会社法第108条
(種類株式 から転送)
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条文
編集(異なる種類の株式)
- 第108条
- 株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、委員会設置会社及び公開会社は、第9号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
- 剰余金の配当
- 残余財産の分配
- 株主総会において議決権を行使することができる事項
- 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
- 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
- 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
- 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。
- 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第478条第8項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
- 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第9号及び第112条第1項において同じ。)又は監査役を選任すること。
- 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
- 剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
- 残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
- 主総会において議決権を行使することができる事項
- 次に掲げる事項
- イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
- ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
- 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること
- 当該種類の株式についての前条第2項第1号に定める事項
- 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること
- 次に掲げる事項
- イ 当該種類の株式についての前条第2項第2号に定める事項
- ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
- 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること
- 次に掲げる事項
- イ 当該種類の株式についての前条第2項第3号に定める事項
- ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
- 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること
- 次に掲げる事項
- イ 第171条第1項第1号に規定する取得対価の価額の決定の方法
- ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
- 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
- 次に掲げる事項
- イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
- ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
- 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること
- 次に掲げる事項
- イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
- ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
- ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
- ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項
- 前項の規定にかかわらず、同項各号に定める事項(剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項に限る。)の全部又は一部については、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定める旨を定款で定めることができる。この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならない。
改正経緯
編集- 2014年改正にて、監査等委員会設置会社制度の導入等の反映。
解説
編集- 会社は、定款に定めることにより、以下の事項について取り扱いを異にする株式を発行することができる。これらを、種類株式という。なお、権利内容に限定のない標準的な株式を普通株式(普通株;common stock)という。これらの種類株式は単独にその事項についてのみ、普通株式と差異をつけるのみではなく、例えば、「剰余金配当については優先株式となるが残余財産の配当については劣後する」「剰余金配当については劣後株式となるが、5年経過後には、1株について1株の普通株式と引き換えに会社が取得する」などのように複数の事項を組み合わせて発行されることも少なくない。
- 剰余金の配当について異なる株式
- 剰余金配当に関して普通株式と異なる配分を定めた株式。「優先株式Aに関しては、普通株式に対する配当に先立って、1株につきxx円を配当する。」「後配株式Bに関しては、普通株式に対する配当完了後、残余の剰余金を原資として、普通株式への配当を超えない範囲で配当する」などの文言で規定される。
- 会社法制定以前から存在する種類株式であり、以下の例がある。
- 優先株式;普通株式の配当金額に優越する金額の配当がなされる。普通株式が無配であっても配当がなされる場合がある。優先株式が発行される多くの場合は、会社経営が思わしくなく、増資をしても既存の株主(普通株式)と同じ条件では資金募集が困難である場合である。
- 優先株式に対する配当も、剰余金の範囲でなされる(当然、普通株式への配当はない)。ある事業年度に、優先株式に配当する原資が不足し既定の優先配当がなされなかった場合、その不足分についてよく事業年度に繰り越すものを累積的優先株式、当該事業年度で打ち切るものを非累積的優先株式という。また、優先株式への配当後、剰余金の残額から普通株式に対し配当がなされたときに、普通株式とともに剰余金配当に参加するものを参加的優先株式、参加しないものを非参加的優先株式といい、一般には参加型優先株式である。
- 劣後株式(後配株式);普通株式より少額の配当がなされる。普通株式が無配のときは配当がなされることはない。会社は積極的な事業展開をしていて、投資資金調達のために増資を試みる場合、既存の株主は株式の希薄化を受け入れなければならないが、既存株主の不満を解消するために劣後株式を発行することがある。
- トラッキングストック;会社全体の業績ではなく、会社のある事業部門の業績に連動して、普通株式の剰余金配当に先立って配当計算がなされ(したがって優先株式の一種と言える)、剰余金の配当が増減する株式。特に、会社が持株会社である場合、子会社の業績に連動するものを子会社連動株式という。
- トラッキングストックは、事業部門・子会社の業績に連動するため非累積的であり、また、会社全体の剰余金配当と切り離すため非参加型の優先株式となる。
- 優先株式;普通株式の配当金額に優越する金額の配当がなされる。普通株式が無配であっても配当がなされる場合がある。優先株式が発行される多くの場合は、会社経営が思わしくなく、増資をしても既存の株主(普通株式)と同じ条件では資金募集が困難である場合である。
- 残余財産の分配について異なる株式
- 株式会社が事業を終了し解散する際において、全負債清算後の残余財産の分配について優劣を定める。
- 議決権制限株式
- 譲渡制限株式
- 取得請求権付株式
- 取得条項付株式
- 全部取得条項付種類株式
- 拒否権付株式
- 取締役監査役選任条項付株式
概観図
編集株式の種類 | 概要 | 定款に規定する事項 | 備考・その他規定事項等 |
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剰余金の配当について異なる株式 | 普通株式と剰余金の配当方法に異なる条件をつけた株式 | 配当財産の価額の決定の方法 剰余金の配当をする条件 その他剰余金の配当に関する取扱いの内容 |
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残余財産の分配について異なる株式 | 会社清算において、残余財産の配当につき普通株式と異なる条件をつけた株式 | 交付する残余財産の価額の決定の方法 当該残余財産の種類 その他残余財産の分配に関する取扱いの内容 |
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議決権制限株式 | 役員選任決議には参加できないなど、株主総会において議決権を行使することができる事項に異なる条件をつけた株式 | 株主総会において議決権を行使することができる事項 議決権の行使の条件を定めるときは、その条件 |
議決権制限株式が発行済株式の総数の2分の1を超えるに至ったときは、株式会社は、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならない。(第115条) |
譲渡制限株式 | 譲渡にあたって会社の承認を要する株式 | 第107条第2項第1号に定める事項 | 既存の種類株式に、「譲渡制限」をつける場合は、当該種類株式の種類株式総会における特殊決議を要する(第111条、第324条第3項)。 |
取得請求権付株式 | 無条件に、既定の対価と引き換えに、会社に対して株式の取得(会社による買取等)を請求する権利を付与された株式 | 第107条第2項第2号に定める事項 当該種類株式一株を取得するのと引換えに株主に対して会社の他の株式を交付するときは、他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法 |
既存の種類株式を「取得請求」時の対価とする場合は、対価となる種類株式の種類株式総会における同意決議を要する(第111条、種類株主総会の普通決議で足りる)。 |
取得条項付株式 | ある条件を停止条件として、既定の対価と引き換えに、会社に株式の取得(会社による買取等)をする権利を付与された株式 | 第107条第2項第3号に定める事項 当該種類株式一株を取得するのと引換えに株主に対して会社の他の株式を交付するときは、他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法 |
以下の場合の定款変更には、当該種類株主総会において種類株主全員の同意を必要とする。(第111条第1項) ・既存の種類株式に、「取得条項」をつける場合。 ・取得条項付株式の内容を変更又は廃止する場合 既存の種類株式を条件成就時の対価とする場合は、対価となる種類株式の種類株式総会における同意決議を要する(第111条、種類株主総会の普通決議で足りる)。 |
全部取得条項付種類株式 | 株主総会の決議により、既定の対価と引き換えに、会社に株式の取得(会社による買取等)をする権利を付与された株式 | 第171条第1項第1号に規定する取得対価の価額の決定の方法 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件 |
既存の種類株式に、「全部取得条項」をつける場合は、当該種類株式の種類株式総会における特別決議を要する(第111条、第324条第2項)。 |
拒否権付株式 | 特定の株主総会決議事項に関して、当該種類株主総会の合意がなければ成立しない権利(議案に対する拒否権)が与えられた株式 | 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件 |
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取締役監査役選任条項付株式 | 当該種類株主の種類株主総会において、一般の株主総会から選出されるものとは別に、取締役又は監査役を選出することができる株式 | 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数 選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数 上記事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後の事項 その他会社法施行規則第19条で定める事項 (社外取締役。社外監査役の選任に関する事項) |
委員会設置会社及び公開会社は発行することができない。 適用することにより、定款等に規定された取締役・監査役の員数を欠くことになる場合は廃止されたものとみなされる(第112条 解説) |
関連条文
編集- 第1項
- 会社法第478条(清算人の就任)
- 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第14条(株主総会に関する特則)
- 第2項
- 会社法第171条(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)
- 会社法第324条(種類株主総会の決議)
参照条文
編集- 会社法第118条(新株予約権買取請求)
- 会社法第915条(変更の登記)
- 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第14条(株主総会に関する特則)
- 商業登記法第59条(取得条項付株式等の取得と引換えにする株式の交付による変更の登記)
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