日本国憲法第36条
条文
編集【拷問・残虐刑の禁止】
- 第36条
- 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
解説
編集参照条文
編集判例
編集- 尊属殺、殺人、死体遺棄(最高裁判決 昭和23年03月12日)
- 死刑の合憲性
- 死刑そのものは憲法第36条にいわゆる「殘虐な刑罰」ではなく、したがつて刑法死刑の規定は憲法違反ではない。
- 憲法第13条においては、すべて国民は個人として尊重せられ、生命に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする旨を規定している。しかし、同時に同条においては、公共の福祉に反しない限りという厳格な枠をはめているから、もし公共の福祉という基本的原則に反する場合には、生命に対する国民の権利といえども立法上制限乃至剥奪されることを当然予想している。
- 憲法第31条によれば、国民個人の生命の尊貴といえども、法律の定める適理の手続によつて、これを奪う刑罰を科せられることが、明かに定められている。
- 憲法は、現代多数の文化国家におけると同様に、刑罰として死刑の存置を想定し、これを是認したものと解すべきである。言葉をかえれば、死刑の威嚇力によつて一般予防をなし、死刑の執行によつて特殊な社会悪の根元を絶ち、これをもつて社会を防衛せんとしたものであり、また個体に対する人道観の上に全体に対する人道観を優位せしめ、結局社会公共の福祉のために死刑制度の存続の必要性を承認したものと解せられる。
- 残虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば、その法律こそは、まさに憲法第36条に違反するものというべき。
- 村会議員選挙罰則違反(最高裁判例 昭和23年6月23日)
- 憲法第36条にいわゆる「残虐な刑罰」の意義
- 憲法第36条は「公務員による拷問及残虐な、刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と規定しているが、ここにいわゆる「残虐な刑罰」とは不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を意味するのである。事実審の裁判官が、普通の刑を法律において許された範囲内で量定した場合においてそれが被告人の側から観て過重の刑であるとしても、これももつて直ちに所論のごとく憲法にいわゆる「残虐な刑罰」と呼ぶことはできない。
- 強盗殺人未遂、銃砲等保持禁止令違反(最高裁判決 昭和24年12月21日)
- 死刑及無期懲役刑の合憲性−死刑と無期懲役刑との本質的相異
- 死刑そのものは憲法第36条にいわゆる「残虐な刑罰」に当らないとすることは当裁判所の判例とするところである(昭和22年(れ)第119号昭和22年3月12日大法廷判決参照)。既に現行制度における死刑それ自体が然りとすれば同様に現行制度における無期懲役刑そのものも亦残虐な刑罰といゝ得ないことは一層当然であろう。
- 論旨は死刑はその与へる苦痛が瞬間的であるに反し、無期自由刑は犯人の生涯を通じ永続的に人間存在の前提ともいうべき自由を剥奪し、必要以上の精神的肉体的苦痛を与え死刑に比して却つて残虐であるといわねばならないと主張する。無期自由刑が観念的には−仮出獄、刑の執行停止、恩赦等の制度のあることを度外視すれば−犯人の一生を通じその自由を剥奪せんとするものであることは所論のとおりであるが、俗に「命あつてのもの種」といわれるやうに、論旨が人間存在の前提であるとする自由そのものは実は生命の存在を前提とするものであり、生命の剥奪は、すべての自由の絶対的剥奪となる。人は本能的にその自由よりもその生命を尊重し、生命の剥奪を自由のそれにも増して嫌惡悪し恐怖するのが通常である。尤も特殊の人が特殊の事情の下に無期自由刑よりも死刑を選ぶようなこともないではないであろう。しかしそれはあくまで稀有な例外的事例に過ぎないのであつてこれを以て一般を律することはできない。さればわが刑法においても現代文明各国の立法例と共に死刑を以て最重の刑とし無期自由刑をこれに次ぐものとしているのである(刑法第10条参照)。
- のみならず科刑の目的は受刑者その人を対象とする特別予防の他に社会を犯罪から防衛せんとする一般予防の面もあるのであるから、刑の種類及び量の適否と要否とについてもこの両者の立場から考察されなければならない。そして又犯罪と犯人とがその型と質とを異にするに従いこれに対応する刑罰も亦その量及種類を異にせざるを得ないのである。死刑の以てしては過酷に失し有期の自由刑を以てしてはなお足りないとする場合もあり得るのであるから、法律が無期自由刑を認めたからというて、唯特殊の受刑者の個人的立場からのみこれを目して必要以上にその精神的肉体的苦痛を与へる残虐な刑罰を規定するものとし、違憲であると断じ去ることはできない。
- しかも近時における行刑制度は素朴な応報刑主義の見地のみによらず教育刑主義にも立脚して組織され運用されているのである。すなわち現代の行刑は、無期自由刑の受刑者に対してもでき得る限りその物心両生活においてその反省の機会を与え人間生活の広さと深さとを味得せしめてその更生を誘致すべく努力するのである。所論は人間の生命に対する本能を顧みず刑の真義と行刑の実情とを正規しない偏見に過ぎない。
- 食糧管理法違反(最高裁判例 昭和25年2月1日)
- 憲法第36条にいわゆる「残虐な刑罰」
- 憲法第36条にいわゆる「残虐な刑罰」とは刑罰そのものが人道上残酷と認められる刑罰を意味し、法定刑の種類の選択又は範囲の量定の不当を指すものではない(昭和22年(れ)第323号同23年6月23日宣告大法廷判決参照)。
- 強盗殺人、同未遂、殺人予備、私文書偽造、偽造私文書行使、詐欺、詐欺未遂(最高裁判決 昭和30年04月06日)
- 絞首刑の合憲性
- 現在わが国の採用している方法による絞首刑は憲法第36条にいう「残虐な刑罰」にあたらない。
- 現在各国において採用している死刑執行方法は、絞殺、斬殺、銃殺、電気殺、瓦斯殺等であるが、これらの比較考量において一長一短の批判があるけれども、現在わが国の採用している絞首方法が他の方法に比して特に人道上残虐であるとする理由は認められない。
- 電車顛覆致死、偽証(三鷹事件 最高裁判決 昭和30年06月22日)
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