民法第414条
条文
編集(履行の強制)
- 第414条
- 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
- 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
改正経緯
編集2017年改正は以下のとおり。
- 第1項の文言を以下の通り改正。改正前第2項及び第3項に規定していた代替執行や間接強制など各種の強制執行については民事執行法の法体系によるべきものとし詳細な記載は省略した。
- (改正前)その強制履行
- (改正後)民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制
- 第2項に以下の条文があったがこれを削除。
- 第3項に以下の条文があったがこれを削除。
- 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
- 第4項を第2項に繰り上げ、「前三項の規定」としていたものを「前項の規定」とする。
解説
編集本条は、債務者が債務を履行しない場合の強制履行について規定している。
社会秩序の混乱防止のため、国家への申し立てによる債権の強制的実現を図るとともに、当事者による自力救済を実質的に否定したものと理解されている。 なお債務不履行のときには、債権者は、この他損害賠償請求(民法第415条)や解除によることができる。
第1項
編集強制履行の要件と効果について定める。要件は①債務不履行の事実(本文)②債務の性質が強制を許すこと(但書)③履行が可能であること④当事者による不執行の特約がなされていないこと、効果は強制履行である。
債務者が任意に債務の履行をしないときとは
編集- 債務者Sは、Aとの間で土地甲を売却する売買契約を締結し代金も受け取ってていたが、その直後にこの土地から貴重な鉱物が出土する事が判明したため履行期になってもこれをAに明け渡さずに採掘のための大型機械類を持ち込み居座ってしまった。
- SはAとの間でマンションの一室の売買契約を締結した。Aは当初こそ満足して居住していたものの、建築士Bの手抜き設計による構造的欠陥が見つかったため契約を解除し(民法第570条・民法第566条)売買代金の返済を求め(民法第703条)裁判所はA全面勝訴の判決を出した。しかしSは十分な資力があるにもかかわらず様々な理屈をつけて売買代金を返済しようとしなかった。
- インターネットのサイトの管理人であるSは、企業Aに対する中傷が同サイトに書き込まれ、再三Aによる削除要請があったにもかかわらずこれを放置して訴えられ(民法第709条)、敗訴して損害賠償の支払い命令を受けたが、これを支払おうとはしなかった。
契約などに基づく債務があれば、普通は債務者は自らその債務の弁済責任を果たそうとすることが期待されるが、そのような誠実な債務者ばかりが全てではない。当事者間で債務の履行が穏便に行われない時、債権者の強制的な実力行使による自力救済によることなく債権者の求めによって国家による債務履行の強制が行われる。これによって債権者は安心して債務者との関係に入ることができ、かつ自力救済による紛争の激化を予防することができる。
債務者の帰責事由は必要とされるか
編集強制履行をするには債務者が意図的に債務を履行しないというときだけでなく、債務者本人に債務不履行に陥っていることにつき帰責事由が無いときにまで実行が可能か。強制履行の要件として債務不履行の客観的事実のみがあればよく、損害賠償の場合と異なり債務者の帰責事由は要求されていないと解されている。もっとも、強制履行をすることが極端に不当・不合理となる場合には権利濫用(民法第1条3項)として裁判所で退けられる場合も考えられないでもない。
債務の性質がこれを許さないときとは
編集明文化されていない要件
編集履行の可能性
編集無い袖は振れない。金銭債務における債務者無資力や他人物売買の場合、債務内容が現実味の無いものである場合など、実行が事実上不可能な場合にまで国家が介入して強制するわけにはいかない。
不執行の特約
編集債務不履行に陥っても、強制履行によらずに当事者のみで解決するという特約を予めしていた場合、債権者の申し立ては受理されない。このような特約も有効であると解されている。そのような当事者の事前の合意は尊重されるべきだからである(民法第1条参照)。
債権者の請求
編集上記の要件を満たしたうえで債権者が裁判所に訴えを提起し、裁判所がこれを認めてはじめて強制履行ができる。債権債務関係は原則として当事者間の誠実な行動による円満な運用・解決が期待されている(民法第1条参照)のであって、当事者による請求無しに国家が自主的に関与することは市民生活への不当な干渉となる(民法第2条参照)のでできない。
履行の強制とは
編集債権の内容を国家権力を使って強制的に実現することをいう。民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法により履行を強制する。
直接強制
編集強制履行の最も中心的な形態は、債権本来の内容を強制的に実現させるものである。これを直接強制という。債務者の意思を無視してその債務の対象に実力行使することで行う。その対象は債務者の財産の中から何かを引き渡すという引渡債務に限られる。債務者本人を対象とする債務において直接強制をしようとすると、債務者の身体を拘束する他に方法が無く、人格権の不当な侵害となりかねないからである。
金銭の支払を目的とする債権についての強制執行
編集債務者が支払に足る十分な金額を現金で所持していればそれを取り上げて債務者に渡せば良いのかもしれないが、むしろそうでないことの方が多いであろう。そこで、債務者の財産を差し押さえて競売し、売却代金から配当を得るという方法により行う(民事執行法第二章第二節金銭の支払を目的とする債権についての強制執行)。必要であれば、債務者の最低限生活に必要なもの(民事執行法第131条・152条)を除く全財産が差し押さえの対象となりうる。
金銭の支払いを目的としない引渡しについての強制執行
編集後述する行為債務等を含め、金銭の支払いを目的としない請求権についての強制執行については民事執行法第二章第三節が定めている。
不動産の引渡し等の強制執行
編集民事執行法第168条によれば、不動産(又は人の居住する船舶等を含む)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行うとされる。
動産の引渡しの強制執行
編集動産であれば、執行官が債務者からこれを取り上げて債権者に引き渡す(民事執行法第169条)。その際に債務者の金庫を開けることも可能である(民執法169条2項の準用する民事執行法第123条)。
間接強制(旧第2項関連)
編集民事執行法第172条は、作為又は不作為を目的とする債務で民法414条2項・3項に規定する請求に係わる強制執行、つまり民事執行法第171条にいう代替執行ができないものについて、強制執行の方法として執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずるとする。例えば、「履行しなければ1日につき一万円を債権者に払え」「あくまでも当該行為を続けるなら1日につき十万円を債権者に払え」といったような一種の罰金を貸すことでその経済的・心理的圧力によって履行を強制する方法である。
有力な反対説もあるものの、民法の通説及びそれを受けた民事執行法は、間接強制は嫌だと言っている債務者に経済的圧力をかけ無理やり履行させることで債務者の自由を侵害するものであって、直接強制も代替執行も行えないものに対して補充的に行われるに留めるべきだとの立場に立っている。
代替執行ができないものとは
編集行政法における間接強制
編集砂防法に規定があるものの、その時代錯誤的ともいえる金額から実際に適用されることは絶無である。
代替執行(旧第2項関連)
編集労務の提供など、ある行為が第三者によっても可能な場合、頑なに債務の履行を拒む債務者の手による履行にこだわる必要は無い。むしろ、第三者に一任しつつ、第三者に支払うべき費用を債務者に支払わせた方が合理的な場合もある。これを代替執行(民事執行法第171条表題)という。
例えば、建物収去明け渡しに対する債務不履行であれば、債権者は家屋の取り壊しを請負人夫にやらせて、請負代金を後で取り立てることになる。なお、債権者は必要であれば、その費用をあらかじめ債務者が債権者に支払うように債務者に命ずるよう執行裁判所に申し立てることもできる(民事執行法第171条4項)。
法律行為を目的とする債務の執行(旧第2項関連)
編集例えば、農地の売買において知事への許可申請をするという債務(農地法4条・5条)のような、ある法律上の意思表示をするという債務については、当該意思表示に関する裁判の判決によりこれに代えることができる。
不作為を目的とする債務の執行(旧第3項関連)
編集第2項(旧第4項関連)
編集損害賠償の請求を妨げないとは
編集- AはBとの間で家屋の売買契約を結んだが、Bが期日に引き渡さなかったため強制履行(強制執行)により引渡を受けたが、引渡まで別個にアパートを借りなければならなかった。
民法第415条は、債務不履行によって生じた損害の賠償を請求することができるとする。家屋の引渡によって債務が履行されてもなお、引渡までアパートを借りざるを得なかった費用は債務不履行がなければ払うことのなかったであろう損害として残っており強制履行によっても治癒されていない。このような時に相当分を損害として賠償請求できるのは415条の文言からいって当然であるが、このことを注意的に明示した。
参照条文
編集- 43条~167条(金銭債権の直接強制)、168条~170条(非金銭債権の直接強制)、171条(代替執行)、172条(間接強制)
- 損害賠償請求
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