1. 法学刑事法刑法コンメンタール刑法
  2. 法学コンメンタールコンメンタール刑法

条文

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(未遂減免)

第43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

解説

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本条は未遂犯の刑についての規定である。本条後段の、「自己の意思により犯罪を中止した」場合のことを中止未遂といい、この場合には刑の必要的減免が定められている。ここでいう自己の意思によりとは、犯罪をやろうと思えばでき、中止するような事情がないにもかかわらず自発的に中止することを言い、例えばパトカーが近付いてきたので中止して逃亡したような場合には、中止未遂ではない。これに対して、中止未遂以外の場合を障害未遂といい、この場合の刑の減軽は裁判所の裁量に委ねられている。

判例

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未遂罪の成立時期(実行の着手)・予備犯

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  1. 住居侵入、窃盗未遂(最高裁判決昭和23年4月17日)
    窃盗罪の着手
    被告人等は共謀の上馬鈴薯その他食料品を窃取しようと企てA方養蠶室に侵入し懐中電燈を利用して食料品等を物色中警察官等に發見せられてその目的を遂げなかつたというのであつて、被告人等は窃盗の目的で他人の屋内に侵入し財物を物色したというのであるからこのとき既に窃盗の着手があつたとみるのは當然である。
  2. 窃盗同未遂恐喝同未遂被告事件(名古屋高裁判決昭和24年12月3日)
    土蔵侵入行為と窃盗未遂
    一般に土蔵内には、窃取すべき財物のみがあつて他の犯罪の目的となるものがないのが通常であるから、土蔵に侵入する行為又は侵入しようとした行為は、窃盗に著手したものと解すべきである。
  3. 強盗殺人未遂、銃砲等保持禁止令違反(最高裁判決 昭和24年12月21日)日本国憲法第38条刑事訴訟法第319条
    強盗の予備をなしたものがその実行に着手した場合と強盗予備罪の成否
    強盗の予備をしたものかその実行に着手した以上それが未遂に終ると既遂になるとを問わずその予備行為は未遂または既遂の強盗罪に吸収されて独立して所罰の対象となるものではない。本件において、原審は既に強盗殺人未遂罪を認定所断したのであるから、もはや所論の予備行為は所罰の対象として独立して審判さるべきものではないのである。原判決の事実摘示は、独立した強盗予備罪を構成する罪となるべき事実を認定した意味ではなく単に被告人が本件犯行を為すに至るまでの経過を示しその犯情の一端を明らかにする目的を以て認定掲記したに過ぎない。従つて原審が該事実に対し刑法第237条を適用しなかつたのはむしろ当然であり原判決には所論のような違法はない。
  4. 殺人予備(最高裁決定昭和37年11月8日)刑法第201条
    殺人予備罪の共同正犯にあたるとされた事例。
    殺人の目的を有する者から、これに使用する毒物の入手を依頼され、その使途を認識しながら、右毒物を入手して依頼者に手交した者は、右毒物による殺人が予備に終つた場合に、殺人予備罪の共同正犯としての責任を負うものと解すべきである。
  5. 強姦致傷(最高裁決定 昭和45年7月28日)
    自動車により婦女を他所へ連行したうえ強姦した場合につき婦女を自動車内に引きずり込もうとした時点において強姦罪の実行の着手があるとされた事例
    被告人が、外一名と共謀のうえ、夜間一人で道路を通行中の婦女を強姦しようと企て、共犯者とともに、必死に抵抗する同女を被告人運転のダンプカーの運転席に引きずり込み、発進して同所から約5,800メートル離れた場所に至り、運転席内でこもごも同女を強姦した本件事実関係のもとにおいては、被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした時点において強姦罪の実行の着手があつたものと解するのが相当である。
    被害者を拘禁した現場と姦淫した現場が乖離し、移動の間に被害者が受傷した事案について、拘禁行為に姦淫行為の実行の着手を認め、結果的加重犯である強姦致傷を認めた事例。
  6. 殺人,詐欺被告事件(最高裁決定平成16年3月22日)刑法第38条
    被害者を失神させた上自動車ごと海中に転落させてでき死させようとした場合につき被害者を失神させる行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手があるとされた事例
    クロロホルムを吸引させて失神させた被害者を自動車ごと海中に転落させてでき死させようとした場合において,クロロホルムを吸引させて失神させる行為が自動車ごと海中に転落させる行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠であり,失神させることに成功すれば,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったなど判示の事実関係の下では,クロロホルムを吸引させる行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手があったと認められる。
    • 犯罪の実行行為自体ではなくとも,実行行為に密接であって,被害を生じさせる客観的な危険性が認められる行為に着手することによっても未遂罪は成立し得る。
  7. 詐欺未遂被告事件(最高裁判決平成30年3月22日)
    詐欺罪につき実行の着手があるとされた事例
    現金を被害者宅に移動させた上で,警察官を装った被告人に現金を交付させる計画の一環として述べられた嘘について,その嘘の内容が,現金を交付するか否かを被害者が判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであり,被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれ,被害者にその嘘を真実と誤信させることが,被害者において被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるといえるなどの本件事実関係の下においては,当該嘘を一連のものとして被害者に述べた段階で,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があったと認められる。

既遂時期

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  1. 強盗傷人、住居侵入(最高裁判決昭和23年6月12日)
    強盗傷人罪の成立
    強盗に着手した者がその実行行為中被害者に暴行を加へて傷害の結果を生ぜしめた以上財物の奪取未遂の場合でも強盗傷人罪の既遂をもつて論すべきである。
  2. 強盗(最高裁判決昭和24年6月14日)
    強盗の既遂時期
    強盜の目的で会社の事務所に押入り、居合わせた事務員全部を縛つて、そこに有つた洋服類を着込みその他の物は、荷造りをして持出すばかりにした以上は強盜の既遂を以て論ずべきである。
  3. 強盗、住居侵入(最高裁判決昭和24年12月3日)刑法第236条
    犯行現場での逮捕と強盜既遂罪の成立
    被告人等第在宅の家人五人全部を縛り上げ目隠をした後一時間に亘り家内の金品を取出し現金をポケツトに入れ衣類等或は行李、リツクサツクにつめ込み、或は風呂敷に包み、或は着込み又は懐中したときは金品を自己の実力支配内においたことは明らかであるから被告人等が右金品を戸外に持出す前現場で逮捕されたことは強盜既遂罪の成立に影響がない。

中止未遂

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  1. 強姦致死(最高裁判決  昭和24年07月09日)
    強姦の点が未遂に終つた強姦致死罪の擬律
    強姦致死罪は単一な刑法第181条の犯罪を構成するものであつて、強姦の点が未遂であるかどうか及びその未遂が中止未遂であるか障礙未遂であるかということは、単に情状の問題にすぎないのであつて、処断刑に変更を来たすべき性質のものではないから、本罪に対しては刑法第181条を適用すれば足り、未遂軽減に関する同法第43条本文又は但書を適用すべきものではない。
    驚愕によつて犯行を中止した場合と中止未遂
    犯罪の実行に着手した後、驚愕によつて犯行を中止した場合においても、その驚愕の原因となつた諸般の状況が、被告人の犯意の遂行を思い止まらしめる障碍の事情として客観性のあるものと認められるときは、障碍未遂であつて中止未遂ではない。
  2. 強姦致傷、不法監禁(最高裁判決 昭和24年07月12日)
    数名共謀による強姦致傷罪と共犯者の一人の犯行の中止
    甲が他の数名の者と同一帰女を強姦しようと共謀し、右数名の者が同女を強いて姦淫し、因つて同女に傷害の結果を与えたときは、甲が自己の意思により姦淫することを中止したとしても、甲は他の共犯者と同様強姦致傷罪の共同正犯の責を負い、中止未遂とはならない。
    「共犯と中止未遂」に関する判例
    複数で犯行に及び、途中で翻意して自らの意思で犯罪行為を中止したとしても、共犯による犯罪行為が継続していれば、中止未遂とは評価されない(そもそも未遂でもない)。共犯者に働きかけ犯罪行為を中止させる行為をもって、中止未遂と評価できる。
  3. 窃盗未遂(最高裁判決昭和24年12月8日)
    窃盜の障害未遂に該る一場合と審理不尽の有無
    原判決は「全家不在に乘じて同家六畳間の箪笥の抽出等から同人所有の衣類等を窃取しようとしていた際偶々家人が外出先から帰ってきたためその目的を遂げなかつたものである」旨を判示している。それ故、本件の未遂は、外界の事情に刺激されることなしに犯人が内心的原因により全く任意に中止したものではなく「全家不在に乗じて」窃盜の実行に着手していた際「たまたま家人が外出先から帰って来た」と言う外界に生起した客観的原因により未遂に終つたものであることは、原判決において明らかに判示されている。従つて、本件を障害未遂と認定した原判決は、相当であつて所論の審理不尽の違法を認めることはできない。

不能犯

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  1. 殺人未遂、放火(最高裁判決昭和24年1月20日)旧・刑事訴訟法第360条(現刑事訴訟法第335条に相当)
    1. 青酸加里を入れて炊いたため黄色を呈し臭気を放つている米飯は何人もこれを食べることは絶対にないという実験則の有無
      青酸加里を入れて炊いた本件米飯が黄色を呈し臭気を放つているからといつて何人もこれを食べることは絶対にないと断定することは実験則上これを肯認し得ない。
    2. 殺人罪に関する不能犯の主張と旧刑訴法第360条第2項にいわゆる「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スヘキ原由タル事実上ノ主張」
      かかる不能犯の主張は行為と結果との因果関係を不能なりとするものであるから行為の外結果の発生を犯罪の積極的構成要件とする本件殺人罪においては結局罪となるべき事実を否定する主張に帰着する。されば旧刑訴法第360条第2項にいわゆる「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」換言すれば、犯罪構成要件以外の事実であつてその事実あるがため法律上犯罪不成立に帰すべき原由たる事実上の主張に該当しない。
  2. 強盗、殺人未遂(最高裁判決昭和23年9月18日)
    殺人未遂罪と不能犯
    刑法第43条にいわゆる「犯罪の実行に着手し之を遂げざるもの」とは、その行為を以て犯人の予見する結果を惹起することができる実行行為に着手し、その犯罪を遂げなかつた場合を意味し、その実行行為を以ては絶対に犯人の予見する結果を惹起することができない場合には、同条の未遂罪を以て論ずることができないことは所論の通りであるが、原判決の認定するところによれば、被告人等は共謀して自動車運転手を殺害して自動車を強奪しようと企て、所携のバンドを自動車運転手Aの頸部に掛けて締め付けたが、偶々該バンドが切れた為めに殺害の目的を遂げなかつたと云うのであり、しかして右バンドが紙製擬革品であつても、右の方法を以つてすれば絶対に人を殺害することができないものではなく、殺害の結果を惹起する危険は十分あつたのであるが、偶々、右バンドが切れたために殺害の目的を遂げることができなかつたと云うに過ぎない。また、犯罪の時刻及び場所が殺人を行うに不適当であつたからと云つて、殺害の結果が発生しないと云うことができないことも自明のことである。したがつて本件殺人未遂の点は、所論のように、いわゆる不能犯にはあたらない。
  3. 覚せい剤取締法違反(最高裁決定昭和35年10月18日)
    覚せい剤製造未遂犯の成立する事例。
    いやしくも覚せい剤の製造を企て、それに用いた方法が科学的根拠を有し、当該薬品を使用し、当該工程を実施すれば本来覚せい剤の製造が可能であるが、ただその工程中において触媒として使用せる或る種の薬品の量が必要量以下であつたため、成品を得るに至らず、もしこれを二倍量ないし三倍量用うれば覚せい剤の製造が可能であつたと認められる場合には被告人の所為は覚せい剤製造未遂犯をもつて論ずべく、不能犯と解すべきではない。
  4. 爆発物取締罰則違反被告事件(東京高裁判決昭和49年10月24日)
    爆発物取締罰則1条の爆発物の「使用」に当たらないとされた事例
    導火線を工業雷管に接続するために用いた接着剤が導火線の心薬である黒色火薬に浸透したため、点火しても燃焼が中断し工業雷管を起爆させることのできない本件ピースかん爆弾の導火線に点火して投てきした行為は、爆発物取締罰則1条にいう爆発物の「使用」に当たらない。
    • 「不能犯」である。

前条:
刑法第42条
(自首等)
刑法
第1編 総則
第8章 未遂罪
次条:
刑法第44条
(未遂罪)
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