刑法第130条
条文
編集(住居侵入等)
- 第130条
- 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。
改正経緯
編集2022年、以下のとおり改正(施行日2025年6月1日)。
- (改正前)懲役
- (改正後)拘禁刑
解説
編集- 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入 … 住居侵入罪
- 要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者 … 不退去罪
- (不退去罪の例としては住居人が「帰ってください」と言って帰らない場合になる)
参照条文
編集- 第132条(未遂罪)
- 未遂は、罰する。
- 盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律
判例
編集- 建造物侵入(最高裁判決 昭和25年9月27日)憲法28条,憲法37条3項,刑法35条,刑法36条,刑法37条,旧刑訴法69条1項
- 刑法第130条にいわゆる「人の看守する建造物」の意義
- 刑法第130条に所謂建造物とは、単に家屋を指すばかりでなく、その圍繞地を包含するものと解するを相当とする。所論本件工場敷地は判示工場の附属地として門塀を設け、外部との交通を制限して守備警備員等を置き、外来者が、みだりに出入りすることを禁止していた場所であることは記録上明らかであるから、所論敷地は同条にいわゆる人の看守する建造物と認めなければならない。
- 刑法第130条を概括的に適用することの適否
- 住居侵入の事実に法律を適用するにあたつては、刑法第130条の前段、後段と区別しないで、概括的に同条を適用しても違法ではない。
- 刑法第130条にいわゆる「人の看守する建造物」の意義
- 爆発物取締罰則違反、住居侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反、脅迫(最高裁判決 昭和34年07月24日)
- 刑法第130条の罪の成立する事例
- 夜間税務署庁内に人糞を投込む目的をもつて同署構内に立入つたときは、たとえ同署裏手に酒販売組合事務所であつて人々が同署通用門を通りその構内を自由に通行していたとしても、その所為は刑法第130条の罪を構成する。
- 常習累犯窃盗(最高裁判決 昭和55年12月23日)
- 常習累犯窃盗の罪と窃盗の着手に至らない窃盗目的の住居侵入の罪との罪数関係
- 窃盗を目的とする住居侵入の罪は、窃盗の着手にまで至らなかつた場合にも、盗犯等の防止及び処分に関する法律第3条の常習累犯窃盗の罪と一罪の関係にある。
- 鉄道営業法違反、建造物侵入(最高裁判決 昭和59年12月18日)
- 鉄道営業法35条及び刑法130条後段を適用しても憲法21条1項に違反しないとされた事例
- 駅係員の許諾を受けないで駅構内において乗降客らに対しビラ多数を配布して演説等を繰り返したうえ、駅管理者からの退去要求を無視して約20分間にわたり駅構内に滞留した被告人らの所為につき、鉄道営業法35条及び刑法130条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法21条1項に違反しない。
- 憲法21条1項は、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであつて、たとえ思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは許されないといわなければならない。
- 駅係員の許諾を受けないで駅構内において乗降客らに対しビラ多数を配布して演説等を繰り返したうえ、駅管理者からの退去要求を無視して約20分間にわたり駅構内に滞留した被告人らの所為につき、鉄道営業法35条及び刑法130条後段の各規定を適用してこれを処罰しても憲法21条1項に違反しない。
- 鉄道営業法35条にいう「鉄道地」の意義
- 鉄道営業法35条にいう「鉄道地」とは、鉄道の営業主体が所有又は管理する用地・地域のうち、直接鉄道運送業務に使用されるもの及びこれと密接不可分の利用関係にあるものをいう。
- 刑法130条にいう「人ノ看守スル建造物」の意義
- 刑法130条にいう「人ノ看守スル建造物」とは、人が事実上管理・支配する建造物をいう。
- 鉄道営業法35条にいう「鉄道地」及び刑法130条にいう「人ノ看守スル建造物」にあたるとされた事例
- 構造上駅舎の一部で鉄道利用客のための通路として使用されており、また、駅の財産管理権を有する駅長が現に駅構内への出入りを制限し又は禁止する権限を行使している本件駅出入口階段付近は、鉄道営業法35条にいう「鉄道地」にあたるとともに、刑法130条にいう「人ノ看守スル建造物」にあたる。
- 鉄道営業法35条及び刑法130条後段を適用しても憲法21条1項に違反しないとされた事例
- 建造物侵入,業務妨害被告事件(最高裁決定平成19年7月2日)刑法第233条
- 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的でした営業中の銀行支店出張所への立入りと建造物侵入罪の成否
- 現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入った場合,その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客と異なるものでなくても,建造物侵入罪が成立する。
- 住居侵入被告事件(最高裁判決平成21年11月30日)憲法第21条
- 分譲マンションの各住戸にビラ等を投かんする目的で,同マンションの共用部分に立ち入った行為につき,刑法130条前段の罪が成立するとされた事例
- 分譲マンションの各住戸のドアポストにビラ等を投かんする目的で,同マンションの集合ポストと掲示板が設置された玄関ホールの奥にあるドアを開けるなどして7階から3階までの廊下等の共用部分に立ち入った行為は,同マンションの構造及び管理状況,そのような目的での立入りを禁じたはり紙が玄関ホールの掲示板にちょう付されていた状況などの本件事実関係の下では,同マンションの管理組合の意思に反するものであり,刑法130条前段の罪が成立する。
- 分譲マンションの各住戸に政党の活動報告等を記載したビラ等を投かんする目的で,同マンションの共用部分に管理組合の意思に反して立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことが,憲法21条1項に違反しないとされた事例
- 分譲マンションの各住戸のドアポストに政党の活動報告等を記載したビラ等を投かんする目的で,同マンションの玄関ホールの奥にあるドアを開けるなどして7階から3階までの廊下等の共用部分に,同マンションの管理組合の意思に反して立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反しない。
- 憲法21条1項も,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである。
- 本件では,表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく,表現の手段すなわちビラの配布のために本件管理組合の承諾なく本件マンション内に立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ,本件で被告人が立ち入った場所は,本件マンションの住人らが私的生活を営む場所である住宅の共用部分であり,その所有者によって構成される本件管理組合がそのような場所として管理していたもので,一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,そこに本件管理組合の意思に反して立ち入ることは,本件管理組合の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。
- 分譲マンションの各住戸のドアポストに政党の活動報告等を記載したビラ等を投かんする目的で,同マンションの玄関ホールの奥にあるドアを開けるなどして7階から3階までの廊下等の共用部分に,同マンションの管理組合の意思に反して立ち入った行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反しない。
- 分譲マンションの各住戸にビラ等を投かんする目的で,同マンションの共用部分に立ち入った行為につき,刑法130条前段の罪が成立するとされた事例
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