さて,これまでの議論は前座であり,ここからが本論となる.
前章で述べた Laplace 変換による解法を顧みて,果たして正しい解が得られているのか否かを吟味しよう.
取り扱う対象は定数係数の線形微分方程式,
(3.1)
および,
(3.2)
であり,いずれも初期値,
(3.3)
を満たす解を求めることが問題であるとする.解法の手順は次の通りであった.
式(3.1) を初期値,式(3.3)の下に Laplace 変換すれば,
である.これを について解けば,
(3.4)
ここに,
(3.5)
となる.同様に式(3.2),(3.3)を Laplace 変換し を求めると,
(3.6)
となる.そこで,
とすると,式(3.1),(3.3)の解は,
(3.7)
式(3.2),(3.3)の解は,
(3.8)
[1]
となる,ということであった.ここに は合成積を表す.
これだけの議論で果たして式(3.7),(3.8)が
(3.1),(3.3);
(3.2),(3.3)の解であると結論することができるであろうか.
それを吟味することが,この章の目的である.
吟味の詳細に入る前に,これまでで得られた結果をまとめておこう.
定理3.1
式(3.1),(3.3) あるいは
式(3.3),(3.3)
の解の Laplace 変換 に対して次の事実が成り立つ.
(Ⅰ) 分母は初期値に無関係に,微分方程式の形だけで決まる.
(Ⅱ) 分子は初期値によって決まる.しかも の分子多項式
は初期値 と 1:1 に対応する.
以上より,異なる初期値には異なる が対応する.
さらに吟味を続ける.上の解法の手順を要約すると,
- 《作業 1》 解 が存在すると仮定して, を計算する.
- 《作業 2》 求まった に対して となる を見つける.
- 《作業 3》 が解である.
となる.この推論は正しいのであろうか.このようにまとめられると,誰しも不安を感ぜざるを得ないであろう.この不安を取り除く方法は,
- (1) が解であることを直接確かめる
のが一番の良策である.さらに,
- (2) 以外に解がない
ことが確かめられたらさらによい.その上,
- (3) で初期値が与えられたときの解の見つけ方
を知っておくことも必要である.
この章では,線形定常常微分方程式論からの若干の話題を準備しながら,これらの問題の解決を与えることにしよう.
- ^ を過渡解, を定常解と呼ぶこともある.