条文編集

(基本原則)

第1条
  1. 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
  2. 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
  3. 権利の濫用は、これを許さない。

解説編集

  • 第1項は、私権の内容について規定している。
  • 第2項は、私権の行使及び義務の履行における信義誠実の原則(信義則)について規定している。
    信義則からは、以下の4つの原理が導き出される。
    1. 禁反言の法則(エストッペルの原則)
      自己の行為に矛盾した態度をとることは許されない。
      法令への反映
      • 第398条 - 地上権等を抵当権の目的とした地上権者等は、その権利を放棄しても、抵当権者に対抗することができない(参考判例:最判昭和38年02月21日)。
      • 第543条 - 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、契約の解除をすることができない。
      判例
    2. クリーンハンズの原則
      自ら法を尊重するものだけが、法の救済を受けるという原則で、自ら不法に関与した者には裁判所の救済を与えない。
      法令への反映
      • 第130条 - 条件成就の妨害。
      • 第295条 - 他人の物の占有が不法行為によって始まった場合の留置権の不成立。
      • 第708条 - 不法原因給付。
    3. 事情変更の原則(法則)
      契約時の社会的事情や契約の基礎のなった事情に、その後、著しい変化があり、契約の内容を維持し強制することが不当となった場合は、それに応じて変更されなければならない。
    4. 権利失効の原則
      権利者が信義に反して権利を長い間行使しないでいると、権利の行使が阻止されるという原則。時効制度を典型とする。
  • 第3項は、権利濫用の禁止について規定している。

英文編集

Article 1 Private rights must conform to the public welfare.

(2) The exercise of rights and performance of duties must be done in good faith.
(3) No abuse of rights is permitted.

(出典: 法学/英文引用元

参照条文編集

参照判例編集

判例編集

  1. 解職処分取消請求(最高裁判決 昭和34年06月26日)
  2. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和37年2月1日)
    賃貸借の合意解除と転借人の権利
    賃貸人の承諾ある転貸借の場合には、転借人に不信な行為があるなどして、賃貸人と賃借人との間で賃貸借を合意解除することが信義誠実の原則に反しないような特段の事由のあるほか、右合意解除により転借人の権利は消滅しない。
  3. 建物退去土地明渡請求(最高裁判決 昭和38年02月21日)民法第545条,民法第601条
    土地賃貸借の合意解除は地上建物の賃借人に対抗できるか。
    土地賃貸人と賃借人との間において土地賃貸借契約を合意解除しても、土地賃貸人は、特別の事情がないかぎり、その効果を地上建物の賃借人に対抗できない。
    • 上告人(土地賃貸人)と被上告人(地上建物の賃借人)との間には直接に契約上の法律関係がないにもせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地賃貸人は、土地賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、反対の特約がないかぎりは、他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきであるから、建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用收益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得るものというべく、右権利は土地賃借人がその有する借地権を抛棄することによつて勝手に消滅せしめ得ないものと解するのを相当とするところ、土地賃貸人とその賃借人との合意をもつて賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を抛棄したことになるのであるから、これをもつて第三者たる被上告人に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法第398条民法第538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。(昭和9年3月7日大審院判決、民集13巻278頁、昭和37年2月1日当裁判所第一小法廷判決、最高裁判所民事裁判集58巻441頁各参照)。
  4. 約束手形金請求(最高裁判決昭和43年12月25日)手形法第77条,手形法第17条
  5. 建物収去土地明渡請求(最高裁判決昭和44年05月30日)民法第541条
    賃料延滞を理由とする無催告解除が信義に反し許されないとされた事例
    土地賃貸人が、2ケ月分合計3000円の賃料の延滞を理由として、無催告解除の特約に基づき、賃借人に対し、右2ヶ月目の賃料の履行期を徒過した翌日に、賃貸借契約解除の意思表示を発信した場合において、賃借人が賃借以来これまで11年余の間賃料の支払を怠つたことがなく、右賃料延滞は、賃貸人の娘婿が賃借土地に隣接する賃貸人所有の土地上に建物の建築工事を始め、賃借土地から公道へ至る通行に支障を来たさせて賃借人の生活を妨害したことに端を発した当事者間の紛争に基因するものであり、賃貸人が、右妨害を止める配慮をせず、かえつて右紛争に関する和解のための第三者のあつせんが行なわれている間にこれを無視して右解除の意思表示をしたものである等の事情があるときは、右解除は、信義に反し、その効果を生じないものと解すべきである。
  6. 土地建物所有権移転登記抹消登記手続等請求(最高裁判決 昭和44年7月4日)民法第1条
    1. 労働金庫の会員外の者に対する貸付の効力
      労働金庫の会員外の者に対する貸付は無効である。
    2. 員外貸付が無効とされる場合に債務者において右債務を担保するために設定された抵当権の実行による所有権の取得を否定することが許されないとされた事例
      労働金庫の員外貸付が無効とされる場合においても、右貸付が判示のような事情のもとにされたものであつて、右債務を担保するために設定された抵当権が実行され、第三者がその抵当物件を競落したときは、債務者は、信義則上、右競落人に対し、競落による所有権の取得を否定することは許されない。
  7. 損害賠償請求(通称 自衛隊八戸車両整備工場損害賠償)(最高裁判決昭和50年02月25日)民法第167条1項,国家公務員法第3章第6節第3款第3目,会計法第30条
  8. 土地所有権移転登記手続請求(最高裁判決 昭和51年05月25日)民法第145条
    消滅時効の援用が権利濫用にあたるとされた事例
    家督相続をした長男が、家庭裁判所における調停により、母に対しその老後の生活保障と妹らの扶養及び婚姻費用等に充てる目的で農地を贈与して引渡を終わり、母が、二十数年これを耕作し、妹らの扶養及び婚姻等の諸費用を負担したなど判示の事実関係のもとにおいて、母から農地法3条の許可申請に協力を求められた右長男がその許可申請協力請求権につき消滅時効を援用することは、権利の濫用にあたる。
  9. 土地建物所有権移転登記抹消登記手続等請求(通称 岡山労働金庫貸付) (最高裁判決昭和44年07月04日) 民法第43条民法第387条労働金庫法第58条
  10. 損害賠償(通称 自衛隊員遺族損害賠償) (最高裁判決昭和56年02月16日)民法第415条
  11. 雇傭関係存続確認等(通称 日産自動車女子定年制)(最高裁判決昭和56年03月24日)w:憲法第14条1項,民法第90条,労働基準法第1章総則労働基準法第1条
  12. 工事代金 (最高裁判決平成9年02月14日)民法第412条民法第533条民法第634条
  13. 建物明渡等請求事件 (最高裁判決 平成14年03月28日)民法第612条借地借家法第34条
    事業用ビルの賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了しても賃貸人が信義則上その終了を再転借人に対抗することができないとされた事例
    ビルの賃貸,管理を業とする会社を賃借人とする事業用ビル1棟の賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了した場合において,賃貸人が,賃借人にその知識,経験等を活用してビルを第三者に転貸し収益を上げさせることによって,自ら各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れるとともに,賃借人から安定的に賃料収入を得ることを目的として賃貸借契約を締結し,賃借人が第三者に転貸することを賃貸借契約締結の当初から承諾していたものであること,当該ビルの貸室の転借人及び再転借人が,上記のような目的の下に賃貸借契約が締結され転貸及び再転貸の承諾がされることを前提として,転貸借契約及び再転貸借契約を締結し,再転借人が現にその貸室を占有していることなど判示の事実関係があるときは,賃貸人は,信義則上,賃貸借契約の終了をもって再転借人に対抗することができない。
  14. 根抵当権抹消登記手続等請求事件(最高裁判決  平成18年06月12日)(1,2につき)民法第1条2項,民法第415条民法第709条建築基準法第52条 (1につき)民法第632条
    1. 建築会社の担当者が顧客に対し融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後にその敷地の一部売却により返済資金を調達する計画を提案した際に上記計画には建築基準法にかかわる問題があることを説明しなかった点に説明義務違反があるとされた事例
      建築会社の担当者が,顧客に対し,銀行から融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後,敷地として建築確認を受けた土地の一部を売却することにより融資の返済資金を調達する計画を提案し,顧客が,上記計画に沿って銀行から融資を受けて建物を建築したが,その後,上記土地の一部を予定どおり売却することができず,上記融資の返済資金を調達することができなくなったところ,上記計画には,上記土地の一部の売却によりその余の敷地部分のみでは上記建物が容積率の制限を超える違法な建築物となり,また,上記土地の一部の買主がこれを敷地として建物を建築する際には,敷地を二重に使用することとなって建築確認を直ちには受けられない可能性があるという問題があったなど判示の事実関係の下においては,上記問題を認識しながらこれを顧客に説明しなかった上記担当者には,信義則上の説明義務違反がある。
    2. 建築会社の担当者と共に顧客に対し融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後にその敷地の一部売却により返済資金を調達する計画を説明した銀行の担当者に上記計画には建築基準法にかかわる問題があることについての説明義務違反等がないとした原審の判断に違法があるとされた事例
      銀行の担当者が,顧客に対し,融資を受けて顧客所有地に容積率の制限の上限に近い建物を建築した後,敷地として建築確認を受けた土地の一部を売却することにより融資の返済資金を調達する計画を提案した建築会社の担当者と共に,上記計画を説明し,顧客が,上記計画に沿って銀行から融資を受けて建物を建築したが,その後,上記土地の一部を予定どおり売却することができず,上記融資の返済資金を調達することができなくなったところ,上記計画には,上記土地の一部の買主がこれを敷地として建物を建築する際,敷地を二重に使用することとなって建築確認を直ちには受けられない可能性があることなどの問題があったなど判示の事実関係の下においては,顧客が,原告として,銀行の担当者は顧客に対して上記土地の一部の売却について取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べたなどの事情があったと主張しているにもかかわらず,上記事情の有無を審理することなく,上記担当者について,上記問題を含め上記土地の一部の売却可能性を調査し,これを顧客に説明すべき信義則上の義務がないとした原審の判断には,違法がある。
  15. 供託金還付請求権帰属確認請求本訴,同反訴事件(最高裁判決 平成21年03月27日)
    譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者が同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することの可否
    譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者が同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することは,債務者にその無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,許されない。
    • 譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しない。
  16. 自動車代金等請求事件(最高裁判決平成21年07月17日) 民法第533条
前条:
-
民法
第1編 総則
第1章 通則
次条:
民法第2条
(解釈の基準)
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