会社法第155条
条文
編集(総則)
- 第155条
- 株式会社は、次に掲げる場合に限り、当該株式会社の株式を取得することができる。
- 第107条第2項第3号イの事由が生じた場合
- 第138条第1号ハ又は第2号ハの請求があった場合
- 次条第1項の決議があった場合
- 第166条第1項の規定による請求があった場合
- 第171条第1項の決議があった場合
- 第176条第1項の規定による請求をした場合
- 第192条第1項の規定による請求があった場合
- 第197条第3項各号に掲げる事項を定めた場合
- 第234条第4項各号(第235条第2項において準用する場合を含む。)に掲げる事項を定めた場合
- 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社が有する当該株式会社の株式を取得する場合
- 合併後消滅する会社から当該株式会社の株式を承継する場合
- 吸収分割をする会社から当該株式会社の株式を承継する場合
- 前各号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合
解説
編集- 株式会社が、自らの株式を、自己の資産として購入することを「自己株式」の取得という。
- 株式会社法制においては、国際的に共通して「自己株式の取得」については、厳しく制限され、日本においても会社法制定前の商法においては、一定の場合を除き、原則禁止であった(旧・商法第210条)。
- 「自己株式の取得」が禁じられた理由は、主に以下のものである。
- 「資本維持の原則」の観点から、自己株式の取得は、株式の払い戻しと同様の効果をもたらし、会社の財産状態によっては資本維持の原則に反する。
- 自己株式の取得を認めると相場操縦や内部者取引に利用されやすい。
- 経営陣が、「会社の資金」を使って自分たちの地位を不当に守るなど、株主総会の決議を要する重要な経営の決定を操作するおそれがある。
- 自己株式の取得は、その株式の流通性が高くない場合、あるいはその対価の決め方によっては、会社が一部の株主にのみ株式譲渡の機会を与えるなど、「株主平等の原則」に反するおそれがある。
- しかし、証券市場が発達するにつれ、自己資本(払込資本金及び剰余金+利益から生じた剰余金・いわゆる内部留保)も、会社経営の資金源の一部に過ぎず、柔軟性な会社の資金政策の一環として「自己株式の取得」も有効な手段であるとの認識が国際的に広まり、「資本維持の原則」が「授権資本制度」によって、資本の増大(増資、会社への資金の流入)の方向で破られたのに呼応して、資本の減少(減資、会社から資金の放出。「配当」も同じ機能を持つ)の方向でも柔軟性を確保したいとの要請が経済界からもあがり、会社法制定時に、株主総会決議により内部留保(繰越を含む配当可能利益)の範囲で定める数量に限定し「自己株式の取得」の範囲が広がった(本条第1項第3号に定める次条第1項の決議があった場合)。会社は、法で認められた手続き(第461条に定められる財源規制を含む)に従い「自己株式」を取得することができ、それを消却せず保有して(会社法制定以前は商法においては、取得理由に応じ、即時の消却又は遅滞なく処分(売却)することが求められた)、必要に応じて、これを処分(売却)することができるため、このように、取得した自己株式を「金庫株」ともいう。
自己株式の取得が認められる場合
編集- 第107条(株式の内容についての特別の定め)第2項第3号イの事由が生じた場合
- 設立時定款に、一定の条件成就時に自己株式を買い取ることができる旨の規定を置いて、その条件が成就した時。
- 第138条(譲渡等承認請求の方法)第1号ハ又は第2号ハの請求があった場合
- 譲渡制限株式に関して、会社が株主の譲渡等承認請求を拒否し、それに対して株主が会社に買取を求めた時。
- 第156条(株式の取得に関する事項の決定)第1項の決議があった場合
- 株主総会による自己株式取得の授権のある場合。
- →第2款 株主との合意による取得
- 第166条(取得の請求)第1項の規定による請求があった場合
- 取得請求権付株式に関して、それを有する株主から取得することの請求がなされた時。
- →第3款 取得請求権付株式及び取得条項付株式の取得
- 第171条(全部取得条項付種類株式の取得に関する決定)第1項の決議があった場合
- 全部取得条項付種類株式に関して、株主総会で全部を取得する旨、決議された時。
- →第4款 全部取得条項付種類株式の取得
- 第176条(【相続人等に対する】売渡しの請求)第1項の規定による請求をした場合
- 相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、会社が売渡しを請求する場合。
- →第5款 相続人等に対する売渡しの請求
- 第192条(単元未満株式の買取りの請求)第1項の規定による請求があった場合
- 単元未満株式について、株主より買取請求がなされた時。
- 第197条(【所在不明株主保有の】株式の競売)第3項各号に掲げる事項を定めた場合
- 所在不明株主の株式を処分換金する場合。
- 第234条(一に満たない端数の処理)第4項各号(第235条第2項において準用する場合を含む。)に掲げる事項を定めた場合
- 株式分割等で生じた株式の端数分を買い取る時。
- 他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部を譲り受ける場合において当該他の会社が有する当該株式会社の株式を取得する場合
- 合併後消滅する会社から当該株式会社の株式を承継する場合
- 吸収分割をする会社から当該株式会社の株式を承継する場合
- 前各号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合
- 会社法施行規則第27条
関連条文
編集- 会社法施行規則第27条(自己の株式を取得することができる場合)
- 法第155条第13号に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
- 当該株式会社の株式を無償で取得する場合
- 当該株式会社が有する他の法人等の株式(持分その他これに準ずるものを含む。以下この条において同じ。)につき当該他の法人等が行う剰余金の配当又は残余財産の分配(これらに相当する行為を含む。)により当該株式会社の株式の交付を受ける場合
- 当該株式会社が有する他の法人等の株式につき当該他の法人等が行う次に掲げる行為に際して当該株式と引換えに当該株式会社の株式の交付を受ける場合
- イ 組織の変更
- ロ 合併
- ハ 株式交換(法以外の法令(外国の法令を含む。)に基づく株式交換に相当する行為を含む。)
- ニ 取得条項付株式(これに相当する株式を含む。)の取得
- ホ 全部取得条項付種類株式(これに相当する株式を含む。)の取得
- 当該株式会社が有する他の法人等の新株予約権等を当該他の法人等が当該新株予約権等の定めに基づき取得することと引換えに当該株式会社の株式の交付をする場合において、当該株式会社の株式の交付を受けるとき。
- 当該株式会社が法第116条第5項、第182条の4第4項、第469条第5項、第785条第5項、第797条第5項、第806条第5項又は第816条の6第5項(これらの規定を株式会社について他の法令において準用する場合を含む。)に規定する株式買取請求に応じて当該株式会社の株式を取得する場合
- 合併後消滅する法人等(会社を除く。)から当該株式会社の株式を承継する場合
- 他の法人等(会社及び外国会社を除く。)の事業の全部を譲り受ける場合において、当該他の法人等の有する当該株式会社の株式を譲り受けるとき。
- その権利の実行に当たり目的を達成するために当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合(前各号に掲げる場合を除く。)
- 法第155条第13号に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
判例
編集- 取締役の責任追及(最高裁判決 平成5年09月09日)商法(昭和56年法第律第74号による改正前のもの)210条(現・本条),商法第254条3項(現・会社法第330条),商法第266条1項5号(現・会社法第423条),民法第415条,民法第644条
- 会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することと商法210条
- 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することは、商法210条にいう自己株式の取得に当たる。
- 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式の売買により損失を被った場合と乙会社に生じる損害
- 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の指示により同社の株式を売買して買入価格と売渡価格の差額に相当する損失を被った場合、乙会社の取締役は、特段の事情のない限り、その全額を乙会社に生じた損害として、賠償の責めに任ずる。
- 会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することと商法210条
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