法学民事法コンメンタール民法第1編 総則 (コンメンタール民法)

条文

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(代理権の濫用)

第107条
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、 又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

改正経緯

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2017年改正前、第107条には「復代理人の権限等」につき規定されていたが、第105条「復代理人を選任した代理人の責任」が削除されたことに伴い旧第106条及び旧第107条の条数が繰り上げられ、空番となった本条に新たに「代理権の濫用」について規定された。

なお、改正前の旧第107条は以下のとおり、改正後については第106条を参照。

(復代理人の権限等)

  1. 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
  2. 復代理人は、本人及び第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

解説

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「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をする」ことを、「代理権の濫用」と言う。例えば、土地の売却を委託されている代理人が、知人に市価よりも安い価格で売却するようなケースがこれにあたる。本人と代理人の間では、債務不履行・不完全履行や不法行為が成立するものとしても、代理行為の成否自体については2017年改正以前に法定されていなかった。なお、代理権の範囲外の行為が行われた場合には、権限踰越(第110条)の問題が生じる。

判例では、第93条(心裡留保)但書を類推適用し、相手方が代理人の真意を知り又は知りうべき場合は無効としていた(最判昭和38年9月5日民集17.8.909最判昭和42年04月20日 他)。

「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的」であっても、必ずしも本人の利益を損なうとは限らず、又、他の代理権逸脱の事例と重なる場合とのバランスを考慮すると、一律に無効とするよりは、無権代理とする方が柔軟な解決が可能であるとの考えから、代理権濫用について相手方がそれを知り又は知ることができた場合には無権代理(第113条)とすることにした。

したがって、改正後において、代理権濫用の法律行為については、①代理人は無権代理人としての責任を負う、②相手方は「追認」を催告できるようになった。

参照条文

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判例

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  1. 登記抹消等請求(最高裁判決 昭和38年9月5日)
    代表取締役の権限濫用の行為と民法第93条。
    株式会社の代表取締役が自己の利益のため会社の代表者名義でなした法律行為は、相手方が右代表取締役の真意を知り、または、知りうべきものであつたときは、その効力を生じない。
  2. 売掛代金請求 (最高裁判決 昭和42年04月20日)民法第99条
    代理人の権限濫用の行為と民法第93条
    代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法第93条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である。
  3. 根抵当権等抹消登記手続(最高裁判決 平成4年12月10日)民法第93条
    1. 親権者の代理権濫用の行為と民法93条ただし書
      親権者が子を代理する権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が権限濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法第93条ただし書の規定の類推適用により、その行為の効果は子には及ばない。
    2. 親権者において子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為と代理権の濫用
      (上記判例に関わらず)親権者が子を代理してその所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、代理権の濫用には当たらない。
      • 親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべきである。

前条:
民法第106条
(復代理人の権限等)
民法
第1編 総則

第5章 法律行為

第3節 代理
次条:
民法第108条
(自己契約及び双方代理等)
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