高等学校歴史総合/もっと知りたい 戦争を「記憶」するということ

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岡本太郎「明日の神話」 編集

 
明日の神話(渋谷駅)

 東京・渋谷駅では、2008年から、JR線と京王井の頭線の間の通路に、長さ30メートル、高さ5.5メートルの巨大な作品が展示されています。その作品は『明日の神話』と名付けられています。原爆が爆発したらどうなるかを描いています。画面から圧倒的な破壊力と上昇するエネルギーが伝わってきます。しかし、この作品は単なる被害者の絵ではありません。作者の岡本太郎は、「人は最悪の悲劇も誇りを持って乗り越えてこそ、『明日の神話』が生まれます。」と強いメッセージを込めました。

原爆の記憶 日本とアメリカ 編集

 原爆が投下された出来事は、私達日本人がいかにひどい戦争だったかという「記憶」としてずっと残っています。渋谷駅でこの作品を見た時、原爆が投下された瞬間が描かれていると思い、とても衝撃を受けました。これは、私達が皆、この悲劇を覚えている証拠です。日本は世界で唯一、原爆で傷ついた国です。そのため、岡本太郎は原爆を「誇りをもって乗り越えなければならない悲劇」として書きました。被爆者をはじめ、様々な立場の人々が、二度とこのような悲劇が起こらないように、この「記憶」を語り継ごうとしてきました。被爆時に生きていた人が減り、被爆後に生まれ、その被害を知らない、関心がない人が増えている現在でも、悲劇から前に進むための「記憶」は、映像や文章によって、次の世代に伝えられています。

 
エノラ・ゲイ

 しかし、それぞれの立場の「記憶」がどのように残されているか、考えてみましたか?アメリカの首都ワシントンD.C.にあるスミソニアン国立航空宇宙博物館の別館には、B-29爆撃機がいつも展示されています。エノラ・ゲイと呼ばれる愛称です。1945年8月6日、広島に原爆が投下されました。アメリカの多くの人々は、原爆投下は正しい行為だったと思っています。日本に戦争を放棄させ、多くの米兵の命を救うために必要だったという点では、誰もが認めています。このように考えると、原爆が投下された歴史的事実と「記憶」のあり方は、大きく異なっています。正義には様々な種類があり、それぞれの立場があります。太平洋戦争(アジア・太平洋戦争)[1]は、アメリカで「Good War(良い戦争)」と呼ばれています。

出来事をどのように記憶するか 編集

 「記憶」が新たな争いを生んでいる場合も少なくありません。よく「歴史は繰り返す」という言葉がありますが、人々が自分の立場で出来事を「記憶」して、次の世代に伝えているからでしょう。同じ出来事でも、違う立場の人が違う形で「記憶」している可能性もあります。SNSやVRが流行した現在、私達はより多くのやり方で物事を「記憶」出来ます。ある事象を判断・評価する際には、一つの視点からだけでなく、異なる立場からどのように見られるかを考えてみましょう。

  1. ^ この戦争には、「大東亜戦争」「太平洋戦争」「第二次世界大戦」「アジア・太平洋戦争」「アジア太平洋戦争」「太平洋・大東亜戦争」「大東亜・太平洋戦争」「極東戦争」「昭和戦争」など、さまざまな呼称がある。