民法第187条
条文
編集(占有の承継)
- 第187条
- 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
- 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
解説
編集条文の意義・概要
編集占有が承継できる事、及び占有承継時の占有開始時の算出方法に関するルールを定めた条文である。また、2項では、1項所定の場合に、本権者との利益調整の観点から、占有承継人は先占有者の占有期間も自己の占有期間に算入できる代わりに瑕疵をも承継するとした。この条文が意義を持つ場合は取得時効の様に、時効の起算点(占有開始時)や占有期間を争う場合である。
解釈
編集187条の「承継」
編集187条中の「承継」は民法学で言われる特定承継及び包括承継を指すとされる。判例は、占有承継が特定承継によるのか、包括承継によるのかによってどの時点で占有を承継したのかを分けている。売買等による特定承継で占有承継を主張する場合は、意思に基づく占有移転が必要としているが、相続などによる包括承継で占有承継を主張する場合は、占有移転を必要とせず、相続の開始時に承継があったものとする。こうする事により、相続財産を直接所持していない相続人も占有訴権の行使が可能になる。
187条の「瑕疵」
編集先占有者の占有が「他主、強暴、隠匿、悪意または善意有過失」の態様を持つ事を指す。占有は186条によって「所有の意思(自主占有)、平穏、公然、善意」は推定されるはずであるが、先占有者の占有が、その推定が及ばないような容態でなされたり、占有の開始時に過失があったりした場合は占有承継の際にこれらも占有承継人に承継される。
論点
編集- 187条の承継の中に相続等の包括承継は含まれるか⇒含まれる
- 前主が数人あるときもその数人の占有期間をまとめて自己の占有期間に算入できるか⇒できる。
- 前主数人の占有期間をまとめて自己の占有期間に算入後、その数人のうち瑕疵無く占有しているもののみの占有期間のみの承継を改めて主張することができるか⇒できる。(信義則・禁反言にならない。)
参照条文
編集民法第186条(占有の態様等に関する推定)
判例
編集- 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和37年05月18日)
- 相続人は民法第187条第1項の承継人にあたるか
- 民法第187条第1項は相続による承継にも適用がある。
- 土地所有権確認等(最高裁判決 昭和53年03月06日) 民法第162条2項
- 所有権移転登記手続(最高裁判決 平成1年12月22日) 民法第33条
- 権利能力なき社団等が法人格を取得した場合と民法187条1項
- 民法187条1項は、権利能力なき社団等の占有する不動産を法人格を取得した以後当該法人が引き継いで占有している場合にも適用がある。
- 土地所有権移転登記手続(最高裁判決 平成8年11月12日)民法第162条,民法第185条,民法第186条1項,民法第896条
- 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合における所有の意思の立証責任
- 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合には、相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明すべきである。
- 他主占有者の相続人について独自の占有に基づく取得時効の成立が認められた事例
- 甲が所有しその名義で登記されている土地建物について、甲の子である乙が甲から管理をゆだねられて占有していたところ、乙の死亡後、その相続人である乙の妻子丙らが、乙が生前に甲から右土地建物の贈与を受けてこれを自己が相続したものと信じて、その登記済証を所持し、固定資産税を納付しつつ、管理使用を専行し、賃借人から賃料を取り立てて生活費に費消しており、甲及びその相続人らは、丙らが右のような態様で右土地建物の事実的支配をしていることを認識しながら、異議を述べていないなど判示の事実関係があるときは、丙らが、右土地建物が甲の遺産として記載されている相続税の申告書類の写しを受け取りながら格別の対応をせず、乙の死亡から約15年経過した後に初めて右土地建物につき所有権移転登記手続を求めたという事実があるとしても、丙らの右土地建物についての事実的支配は、外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解するのが相当であり、丙らについて取得時効が成立する。
- 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合における所有の意思の立証責任
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