高等学校公共/地方自治と住民の生活Ⅰ
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本節から、地方自治の講義に入ります。
キーワード
編集集権型・融合型・内務省・山県有朋の地方制度改革・官選知事
日本の地方制度(江戸時代~第2次世界大戦まで)【発展講義】
編集本項は、日本の地方制度(江戸時代~第2次世界大戦まで)を見ていきます。公民の教科書は、あっさりとしか記述していません。
★日本の地方制度(江戸時代~第2次世界大戦まで)
地方自治の憲法規定 | 規定なし | |
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階層制 | 2層制(郡廃止後)[府県一市町村] | |
府県 | 首長 | 官選知事 |
議会 | 制限選挙から普通選挙へ | |
市 | 首長 | 最終的に市会が選出 |
議会 | 制限選挙から普通選挙へ | |
町村 | 首長 | 町村会が選出 |
議会 | 制限選挙から普通選挙へ | |
直接請求 | なし | |
類型 | 集権・融合型 |
明治維新草創期
編集江戸時代の地方制度
編集直轄地(天領)以外の地域は、各藩に統治を任せていました(封建制)。また、幕府・諸藩の統治を受けて、各集落にある程度の自治を認めていました。なぜなら、当時の幕府・諸藩の実務能力では、城下町の支配しか行えなかったからです。その結果、地方名望家(名主・庄屋)に農村部の自治を任せました。
明治維新の改革
編集[1]府県の設置
明治政府は、戊辰戦争で旧幕府軍を倒しました。しかし、当時は、藩に課税や自国軍の編成を任せていました。そのため、明治政府の統治権限は当時大きく制限されていました。一方、世界は帝国主義体制に移行したので、日本の指導者達もその流れに従わなければならないと考えていました。そこで、数年間、中央集権体制が強く後押しされました。まず、各藩の統治では、日本全国を支配出来ません。1869年、明治政府は藩を解体して、直接税を集めて、軍を編成しました(版籍奉還)。しかし、版籍奉還では、旧藩主の殿様をそのまま知藩事として任命していたので、何も変わりません。そこで、1871年、廃藩置県がすぐに行われました。廃藩置県以降、中央政府から各都道府県に府知事を派遣して、県令を定めました。しかし、廃藩置県を行っても旧藩の領域をそのまま治めていました。そのため、府県数は3府322県もあります。随分経ってから、現在の47都道府県に近い区割りへ変わりました。1872年から1973年にかけて、府県に「大区小区制」を置きました。大区の長(区長)と小区の長(戸長)に分かれました。
[2]内務省の設置
また、明治新政府の中央行政機構は何度も再編され、内政担当の機関も分かれました。そこで、1873年になると、内務省(初代内務卿:大久保利通)と府県が地方行政の基本的な仕組みを築きました。なお、内務省は地方行政のような内政事務を扱うために作られました。そのため、内務大臣は地方自治体の権限を自由に動かせました。内務大臣は知事を自由に選べ、その知事は公務員や市町村長の懲戒処分権も持っていました。知事は、地方自治体に目を配っていました。さらに、国は地方議会の解散も行えました。
三新法の時代
編集明治維新時代の地租改正・徴兵令・学制などの政策は、当時の社会制度を大きく変えました。そのため、地方の不満と反対運動が起こりました。特に、古い町村は地方自治の新しい制度を好ましく思っていません。そのため、各地で反対運動が起こりました。
そこで、明治政府は大久保利通内務卿を中心に、地方の不満をなくすため、三新法(郡区町村編制法・府県会規則・地方税規則)を1878年に定めました。以降、県議会の制度化と地方税制の整備が行われました。1880年、区町村会法を定め、地方自治の拡大を目指しました。しかし、紀尾井坂の変で大久保利通が暗殺されると、大久保利通中心の地方行政も終わりました。
明治憲法時代
編集[1]背景
1881年、国会開設の勅論が出されました。その後、明治政府は憲法発布と国会開設の準備を進めました。大久保利通が暗殺されると、山県有朋が地方の統括者になりました。山形有朋は、地方制度の整備をするために、お雇い外国人アルベルト・モッセの意見を参考にします。
詳しく説明すると、「市制・町村制」は1888年に設けられました。また、市町村は市町村会(現在の市町村議会)を設け、条例制定権を持たせました。また、1890年、「郡制・府県制」を導入して、郡を地方公共団体としました。その結果、郡(農村部)と市(都市部)に区別しました。「郡制・府県制」は、プロイセン型の地方自治制度をそのまま導入しています。戦争が終わるまで「郡制・府県制」を継続しました。当時の府県・市町村は、首長・議会・参事会(執行機関)の3つでまとめられていました。
[2]公民と住民
日本国民は、市民と公民に分けられます。また、府県会・群会・市会・町村会は制限選挙で選ばれました。なお、公民は、直接国税(地租)2円以上払う満25歳以上の日本人男性をいいます。公民(名望家層)以外は選挙権を持ちません。当時の選挙は義務でした。そのため、この時期の投票率は現代と比べて高い投票率を誇っていました。
[3]町村制
町村は自由選挙の町村会が設けられました。町村会が町村長を選んでいました(間接選挙)。また、町村長は町村会議長も兼ねていました。町村は、府県と郡から二重に確認されました。町や村は、古くから地域意識が強く、その分反発しやすくなっていました。実際、郡部で多くの反政府運動が起きました。
[4]市制
戦前の三大都市は、東京・京都・大阪でした。1900年まで、市長と助役は三大都市に置かれていません。当時、知事が市長を兼任して、府の書記官が助役を兼任していました。市会は3大都市以外の市に設けられました。かつて、市会から3人の候補者を推薦してから、内務大臣と天皇が市長を選びました。1926年から、市会議員(市議会議員)は公民の直接選挙で選ばれました。そして、市議会が市会議員の中から市長を選びました(間接選挙)。市参事会(市長・市会選任の助役1名・名誉参事職員6名)が市の執行機関として設けました。なお、参事会は町村に設けられていません。このため、都市は町村と比べて自治権もかなり制限されました。
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町村制
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市制
[5]郡制
郡役所と郡会が郡に置かれ、国の地方行政機関と同じでした。郡長は内務省から選ばれ、郡会議長を兼任しました(官選群長)。郡の執行機関として郡参事会が設けられました。町村会議員が、郡会議員を決めました(複選制)。したがって、群は府・県と同じように官治団体・不完全自治体でした。一方、都会は都会人同士で結びついているので、共同体の人よりも絆をあまり持ちません。その違いが、群部と市部の区別に繋がりました。大正時代末期を迎えると、地方の反対運動がもはや予想されなくなりました。それ以降、郡役所と郡会は廃止されました。現在、郡は地図上の地名として利用されています。
[6]府県制
戦前の府県は地方団体なのに、国の総合出先機関になっていました(官治団体・不完全自治体)。府県会は府に置かれ、郡会議員・郡参事会員と市会議員・市参事会員の間接投票で府県会議員を選びました。府県にも参事会はありましたが、市や郡と違って執行機関ではなく副議決機関でした。大陸型の地方自治を採用しているので、政府が知事を決めました(官選知事)。これは、大日本帝国憲法第10条の地方官官制に基づいています。府県知事は府県会議長を兼任していません。
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群制
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府県制
[7]参事会
府県と郡は1899年に参事会を廃止しました。また、市も1911年に参事会を廃止しました。町村は当初から参事会を設けていません。
[8]事務と財政
まず、市町村の財政は手数料で賄われ、手数料だけで足りなかったら内務大臣の同意を受けて公民の税金で市町村の財政に充てられました。また、市町村の事務は市町村長にほとんど任せていました。そのため、町村会は仲間外れにされ、地域住民も町村会に要望をあまり提出出来ません。
[9]明治憲法と地方自治
当時、中央政府の権限は大きく、府県会の立場は国の方針に従っていました。内務大臣は府県会の解散権を持ち、知事は条例の原案執行権を持っていました。一方、市町村は完全自治体ですが、府県はそうなっていません。完全自治体でも、政府の関与がありました。帝国議会開設後、地方自治制度は法律で保障されました。しかし、地方自治の記述は明治憲法の中に全く見られません。
そして、明治憲法は自治体を府県・郡・市町村と定めました。このような自治体はそのまま国の地方行政区画としても活かされました。このように、中央集権型・融合型の地方制度は明治憲法期に生まれました(大陸型)。なぜなら、国の地方行政制度と地方自治が繋がっていたからです。
資料出所
編集- 東京書籍『新しい社会 公民』矢ヶ崎典隆ほか編著 2021年
- 東京書籍『公共』間宮陽介ほか編著 2022年
- 東京書籍『政治・経済』杉田敦ほか編著 2022年
- 清水書院『私たちの公共 資料から考える現代社会の課題』大芝亮ほか編著 2022年
- 清水書院『高等学校 公共 私たちがひらく未来・社会』中野勝郎ほか編著 2022年
- 清水書院『高等学校 新政治・経済』大芝亮ほか編著 2022年
- 第一学習社『高等学校 改訂版 現代社会』谷田部 玲生ほか編著 2017年
- 第一学習社『高等学校 政治・経済』谷田部 玲生ほか編著 2023年
- KADOKAWA『大学入学共通テスト 現代社会の点数が面白いほどとれる本』村中和之著
- KADOKAWA『改訂版 中学公民が面白いほどわかる本』西村 創著 2021年
- 清水書院『用語集 公共+政治・経済 2023~2024年版』 大芝亮、菅野覚明ほか編著
- 東京リーガルマインド編『公務員試験Kマスター 社会科学』
- 東京リーガルマインド編『公務員試験Kマスター 憲法』
- 東京リーガルマインド編『公務員試験Kマスター 行政法』
- TAC出版『公務員試験 過去問攻略Ⅴテキスト 社会科学 第3版』2023年
- TAC出版『公務員試験 過去問攻略Ⅴテキスト 行政学 第2版』2019年
- TAC出版『渕元哲の行政学まるごと講義生中継』2013年
- エクシア出版『寺本康之の行政学ザ・ベストプラス』2020年
- 資格の大原 公務員講座『テキスト 政治』
- 東京アカデミー『大卒程度 公務員試験準拠テキスト 教養科目 ③社会科学』
- 東京アカデミー『大卒程度 公務員試験準拠テキスト 専門科目 ⑬行政学』