法学民事法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

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条文 編集

(買主の追完請求権)

第562条
  1. 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
  2. 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

改正経緯 編集

2017年改正により、「瑕疵担保責任から契約不適合責任へ」の方針の一環として、目的物が契約の趣旨に適合しない場合の買主の売主に対する追完請求権について新設。

契約不適合責任

「目的物の種類、品質又は数量に関する契約不適合」に対する担保責任
≒「物の隠れたる瑕疵(旧・第570条)」+「数量の不足又は物の一部滅失(旧・第565条)」に対する担保責任
  • 本条 買主の追完請求権
  • 第563条 買主の代金減額請求権
  • 第564条 買主の解除権/損害賠償請求

改正前規定 編集

改正前は、「他人の権利の売買における善意の売主の解除権」について定めていたが、他人物売買に関する以下の一連の条項について、基本的な規律を維持しつつ第561条(他人の権利の売買における売主の義務)に集約し、個別の事項については、広範に認められるようになった「解除権」の行使などによることとした。

他人物売買

  • 第560条(他人の権利の売買における売主の義務)
  • 第561条(他人の権利の売買における売主の担保責任)
  • 本条(他人の権利の売買における善意の売主の解除権)
    1. 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。
    2. 前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。
  • 第563条(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
  • 第564条(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)

解説 編集

参照条文 編集

判例 編集

瑕疵担保責任・数量等不足担保責任におけるもの 編集

  1. 商品代金請求 (最高裁判決 昭和33年06月14日)民法第95条,民法第696条
    1. 和解が要素の錯誤によつて無効とされた事例
      仮差押の目的となつているジヤムが一定の品質を有することを前提として和解契約をなしたところ、右ジヤムが原判示の如き粗悪品であつたときは、右和解は要素に錯誤があるものとして無効であると解すべきである
    2. 契約の要素に錯誤があつた場合と民法570条(旧)の適用の有無
      契約の要素に錯誤があつて無効であるときは、民法570条(旧)の瑕疵担保の規定の適用は排除される
  2. 約束手形金請求 (最高裁判決  昭和36年12月15日)民法第415条民法第541条
    不特定物の売買における目的物受領後の不完全履行による契約解除の可否。
    不特定物の売買において給付されたものに瑕疵のあることが受領後に発見された場合、買主がいわゆる瑕疵担保責任を問うなど、瑕疵の存在を認識した上で右給付を履行として容認したと認められる事情が存しない限り、買主は、取替ないし追完の方法による完全履行の請求権を有し、また、その不完全な給付が売主の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権および契約解除権をも有するものと解すべきである。
  3. 手付金返還請求(最高裁判決 昭和41年4月14日)
    売買の目的土地の大部分が都市計画街路の境域内に存するために売買の目的物に隠れた瑕疵があるとされた事例。
    買主が原判示規模の居宅(原判決理由参照)の敷地として使用する目的を表示して買い受けた土地の約8割の部分が都市計画街路の境域内に存するため、たとえ買主が右居宅を建築しても、早晩、都市計画事業の実施により、その全部または一部を撤去しなければならない場合において、右計画街路の公示が、売買契約成立の10数年以前に、告示の形式でなされたものであるため、買主において買受土地中の前記部分が右計画街路の境域内に存することを知らなかつたことについて過失があるといえないときは、売買の目的物に隠れた瑕疵があると解するのが相当である。
  4. 土地引渡請求(最高裁判決 昭和43年8月20日)
    宅地の売買がいわゆる数量指示売買ではないとされた事例
    いわゆる数量指示売買とは、当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数または尺度あることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買をいい、宅地の売買においてその目的物を登記簿に記載してある字地番地目および坪数をもつて表示したとしても、直ちに売主が右坪数のあることを表示したものというべきではない。
  5. (参考)売掛代金請求(最高裁判例 昭和47年01月25日)民法第415条,商法第526条
    商人間の不特定物を目的とする売買における不完全履行と代物請求権
    商人間の不特定物を目的とする売買において、瑕疵のある物が給付された場合においても、商法526条1項の適用の結果、買主において契約を解除しえず、また損害の賠償をも請求しえなくなつたのちにおいては、買主は売主に対し、もはや完全な給付を請求することはできないものと解すべきである。
    • 2017年改正により、不特定物を区分する実益は消滅、但し、商事売買における検査期間徒過後の請求不能については維持
  6. 損害賠償(最高裁判決 昭和57年1月21日)
    面積を表示して売買された土地が表示どおりの面積を有しない場合と売主の買主に対する履行利益の賠償義務の有無
    土地の売買契約において、土地の面積が表示された場合でも、その表示が代金額決定の基礎としてされたにとどまり契約の目的を達成するうえで特段の意味を有するものでないときは、売主は、当該土地が表示どおりの面積を有したとすれば買主が得たであろう利益について、その損害を賠償すべき責めを負わない。
  7. 損害賠償(最高裁判決 平成3年4月2日)
    敷地賃借権付き建物の売買における敷地の欠陥と売買目的物の隠れた瑕疵
    建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において、賃貸人が修繕義務を負担すべき敷地の欠陥は、売買の目的物の隠れた瑕疵ではない。
    • 右の場合において、建物と共に売買の目的とされたものは、建物の敷地そのものではなく、その賃借権であるところ、敷地の面積の不足、敷地に関する法的規制又は賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、建物と共に売買の目的とされた賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしても、賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については、賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって、右敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないから、買主が、売買によって取得した賃借人たる地位に基づいて、賃貸人に対して、右修繕義務の履行を請求し、あるいは賃貸借の目的物に隠れた瑕疵があるとして瑕疵担保責任を追求することは格別、売買の目的物に瑕疵があるということはできない。
  8. 損害賠償請求,民訴法260条2項の申立て事件(最高裁判決 平成22年6月1日)
    売買契約の目的物である土地の土壌に,上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことが,民法570条(旧)にいう瑕疵に当たらないとされた事例
    売買契約の目的物である土地の土壌に,上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことは,(1)上記売買契約締結当時の取引観念上,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,(2)上記売買契約の当事者間において,上記土地が備えるべき属性として,その土壌に,ふっ素が含まれていないことや,上記売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが,特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれないなど判示の事情の下においては,民法570条(旧)にいう瑕疵に当たらない。
    • 売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき

前条:
民法第561条
(他人の権利の売買における売主の義務)
民法
第3編 債権

第2章 契約

第3節 売買
次条:
民法第563条
(買主の代金減額請求権)
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