法学コンメンタールコンメンタール刑事訴訟法=コンメンタール刑事訴訟法/改訂

条文 編集

(現行犯逮捕)

第213条
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

解説 編集

現行犯人の逮捕は、司法警察職員に限らず、逮捕状がなくても一般人問わず誰でも、行うことができるとされている。私人(常人)逮捕は犯人が、現に犯行を行っているか、行い終わったところに限る。また現行犯については逮捕して身柄を確保する必要が高い上に、誤認逮捕のおそれがないためである。
私人逮捕を行うには次の条件を満たす必要がある。
  1. 犯人が現行犯人、準現行犯人であること(212条
  2. 30万円以下の罰金、拘留、科料にあたる罪の場合(刑法では、過失傷害罪・侮辱罪)は、犯人の住居、氏名が明らかでなく、又は犯人が逃亡するおそれがある場合(217条)。
条件に該当しないにもかかわらず逮捕した場合は、逮捕罪(刑法220条前段)に問われ得る。 
なお、警察官は非番(夜勤明け)・休暇中(特休・公休、年次有給休暇など)、勤務時間外であっても、また、管轄都道府県内外問わず、警察法65条に基づき、警察官の職権の行使として現行犯逮捕を行えるため、私人逮捕とは区別される。そのため、勤務時間外、管轄外であっても、警察官職務執行法2条4項に基づき凶器所持の有無を調べることが可能であったり、刑事訴訟法220条1項2号に基づき、必要がある場合は人の住居その他の場所に立ち入り被疑者の捜索すること、逮捕現場で捜索・差押又は検証を行える。
民間人(私人)が現行犯を逮捕する際、現行犯逮捕を宣言することができると解釈すべきである。
逮捕後強制的に警察署等へ連行することは許されていない。
私人逮捕は現行犯の逮捕後、犯人が逃亡を行うかあるいは著しく逃亡の恐れがある場合に於いて、これを防ぐことができる。
逮捕の方法については取り押さえる行為に止まり逃亡あるいは逃亡の恐れがある場合は被害者の協力を得て逮捕する必要がある。
逮捕後は直ちに地方検察庁もしくは区検察庁の検察官または司法警察職員に引き渡さなければならない(214条)。

参照条文 編集

判例 編集

  1. 麻薬取締法違反(最高裁判決 昭和32年4月3日)
    麻薬所持の現行犯逮捕の要件
    法廷の除外事由が認められないで麻薬を所持していることを現認して、現行犯人として逮捕したものである以上、もとよりその逮捕は適法であつて、その麻薬所持を現認するに至つた事情のいかんは何ら影響がない。
  2. 窃盗(最高裁判決 昭和33年5月20日)警察官等職務執行法5条刑法235条刑訴法212条
    掏摸現行犯逮捕手続において警察官等職務執行法第5条に違反しないと認められる場合
    本件現行犯逮捕手続書によれば、所論司法警察員は挙動不審の被告人を看視中被告人が被害者のポケツトから品物を抜き取つたのを現認したので逮捕したというのであつて、抜き取りを現認する直前までは被告人が何らかの現行を行なおうとする様子を認めたという場合でないから、右警察員の措置は所論警察官等職務執行法5条(犯罪の予防及び制止)に反するところもなく、本件逮捕手続には何らの違法もないことが明らかである
  3. 強盗致傷、窃盜(最高裁判所判決 昭和34年3月23日)刑法238条,刑訴法214条
    刑法第238条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる事例。
    窃盗犯人が、進行中の電車内で現行犯として車掌に逮捕され、約5分経過後到着駅ホームを警察官に引渡のため連行されている際に、逃走を企て右車掌に暴行したときは、刑法第238条の「逮捕ヲ免レ」るための暴行にあたる。
  4. 逮捕(最高裁判決 昭和50年4月3日)刑法第35条刑訴法212条
    1. 現行犯逮捕のため犯人を追跡した者の依頼により追跡を継続した行為を適法な現行犯逮捕の行為と認めた事例
      あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため約30分間密漁船を追跡した者の依頼により約3時間にわたり同船の追跡を継続した行為は、適法な現行犯逮捕の行為と認めることができる。
    2. 現行犯逮捕のための実力行使と刑法35条
      現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとを問わず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法35条により罰せられない。
    3. 現行犯逮捕のための実力行使に刑法35条が適用された事例
      あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため密漁船を追跡中、同船が停船の呼びかけに応じないばかりでなく、3回にわたり追跡する船に突込んで衝突させたり、ロープを流してスクリューにからませようとしたため、抵抗を排除する目的で、密漁船の操舵者の手足を竹竿で叩き突くなどし、全治約1週間を要する右足背部刺創の傷害を負わせた行為は、社会通念上逮捕をするために必要かつ相当な限度内にとどまるものであり、刑法35条により罰せられない。

前条:
第212条
(現行犯人・準現行犯人)
刑事訴訟法
第2編 第一審
第1章 捜査
次条:
第214条
(私人による現行犯逮捕)
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