミルトニアンHという量で表わされることを用いる。

 

ここで、ある物理的な状態の全てが数え上げられたとしてこれらの状態全体で張られるベクトルを取る。通常、ある物体が持つ物理的な状態は無数のエネルギーを持ち、このような操作は不可能に思える。実際このことは量子力学の発展の初期に大きな数学的な問題となった。しかし、現在ではベクトルの内積の取り方などを工夫することで、この様な作業が実際可能であることが示されている。詳しくはw:ヒルベルト空間などを参照。

このように全ての物理的状態が数え上げられたとするとき、それらの状態はあるエネルギーを持った状態として存在する。例えば、ある状態 がエネルギー を持っていたとする。数学的にはこの様な状態はある行列 を用いて

 

と表わせる。ここで、 は、全ての数え上げられた物理的な状態を1つの基底として持つような行列として考えられている。更に は、それぞれの物理的状態に対して対角化されており、

 

などの全ての物理的状態に対して対応するエネルギー , , などを返すものとする。

このような行列 は、実際にあるエネルギーを持つ状態としては、古典的な考え方と変化することは無い。なぜなら、 は、古典的に考えてある力学系の中に存在する物体が持つと考えられるエネルギー値を全て持っているものと考えることが出来るからである。

このため、仮に全ての量子的状態がエネルギーという量だけで特定されるのならば、ある力学系が取り得るエネルギーを全て定めることが量子的状態を全て求めることになる。ここまでの議論をより数学的な用語を用いてまとめると、出て来た量で は全ての物理的な状態によって張られた行列であり物理的な状態を表わす は、 がかかることによってE倍されるようなベクトルであるので、 の固有ベクトルであると考えられる。このときエネルギーEは、固有値方程式

 

の固有値である。

ここまでのことで、それぞれの量子的状態はエネルギーというただ1つの量で完全に区別されることを仮定して来た。実際にはこのことは必ずしも正しくなく、ある2つの量子的状態が等しいエネルギーを持っていることがある。この時には、各々の量子的状態は互いに区別することが出来ない。しかし、ある状態が持っている量子数は通常エネルギーだけはなく、位置、運動量や角運動量なども含まれている。このような量も用いてそれらの量を区別することが出来る。このとき、エネルギーの場合と同様位置x、運動量pなども量子的状態によって張られる「行列」のような物となることが予想される(「作用素」ともいう)。ここでは、それぞれの行列について , などを用いて行列とそうでない量を区別する。

(*注意 行列でかかれる量をq-number、行列でかかれない量をc-numberと呼ぶことがある)

ここまでで位置xと運動量pが行列でかかれることが分かった。

ここで、以前の主張である、量子論である物体の位置と運動量を同時に定めることが出来ないということを用いる。エネルギーの時には、物体の物理量を定めることは対応する物理量を表わす行列を対角化できることに対応していた。このことを用いると、物体の2つの物理量を同時に定められないという主張は対応する2つの物理量を同時に対角化するような基底の張り替え方が存在しないことに対応する。実際に数学的な計算をすることで

 

を満たす2つの行列A,Bについてはこれらを同時に対角化するような基底が取れることが知られる。このことは位置と運動量を表わす行列について

 

が成り立つことを示している。ここで、この結果をまとめるために、ある2つの行列A,Bに対してそれらの交換子 を、

 

で定義する。性質

 

に注意。このとき、この記号を用いると位置と運動量に関して

 

が成り立つ。実際には実験的にも  の交換子に関して

 

が成り立つことが知られている。ここで、 は、w:プランク定数と呼ばれ単位は で与えられる。ここでプランク定数はきわめて小さい数であり、xやpがある程度大きい量を持つような運動については上の方程式の右辺は0と等しいものとして扱ってよく、このときにはxとpは交換可能であり、2つの量を同時に定めることが出来る。このことは古典力学では2つの量を同時に定めることが可能であることに対応しており、上のようなx,pの交換関係が古典力学とよく適合していることが分かる。

ここまでで量子的な状態 

 

の固有方程式で与えられることが分かり、xとpには

 

の交換関係が存在することが分かった。実際にはxとpについて上のような交換関係を満たすような行列を用意することはしばしば困難である。この困難に対応する

数学的手法として、ヒルベルト空間の1つとしてw:関数空間が存在することがあげられる。関数空間とはある変数に関する関数をベクトルとして取る手法である。このとき、ベクトルの和は関数の和で表わされ、ベクトルの内積は適当な範囲での関数の積分を用いる。詳しくはw:関数空間を参照。

このような仕方で行列とベクトルを取るとき、固有状態である はある変数の関数となり、それにかかる , , などの行列はその関数にかかるオペレーターとして表わされる。オペレーターの取り方は元の関数にある関数をかけたり、元の関数を微分したりと様々だが、上の交換関係を満たすような方法は、例えば、xについて

 

のかけ算を対応させ、pに対して、

 

を対応させることがあげられる。一方、 pについて

 

のかけ算を対応させ、xに対して、

 

としても同様の結果が得られることが知られており、xとpが互いに入れ換え可能であるという解析力学の結果に適合している。

仮に自由に動く質量mの粒子を考えたとき

 

に対して

 

が対応することが分かる。このとき上の固有方程式は

 

となり に関する2階微分方程式になる。ここでいうEのように未知数が含まれている形の微分方程式を特に固有関数方程式と呼ぶことがある。

ここまでで、量子的な状態を計算する手法が1つ得られた。まず、ある古典的なハミルトニアンを選び、それに対して

 

の置き換えをする。これについて

 

の微分方程式を解き、対応する微分方程式を解くことで、量子的状態が計算される。

ここで、最後の固有値方程式を時間に依存しないシュレーディンガー方程式 (time-independent Schrödinger equation) と呼ぶ。後に量子力学における時間発展の方程式も扱うが、この名称はそれと比較してのことである。

  • 問題例
    • 問題

1次元の系で質量mの物体が、 で、

 

を満たし、 , で、

 

を満たすとする。このときシュレーディンガー方程式を解いて、この系に対する波動関数を求めよ。

    • 解答

後に波動関数が0で無い地点では、物体が見つかる可能性があることを解説する。 ここで、

 

の地点で粒子が見つかってしまうと、その地点で粒子は無限に大きいエネルギーを持っていることになってしまうが、無限のエネルギーというようなことは考えづらいので、ここでは、 , で波動関数 は、0となることにする。また、量子論でよく用いられる関数空間の要請により、波動関数は連続であることが必要となる。そのため、

 

が必要となる。さて、このときのシュレーディンガー方程式は で、 V(x)=0より、

 
 

となることが分かるが、これを満たす 

 

で与えられることが分かる。ただし、A,Bは任意の定数であり、

 

とする。更に、

 

を用いると、

 

よりB = 0が分かり、

 

より、nを任意の整数として、

 

が得られる。よって、それぞれの整数nに対して波動関数 

 

で与えられる。ただし、

 

である。また、上で波動関数の前の任意定数をそのままにしたが、これは関数空間では関数そのものがベクトルであり、それの定数倍はベクトルの性質を変えないことからそのままに残したものである。ただし、後に分かる通り、波動関数の規格化を考えると、この定数は1通りに決まることが示される。

更に、この系において粒子が持つことが出来るエネルギー も、

 

を解くことで得ることが出来る。答えは、

 
 
 

となり、ある整数nに対して

 

に比例するエネルギーを持つようになる。このように量子的な系が取り得るエネルギーのことをエネルギー準位と呼ぶことがある。

波動関数の性質編集

上で波動関数を計算する方法を得た。ここでは、波動関数の性質について考える。上ではある量子論的な状態をベクトルと見て、ある量子力学の演算子をそれらによって張られた行列として扱った。ここでは一般的にある量子論的な状態を、それらを代表する量子論的な量iを用いて

 

と書く。後に述べられる通り、この記法はブラケット記法と呼ばれ、元はw:ディラックによるものである。ここで、量子論的な状態を定めるiのような量をその状態の量子数と呼ぶ。例えば、無限大のポテンシャルによって束縛されている粒子では整数nが量子数 となっている。一般には量子数は整数のような離散的な量である場合も任意の実数で与えられる連続的な量であることもある。

ここで、ある状態 と、それと異なる状態 を取る。ただし、これらの状態はハミルトニアン演算子の、互いに異なった固有値を持つ固有ベクトルであるとする。ここで、ハミルトニアンの固有値は必ず実数でなければならないことが分かる。なぜなら、そうでないときにはエネルギーが虚数になるような量子論的状態が存在することになってしまうからである。一般に、複素数の行列要素を持っており、しかもその固有値が実数になる行列の種類として、エルミート行列があげられる(エルミート行列については物理数学Iを参照)。ここでは、ハミルトニアンはエルミート行列で与えられるものとする。一般に量子論の演算子は通常エルミート演算子である。

更に、あるエルミート行列に対してその行列は必ず対角化され、その固有ベクトルは互いに直交することが知られている。この結果を用いると、エルミート演算子であるハミルトニアンの固有ベクトルである  は、互いに直交することが知られる。更に、それぞれの状態の長さを適切に変更することで、任意の状態 , についてこれらの内積を とすることが出来る。 については、物理数学Iを参照。ここで、状態の長さを調整することを量子状態の規格化と呼ぶ。ただし、慣習的に状態 , の内積は のように書くことが多い。この記法を用いると、任意の , に対して、

 

が成り立つ。ここで、ある状態 とそれに対応する波動関数f(x)の関係を、

 

で取る。ここで、 は対応する粒子がちょうどxで表わされる点にある状態である。この記法は、関数空間の内積の定義と、上で述べた量子論的状態の内積の定義を整合的にすることが分かる。このことを述べるためにまず、関数空間の内積について説明する。ここでは、一般的に波動関数がある複素関数であるとして考える。関数空間の性質によるとある元f(x),g(x)を関数空間の元としたとき、ある積分 が存在して、

 

を元f(x),g(x)の内積と呼ぶ。ここで、xについての積分の範囲は、  とする。ただし、無限大のポテンシャルがある場合のように、波動関数が0となる範囲については積分しなくてもよい。このときには積分範囲はより狭い範囲になるのである。ここで、上の記法を用いると

 
 

となる。ここで、

 

についてはまず、  は、任意のxについてもともと の状態にあった粒子が、xで表わされる点を通過して の状態に変化することを表わしている。ここで、上では全てのxについてその結果を足し合わせているので、結局、その結果は、 の状態にあった粒子が、 の状態に変化すること方法の全てをつくしていると考えるのである。上で得た

 

のような表式はベクトルの完全性と呼ばれ、このあと頻繁にでてくる性質である。特に、エルミート演算子に対しては対応する固有ベクトルが完全性の要請を満たすことが知られており、あるエルミート演算子の固有ベクトル に対して、

 

が知られている。しかし、特に対応するベクトルが無限個あるときにはこの性質の数学的な証明は難しい場合が多い。

さて、上のことから分かる通り、

 

となって、量子論的ベクトルの正規化と対応させるために、波動関数の長さも、1つに定める必要があることが分かる。この条件は全ての波動関数 に対して、

 

とすることで満たされる。このことを波動関数の正規化と呼ぶ。

ここまでで粒子がどの状態にいるのかを指定する方法が分かった。それぞれのエネルギーの固有状態は などの表示で表わされ、それらの量はどれも対応する波動関数を持つのである。ただし、これらの量はどれも正規化されていなければならない。次に粒子がある状態にいるときに、粒子が実際にどの位置にいるのかを知る方法を考える。ここでいう位置とは古典的な座標の意味であり、 あるエネルギー固有値を持った状態にいる粒子が古典的に見たときにはどの位置で発見されるのかという意味である。仮に対応するエネルギーの固有状態が偶然位置の演算子に対しても固有ベクトルとなっていたとすると、その状態は位置の演算子に対してただ1つの値を持つため、その状態にある粒子が発見される位置は決定している。一方、仮に対応するエネルギーの固有状態が位置の演算子に対して固有ベクトルとなっていなかったとすると、そのときにその粒子は様々な位置で発見されるように思える。実際実験的な結果はそのとおりであり、ある位置の固有状態でない状態にあるときその物体は位置の演算子が値を取り得る位置全体で見つかる確率がある。そして、実際にどの位置にあるかは実際に観測をしてみるまでは、知ることが出来ないのである。このことは全く不思議な結果であるが、例えば量子論的なヤングの実験などにおいてこの結果は確かに確認されているのである。

ここで、あるエネルギーの固有状態 からある位置に発見されてその位置にあることが確定している状態に移行する過程は、対応する位置をxとすると、

 

で与えられることが予想される。しかし、この値はちょうどある固有状態に対応する波動関数f(x)であった。

 

このことから、波動関数f(x)は対応するエネルギーの固有状態にある粒子がある場所xに発見される位置に見つかる過程について関係していることがわかる。実際には更に、この量の絶対値を2乗した量が、ちょうどこの対応する状態にある粒子がその位置に見つかる確率となっているのである。

 

しかし、この量はちょうど

 

として、波動関数の正規化を行なった量に対応するが、このことはP(x)を確率を表わす量として扱うための条件とも適合しているのである。

  • 問題例
    • 問題

波動関数f(x)が、

 

で与えられるとする。このとき、ある点xで粒子が発見される確率を計算せよ。また、この波動関数が正しく正規化されていることを示せ。

    • 解答

ある点xで粒子が発見される確率P(x)について、

 

が成り立つことを用いればよい。よって、

 

が得られる。更に、ガウス積分を用いて

 

を用いると、

 

が得られ、正しい正規化がなされていることが分かる。ガウス積分については 物理数学Iを参照。

実際にはある状態 からある状態 に移行する確率が

 

で与えられることはあるエネルギーの固有状態がある位置に移行する場合だけにとどまらず、より広い場合にあてはまる。特に上の場合について

 

をaからbへの確率振幅と呼ぶ。波動関数は対応するエネルギーの固有状態からある位置で表わされる状態への確率振幅といえる。

  • 問題例
    • 問題

互いに直交する状態 , , がある。 このとき、 (I)   (II)

 

(III)

 

(IV)   で与えられる量子状態と状態 との確率振幅を求めよ。それぞれの状態が正しく正規化されていることを示せ。

    • 解答

与えられた状態と との内積を取ればよい。それぞれの1,2,3で表わされるそれぞれの状態は互いに直交していることに注意せよ。 正規化されていることを調べるにはそれぞれの状態の大きさが1となっていることを調べればよい。

(I) 確率振幅は

 

となり、正規化も

 

となり正しいことが分かる。 (II)

 
 

となる。正規化については

 
 

となり正しいことが分かる。 (III)

 
 

となる。正規化については

 
 

となり正しいことが分かる。 (IV) 確率振幅は

 

となる。正規化は

 

となって正しいことが分かる。


ここで、あるエネルギーの固有状態 と、対応する波動関数f(x)に対して

 

がどのような意味を持つかを考える。ここで、 が、対応する粒子がxで見つかる確率を表わしていることを考えると、上の式はxの期待値を表わす式そのものである。そのため、 のようなx演算子の対角成分は、対応する状態に粒子が存在するときの粒子が見つかる位置の期待値となることが分かる。一方、位置演算子の非対角成分はそれほど簡単な解釈は持っていない。ただし、これらの量は量子力学的な摂動などでよく使われる。詳しくは量子力学IIを参照。

時間に依存するシュレーディンガー方程式編集

実際の物理的な系は常に時間に依存して変化する。このため、量子的な状態も何らかの仕方で時間依存性を持つ必要がある。ここで、量子論的な系の時間依存性を考える前に、特殊相対論において、時間と空間を統一的に扱う方法を得たことを思いだす。上の議論で空間方向の成分に対しては

 

(ただし、i=1,2,3。) のような置き換えをしたことを考え、エネルギーと時間方向に同じ様な関係があることを考えると、上の置き換えに対応して

 

のような置き換えが出来ることが予想される。一方、量子論的な系では特殊相対論的な考え方が適用できるのかということは疑問が残る。例えば、量子論ではある物体が存在する位置は観測をする前に原理的に知ることができず、観測をした瞬間に物体の位置が決定することが知られている。しかし、ある一瞬で物体の位置が決定されるのなら、その瞬間にその物体はもともと物体があった場所から非常に速い速度で移動しているように思え、その速度は光速を超えてしまうように思える。この様な事情を考えると、特殊相対論量子力学をお互いに適合させることは非常に困難に思え、上のような置き換えをする理由は定かでないように思える。しかし、実際にはこの様な困難を乗り越えて上の2つを適合させる方法は既に知られており、その結果を用いるなら確かに上の置き換えは正しい結果を与えることが知られるのである。詳しくは場の量子論を参照。

上の置き換えを古典的な方程式

 

に対して用いるなら、量子論的な方程式は

 

のようになる。ここでは、一般に系の量子状態を張るベクトルを と書いて、 上の方程式を、

 

と書き換える。仮に が、エネルギーEを持つハミルトニアンの固有状態だった とする。このとき、上の方程式は

 

となり、この式は通常の方法で解くことが出来る。仮にt=0で、

 

が成り立つとすると、上の式の解は

 

となる。このことによって、ある時刻 において、あるハミルトニアンの固有状態で張られる状態にいた物体が時間的にどの状態に変化するかが分かったことになる。一方、ハミルトニアンの固有状態は時間に依存しないシュレーディンガー方程式によって計算されることから、どの状態がどのような時間発展をするかは時間に依存しないシュレーディンガー方程式を解くことによって求められることが分かる。

また、時間に依存するシュレーディンガー方程式と、時間に依存しないシュレーディンガー方程式は互いに関連している。仮に、ある状態 の時間発展がある定数Eを用いて、

 

で書かれたとする。この時この を時間に依存するシュレーディンガー方程式に代入すると、結果は、

 

となり、時間に依存しないシュレーディンガー方程式に等しくなる。

1次元調和振動子編集

水素原子模型でのシュレーディンガー方程式の解法編集

このページ「量子力学」は、まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽にトークページへどうぞ。

シュレーディンガーの方程式を球座標に変換する必要がある。あとは、方程式を解くだけである。文章で書くと短いが、実際の計算が、なかなか複雑である。直交座標用の波動方程式の微分方程式を、球座標用に座標変換すると、特殊関数のルシャンドル関数が導かれる。

量子力学でも、シュレーディンガー方程式を球座標に変換する際、座標変換するときに、類似の計算をする。したがって水素原子模型のシュレーディンガー方程式を解く際に、特殊関数のルジャンドル関数を用いる。

量子力学の専門書には、変数分離法とか級数展開法とかをどうこうと書いてあるだろうが、もともとルジャンドル氏などが彼らの関数を導いたときに用いた計算法と同じ事を行っているに過ぎない。計算の本質は、直交座標用の微分方程式を、球座標での微分方程式に変換することである。その微分方程式の球座標への変換の際や、変換後の方程式を解く際に、変数分離や級数展開などが必要になるというだけに過ぎない。

まず、このルシャンドル関数の幾何学的な意味を説明しよう。まず、球座標に座標変換して波動方程式(ここでは古典力学の波動方程式)を導くと必然的にルジャンドル関数が出てくる。

この式を物理学用に導くとき、式中の変数の半径r や角度θ など球座標に由来する変数を、けっして x や y などに直さず、そのまま r や θ の状態で用いる必要が、物理学の場合ではある。数学の教科書では、これらの変数が x や y などに直されている場合が多いので、読者は適宜、物理学用の本を参考にせよ。

学生の勉強では、いきなり3次元の球座標に波動方程式を変換すると難しいので、まず2次元の円柱座標に、波動方程式を変換する方法を勉強するべきである。特殊関数の専門書を見れば、このような計算が載っているだろう。なぜなら2次元の波動方程式を円柱座標に変換した場合は、特殊関数のベッセル関数が導出される。 そもそもベッセル氏は天文学者であり、惑星の二次元的な運動の力学の解析を行いたくて、このようなベッセル関数を発見した。

(※ 備考: )なお、2次元、3次元とくれば気になるのは4次元や5次元だが、数学的にはベッセル関数やルシャンドル関数は「超幾何関数」というものの一種で、その超幾何関数を使って4次元以上の場合の理論上の解についても既に調べられている(※ 参考文献: 細矢治夫『はじめての構造化学』、オーム社、平成25年 6月25日 第1版 第1刷、42ページ)。

さて、話を戻す。本書の以降の話題では、特にことわりのないかぎり、3次元以下の次元の話に戻る(4次元以上については、当分のあいだ考えなくていい)。

そして、ともかく、境界条件が微分方程式を解く際に必要になってくる。球座標に変換したシュレーディンガー式に、角度の周期的境界条件などを入れると(角度は一周すると元に戻るという条件)、水素原子のシュレーディンガー式が解けるようになり、なんと大学化学で習う「主量子数」、「方位量子数」などの「量子数」などが導出される。

このように「量子数」は数学的にシュレーディンガー式から導ける。ただしスピンは、シュレーディンガー式からは導けない。スピンを導くには「ディラックの方程式」が必要になり、入門の範囲を超えるので説明を省略する。

1次元井戸型ポテンシャル編集

1次元井戸型ポテンシャル

 

を考える。このときのシュレーディンガー方程式は

 

となる。このとき の領域 では粒子侵入不可なので、この領域における波動関数は となる。波動関数  でそれぞれ連続なので、 となる。 における波動関数を考えると

  
  
 

 より

  

となる。また となるようにBを求めると

 

となり

 

となる。またこのときのエネルギーE

 

となり、とびとびの値をとることが分かる。

1次元階段型ポテンシャル編集

1次元階段型ポテンシャル

 

を考える。

領域 における波動関数をそれぞれ とする.

それぞれのシュレディンガー方程式は,

 
 

となる.

(1) の場合

 
 

とすると,シュレディンガー方程式は,

 
 

解は

 
 

  の項は発散し,規格化条件を満たさない除外する.) 波動関数が で滑らかである条件から定数を定める.

 
 

より,

 
 

スピン角運動量と磁気モーメント編集

かなり天下り的な説明になってしまうが、我慢していただきたい。実は、電子は磁力をもっている。ただしその磁力は普通の磁石とはちょっと違うらしい。電子はたとえ静止していても磁力をもち、その磁力をスピンという。注意することは、真空放電管の実験で陰極線に磁石を近づけると陰極線は曲げられるがこれはローレンツ力によるもので、スピンによるものではない。スピンとは、たとえ磁石が静止していようが電子が磁力を持つことである。では、その磁力は、なぜ通常の電子では感じられないのだろうか。

双極子編集

N極の磁荷 +q[Wb] に距離 d[m] をはなして、同じ大きさのS極の磁荷 -q[Wb] を置いて、固定したものを磁気双極子という。つまり普通の棒磁石は磁気双極子のようなものと考えられる。棒磁石の磁化を考えるときなどに用いる。 磁化というのは、電子のスピンが合わさって、磁区というものを作り、さらにその磁区の向きが合わさって、磁性体の磁化が起こる。 つまり、磁化とは、強磁性体(Fe,Ni、Coなど)の内部にもともとあった、ミクロな磁石(電子のスピンのこと)のむきがそろって、大きな磁石として、ふるまう現象だが、ミクロな磁石の長さをdに選ぶのか、それとも大きな磁石の長さをdに選ぶのか、という問題になるのである。

  • 双極子の長さの選び方

さて距離dには、電子半径を選べばよいのか、それとも、磁区の長さを選ぶのか、それとも磁石全体の長さを選ぶのかは、分析する現象によって異なる。 棒磁石全体の吸引力を考えたい場合は、棒磁石の長さL[m]をとることがある。また、磁性体内部のミクロな磁化を解析するときは、dには、電子半径などを取る。具体的にどのようなパラメータをdに選ぶかは、それぞれの目的によって異なる。

  • 電気双極子

また、電荷 +q[C] から距離 d[m] はなれたところに、電荷 -q[C] を置いたものを電気双極子という。これは分極を考えるときのモデルとして用いられる。 電気双極子の d[m] をどう選ぶか? ということも、分析対象により、ことなる。

外部から見ると、誘電体内部の分子の、ミクロな分極が打ち消しあって、誘電体の表面の電荷だけが打ち消しあわずに残るのが静電誘導である。分子スケールの長さをdにとるか、または、誘電体全体の長さ、たとえばコンデンサの間隔などをdにとるかは、目的による。また、qにdをかけた

p=q・d

を 双極子モーメント などという。

磁気モーメント編集

棒磁石の吸引力は、磁極の強さq[Wb]と磁極の間の距離 d[m] の大きさの積 qd[ Wb・m ]である、磁気モーメント m によって決まる。あるいは磁気双極子モーメント、双極子モーメントなどと呼ぶ。

磁気モーメントによって吸引力が異なる理由は、かりに磁極が近すぎると、外部の磁場は、NとSという反対向きの磁極がつくる磁場のほとんどは、打ち消しあってしまい、ほとんど磁場を感じられないからである。たとえば棒磁石をたてにいくつもつなげると、つなげる前と 磁極の強さq は同じでも、距離dが大きくなるので、 磁気モーメントm は前よりも強まる。

  • スピンの磁気モーメント

電子は磁極の間の距離が電子半径の程度なので、磁気モーメントが小さく、磁気の吸引力が弱いのである。磁石に極がNとSの2つがあるように、スピンも「上向き」という値と「下向き」という値を持つ。

この向きは、実際の方角をあらわしているのではない。そうではなく、電子の外部の磁場 H に対して、Hと同一方向か、180° 反対の方向のことである。

この記事は概論のため不正確であるので、せいぜい参考程度にしてもらって、詳しくは、ほかの文献で確認をしてもらいたい。

光などは電場と磁場を伴うので、電子そのものも磁力を持っている、と考えるのは不思議でないかもしれない。

化学の周期表とスピン編集

化学の周期表では最外電子殻に入りうる電子数は、第一周期の電子殻K殻の最外電子数は2個まで、第2周期のL殻は8個まで、第3周期も8個まで、第4周期は18個、第5周期は18個まで、どれも2の倍数つまり偶数になっている。また第2周期のLiとBe、第3周期のNaとMgは、2族の次が13族に飛んでいる。13族から18族までは13,14,15,16,17,18の6個である。この6も2の倍数である。次また水素HはH2のように2個の原子が不対電子をお互いに共有する共有結合によって結合するが、共有結合でも2個の電子が対を作っている。

磁石では逆向きの同じ長さの2つの棒磁石が逆向きに、くっつきあうと、外部からは磁力がほとんど感じられないが、電子のスピンも、1個の電子に、逆向きのスピンを持つ電子が1個くっつくと、外部からは磁力を感じられなくなる。通常の希ガスや分子、磁石を除く大半の金属などが磁力を持っていないのはこのためである。電子が電子殻を埋まるときに18族の閉殻構造のときは電子が打ち消しあっている。また、第2周期や第3周期の2足の元素の電子殻もスピンが打ち消しあっている。14族や16族の元素は原子1個では安定ではないので、おそらくスピンは打ち消しあってはいない可能性がある。

  • 強磁性体

では強磁性を持つ原子FeやNi、Coなどの強磁性体が磁化されるのは、なぜか。2個の電子が対を作ってしまうと逆向きのスピンが打ち消しあうので、金属が磁力を持つためには電子が対を作らなければいいのだが、金属は金属結合をするので原子核の最外殻の原子は自由電子となって結晶全体で共有されるので、最外殻の電子が対を作らないと考えるのは不自然である。

しかし、最外殻よりも内側の電子核なら自由電子にはならないので、この内側の電子のスピンが磁力の原因だと考えても困らないだろう。内側の電子が埋まり終わって閉殻構造になっているとスピンは打ち消しあってしまうので、つまり強磁性体では内側の電子核が埋まり終わる前に外側の電子殻の電子が埋まっている、と考えるべきである。つまり磁性体の磁化とは、短い磁石がいくつもつながって長い磁石になることにより、磁石の吸引力が増えることと大して変わらない(と思う)。

双極子のもつエネルギーと力編集

  • 双極子の受ける力
 
シュテルン=ゲルラッハの実験

4は古典物理的な予想値(じっさいの実験結果ではない)。
じっさいの実験結果は、5のように、原子線は、上下の2つの位置に分かれる。けっして、4のように、そのあいだの中間の位置には、ほぼ原子線は当たらない。
この5のように、原子線は上下2つに分裂する。

通常の棒磁石を、電子に近づけても、電子の磁気モーメントが小さいので、ローレンツ力以外の力は電子はほとんど受けないのだが、磁石が通常でない場合は別である。

図のように、磁石によって、不連続で急峻な磁場が発生するとき、電子の上側と下側とで、磁場の強さが異なる。そのため、電子全体としては、力を受けることになる(なお、前提として、電子には「スピン」という磁極のような性質がある、という事を前提にしている)。

N極の先端のとがったかたちをした棒磁石と、S極の先端のくぼんだ棒磁石を用意して、とがった、N極と、くぼんだS極の軸を一致させ、この2つの磁極の間隔をせまくした不対磁極をつくる。この不対磁極のすきまに、銀を熱して蒸発させて細孔などから飛び出させた銀の原子線を打ち込むと、図のように、上または下のどちらかの力を受け、上下の2箇所に分裂する。けっして、ななめ方向には移動しない。これは、原子線そのものが磁化をもっていることの実験的証明である。

銀の原子は中性のはずである。また、仮に電離していて電荷をもっていたとしてローレンツ力を受けたとすると、ローレンツ力の方向は、図中の横向き(つまり紙面の奥方向または手前に向う方向)になるハズであるが、しかし、そのような実験結果は起きていない。よって、銀の原子線は中性である。

このような実験をシュテルン・ゲルラッハの実験という。銀以外にも、水素の原子線やナトリウム原子線でも同様の実験が行われ、原子線が上方向または下方向のどちらかの力を受けることが確認された。

このように原子線が上下に分裂する理由は、原子線が磁化をもっている事のあらわれであるが、その原子の磁化の由来は、そもそも電子が物性として磁気をもっているからである。そして、電子そのものの磁気のことをスピンという。

原子線の標的になっている場所を見ると(図の「5」の場所)、原子線が上または下の2通りの位置に分裂して当たっていることから、電子の「スピン」も2通りの値であることが予想され、他の物理理論から、電子の「スピン」が実際に2通りである事が分かっている。

量子力学の入門書では、この事から、電子の「スピン」の状態が、外部磁場に対して「上向き」か「下向き」かの2通りしか取りようのない離散的な事が、説明されるのだが、では、なぜ、あの実験事実で、このような離散性が証明されるのかを、下記にきちんと説明しよう。


 
不均一な磁場での電子スピンの受ける磁力 についての模式図。

まず、かりに、磁場に対して、電子の磁石としての角度が図のように角度θをなすとしたら、電子下部に掛かる力は、

 

となる。

なお式中のmは磁極の大きさの値とする。問題の簡単化のため、m>0としよう(m<0な場合は(負の大きさの磁極の場合)、θ=180度として対応することにしよう)。

いっぽう、電子上部に掛かる力は、

 

としよう。

電子の上部と下部とで差し引き、電子には、

 

の力が掛かる。

もし、通常の棒磁石だと、磁場はほぼ均一であるために  となるので、通常の棒磁石では、シュテルンゲルラッハのような実験結果が起きないわけである。しかし、今回の実験で考えているのは、図のように急激に磁場の変化する構造の磁石であり、そのため がけっして0ではない。よって、m か H か θ の変化率をおおきくすれば、電子は磁石によって、おおきな力を受ける。mは電子固有の値なので、変えようがないので、つまり定数だと思う。とすると、残りの、変えうるパラメーターは、 H か θ のどちらかになる。そして、θが離散化により2通りの状態を取ると考えるべきだろう。Hは外部磁場の大きさであり、2通りには、なりようにない。mは、われわれの考察では m>0 と仮定してしまったので(m<0の場合はθ=180度として解釈するという仮定であった)、なので、θ=0または θ=π を取ると考えるのが、妥当である。

このようにして、電気磁気学の公式と、シュテルン=ゲルラッハの実験結果にもとづき、スピンが2通りの離散化によって原子線が上下2方向に分裂することを解析的に説明できる。

(※ なお、この導出方法は、たしか裳華房の物理学叢書の電磁気学や、『初等量子力学』などに書いてある。べつにwikibooksオリジナルの解法ではない。)

(※ ただし、これらの書籍の解法では、解法の順序が先に不均一磁場中の磁気モーメントに働く力を求めていたりして、あとからスピンを導入しており、そのため、スピンが不均一磁場でどういう力を受ける解析結果になるかの説明が省略されており、あまり細かく書かれていない。)

量子論の基礎法則:スピンを例にとって編集

量子論の基礎法則は数学的にはむしろ単純で、線形代数に他ならない。但し、扱う系によりベクトル空間の次元が無限大になったり関数空間になったりするので、そこからくる複雑さが大きい。ここでは有限次元(2次元!)の線形代数で完全に扱うことができる系、「電子のスピン」を例にとりながら、基礎法則を導入する。

スピン編集

電子は点粒子であり位置という属性を持つが、実はそれだけでなく「自転する棒磁石」が持つような属性も持っている。棒磁石がN極とS極を結ぶ線を軸として自転しているとしよう。そこに磁場をかけると(1)棒磁石はその向きに応じたエネルギーを持ち、また(2)磁場を軸としてコマのようにプリセッション(首振運動)を行う。(1)は磁石であることから起き、(2)は((1)に加えて)角運動量を持つことから起きる。

電子も「向き」を持っており、磁場の中に入れると(1)その向きに応じたエネルギーをもち、かつ(2)その向きが棒磁石の向きと同様のプリセッションを起こす。このような事実を称して「電子はスピンをもつ」といい、「向き」を「スピンの向き」と呼ぶ。スピンの起源(Diracによる)や物性との関係は重要な主題となるのだが、ここでは量子力学の法則を説明する例として用いるだけなので、単に 「電子は位置だけでなく、向きという属性を持つ」 という点にのみ着目する。ダイナミクスの説明を行う時に物理的な意味 「電子を棒磁石とみなした時の向きであり、かつ電子のもつ角運動量の向き」 を使う。なお、角運動量の大きさは一定(hbar/2)であり、変わりうるのはその向きだけである。

この向きを単位ベクトル で表し、その成分を と書く。単位ベクトルなので 。普通に考えるとこの成分(3つの実数、動く範囲はそれぞれ-1から1)を指定すればスピンの状態を記述したことになるはずである。ところがスピンは量子力学の法則に従うのでそうはならない。

スピンの測定:量子力学的な特徴編集

スピンの向きの測定方法で代表的なのはStern-Gerlach型実験と呼ばれるもの。空間的な勾配を持つ磁場をかけることでスピンの向きに依存した力が電子にかかるようにする。大雑把に理解するには、棒磁石に磁場をかけることを考えればよい。磁場が一様だとN極とS極にかかる力が正反対かつ同じ大きさになるので全体としてキャンセルしてしまう。そこでz方向に勾配を持つ、つまり上に行くほど強くなる磁場をかけるとしよう。すると磁石の向きがz軸方向の成分をもつ( )ならば上側の極により大きな力がかかるので全体にかかる力が残る。適切に磁場を設定することで、近似的にszに比例した力   が磁石にかかるようにできる。そのような磁場の中に小さい磁石を飛ばすと、磁石の向きのz成分に比例した力がかかり、軌道がそれる。従って軌道が上下にどれだけそれたかを調べれば磁石の が分かるのである。もちろん同じ議論がz軸方向以外でも成り立つ。まとめると、

 方向( は単位ベクトル)の勾配を持つ磁場を使うことで、  成分 を測定することができる。

z方向に勾配を持つ磁場にランダムな向きの磁石をたくさんいれると、たまたまsz=1だったものの軌道は大きく上にそれ、sz=-1だったものは大きく下にそれる。そしてその中間、特にsz=0に近いものでは軌道はほとんどそれない。磁石の出口に磁石がきたことを感知するスクリーンをおけば、そこには上から下までほぼまんべんなく磁石がきた後が残るであろう。

量子力学の特徴1:観測値の離散化(「量子化」)編集

これで舞台は整ったので、磁石の代りに向きがばらばらの電子を通してみる。すると、驚くべきことに磁石の場合とは全く異なる結果になる。スクリーンの一番上(sz=1に対応)と一番下(sz=-1に対応)にしか電子がこないのである。あたかもsz=1の電子とsz=-1の電子しかないかのような結果になってしまう。それではと、今度は装置を90度回して、sxに応じて軌道が変わるようにしてみる。すると今度は(同じ源からきた電子なのに)sx=1とsx=-1のものしかないかのような結果になる。つまり一番右と左にしか電子がこない。

これは測定法を変えても成り立つ一般的な結果である。即ち、

・電子スピン  方向成分 を測定すると、その結果は必ず1か-1のどちらかにしかならない。本来連続的な値をとるはずの量 の測定結果が、1,-1という離散的な値だけになる。

この、「連続的であるはず物理量の測定値が離散的になる」ことが微視的スケールの物理の大きな特徴である。但し、あらゆる量の測定値が離散的になるわけではない。例えば電子の位置の測定値は連続的な値をとりえるし、エネルギーの測定値は系によって連続的な場合も離散的な場合も、両者が混合する場合もある。量子力学の大きな成果(の一つ)は、物理量の測定値がとりえる値のセット(スペクトルという)を求めるための首尾一貫した計算法として与えたことにある。

量子力学の特徴2:観測結果のランダム性編集

szの測定値は1,-1しか取り得ないと述べた。では、例えばスピンがx方向を向いている場合にszを測ると測定値はどうなるだろうか。常識的な答である0は取れない。しかも1,-1のどちらを取るにしても妙である。答は「1,-1を全くランダムに取る。つまり等確率で1,-1が現れる」となる(一回ごとでは常識的な値0は取らないが、多数回実験を行った平均値としては常識的な値0になる)。このように、測定結果が確率的になることが微視的世界の法則のもう一つの大きな特徴。

但し上の実験を行うには「スピンがx方向を向いた状態」を作らなければならない。どうするか。実験装置自身を「フィルタ」として使う。例えば上記Stern-Gerlachの実験ではsz=1の電子は軌道が上に曲げられ、-1のものは下に曲げられる。よって上に来た電子だけを集めれば、それらは全てsz=1である、といえる。実際、もう一つ実験装置を用意し、最初の装置で上に曲げられた電子だけを通してszをもう一度測る。すると、確かに全ての電子でsz=1になるのである。もちろん最初の装置と二つの装置の間に磁場などを掛けてしまうと向きが変わることもあるが、そのような「スピンの向きを変える要因」がなければ、一度目と二度目の測定値は必ず同じ値になる。以上のことを踏まえ次の定義を行う。

「sz=1の状態を取っている」電子とは、実験によりsz=1という測定値を取り、その後向きを変えられていない電子のこととする。

任意の向きへの一般化は自明であろう。任意の単位ベクトル に対し、

 方向を向いた電子とは、 の測定で測定値1を取り、その後向きを変えられていない電子である。

この定義が意味をなす理由は、上記の通りこの定義に従う電子でもう一度 を測定すれば必ず1を取る、という実験的裏づけがあるためである。但しこの定義に従う電子で と垂直な成分を測っても測定結果は決して0にはならないことを忘れてはならない。

この定義を使うと、上記のランダム性を実験で確かめるには、まずStern-Gerachの装置を横に倒してsxの値に応じて軌道が曲げられるようにする。そして、右(sx=1に対応)に来た電子だけを第2の装置に通してszを測る。すると、半分はsz=1、残り半分はsz=-1となるのである。

より一般的な場合、つまり とz軸との角度が任意の角度A( ) の場合を述べよう。z方向を向いた電子スピンの 方向の成分 を測るとする。すると、

測定値が1になる確率は 、-1になる確率は となる。(特に の場合には上記の結果に帰着することに注意)。

スピンの数学的な記述編集

このような観測値の離散化をどう説明するか。一つの素直な考え方は、本来連続的な値をとるものが観測過程での何かのメカニズムで離散的になると考え、そのメカニズムを追求することだろう。根底では連続なものが何かの原因で離散化すると考えるのである。しかし量子力学ではそのような方針はとらない。観測値が離散化することこそが根底の法則、自然の本性であると捉え、それを適切に記述する数学的な法則を与えるのである。以下でその法則を述べるが、これは別の法則(例えば古典力学)から論理的に導かれるものではない。これ自身がいわば「公理」であり、それが正しいかどうかは実験結果を予言・再現できるかにより判定される。特に古典力学や電磁気学はある範囲内で実験と合うことが確立された理論であるから、それらもこの「公理」から導出されなければならない。

以下、まずスピンという特殊な場合について述べる。一般的な場合への拡張は、少なくとも形式上は単純なこととなる。

スピンの量子力学公理1 物理量の数学的表現は行列、測定値が取りうる値はその固有値編集

スピンがもつ物理量はそのx成分sx、y成分sy, z成分szである(一般の方向の成分はこれらの一次結合となる)。これらの物理量はある2x2行列(Pauli行列と呼ばれる)に対応する。sxに対応する行列をXと書き、sy,szそれぞれに対応する行列をY,Zと書くことにすると、

     

「対応する」の意味は段階的に説明していく。まず重要なのは観測値が取り得る値が決められることである。物理量szを例にとると

szの測定値になりえるのは対応する行列Zの固有値のみ。つまりszの測定値が1, -1に限られるのは、対応するZの固有値が1, -1だけだからである。

sx, syについても同様。どちらも対応する行列X,Yの固有値が1, -1しかないので測定値としては1, -1しか現れない。

一般的に言うと、スピンに限らず物理量はある行列(より一般的には線形演算子)に対応する。つまりその物理量の観測値は対応する行列の固有値に限られる。逆にいうとある物理量がとりうる測定値を知りたいと思ったら、それに対応する行列を求めその固有値を求めればよい、ということである。

では対応する行列(線形演算子)をどう求めるかという疑問が当然浮かぶが、それは扱う物理系個々の問題になる。基本的なのは正準量子化と呼ばれる手法で、古典力学のポアソン括弧と呼ばれるものから演算子が満たすべき交換関係を推測し、それを満たすような演算子を探す。特にそのような手法から角運動量の一般論を展開でき、上で導入したスピンのPauli行列はその特別な場合として得られる。

但し基本的な物理量の行列が分かれば、それらの関数になっている物理量の行列は行列代数により得られる。例えば という物理量に対応する行列は になる。その固有値は(普通の線形代数の方法で計算すると)  なので がとりえる観測値は  のどちらかになる。従って扱う系で基本的な物理量(例えば位置xと運動量p)に対応する演算子が分かれば、その系の任意の物理量(基本的な物理量の関数になっている量、例えばエネルギー p^2/(2m)+V(x))が対応する行列は演算子の代数(線形代数)で分かってしまうのである。

スピンの量子力学公理2 物理状態の数学的表現は複素列ベクトル=ケット、確率は固有ベクトルとの内積の絶対値自乗編集

次に、離散的な観測値(物理量に対応する行列の固有値)のどれが観測されるかの規則を述べる。まず、スピンの状態はスピンの物理量に対応する行列(X,Y,Z)が作用するベクトル、即ち2行1列の複素列ベクトル   で表される。ここで はどぢらも複素数だが、次の正規化条件を満たすものとする  。このような複素列ベクトルをDiracによる「ブラケット記号」を使い、「ケット」  で表す。

 

線形代数によると、複素列ベクトル同士の間には自然に内積が定義される。ケット   の間の内積   は次で与えられる:

 

この内積は、成分が実数の場合には普通の実ベクトル同士の内積になるが、複素数の場合には左側の要素に複素共役を取る。こう定義する理由は、「自分自身との内積  」が必ず0以上の実数になるようにするためである。特に上記の規格化条件は   と書くことができる。

では、このケットの物理的意味について述べよう。上で導入した「z向きの状態」、即ちszを観測すれば必ずsz=1の結果を得られる状態は、行列Zの固有値1の固有ベクトル(で規格化されたもの)で記述される。つまり「szを測定すれば、結果が必ずsz=1になる状態を表すケット」を|sz=1>と書くことにすると次が成立:

 

(実際にはこの成分で1の代わりに絶対値1の任意の複素数  をおいても同じなのだが、その任意性については後で述べる。とりあえず単位固有ベクトルの中で一番成分が簡単なものを選んだと考えてほしい。)

これは一般的に拡張される。即ち、任意の物理量Aに対して、Aを測定したときに確実に測定値aが得られる状態は、数学的にはAに対応する行列(または演算子)の固有値aの固有ベクトル(で規格化されたもの)で記述される。このような状態を、やや略した言い方で物理量Aの固有値aの固有状態と呼ぶ。

スピンの例に戻ると、sxを測定して必ずsx=1の結果を得られる状態|sx=1>は、行列Xの固有値1の固有状態なので

 

必ずsx=-1の結果を得られる状態は

 

非固有状態の測定編集

では、szを測定する際に、状態がszの固有状態でなかったら結果はどうなるだろうか。ここで始めて実験と比べられる記述が現れる。量子力学が与える予言は次の通り。

スピンの状態 がszの固有状態とは限らない場合にszを測定すると、その結果(測定値が1になるか-1になるか)はランダムな事象となり、確率的にしか予言できない。その確率はもとの状態と固有状態の内積の絶対値自乗で与えられる。例えばsz=1となる確率P(sz=1)は

 

同様に、sx=1になる確率P(sx=1)は

 

特に前の例として取り上げた、スピンがx方向を向いている場合にszを測定した結果は、

 

となり、実験結果とあう確率が与えられる。

さらに、実験例として取り上げた「z方向を向いた電子スピンの 方向の成分 を測る」場合の結果を計算してみる。法則から

 

問題は だが、 の成分を球座標での方向 を使い  と表すと

 

その固有値1の固有ベクトル(で規格化されているもの)は  

これを使うと次が得られ、実験結果をきちんと再現する計算結果となる。

 

運動法則編集

ここまで状態の数学的な記述と測定の関係を書いた。次は状態の運動法則である。簡単な例としてスピンに一様な磁場をかけた場合を考える。


トンネル効果編集

ジョセフソン効果編集

 
このような2つの超伝導体の間に絶縁体などの障壁がある接合において、障壁層がきわめて薄いとき、超伝導体間に超伝導電流が流れる。この接合をジョセフソン接合といい、流れる電流 ジョセフソン電流という。

電子は、薄い物体を確率的に通り抜けることがあり、これをトンネル効果という。

超電導ジョセフソン素子などで、この現象がある事が知られている(w:ジョセフソン効果)。

ジョセフソン素子では、絶縁体で、2つの超伝導体を さえぎっている。


また、ジョセフソン素子にマイクロ波を照射すると、電流-電圧特性がステップ状に変化する。このため、各国の度量衡の国家標準器の電圧標準としてジョセフソン素子が用いられているほどである。

また、このような、ステップ状の変化は、まさに量子論の理屈で、説明しやすい。これらの現象の公式も、プランク定数などの量子論のパラメーターを用いて記述されており、実験結果をうまく説明できている。

この超電導ジョセフソン効果では、波動関数の位相も存在も、電圧の大きさなどのパラメータを仲介して、間接的に波動関数の存在も確認されている。


 
矩形ポテンシャル障壁を越える量子トンネル。トンネル抜け前後で粒子のエネルギー(波長)は変わらないが確率振幅は減少する。

図のように、絶縁体物の中でも、電子の存在確率は、けっして急にはゼロにならず、少しずつ存在確率が減少していくので、もし、絶縁体の厚さが極端に薄ければ(数ナノメートル以下の程度なら)、電子の存在確率(つまり電流の存在確率)が高いうちに向こう側の導体に達するので、電流が絶縁体障壁を通り抜けることができる。


なお科学史において、ジョセフソン効果を発見した人物は文字通りジョセフソン氏であるが、トンネル効果を発見・提唱した人物は半導体物理学者の江崎絵尾奈(えざき れおな、※ 男性)である。1973年、江崎とジョセフソン(人名)がノーベル物理学賞を同時受賞した。


フラッシュメモリはトンネル効果か編集

いわゆる「フラッシュメモリ」やSSDと呼ばれるメモリには、回路中に絶縁体が使われており、電荷を蓄えることのできるメモリ部分に絶縁体を介して高電圧を掛けることにより、オン/オフを切り替えることにより、データを記録できる仕組みになっている。

回路中の記録部分は、絶縁体によって、導電部からは絶縁されているので、「浮遊ゲート」と呼ばれる。

このフラッシュメモリの現象が、絶縁体を介しても、電荷を蓄えさせることのできる現象であるため、トンネル効果の実例だと考える学者もいる。

ただし、もしかしたら、上記の仮説への反論のような意見として「トンネル効果でなく、単に絶縁体膜に高電圧で穴をあけて、電子が貫通して移動しているだけだ」と考えることも出来るかもしれない。

フラッシュメモリは1980年代に日本人の研究者によって発明された、比較的に新しいメモリであり、さらに普及した時期は遅れて、西暦2000年ころから普及した、新しい原理のメモリである。そのため、DRAMヤハードディスクなどの伝統的なメモリや記録デバイスと比べ、フラッシュメモリの解説を本格的にあつかった教科書や文献なども不足している状況である(大学レベルの教養課程の段階では、読者は、フラッシュメモリがトンネル効果か否かは、深入りしないほうが安全だろう)。

なお、実用化されているフラッシュメモリには、書き換え可能な回数に限界がある。

もし、フラッシュメモリの原理がトンネル効果だとしたら、「なぜトンネル効果なのに、書き換え回数の限界が生じるのか?」など、疑問があるだろうし、

いっぽう、単に絶縁体膜に穴をあけて貫通するだけなら、「なぜ、穴のあいだ絶縁体膜で保護された浮遊ゲートによって、電子を保持できるのか? 穴から電荷が漏れ出してしまわないか?」などの疑問があるだろうが、しかし、あまり理論的に解明されていない。

なお、超伝導ジョセフソン素子については、使用回数の制限などの現象は、特に知られてない。もし、超伝導ジョセフソン効果と、フラッシュメモリのデータ記録が、両方とも同じトンネル効果の現象だとしたら、なぜ片方にだけ使用回数の制限が生じるか、疑問はつきない。しかし、専門書などを読んでも、特に言及はされていない。

またなお、世間でよく、これらの産業の業界が「半導体」業界といわれるが、実際のフラッシュメモリの導電率がはたして半分かどうかは、あまり定かではない。

単に、本来なら「エレクトロニクス業界」などと言うべきところを、文字数の省略のために「半導体業界」と呼称しているだけだと思われるので、あまり、字面を鵜呑みにしないほうが良い。

シリコン半導体の特性はトンネル効果か?編集

トンネル効果を提唱した物理学者の江崎玲於奈が、シリコン半導体やゲルマニウム半導体などの研究をもとにトンネル効果を提唱し、江崎はノーベル賞を受賞したので、よく、シリコン半導体などのトランジスタなどが「トンネル効果」の例、上げられることが多い。

しかし、そもそも、一般によく用いられているダイオード素子やトランジスタ素子の電流の流れる部分は、けっして絶縁体では、さえぎられていない。


 
3番目(いちばん右)がトンネルダイオードのバンドギャップ図。

2018年の現代、半導体物理でいう「トンネル効果」とは、バンドギャップ図上において、右図の3つめ(一番右)の図のように、バンドギャップ図の禁制帯の左右幅が極端に狭くなる領域について、価電子帯と伝導帯が極端に接近しているので、電子が価電子帯から伝導体に「トンネル」するので電流を流せると表現したものである。


 
トンネルダイオードの大まかなVI曲線。負性抵抗領域を示している。

江崎らの開発したトンネルダイオードは、そもそも、ドーパント濃度の極端に高いダイオードのことである。このトンネルダイオードでは、電圧を大きくするほど逆に電流が減少するという「負性抵抗」という現象があらわれる。

江崎は、このような実験事実を解釈するため、トンネル効果を提唱した。

なお工業などへの実用例として、トンネル効果を発見した物理学者の江崎玲於奈が開発した「トンネルダイオード」は、高周波の発振・増幅などに活用される。


読者などは「はたして本当に、ジョセフソン効果と、『トンネルダイオード』の負性抵抗が、同じ法則・原理にもとづく現象か?」という疑問を感じるかもしれないが、しかし、現状の物理学では、これら2つの現象はともに同じ トンネル効果 という法則にもとづく現象である、という学説が定説になっている。


さて、話は変わるが、世間一般では、シリコン半導体の特性を、なんでもかんでも、量子力学やトンネル効果で説明しようという風潮が、一部にある。しかし「トンネル効果」かどうかでいえば、一般のシリコン半導体については、高 校 で  習うように、シリコン半導体の導電率は、導体と絶縁体の半分くらいのケタの導電率であるので、けっしてシリコン半導体は絶縁体ではない。ゲルマニウムでも同様、そもそも、ゲルマニウムは絶縁体ではない。


ダイオードの順方向どころか、逆バイアス方向ですら、順方向電流の大きさと比較すれば微量ながら実は「逆バイアス電流」というのが逆バイアス方向にもあることが、半導体研究の比較的に初期のころから知られている。

高校では、「ダイオードでは逆方向には電流は流れない」としているが、じつは、それは不正確であり、正確には、「逆方向に電圧印加した場合に流れる電流の大きさは、順方向に流した場合の大きさに対して、とても小さい」というのが、より正確である。

このように、実は、逆バイアスにダイオードを利用した場合ですら、けっして、逆バイアス部分は絶縁体ではないのである。


トランジスタについては、一般的なnpnトランジスタやpnpトランジスタの真ん中の部分も(たとえばnpnトランジスタの真ん中のp部分)も、そもそも、けっして絶縁体ではなく、導電率が半分くらいである。

ダイオードのまんなかの部分(たとえばnpnトランジスタの真ん中のp部分)の厚さは、両隣りの部分と比べると厚さがうすいので、てっきり「絶縁体をトンネルしている」と誤解しがちだが、けっして絶縁体ではない。


また、現代の電子部品に多く見られるタイプの電子部品では、波動関数の概念は意識的には用いられておらず、また、波動関数の存在の有無も、商用のダイオードやトランジスタからは、特に確認されてない。


また、半導体製品が量子力学の応用かどうかについては、電子回路における、整流や、スイッチング作用などの現象は、中学校で習うように、陰極真空管の時代から知られている現象であり、けっしてシリコン半導体に特有の現象ではない。世界初の電気式コンピュータのENIAC(エニアック)も真空管をデバイスとして作られているので、コンピュータの存在すると言う事実だけを根拠として「半導体のトンネル効果の証明だ」などと主張する理屈には、無理があろう。

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