民法第787条
条文
編集(認知の訴え)
- 第787条
- 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない。
解説
編集- 認知には任意認知と強制認知とがある。この規定は強制認知の場合についての規定である。細部の部分については人事訴訟法も参照する必要がある。
- 認知の訴えは子からの認知請求権の存在を前提とする。認知請求権を放棄することは許されないと考えられている(判例)。
- 父の死亡後の認知の訴えも一定の場合には可能である。民法立法当時明治民法第835条においては死後認知は認められていなかったが、1942年(昭和17年)の改正により認められた。認知制度の立法主義に関しての意思主義から事実主義への変更と理解されている。戦後の民法改正においても、この規定を踏襲している。
- 認知の訴えは古くは給付訴訟と考えられていたが、現在は形成訴訟と考えるのが判例である(判例)。しかし、確認訴訟と考える学説も存在する。
判例
編集- 認知請求(最高裁判決 昭和29年4月30日民集8巻4号861頁)
- 認知の訴の性質
- 認知の訴は、現行法上これを形成の訴と解すべきものである。
- 認知の訴につき言い渡された判決は、第三者に対しても効力を有するのであり、そして認知は嫡出でない子とその父母との間の法律上の親子関係を創設するものである。
- 認知請求(最高裁判決 昭和37年4月10日民集16巻4号693頁)
- 子の父に対する認知請求権は、放棄することができるか。
- 子の父に対する認知請求権は、その身分法上の権利たる性質およびこれを認めた民法の法意に照らし、放棄することができないものと解するのが相当である。
- 認知請求権は長年月行使しない場合、行使できなくなるものか。
- 認知請求権はその性質上長年月行使しないからといつて行使できなくなるものではない。
- 子の父に対する認知請求権は、放棄することができるか。
- 認知請求(最高裁判決 昭和44年11月27日)
- 認知請求(最高裁判決 昭和49年10月11日)
- 父母でない者の嫡出子として戸籍に記載されている者と認知の訴
- 父母でない者の嫡出子として戸籍に記載されている者は、その戸籍の訂正をまつまでもなく、実父又は実母に対し認知の訴を提起することができる。
- 認知請求(最高裁判決 平成18年9月4日)
- 保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子(死後懐胎子)と当該男性との間における法律上の親子関係の形成の可否
- 保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子と当該男性との間に,法律上の親子関係の形成は認められない。
- 民法の実親子に関する法制は,血縁上の親子関係を基礎に置いて,嫡出子については出生により当然に,非嫡出子については認知を要件として,その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし,この関係にある親子について民法に定める親子,親族等の法律関係を認めるものである。ところで,現在では,生殖補助医療技術を用いた人工生殖は,自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず,およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており,死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ,上記法制は,少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは,明らかである。すなわち,死後懐胎子については,その父は懐胎前に死亡しているため,
- 親権に関しては,父が死後懐胎子の親権者になり得る余地はない。
- 扶養等に関しては,死後懐胎子が父から監護,養育,扶養を受けることはあり得ない。
- 相続に関しては,死後懐胎子は父の相続人になり得ない。
- 代襲相続は,代襲相続人において被代襲者が相続すべきであったその者の被相続人の遺産の相続にあずかる制度であることに照らすと,代襲原因が死亡の場合には,代襲相続人が被代襲者を相続し得る立場にある者でなければならないと解されるから,被代襲者である父を相続し得る立場にない死後懐胎子は,父との関係で代襲相続人にもなり得ない。
- このように,死後懐胎子と死亡した父との関係は,上記法制が定める法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ずる余地のないものである。そうすると,その両者の間の法律上の親子関係の形成に関する問題は,本来的には,死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理,生まれてくる子の福祉,親子関係や親族関係を形成されることになる関係者の意識,更にはこれらに関する社会一般の考え方等多角的な観点からの検討を行った上,親子関係を認めるか否か,認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず,そのような立法がない以上,死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認められないというべきである。
- 「父子関係」の存在がもたらす、法的効果を列挙している。項番1、2については「生前懐胎・死後出生子」についても当てはまるが、項番3、4については、相続人の地位が認められている。
- 民法の実親子に関する法制は,血縁上の親子関係を基礎に置いて,嫡出子については出生により当然に,非嫡出子については認知を要件として,その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし,この関係にある親子について民法に定める親子,親族等の法律関係を認めるものである。ところで,現在では,生殖補助医療技術を用いた人工生殖は,自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず,およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており,死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ,上記法制は,少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは,明らかである。すなわち,死後懐胎子については,その父は懐胎前に死亡しているため,
参考文献
編集- 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分)
- 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁
参考
編集明治民法において、本条には婚姻の取消しに関する以下の規定があった。趣旨は民法第748条に継承された。
- 婚姻ノ取消ハ其効力ヲ既往ニ及ホサス
- 婚姻ノ当時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知ラサリシ当事者カ婚姻ニ因リテ財産ヲ得タルトキハ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ其返還ヲ為スコトヲ要ス
- 婚姻ノ当時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知リタル当事者ハ婚姻ニ因リテ得タル利益ノ全部ヲ返還スルコトヲ要ス尚ホ相手方カ善意ナリシトキハ之ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス
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