高等学校 地理探究/人間生活と自然

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本ユニットでは、人々が生きていくのに欠かせない食事や住居について見ていきます。

文化と自然環境 編集

文化とは 編集

 人間は文化をもつ動物です。文化とは、言語によるコミュニケーション、道具の製作、慣習化した習俗、人生や物事についての価値観、身の回りの世界についての見方など、人間が成長していく中で学習によって身につけ、世代を超えて継承される生活様式の全体を意味します。

 人間は文化なしでは生活出来ません。文化を獲得する能力は人類に共通して備わっていますが、どのような文化を身につけていくのかは、地域や時代によって異なり、世界中で多様な生活文化が見られます。

多様な生活文化が生まれた理由 編集

 地域によって異なる多様な生活文化は、なぜ生まれたのでしょうか。人間集団は文化を通して自然環境に働きかけます。また、自然環境は文化の形成に影響を受けます。異なる自然環境に適応した結果として、生活文化の多様性が生まれます。人間集団が多様な自然環境に適応してきた結果としての生活文化は、人類の地域的な多様性の原点ともいえます。

生活文化と現代世界 編集

 同じ地域に暮らす人々が、衣・食・住など生活に密着した事柄について、共通の言語、習慣や宗教、価値観、規範などに基づいて、同じようなものを使ったり、同じような行為をしたりする時に、地域で共通していると感じる文化を「地域の文化」といいます。ただし、同じ地域に住む人の宗教や言語が異なっていても、食べ物や着る物が似ているので、地域の文化を規定する要素は一つではありません。

 そして、人・物・情報などが国境を越えて移動するグローバル化が進行し、地域固有の文化は、徐々に変わっていく場合もあります。

 例えば、イヌイットはアザラシの狩猟にGPSを活用するようになり、アフリカでは牧畜民が携帯電話を利用して家畜の価格を教えあうようになるといった変化もみられます。

生活文化の地域性 編集

生活文化の地域性と他文化とのつながり 編集

 人類の食料の獲得方法の違いは、自然環境と深い関わりを持っていました。年中高温湿潤な熱帯では、料理用のバナナやイモ類などが主に栽培されました。農耕に適さない乾燥帯や亜寒帯では遊牧が中心でした。一方、狩猟、採集を中心に生活した人々の間でも様々な形態がみられました。例えば、サケ類などの漁業資源が豊かな北アメリカ大陸の西岸では、定住生活を送る狩猟採集民が見られました。

 ただし、狩猟採集民のように孤立しているように見える社会の文化も、現在では周囲の農耕民や牧畜民の文化との密接な関連の中にあり、都市の商工業と消費を中心とした生活文化ともつながっています。

世界の生業 牧畜・農耕・漁労 編集

 大規模な放牧をともなう牧畜は、ユーラシアでは中央アジア・西アジア・ヨーロッパとヒマラヤ山脈、アフリカではサハラ砂漠の周辺やナイル川上流の東アフリカ北部、南米ではアンデス山岳地帯に、それぞれ特有の家畜種と利用法を持って分布しています。特に広大な放牧面積を必要とする遊牧は、湿潤な熱帯やモンスーン地帯にはあまり見られず、ステップやサバナのような草原が広がる地域を中心に分布しています。

 一方、様々な形の農耕は、低緯度地域から中緯度地域を中心に広がっています。これら農耕文化は、作物の種類、栽培技術、その利用形態などにおいて地域性を持っています。中緯度地域では米や小麦などの穀物と豆類などを組み合わせた農耕が広く見られる一方、低緯度地域ではイモ類やバナナを主食とする農耕が見られます。

 大地を資源として利用する生業の牧畜と農耕に対し、海や川、湖の資源を利用した生業が漁労です。太平洋にあるポリネシアやメラネシア、ミクロネシアと呼ばれる島々では多様な漁労文化がみられます。こうした島々で生活してきた人々は、古くから航海の技術を発達させ、島から島へと移住し、人類の居住地域を広げていきました。

世界の衣服 編集

気候や文化に合わせた衣服の工夫 編集

 
インドのサリー

 暑さや寒さから身を守るのが、衣服の基本的な役割です。世界では、それぞれの地域の自然環境に応じて、衣服の素材や形が様々に工夫されています。寒冷な地域では、防寒のために、古くから動物の毛皮や皮(獣皮革)を使った衣服が着用されてきました。一方、高温で湿潤な地域では、吸湿性のよい木綿を用い、ゆったりとして体を締めつけない形の衣服がみられます。1枚5~6mもある長い布を体に巻きつけて着るサリーは、古くから伝わるインドの女性の民族衣装です。サウジアラビアなどの乾燥地域に住む人々は、強い日差しや砂嵐から肌を守るため、長袖で裾の長い衣服を着ています。また、冬や夜の気温が低いアンデス地方のペルーに住む先住民は、頭や首、肩のあたりから冷気が入り込むのを防ぐため、ポンチョとよばれる毛織物の上着をまとっています。

 また、衣服は、宗教や地域の伝統文化、階級の違いなど社会環境経済的環境の影響も受けています。イスラームでは、女性は家族以外の男性には肌を見せてはいけないとされているため、女性達は頭にスカーフを巻き、体を隠すような形のゆったりとした衣服を着ています。

衣服の変化と伝統の保持 編集

 このように衣服の素材は、地域の自然環境によって様々で、栽培・飼育される作物や家畜にも左右されてきました。しかし、そうした制約も経済や技術の発達によって克服され、現在では、安価で丈夫な既製服が大量に生産され、短期間に大量に販売するファストファッションと呼ばれる販売形態も現れました。

世界の食生活 編集

世界の多様な食生活 編集

 人類は、動物性と植物性の食物を満遍なく食べる雑食性の動物です。食物の料理には、煮たり焼いたりする加熱や、水さらしなどの方法が含まれ、加熱によって生のままでは消化出来ない原料が食べられるようになり、水さらしは有毒なイモ類などから毒を抜く効果をもちます。こうした料理法の発達によって、人類は多様な食材を用いられるようになり、地球上の様々な生態系に適応する生活を築けるようになりました。

 
ハラール

 食事のとり方や作法も文化によって異なります。東南アジアの都市では、屋台での食事風景が特徴的です。稲作の盛んなモンスーン地帯では、麺は小麦よりも米粉(ビーフン)がよく用いられます。宗教と食生活の関係も深く、例えばイスラム教では、食べてよい素材調理法が認められた食品をハラールといい、そうでない食品と区別しています。

 現在では文化の違いを越えて、昔の人々が口にしなかったものも食べるようになっています。エスニック料理の流行は、今や世界の多くの都市生活に見られる現象ですが、食生活は依然として地域の文化を映し出す鏡ともいえ、だからこそエスニック料理の流行は、文化多様性の楽しみとして存在しているともいえます。

 また、アメリカの食文化の影響で、半世紀の間にコーラやコーヒーを飲みながらハンバーガーを食べるといった光景が、日本をはじめ世界各地で見られるようになりました。こうしたファストフードは、元々はアメリカの大衆向けの簡易食に過ぎませんでした。しかし、冷凍食品やインスタント食品の普及、多国籍企業の外食産業への進出が国境を越えて広がり、食生活の均一化・等質化がますます進んでいます。

外食産業
 食堂・レストラン・ハンバーガーショップなど、一般には飲食店といわれる業種を指しますが、広義には弁当や惣菜業、仕出しや給食業務を請け負う事業なども含まれます。
世界に見られる発酵食品
 食材を酵母や乳酸菌などの細菌類の働きで加工したものが発酵食品です。一般に食材を発酵させると保存性が高まり、旨味や栄養価が増すなどの効果を持ちます。ワインや日本酒などの酒類や納豆、家畜の乳を発酵させたチーズやヨーグルト、魚介類を使った鰹節やキムチ、干物類などは発酵食品です。東アジアでは大豆を発酵させた醤油が、東南アジアでは魚介類を発酵させた魚醤が用いられるように、地域ごとに異なる食材と細菌類の組み合わせが見られ、世界には風土と結びついた様々な発酵文化があります。

主食となる作物と各地の食文化 編集

 伝統的な主食は、その地域で栽培出来る作物と深い関わりがあります。コメ、小麦、とうもろこし、イモ類、雑穀、肉、乳は、世界各地で主食とされており、食べ方には地域ごとの特色があります。

 小麦は西アジアで最初に栽培され主食となりました。その後、交易の拡大により、地中海沿岸からヨーロッパ・南アジア・中国、ヨーロッパ人が進出した北アメリカやオーストラリアで主食とされました。小麦の食べ方には2通りあります。

  1. ヨーロッパでは粉状にして、パンやパスタにして食べます。
  2. インドや西アジアでは、小麦粉で作った生地を薄く伸ばしナンやチャパティにして食べます。

 キビやトウモロコシなどの雑穀は、アフリカ大陸やラテンアメリカに分布します。雑穀の食べ方は、次の通りです。

  1. 粉にひいてお粥や団子にして食べます。
  2. メキシコなどでは練って薄く伸ばして焼いたトルティーヤが食べられます。
 
キャッサバ。学者名はマニホート・エスクレンタと呼ばれます。

 イモ類は、ヤムイモやタロイモを食べる東南アジアや南太平洋の島々と、キャッサバ(マニオク)やジャガイモを食べる南アメリカやアフリカに分布します。アンデス地方が原産のジャガイモは、16世紀にヨーロッパへもち込まれ、現在ではドイツなどの主食になっています。

 コメは夏に雨量が多い東アジア、東南アジアを中心に広がりました。コメの食べ方は、次の通りです。

  1. 粒のまま炊いたり蒸したりして食べられます。
  2. 中国のビーフンやベトナムのフォーのように、コメの粉を麺にした料理も見られます。

 日本と同じ稲作農業を中心とする地域では、主食としての米飯に対して副食(おかず)があるという考えが広くみられます。主食と副食の区別は、私達にとってはごく自然のように思われます。しかし、この区別は決して世界的に共通ではありません。

 アフリカや中央アジアの牧畜民や農耕と牧畜の組み合わせが見られるヨーロッパでは、このようなはっきりとした区別はありません。これらの地域では、乳製品の利用が目立ちます。例えば、モンゴルの遊牧民は多くの大型家畜の乳を利用し、それらの加工品としてバターやチーズがつくられます。また、乳製品と並んで羊・ヤギ・牛の肉が冬場の保存食として用いられます。

 なお、北極海沿岸ではトナカイやアザラシなどが、伝統的に食べられてきました。

食生活の変質と伝統 編集

 世界の食生活は、交易の発展、生産技術や食品工業の発達、生活水準の向上によって、近代以降、大きく変化しました。ヨーロッパで肉類が広く食べられるようになったのは、18~19世紀の産業革命以降に過ぎず、ヨーロッパのほとんどの地域が伝統的に小麦を主食としてきました。

 一方、食生活には、風土や環境のほか、民族的・地域的な多様性が深く根付いています。そのため世界中どこに行っても、その歴史の中で生まれた郷土料理があり、地域の独自性や魅力にもなってきました。食生活のグローバル化は国境を越え、例えば中国料理やイタリア料理、インド料理、韓国料理など、外国料理店が建ち並ぶ光景は、世界の大都市に共通する景観となっています。このように、食生活は、生産技術や流通の発達によって自然環境や地域の制約から解放され豊かになってきました。しかし、その恩恵を受ける国とそうでない国との格差は拡大しています。豊かな国では過食や偏食による健康への弊害が問題になっています。

中国料理とイタリア料理
 どちらも食材が豊富で味・栄養に優れ、東洋と西洋を代表する料理です。中国料理は強い火力を使い、乾燥食品・油を多用します。イタリア料理はオリーブオイル・パスタ・トマトを多用し、ワインとともに食べます。どちらも歴史の古さや広い国土などが影響して、地方色豊かな料理が発達しています。

世界の住居 編集

気候や生活様式に合わせた住居 編集

 東南アジアや南アジアなど高温多湿な地域では、高床にして通気性をよくし、屋根の勾配を急にして雨水を流しやすくするなどの工夫がなされています。一方、北アフリカや西アジアのように、乾燥していて寒暖の差が大きい地域では、急激な気温の変化が室内に及ばないように、壁を厚くし、窓を小さくする工夫がなされています。ほかにも、イヌイット(エスキモー)のように雪や氷を材料としたイグルーや、モンゴルの遊牧民のように羊毛を圧縮したフェルトを材料にしたゲル(中国語ではパオ)もあります。

伝統的建築材料 編集

 こうした住居の多様性は建築資材や社会組織によって変わっていきます。熱帯地域では豊かな植生を反映して木や葉・草が、またやや乾燥した地域では、とげの多い灌木が古くから建築材料となってきました。一方、冷涼な針葉樹林地帯ではモミやマツが、反対に、降水量が少なく樹木が成長しにくい乾燥地域では、土・煉瓦・石が建築材料となりました。

日本の衣食住 編集

日本の衣食住の変化 編集

 日本では、衣食住を厳しく規定する宗教上の規範はほとんど見られません。そのような背景から、経済発展に伴って、欧米諸国の文化が広く受け入れられてきました。生活文化の欧米化によって、最も大きく変わったのは服装です。大正時代になると洋服が普及し、第2次世界大戦以降には、女性の職場進出によって女性の洋装化も進みました。これ以降、和服は、日常の生活で着る人が少なくなり、結婚式や卒業式などの礼装として、限られた場面でのみ着用されるようになりました。第二次世界大戦後には、アメリカ合衆国の文化やファッションの影響を強く受けるようになり、若者を中心にジーンズやTシャツも普及しました。ファッションや流通がグローバル化され、多国籍企業によって世界中で普段着(カジュアルウェア)が着られるようになりました。

 
背広(スーツ)

 就職活動・転職活動や事務系の職場をみると、ワイシャツにネクタイ、背広(スーツ)を着用する習慣が定着しています。しかし、この服装は高温多湿な夏の日本では気候に適しているとは言いにくく、夏にはオフィスの冷房を強めなくてはならないという矛盾も起きています。

背広
 19世紀にレジャー用としてイギリスで生まれましたが、20世紀にアメリカでビジネスウェアとなり、その後世界に普及しました。

 食文化についても、特に第二次世界大戦後、欧米諸国の食文化が普及し、パン食が定着しました。その後、タイなどアジア諸国の料理をはじめ、フランス料理・イタリア料理・インド料理など世界各地の食文化も広まり、食の好みも多様化しています。しかし、どの国の料理にしても、食材や調味料などにおいて、日本人の味覚に合わせる工夫がなされています。

日本の住居変化 編集

 日本の住宅事情の変化は次の通りです。

歴史 高度経済成長期までは、東北地方の曲屋や、岐阜県から富山県にかけての山間部にみられる合掌づくりなど、地域の風土に合わせた多様な民家がみられました。間取りも、西日本の田の字に分けられた四間取り型に対して、東北日本では囲炉裏のある広間を中心とした広間型がみられました。ところが、経済成長による生活水準の向上や、都市化に伴う住宅の利便性の追求、核家族化の進行によって住宅構造に大きな変化がみられるようになりました。
建築方法 鉄骨や鉄筋コンクリートのほかに、プレハブ工法が普及するなど、建設工法が標準化され、集合住宅だけでなく、一戸建て住宅にも画一化が進みました。
住環境 和室に変わって洋室が増えたり、畳の上での生活から洋室でのベッドやテーブルを使った生活へ変わったりと、欧米化の傾向がみられます。最近では和室の設置を売り物にする住宅も増えています。全国的に、高齢者への対応からバリアフリー住宅の普及も進んでいます。
地域環境 北海道や日本海側北部などの豪雪地帯では、柱を太くしたり、開口部(窓)を少なくしたり、さらに、断熱効果を高める必要から木造で建築がされています。一方、南西日本では夏の日射しを避けるために軒先を深くしたり、沖縄のような強風地帯ではほとんどの住居でコンクリート建築です。