刑法第60条
条文
編集(共同正犯)
- 第60条
- 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
解説
編集本条は、共同正犯について定めた規定であり、どのような場合に共同して犯罪を実行したといえるかについては見解が分かれているが、判例・通説では共謀共同正犯も肯定されている。
参考
編集- 第27条(共謀共同正犯)
- 二人以上共同して犯罪を実行した者は、みな正犯とする。
- 二人以上で犯罪の実行を謀議し、共謀者の或る者が共同の意思に基づいてこれを実行したときは、他の共謀者もまた正犯とする。
判例
編集- 強盗、殺人未遂(最高裁判決昭和22年12月4日)刑訴法360条(現・刑訴法335条)1項
- 共犯行為の判示方法
- 共媒の上犯罪を実行した場合には、共犯者の一人が行為の実行を全然分担しなくともその責に任ずべきものであるから判決に共犯者各自の行動を一々判示するの必要はない。
- 強盗傷人、住居侵入(最高裁判決昭和23年6月12日)
- 強盗共犯者の傷害の結果に對する共同責任
- 強盗傷人罪は所謂結果犯であるから強盗共犯者間に被害者に對し傷害を加へるについて意思の連絡がなく又傷害を加へた行爲者に傷害の意思がなくても強盗の實行行爲中共犯者の一人が被害者に暴行を加へて傷害の結果を生ぜしめたときは共犯者全員につき強盗傷人罪が成立するのである。
- 強盗、窃盗(最高裁判決昭和23年7月20日)刑法236条,刑訴法360条(現・刑訴法335条)1項・2項
- 見張りと窃盗の共同正犯
- 窃盗の共犯者と意思連絡のもとに見張をした場合は窃盗の共同正犯と断ずべきものである。
- 財物奪取の意思連絡による行為の分担と強盗の共同正犯
- 他人の財物を奪取する意思連絡の下にその目的を達するために、或者は財物の奪取行為を担当し、他の者は被害者に暴行又は脅迫を加えた場合に、その全員について強盗罪の共同正犯が成立することは多く論ずるまでもないことである。
- 見張りと強盗の共同正犯
- 原判決挙示の証拠により、被告人と第一審相被告人との間に本件犯行について意思連絡があり、しかも相被告人等と被告人の間に主従関係とか、不平等関係があつたということは原審で認めないのであるから所論の如き主犯とかの区別は認められないのである。被告人は直接財物窃盗行為をなさずただ見張をしただけであるから幇助罪として断ずべきものだと主張するのであるが、原審においては本件共犯者間には強盗についての意思連絡ありと認定したものであり、強盗についての意思連絡の下に見張をしたものは共同正犯として処罰し得べきことは大審院判例の示すところであつて、今これを改める必要なしとの見解に基き強盗の見張をした被告人を強盗の共同正犯と断じたことを窺い知ることができるのであるから、所論の如き刑法第60条の解釈を誤つたものではない。
- 見張りと窃盗の共同正犯
- 強盗、窃盗、強盗幇助、賍物牙保(最高裁判決昭和25年4月20日)刑訴法360条(現・刑訴法335条)1項
- 共謀共同正犯における共謀者の責任
- 共謀共同正犯は、単なる教唆や従犯と異なり、共謀者が共同意思の下に一体となつて互に他人の行為を利用してその意思を実行に移すものであり、犯罪の予備、着手、実行、未遂、中止、結果等はすべて共謀者同一体として観察すべきもので、強盜を共謀した者は、自ら実行行為を分担しなくとも、他の共謀者の実行した強盜行為の責を免れない。
- 共謀共同正犯の判示として各共謀者が実行行為をしたか否かを明示することの要否
- 共謀共同正犯にかかる犯罪事実を判決に摘示するにあたり、各共謀者が実行行為をしたか否かを明示することは、必ずしも必要でない。
- 共謀共同正犯における共謀者の責任
- 殺人予備(最高裁決定昭和37年11月8日)刑法第201条
- 殺人予備罪の共同正犯にあたるとされた事例。
- 殺人の目的を有する者から、これに使用する毒物の入手を依頼され、その使途を認識しながら、右毒物を入手して依頼者に手交した者は、右毒物による殺人が予備に終つた場合に、殺人予備罪の共同正犯としての責任を負うものと解すべきである。
- 商法違反被告事件(最高裁決定 平成15年02月18日)
- 住宅金融専門会社の融資担当者の特別背任行為につき同社から融資を受けていた会社の代表者が共同正犯とされた事例
- 住宅金融専門会社の役員ら融資担当者が実質的に破たん状態にある不動産会社に対して多額の運転資金を継続的に実質無担保で融資した際に,上記不動産会社の代表取締役において,融資担当者らの任務違背,上記住宅金融専門会社の財産上の損害について高度の認識を有し,融資担当者らが自己の保身等を図る目的で本件融資に応じざるを得ない状況にあることを利用しつつ,迂回融資の手順を採ることに協力するなどして,本件融資の実現に加担したなど判示の事情の下では,上記代表取締役は,融資担当者らの任務違背に当たり,支配的な影響力を行使することや,社会通念上許されないような方法を用いるなどして積極的に働き掛けることがなかったとしても,融資担当者らの特別背任行為について共同加功をしたというべきである。
- 殺人被告事件(最高裁決定 平成17年7月4日)
- 重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」を依頼された者が入院中の患者を病院から運び出させた上必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させた場合につき未必的殺意に基づく不作為による殺人罪が成立するとされた事例
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- 「シャクティ治療」- 手の平で患者の患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるという「シャクティパット」と称する独自の治療
- 重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」を依頼された者が,入院中の患者を病院から運び出させた上,未必的な殺意をもって,患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させたなど判示の事実関係の下では,不作為による殺人罪が成立する。
- 被告人は,自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上,患者が運び込まれたホテルにおいて,被告人を信奉する患者の親族から,重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際,被告人は,患者の重篤な状態を認識し,これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから,直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず,未必的な殺意をもって,上記医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させた被告人には,不作為による殺人罪が成立し,殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となると解するのが相当である。
- 商法違反,法人税法第違反被告事件(最高裁決定 平成17年10月07日)
- 会社の絵画等購入担当者の特別背任行為につき同社に絵画等を売却した会社の支配者が共同正犯とされた事例
- 甲社の絵画等購入担当者である乙らが,丙の依頼を受けて,甲社をして丙が支配する丁社から多数の絵画等を著しく不当な高額で購入させ,甲社に損害を生じさせた場合において,その取引の中心となった甲と丙の間に,それぞれが支配する会社の経営がひっ迫した状況にある中,互いに無担保で数十億円単位の融資をし合い,各支配に係る会社を維持していた関係があり,丙がそのような関係を利用して前記絵画等の取引を成立させたとみることができるなど判示の事情の下では,丙は,乙らの特別背任行為について共同加功をしたということができる。
- 商法違反被告事件(最高裁決定 平成20年05月19日)
- 銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき,当該融資の申込みをしたにとどまらず,その実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者に,特別背任罪の共同正犯の成立が認められた事例
- 銀行がした融資に係る頭取らの特別背任行為につき,当該融資の申込みをしたにとどまらず,融資の前提となるスキームを頭取らに提案してこれに沿った行動を取り,同融資の担保となる物件の担保価値を大幅に水増しした不動産鑑定書を作らせるなどして,同融資の実現に積極的に加担した融資先会社の実質的経営者は,上記特別背任行為に共同加功をしたということができる。
- 窃盗未遂,窃盗被告事件(最高裁決定 平成21年7月21日)
- 単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても,訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されるか
- 検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく,被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において,被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは,他に共謀共同正犯者が存在するとしても(その犯罪の成否は左右されないから),裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される。
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