法学民事法民法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

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条文

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同時履行の抗弁

第533条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

改正経緯

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2017年改正で、括弧書き部分を追加。

解説

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同時履行の抗弁権を定めた条文。
双務契約において、当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるとする権利(抗弁権)を同時履行の抗弁権という。
双務契約には、当事者の公平を図るという観点から、一方の債務の履行と他方の債務の履行は互いに同時履行の関係に立つという履行上の牽連関係が認められるという点に根拠をもつ権利である。

参照条文

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判例

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  1. 家屋所有権確認等請求(最高裁判決 昭和28年06月16日)旧民法第886条3号,旧民法第887条,民法第121条民法第546条
    未成年者の親権者母が親族会の同意を得ないでした家屋譲渡契約を取り消したことによる原状回復義務と同時履行。
    親権者母が、親族会の同意を得ないでした家屋譲渡契約を取り消したときは、その原状回復義務については民法第533条を準用すべきである。
    • 無権代理により家屋譲渡契約を取消し、原状回復を求めたのに対して、相手方が代金返済を求め同時履行の抗弁をした事例
      未成年者の取消は特に未成年者の利益を保護する為めのものであるから、未成年者に対しては相手方は同時履行の抗弁を主張し得ないものであるとする考え方もないではない。しかし未成年者は随意に一方的に取消し得るのであり、しかも現存利益だけの返還をすればいいのであるから、これによつて十分の保護を受けて居るのである。これに反し相手方は取消されるか否か全く未成年者の意思に任されて居り非常に不利益な位地にあるのであるから、それ以上更に先履行の不利益を与えて迄未成年者に不公平な利益を与える必要ありとはいえない。(右は専ら未成年者の取消に関するものであり、他の原因による取消については何等判断を示すものではない)
  2. 家屋明渡等請求(最高裁判決 昭和29年07月22日)借家法第5条,民法第295条
    造作買取請求権行使の場合における造作代金支払義務と家屋明渡義務との関係――留置権または同時履行抗弁権の成否
    造作の買収を請求した家屋の賃借人は、その代金の不払を理由として右家屋を留置し、または右代金の提供がないことを理由として同時履行の抗弁により右家屋の明渡を拒むことはできない。
  3. 建物所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和29年07月27日)民法第541条
    反対給付の提供をしないでした催告にもとづく解除の効力
    双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。
  4. 所有権移転登記手続等請求(最高裁判決  昭和36年06月22日)民法第541条
    契約解除と同時履行の関係に立つ反対給付の履行の提供の時期。
    双務契約上の債務が同時履行の関係に立つ場合、右契約を解除しようとする当事者の債務の履行の提供は、催告に指定された履行期日にこれをすれば足りる。
  5. 登記抹消手続等本訴請求、所有権移転登記手続等反訴請求(最高裁判決 昭和47年09月07日)民法第96条民法第121条民法第546条
    売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務と同時履行
    売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。
    • 第三者の詐欺により売買契約が取り消された事例。但し、買主は、おそくとも売買契約締結までの間には、売主がDに欺かれて本件土地を売り渡すものであることをそれとなく知つたにもかかわらずあえて売買契約を締結しており、善意の第三者とならず、当該売買契約は取り消されている。
      相手方の態様によって同時履行とするか否かを判断して然るべき。詐欺・強迫による取消しの相手方をことさらに保護する必要はない(クリーンハンズの原則、第295条第2項参照)。
  6. 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和49年09月02日)民法第619条2項
    賃借家屋明渡債務と敷金返還債務との間の同時履行関係の有無
    家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、特別の約定のないかぎり、同時履行の関係に立たない。
  7. 土地所有権移転登記請求(最高裁判決 昭和50年03月06日)民法第423条
    土地の売主の共同相続人がその相続した代金債権を保全するため買主に代位して他の共同相続人に対し所有権移転登記手続を請求することの許否
    買主に対する土地所有権移転登記手続義務を相続した共同相続人の一部の者が右義務の履行を拒絶しているため、買主が相続人全員による登記手続義務の履行の提供があるまで代金全額について弁済を拒絶する旨の同時履行の抗弁権を行使している場合には、他の相続人は、自己の相続した代金債権を保全するため、右買主が無資力でなくても、これに代位して、登記手続義務の履行を拒絶している相続人に対し買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができる。
  8. 工事代金 (最高裁判決 平成9年02月14日)民法第1条2項,民法第412条民法第634条
    請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払との同時履行を主張することの可否
    請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わない。
  9. 請負工事代金請求、民訴法一九八条二項の裁判申立(最高裁判決 平成9年07月15日) 民法第412条民法第506条2項,民法第634条2項,民訴法198条2項,商法第514条
    請負人の報酬債権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権との相殺がされた後の報酬残債務について注文者が履行遅滞による責任を負う時期
    請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。
  10. 自動車代金等請求事件(最高裁判決 平成21年07月17日) 民法第1条2項
    自動車の買主が,当該自動車が車台の接合等により複数の車台番号を有することが判明したとして,錯誤を理由に売買代金の返還を求めたのに対し,売主が移転登録手続との同時履行を主張することが信義則上許されないとされた事例
     Xが,Yから購入して転売した自動車につき,Yから転売先に直接移転登録がされた後,車台の接合等により複数の車台番号を有するものであったことが判明したとして,Yに対し錯誤による売買契約の無効を理由に売買代金の返還を求めた場合において,Yは本来新規登録のできない上記自動車について新規登録を受けた上でこれをオークションに出品し,XはYにより表示された新規登録に係る事項等を信じて上記自動車を買い受けたものであり,上記自動車についてのXからYへの移転登録手続には困難が伴うなどの判示の事情の下では,仮にYがXに対し上記自動車につきXからYへの移転登録請求権を有するとしても,Xからの売買代金返還請求に対し,Yが上記自動車についての移転登録手続との同時履行を主張することは,信義則上許されない。

前条:
民法第532条
(優等懸賞広告)
民法
第3編 債権

第2章 契約

第1節 総則
次条:
民法第534条
削除
民法第536条
(債務者の危険負担等)
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