民法第821条
条文
編集(子の人格の尊重等)
- 第821条
- 親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。
改正経緯
編集2022年改正
編集- 2022年改正(2022年12月16日施行)により、第822条に定められていた以下の懲戒権に関する規定を削除、第821条に定められていた「居所の指定」に関する条項を第822条に繰り下げ、本条に子の監護及び教育における親権者の行為規範として、子の人格の尊重等の義務及び体罰などの子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動の禁止を明記した現行条項を設けた。
- (懲戒)
2011年改正
編集2011年改正により、以下の条項から改正。本条は明治民法の規定(旧・第882条)を戦後の民法改正においてもそのまま引き継いだものであったが、第1項の「懲戒場」に該当する施設は存在しなかったため、第1項後段及び第2項は実効性に乏しかった。そのため、平成23年の改正で懲戒場に関する部分は削除された。
解説
編集- 親権の行使にあたって、親権者がこの人格を尊重し、成長に応じた配慮を行うべきとする旨を定める。
子への懲戒
編集- 明治民法以来、親権者は子の非行に対する教育のために、子を戒めることができる、すなわち、懲戒権を有するものとされていた。
- その手段としては、子の身体・精神に苦痛を加えるような行為を加えることであり、戦前においては軽度の打擲や監禁程度のもの、いわゆる「体罰」が容認されており、親子間といえども暴力を容認できなくなった戦後においては、叱責、子のものを取り上げる・毀損する、外出や外部との連絡の禁止するなどが想定されるものであった。もっとも、懲戒は子の利益(第820条)のため、ひいては教育の目的を達成するためのものであるから、その目的のために必要な範囲内でのみ認められるものであり、当該目的ではなく、親権者の恣意により行われた場合は、そもそも懲戒ではなく児童虐待と判断されることもあり、暴行罪、逮捕監禁罪などの犯罪の違法性を阻却しないと考えられていた。
- また、懲戒に相当する原因があったとしても、過度の懲戒を加えたときは、懲戒権の濫用となり、外傷など身体の完全性を損なうものであれば、当然、傷害罪又は過失傷害罪[1]が成立するし、長時間施錠した部屋に監禁するなどの懲戒は犯罪を構成するものとされた。
- なお、児童虐待の防止等に関する法律第14条(親権の行使に関する配慮等)は、以下のとおり定められており、体罰及び過度の懲戒行為の禁止を謳っていた[2]。
- 児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、体罰を加えることその他民法(明治二十九年法律第八十九号)第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為により当該児童を懲戒してはならず、当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。
- 児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない。
- そもそも、親権者は子に対して相当に優越的な地位にあって、その上に懲戒を権利として認めると過度にこれが行使される危惧があり、「懲戒権」概念を放棄すべきとの機運が高まり[3]、2022年改正においてそれが実現された。
参照条文
編集参考
編集明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第774条に継承された。
- 第八百二十条ノ場合ニ於テ夫ハ子ノ嫡出ナルコトヲ否認スルコトヲ得
脚注
編集- ^ 「傷害」が発生しないように十分な注意を持って懲戒したことが証される場合。
- ^ 本条項改正に合わせ、第1項は「児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、児童の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の児童の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」と改正された。
- ^ 読売新聞『体罰・虐待を正当化する口実に…子への民法「懲戒権」見直しへ』(2022/01/05 13:00)
|
|