ここでは、極限について学ぶ。微分・積分の考えでは簡単な関数の極限について学んだが、ここでは数列の極限、さらには無理関数や三角関数などの関数の極限について学ぶ。極限は微分積分の基礎となっており重要である。
数列 が有限個の項しかもたないとき、有限数列といい、項が限りなく続くとき無限数列という。ここでは無限数列を考えるから断りがない場合、無限数列を単に数列と書くことにする。
数列 において、項の番号 が限りなく大きくなっていくとき、 がある一定の値 に限りなく近づいていくならば、数列 は に収束するといい、
-
または簡単に
-
とかく。また、 をこの数列の極限値という。
収束する数列には次のような性質がある。
数列 , において, , とすると、
- ( は定数)。
- (複号同順)。
-
- (ただし、 )。
- 例題
- 次の数列の極限値を求めよ。
-
-
- 解
-
- 分母が限りなく大きくなっていくため、項の値は次第に小さくなっていくが、nは常に正なので、項の値が負になることはなく、0に限りなく近づく。したがって
-
- 式変形と1.の結果を用いると、
-
数列には収束しないものがある。たとえば
-
-
は収束しない。収束しない数列は発散(はっさん) するという。発散する数列 で のとき項 の値が限りなく大きくなるときこの数列は正の無限大(せい の むげんだい) に発散するといい、「その極限は正の無限大である」のようにいう。このことを次のように表す。
-
逆に のとき、項 が負の値でその絶対値が限りなく大きくなるときこの数列は負の無限大 に発散するといい、その極限は負の無限大であるという。このことを次のように表す。
-
- 例題
- 次の数列の極限を求めよ。
-
-
- 解
-
-
-
発散する数列には次のようなものもある。
-
-
いずれの数列も正の無限大にも負の無限大にも発散しない。このような数列を振動(しんどう) するという。このときもこの数列には極限値が存在しない。
- 定理
数列 , について、 が十分に大きいとき常に を満たしていて、 かつ の極限値も存在するならば、
-
となる。
- 証明
これを証明するためには、「限り無く近づく」という言葉の、数学的な意味を明確にする必要がある。初学者には難解な証明であるため、高校数学では直感的に成り立ちそうなことを理解してほしい。参考として、以下に証明の一例を挙げておく。
と仮定すると、 である。
は限りなく より小さい数に近づくから、 が十分大きいときは常に となる。
は限りなく に近づくため、任意の正の数 に対して、十分大きな数 であって、 ならば常に が成り立つようなものが存在するはずである。いま、 であったから、十分大きな では常に となる。
は任意の正の数であったから、 とすると、十分大きな について矛盾する式が成立することになる。したがって、背理法により である。■
興味を持った人は大学1年生程度を対象とする微分積分学の教科書を参照してほしい。例えば、解析学基礎など。
次に、はさみうちの原理 を紹介する。
- はさみうちの原理
数列 , , について、 が十分に大きいとき常に を満たしていて、 ならば、 の極限値も存在して、
-
となる。
- 証明
が存在することはあきらか。先の定理より、
- かつ
であるので、
-
が成立。■
- 例題
つぎの極限値を求めよ。
-
-
-
- 解
-
-
-
- すべての で、
-
- となり、
-
- であるので、
- 。
- 追い出しの原理
実数の数列 があり、全ての について とする。
このとき、 ならば である。
同様に、全ての について であり ならば、
である。
高校レベルでの証明はできないが、数列の各項を折れ線で結んだ ー グラフを書くことで成り立つことが直感的に理解できる。
等比数列 の極限について考えてみよう。
- (i) の場合:
とおくと、
-
であるので、
- 。
したがって、 のとき、 だから、
- 。
- (ii) の場合:
は何乗しても だから、
- 。
- (iii) の場合:
ならばあきらかに、
- 。
のとき、 だから、(i) より
- 。
したがって、
- 。
- (iv) の場合:
は が奇数の場合 、 が偶数の場合 となるので振動する。
- (v) の場合:
より、
-
となるが、 は が奇数の場合 、 が偶数の場合 となるので振動する。
まとめると、次のようになる。
収束
- のとき、 。
- のとき、 。
発散
- のとき、 。
- のとき、 は存在しない。
- 例題
一般項が次のように表される数列の収束・発散について調べ、極限値があるならばこれを求めよ。
-
-
-
-
- 解
-
-
- が偶数ならば常に、 となり、奇数ならば となる。この二つの数列の極限が等しければよいが、 であるので等しくない。したがって、数列 は振動する。
-
-
数列 の第 項までの和を と表すことにする。すなわち、
- 。
このとき、 は数列の一種とみなすことができ、このようにある数列の初項から第 項までを順番に足してできる数列を級数(きゅうすう) という。もとの数列 が無限数列である場合、級数 も無限に項を持つことになる。このような級数を無限級数(むげんきゅうすう) という。以下、単に級数というときは無限級数であるとする。
数列 において、初項から第 項までの和を第 部分和(ぶぶんわ)という。 から作られる級数の第 部分和 (つまり、 の初項から第n項までの和)を と表すことにし、この級数 の極限値が であるとき、 は に収束するといい、 を級数の和という。このことを次のように表す。
-
または
-
または
-
2番目の表記はシグマ記号を使わない分直感には訴えやすい面もあるが、注意深く表記しないと「…」の指すものがはっきりしないため、あまり好ましくない。
数列 が発散するときこの級数は発散するという。
- 例題
つぎの級数の収束・発散について調べ、和が存在するならば求めよ。
-
-
-
- 解
-
-
- であるから、 。
- したがって級数 は発散する。
-
- 定理
数列 から作られる級数 が収束する必要条件は、
-
である。
- 証明
とし、 とする。 のとき、
-
となるので、
- 。
しかし、 であるから、これは矛盾。したがって、 でなくてはならない。■
逆に、 であっても、 が収束するとは限らない。
初項が で公比が の数列から作られる級数を無限等比級数 または単に等比級数(とうひ きゅうすう) という。
等比級数の収束・発散について考えてみよう。この等比級数の第 部分和は、
-
となる。
- (i) の場合:
すべての で となるから、
- 。
- (ii) の場合:
とすると、
-
であるから、
- 。
または のときは、 は発散するから、 は発散する。また、 のときは、
-
であるから、先の定理より は発散する。
このことは次のようにまとめられる。
のとき、初項 , 公比 の等比級数は
- のとき収束し、
- 。
- のとき発散する。
- 例題
次の等比級数の収束・発散について調べ、収束するものについてはその和を求めよ。
-
-
-
- 解
-
- 与えられた数列は公比が であるので収束する。その和は、 。
- 与えられた数列は公比が であるので発散する。
- 与えられた数列は公比が であるので収束する。その和は、 。
のように、xの分数式で表される関数をxの分数関数という。
のグラフは双曲線(そうきょくせん)で、原点に関して対称である。双曲線 の漸近線は、x軸とy軸である。
関数 のグラフは、関数 のグラフをx軸方向にp、y軸方向にqだけ平行移動したもので、漸近線は2直線 である。
- 例題
分数関数 のグラフの漸近線の方程式を求めよ。
- 解
-
ゆえに、この関数のグラフは、双曲線 をx軸方向に-1、y軸方向に2だけ平行移動したものである。
漸近線の方程式は である。
のように、根号の中に文字を含む式を無理式(むりしき)といい、変数xの無理式で表される関数をxの無理関数(むりかんすう)という。
のグラフについて考える。
の定義域は 、値域は である。
の両辺を2乗すると、 、すなわち
-
のグラフは原点を頂点とし、x軸を対称軸とする放物線である。
では であるから、 のグラフは のグラフの上半分である。
無理関数 について、
-
であるから、無理関数 のグラフは、 のグラフをx軸方向に だけ平行移動したものである。
- 例題
無理関数 のグラフは のグラフをどのように平行移動したものか。
- 解
-
ゆえに、この関数のグラフは、 をx軸方向に-3だけ平行移動したものである。
なお、分母がn次式である分数関数をn次分数関数、根号の中がn次式である無理関数をn次無理関数と呼ぶ場合がある。また、高校で扱う整関数・三角関数・指数関数・対数関数・分数関数・無理関数及びそれらの逆関数を総称して初等関数と呼ぶ。
二つの関数 と が与えられたとき、 という新しい関数を考えることができる。たとえば , とすると、
-
一般に二つの関数 , が与えられたとき、関数 や を と の合成関数(ごうせい かんすう)という。合成関数 を とかくことがある。
また、 、 のように、 同士を 回合成した関数を と表すことがある。ただし、三角関数(と双曲線関数)に限って は を意味するので注意。また、多階微分の記法 とも混同しないよう注意が必要である。
- 例題
, のとき、合成関数 と を求めよ。
- 解
-
-
この例題のように、一般に と は等しくない。
関数 と関数 が与えられて、
-
-
をすべての定義域内の で満たすとき、 を の逆関数(ぎゃくかんすう)といい、
-
と表す。
- 例題
の逆関数 を求めよ。
- 解
とおいて について解くと、
-
となる。したがって、 。
この例題のように、ある関数 の逆関数 を求めるには について解いて と を入れ替えればよい。
「関数」の語源
関数の記号として数学では、よく を使うが、これは関数が英語で function (ファンクション)ということに由来している。
中国語で function を音訳すると「函数」になるので、日本でも第二次世界大戦が終わるまでは「函数」の字を使っていた。
しかし、戦後の漢字改革により、「函」の字が当用漢字でなくなった事により、「関」は発音が同じことと、「関係している」の意味も兼ねて、functionの日本語訳として 「関数」 と書かれるようになった。(※ ここまで、実教出版の検定教科書に記述あり)
なお、「函」の意味は「箱」である。日本語でも、よく「郵便ポストにハガキを投函(とうかん)する」などと言うが、その「投函」の「函」の字と同じである。このことから、関数の概念を教わる際に「ブラックボックス」を用いて説明される場合がある。
(※ 範囲外)
次に逆関数が存在する条件について考えてみよう。逆関数も関数であるから(逆関数の)定義域に含まれるすべての で が一意に定まらなくてはならない。すなわち、 において、定義域の と値域の のどちらかを定めるともう片方が一意に定まるような関数でなくてはならない。このことを関数 が全単射(ぜんたんしゃ)である、または一対一 対応(いったいいち たいおう)であるという。関数 が全単射であることは に逆関数が存在することの必要十分条件である。
詳しくは大学で写像の概念と共に学ぶ。
(ここまで、範囲外)
ある関数 において、 が定数 より小さい値をとりながら に限りなく近づくときの関数 の値が一定の値 に限りなく近づくとき、 の左極限値(左側極限)は であるといい、
-
と表す。同様に が定数 より大きい値をとりながら に限りなく近づくときの関数 の値が一定の値 に限りなく近づくとき、 の右極限値(右側極限)は であるといい、
-
と表す。
右側極限と左側極限を合わせて片側極限と呼ぶ。
ここで、
-
かつ
-
であるとき、すなわち における左極限値と右極限値が等しいとき は に収束するといい、 をそのときの の極限値という。このことを、
-
と表す。
のとき、 が限りなく大きくなるならば、 は正の無限大に発散するといい、 と書く。
のとき、 が負の値をとって、その絶対値が限りなく大きくなるならば、 は負の無限大に発散するといい、 と書く。
xを限りなく大きくするとf(x)がある値aに限りなく近づくとき
-
と、xを負の値をとりながら限りなく絶対値を大きくするとf(x)がある値aに限りなく近づくとき、
-
と書き、それぞれ正の無限大における極限値、負の無限大における極限値という。
なお、数列の場合と同様にはさみうちの原理、追い出しの原理が成り立つ。
ある関数 が定義域内の点 で連続(れんぞく)であるとは、
その関数 のグラフが の近傍で途切れることなく続いていることを意味する。数式で表すと次のようになる。
-
であることをいう。また、ある区間で が連続であるとは、区間内のすべての点で連続であることをいう。
くどいかもしれないが、上式は左辺の極限値が存在して、かつ右辺と一致するということを意味する。左辺の極限値が存在しない場合はf(x)は連続ではない。
また、 が定義域の左端・右端に位置する場合、点 で関数が連続である条件はそれぞれ、
- 左端:
- 右端:
となる。
関数 が定義域に含まれる値 で連続であるとき、以下の関数も で連続である。
-
-
-
が定義域に含まれる全ての について連続であるとき、 を連続関数と呼ぶ。一般に、初等関数は連続関数である。
なお、以下のような場合には注意が必要である。
一次分数関数 のグラフは において途切れているが、 はこの関数の定義域に含まれないため連続関数か否かの議論には関係ない。
区間について、以下のように定める。
- 区間 を閉区間と呼び、 と表す。
- 区間 を開区間と呼び、 と表す。
- のような区間を半開区間と呼び、 のように表す。
- のような区間も のように表すこととする。このとき、 を含む部分は必ず小括弧()で囲むことに注意。
ある区間を の定義域と考えたとき、区間に含まれる全ての点において が連続ならば はその区間で連続であるという。
一般に、次の定理が成り立つ。
ワイエルシュトラスの極値定理(最大値最小値定理)
閉区間で連続な関数は、その閉区間で最大値・最小値を持つ
開区間で連続な関数は、その開区間に最大値・最小値を持つことも持たないこともある。
関数 が閉区間 で連続ならば、この区間においてそのグラフには切れ目がなく、さらに ならば は と の間の全ての値を取る。よって、次の定理が成り立つ。
中間値の定理(Ⅰ)
関数 が閉区間 で連続且つ ならば、 と の間の任意の定数 に対し、 を満たす実数 が、 と の間に少なくとも一つ存在する。
中間値の定理(Ⅱ)
関数 が閉区間 で連続且つ と が異符号ならば、方程式 は の範囲に少なくとも一つの実数解を持つ。
三角関数については、次が成り立つことが基本的である。
-
- 証明
まず
-
を示す。
半径1、中心角θの扇形を考える。後にθ→+0とするので0<θ<π/2としてよい。
扇形OABの面積は、θ/2となる。
また、三角形OABを考えると、その面積は
-
となる。
さらに、点Aを通る辺OAの垂線と、半直線OBとの交点をB'とすると、三角形OAB'の面積は、
-
となる。
ここで、図から明らかに、面積について以下の不等式が成り立つ。
[三角形OAB]<[扇形OAB]<[三角形OAB']
即ち
-
- 0<sinθ<θ<tanθ
逆数をとって各辺にsinθを掛けると、
-
いま、
-
より、はさみうちの原理から、
-
が示された。
また、θ<0のときは、
-
を考えると、いま-θ>0であり、かつθ→-0のとき-θ→+0であるから、上の結果を使うことができて、これにより、
-
となる。以上より、
-
が成り立つ。■
指数・対数関数に関して、次が成り立つ
- a>1のとき、
- 0<a<1のとき、
- a>1のとき、
- 0<a<1のとき、
また、自然対数は高等学校数学III/微分法で導入されるが、自然対数については、次が成り立つ。
-
- 証明
w:ネピア数 の定義より、 。これの両辺の自然対数をとって 。ここで、 とすると、 で なので、 となる。■
また、これを用いてネピア数 については、次が導かれる。
-
- 証明
の関係式で、 とおくと、 のときに となり、 。
両辺の逆数をとり、tをxに書き換えると、
となる。■
ここでは、上述のような極限の説明に「なんかウサンクサイ」と思う生徒を対象に、そのような疑問に少しでも応えることを目標とする。よって、そのような疑問を持たない生徒が読んでも、あまり意味はない。
疑問を抱いた諸君、諸君の疑問はいたって正当である。あまりこのようなことを大っぴらに書くべきではないかもしれないが、高等学校における極限の取り扱いは「子供だまし」であり、近代以降の数学では極限という概念はもっと厳密な形で取り扱われている。しかしその内容は高校生には少し難しいし、詳しい書籍はほかにも存在する(wikibooksでも解析学基礎にある程度の記述がある)。そこでここでは、高校の教科書のように「子供だまし」をするのではなく、かといって厳密な形で議論するのでもなく、諸君を納得させられるかもしれない答えを提示したい。
さて改めて、極限値という概念に次のような疑問を持つ生徒はいないだろうか。
- 「限りなくその値に近づけるというだけで、決してイコールには成らないハズだ。そのようなものを考えるのはナンセンスだ。」
ここでは、この問いに対するひとつの解答例を示したいと思う。分り易さを重視しているので厳密では無いが、ひとつの考え方の例として読んでもらいたい。
分数関数 を考える。この関数の正の無限大における極限値は である。
数式で書くならば以下の通りである。
-
ここで敢えて、この数式には極々小さな正の誤差が紛れ込んでいる、と考える。
が限りなく無限大に近づいたとしても、 は絶対にx軸とは交わらず、漸近的に近づいていくだけであるため、無限大であっても等号が成り立つはずは無いからである。
そこで、極限という概念で考えるのではなく、直接 に無限大を代入した値を誤差として考える。
(この時、この代入の不可能性については考えないものとする。)
当然ながら、この誤差の大きさは、 という大きさになるのだが、この大きさは一体どのようなものだろうか?
そもそもこの誤差の値は、実数であるかどうかすらも怪しい。何故なら、そもそも無限大という数自体が実数とは思えない性質を持っているからだ。
無限大というのは、どの実数よりも大きい数という定義である。この時点ですでに実数の定義からハズレている事がよくわかるだろう。
実数にこの無限大という数が含まれるのであれば、無限大は無限大より大きい、という矛盾が生まれる。
ゆえに、無限大は実数と言う枠組みから外し、実数でない未知の数であると考えるべきだろう。
さて、この未知の数の逆数である はどういう値なのだろうか。当然ながら、これも未知の数であると言わざるを得ない。
無限大の定義より、 はどの正の実数よりも小さい正の数、という定義になり、無限大の時と同様に、実数でないことが証明できる。
なお、この数は一般に無限小と呼ばれ、実数に無限小と無限大という概念を加えた数を「超実数」と呼ぶ。
さて、この無限小という誤差を実数としてみるとどう見えるだろうか?
無限小はどのような正の実数よりも小さい、というのだから、実数から見たら見かけ上 に見えるだろう。
そのような視点で考えているのが極限値というものである。
もう少し踏み込んで、値域を実数とする の値として、無限小という非実数値が出現した、という事実をどう考えるべきだろうか?
その問いに対しての極限値という概念の答えは、「強引に実数に変換する」という手法なのである。
値域を実数とする関数に、非実数をいきなり登場させるわけにはいかない、というのは誰にでもわかることだろう。
其の様な問題に対して考えられる答えは「関数の値域そのものを超実数に拡張する」又は「超実数を実数に変換して、値域を実数として保つ」というものだ。
極限(lim)と言う操作・概念はこの二つの答えの内、後者の答えを選んだものとなる。
limという記号には、 に をそれぞれ代入した数を計算し、その値から無限小を無視して、超実数を実数に変換するという意味合いが有る。
実数という数から見れば、無限小など全く意味の無い数であることから、等式が成り立つ、と解釈できるのである。
前者の答えを選んだ学問は超準解析と呼ばれるが、これは易しい学問ではなく、高校で教えるのには向かない。
少し話をかえて、「無限大」「無限小」というモノ自体の実在について考えてみる。
上の説明では「無限大」というモノが、実数でないので何だかわからないのだが、とにかくある、という前提で話を進めてきた。ここに疑問を感じた生徒もいるかもしれない。そのような生徒に向けて、さらに補足説明する。
上でも述べたが、「超準解析」という学問においては、無限大・無限小は実体のあるものであり、数学的に厳密に取り扱われる。しかし、無限大・無限小を数学的に厳密に取り扱う事は非常に難しく、歴史的にも20世紀後半にようやく確立されたほどであった。つまり普通、数学においては無限大・無限小といったものを表に出して扱わないのである。この教科書の本文をもう一度見直してほしい。このコラムにおいて用いている「無限大に近づける(近づく)」といった表現はなく「限りなく大きくする」という表現を用いているはずである。荒っぽく言えば、「∞」は単体では意味を持たない記号であり、「 」のような特定の文脈を与えられて初めて意味を持つ「状態を表す記号」なのである。なんらかの数を表すものではない、という事に注意してほしい。この「 」はひと固まりで初めて意味を持つ記号であり、「xを」「∞に」「近づける」と分解するようなことはナンセンスだ、とも言える。
では、このコラムにおける説明はなんだったのか。実はこれは説明の方便である。はじめに述べたように、厳密な記述は難しいのであえて厳密でない書き方をしている。近代的な(非超準解析的な)立場の極限の取り扱い方は、実質的にはこのコラムの内容と同じことを、∞を表に出さず巧妙に表現したものである。
本文の#三角関数と極限で示されている
-
という式について、上で示した証明は、「w:循環論法になっていて証明になっていない」と言われることがある。それはどういうことか、興味がある人のために解説を加えておく。
さてここで、どのように「循環論法」が形成されているのかはっきりさせておこう。
- を示す過程で扇形の面積を利用している←扇形の面積を求めるには三角関数の積分が必要である←三角関数を積分するには三角関数の微分が必要である←三角関数を微分するには という結果が必要である←……
論理が循環している構造が分かっただろうか。「極限を求めるために、その極限を利用している」と言ってもいいだろう。
現代の数学では、もちろんこの循環論法は回避できる。もっと言えば、高校数学(新課程)の範囲内でよりよい証明を示すこともできる。しかしそれは今学んでいるより後に学習する内容を利用することにもなり、少々複雑である。
高校数学の目的は完全な論理を組み立てることではなく、むしろ数学の、高校内容の中での体系的な理解を目的としている。このような理由から、現在多くの教科書に上と同様の証明が掲載されていると考えられるし、WIKIBOOKSもこれに倣った。
しかしここでは興味のある諸君のために、「高校内容の範囲(新課程)でのよりよい証明」を示しておこう。面積を利用することは避けて、円弧の長さから問題の極限の値を導いてみよう。ただし、数学IIIの微分、積分(新課程のみの内容も含む)の内容を利用する。
まずは、「ラジアンとは何か」を考え直してみよう。というのも、ラジアンの定義には円弧の長さを利用したが、現代の数学では「w:曲線の長さ」も定義なしには扱えないからである。つまりわれわれは、円弧の長さを数学的に定義すればよいということだ。このあとの積分の単元(新課程)で学習することになるが、区間a≦x≦bで自身と導関数がともに連続である関数f について、y =f (x )(a≦x≦b)で表される曲線C の長さは、次の式で求められる。(証明は該当ページ参照 ※2014/02/08時点でWIKIBOOKS内では未作成)
-
ここで、f (x )を半円弧 とすると、円弧の長さを計算できる。ただし、積分区間にx =-1もしくはx =1を含めると具合が悪いので(被積分関数が値を持たない(極限は正の無限大))、積分区間を としたものを四分円弧の長さとし、円の対称性から円弧一周の長さを決定するとよいとだけ補足しておく。
さて、これでようやく円弧の長さを定義できたので、ラジアンも定義することができる。いよいよ問題の極限の値を求めてみよう。そのために一般的に、再び区間a≦x≦bで自身とその導関数がともに連続である関数f について、y =f (x )(a≦x≦b)で表される曲線C を考えよう。ここで、a≦x≦b, a≦x+Δx≦b, Δx≠0を満たすようにx およびΔxをとる。また、曲線C上に2点P(x,f (x )),Q(x +Δx,f (x +Δx ))をとる。いま曲線PQの長さを 、直線PQの長さをPQで表すこととすると、
-
が成り立つことを示そう。
- 証明
w:平均値の定理により、
-
を満たす実数θが存在する。また、 を先述の式により定積分で表すと、
-
であり、ここで、 が、 (0≦θM≦1, 0≦θm≦1)でそれぞれxからx +Δxの間での最大値、最小値をとるとすると、xからx +Δxの間の任意の実数t に対して、
-
が成り立つ。各辺x からx +Δxまで積分することにより、
-
を得る。よって
-
ここで、
-
より、はさみうちの原理から、
- ■
さて、今度こそ問題の極限を求めてみよう。
- 証明
本文と同様にθ>0をまず考える。
-
として、y =f (x )上のx座標がxである点をP,x+Δxである点をQとし、
- (ただしOは原点)
とする。すると、ラジアンの定義より、 となり、また図形的考察によりPQ=2sinθであることが分かる(Oから弦PQに垂線を下ろすと分かりやすい)。ここで
-
を考えると、Δx→0のとき、θ→+0であるから、上で証明したことを用いると、
-
θ<0のときは本文と同様である。以上より、循環論法に陥ることなく、
-
が示された。■
このように、この循環論法を避けるのは少々難しい。循環論法を避けるために三角関数の微積分を後回しにして、この証明のための道具が揃うまで話を進めるのはこと「学習/教育」においてはどう考えても非効率的で、そのような回り道をするのは本末転倒である。ということで、「循環論法」と聞いて教科書に不信感を抱いた君も、ここまで読めば致し方ないことに納得してもらえたと思う。
ところでこの循環論法を避ける方法はこれだけではない。sinx及びcosxをxの非負整数乗の無限級数で定義する方法や、w:微分方程式を用いて定義する方法などが考えられるが、前者は少なくとも教科書に載せるには向かないし、後者はどう考えても高校範囲外である。ここで解説することはしないが、興味があれば次に示す参考文献を読んでみるといいかもしれない。
それにしてもこのコラムをここまで読み進めた君の好奇心は大したものである。君の成長を期待している。
このページ「
高等学校数学III/極限」は、
まだ書きかけです。加筆・訂正など、協力いただける皆様の
編集を心からお待ちしております。また、ご意見などがありましたら、お気軽に
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