失火ノ責任ニ関スル法律

条文

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民法第709条の規定は失火の場合には之を適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときは此の限に在らず

解説

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民法第709条の特別法、略称「失火責任法」。失火の場合、通常の過失のみでは不法行為責任を問いえず、故意を含んだ重過失の場合に不法行為となることを定める。不法行為事案については、被害者救済の観点から、特定の事案に関して主観的要素を特別法で緩める事例(無過失責任の傾向となる)が多いが、本法は、例外的に主観的要素を厳格にしている。
明治32年制定。立法理由は以下にあるとされている(平成元年3月28日最高裁判決伊藤正己裁判官意見より)
  1. 失火者は自己の財産をも焼失してしまうのが普通であるから、各人がそれぞれ注意を怠らないことが通常であり、過失につき宥恕すべき場合が少なくないこと
  2. 日本の家屋はおおむね木造であるから、市街地などで火を失したときは類焼によつて莫大な損害を生じるので、すべての損害を失火者に負担させるのは余りにも酷であること
  3. 失火者に対して民事責任を問わない法慣習があつたこと
 
不法行為についてのみ適用され、債務不履行責任については適用されない。例えば、借家人が、借家を失火で焼失し、隣家にも延焼した場合、延焼部分に関しては本法により免責されるが、借家に関する原状回復義務の不履行には適用されないので過失ある限り債務不履行による損害を賠償しなければならない。

参照条文

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判例

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  1. 損害賠償請求(最高裁判所判決昭和30年3月25日)民法第415条
    債務不履行による損害賠償と「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用の有無
    債務不履行による損害賠償については「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用はない。
    • 「失火ノ責任ニ関スル法律」は「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス……」と規定するところであつて、債務不履行による損害賠償請求の本件に適用のないことは明らかである。
  2. 損害賠償請求(最高裁判所判決昭和32年7月9日)
    「失火ノ責任ニ関スル法律」但書にいわゆる「重大ナル過失」の意義
    明治32年法律第40号「失火ノ責任ニ関スル法律」但書の規定する「重大ナル過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである。
  3. 損害賠償、同付帯控訴請求(最高裁判所判決昭和41年6月3日)民法第709条
    失火者に重大な過失があつたものと認められた事例
    ストーブおよびその煙突に腐蝕ないし接合不良の箇所があり、過去2年間に3回も小火を出したことがあつて、消防署や隣人から注意を受けていたが、僅かに消火器を備えていた程度で、ストーブから約30㎝の距離の場所に依然として木綿や毛糸のボロ屑を山積しており、出火当日も、午後7時半頃ストーブの残り火があつたのに、その後見廻りもしなかつた等の事情のもとにおいては、右ストーブよりの失火は、重大な過失によるものと認めるのが相当である。
  4. 損害賠償請求(最高裁判所判決昭和42年6月30日)民法第715条民法第442条民法第719条
    「失火ノ責任ニ関スル法律」と民法第715条
    被用者が重大な過失によつて火を失したときは、使用者は、被用者の選任または監督について重大な過失がなくても、民法第715条第1項によつて賠償責任を負う。
    • 「失火ノ責任ニ関スル法律」は、失火者その者の責任条件を規定したものであつて、失火者を使用していた使用者の帰責条件を規定したものではないから、失火者に重大な過失があり、これを使用する者に選任監督について不注意があれば、使用者は民法715条により賠償責任を負うものと解すべきであつて、所論のように、選任監督について重大な過失ある場合にのみ使用者は責任を負うものと解すべきではない(大正2年2月5日大審院判決・民録19輯57頁参照)。
  5. 損害賠償(最高裁判所判決昭和53年7月17日)国家賠償法第1条第1項,国家賠償法第4条
    公権力の行使にあたる公務員の失火と「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用
    公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については、失火の責任に関する法律が適用される。
    • 国又は公共団体の損害賠償の責任について、国家賠償法4条は、同法1条1項の規定が適用される場合においても、民法の規定が補充的に適用されることを明らかにしているところ、失火責任法は、失火者の責任条件について民法709条の特則を規定したものであるから、国家賠償法4条の「民法」に含まれると解するのが相当である。また、失火責任法の趣旨にかんがみても、公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任についてのみ同法の適用を排除すべき合理的理由も存しない。したがつて、公権力の行使にあたる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任については、国家賠償法4条により失火責任法が適用され、当該公務員に重大な過失のあることを必要とするものといわなければならない。
  6. 損害賠償請求(最高裁判所判決平成元年3月28日)国家賠償法第1条第1項,国家賠償法第4条
    消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃して火災が発生した場合と「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用の有無
    消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃して火災が発生した場合における公共団体の損害賠償責任については、「失火ノ責任ニ関スル法律」の適用がある。
    • 公権力の行使に当たる公務員のうち消防署職員の消火活動上の失火による公共団体の損害賠償責任について同法の適用を排除すべきものとする十分な理由を見いだし難い(昭和53年7月17日判例を踏襲)。
      伊藤正己裁判官による意見
      • 消防署職員であつてもその宿直の際に火を失し火災を発生させたような場合については失火責任法が適用されると考えるが、火災の消火活動に出動した消防署職員の消火活動が不十分なため残り火が再燃して火災が発生したような場合には、失火責任法にいう「失火」には当たらず、同法の適用はないと解するのが相当。
      • 消防署職員は消防の専門家で、既に出火があつた場合に、専門家としての知識、経験、技能等を駆使して消火活動に当たることを職務上要求されているものであるから、その消火活動が不十分なため残り火が再燃して火災が発生したような場合は、文理上「失火」という概念に当たるということに無理があるのみならず、失火責任法の立法趣旨として挙げられる前記のような点を考慮して、地方公共団体の損害賠償責任を軽減すべき実質的な理由もない。
  7. 損害賠償(最高裁判所判決平成7年1月24日)民法第714条
    責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合における監督義務者の損害賠償責任と失火の責任に関する法律
    責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合において、失火の責任に関する法律にいう重大な過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、右監督義務者は、その監督について重大な過失がなかったときは、右火災により生じた損害を賠償する責任を免れると解すべきである。
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