条文

編集

削除

(尊属殺人)

第200条
自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス

解説

編集
 
Wikipedia
ウィキペディア尊属殺#日本における尊属殺の記事があります。
 
Wikipedia
ウィキペディア尊属殺重罰規定違憲判決の記事があります。
直系尊属の殺害に関する処罰規定。
法定刑は、死刑または無期懲役のみが定められ、事情を鑑み、法律上の必要的減軽(第39条第2項)と酌量減軽(第66条)を重ねて適用(第67条第68条)しても、法定刑は3年の有期懲役を下り得ず執行猶予がつけられないため(第25条)、実刑となるのみであった。
1968年(昭和43年)に発生した実父殺害事件に対する昭和48年4月4日最高裁判決において、①尊属殺人罪を通常の殺人罪と別類型のものとし、法定刑を加重すること自体は違憲とは言えないが、②刑罰の加重の程度が正当化できない程度のものである場合は違憲であって、無効とされる、と判断された。したがって、同様に被害者が尊属であるときの加重を定めた尊属傷害致死罪(当時:第205条第2項)については、本判決以降に最高裁判所は合憲と判断している(昭和49年9月26日最高裁判決 なお、当時の刑法には、これらの他、第218条第2項に尊属遺棄、第220条第2項に尊属逮捕監禁と尊属加害加重規定があった)。この態度については、法曹界や学界において、親子関係は「社会的身分」の一つであって、子の親殺し等を普通の殺人と区別して、重い刑罰を課すること自体の合理性が問われるべき性質のものであり、それを別異取り扱いの程度の問題に帰着させるのは問題のすり替えであり、矮小化であるとの批判が強かった。
昭和48年4月4日最高裁判決以降、尊属殺人に関する本条は死文化され適用されることがなくなり、1995年(平成7年)に刑法現代語化改正の機会に削除されたが、同時に、尊属傷害致死罪・尊属遺棄罪・尊属逮捕監禁罪の規定も削除されている。

参照条文

編集

判例

編集

合憲旧判例(参考)

編集
  1. 尊属傷害致死(最高裁判決昭和25年10月11日)
    1. 刑法第205条第2項の尊属傷害致死の規定は憲法第14条に違反するか
      刑法第205条第2項の規定は、新憲法実施後の今日においても、厳としてその効力を存続するものというべく、従つて本件において原審が被告人の尊属致死の所為を認定しながら、これに同法条の適用を拒定し、一般傷害致死に関する同法第205条第1項を擬律処断したことは、憲法第14条第1項の解釈を誤り、当然に適用すべき刑事法条を適用しなかつた違法があることに帰し本件上告はその理由があるのである。
    2. 憲法第14条にいわゆる「法の下における平等」の意義と刑法における尊属殺人等の規定
      おもうに憲法第14条が法の下における国民平等の原則を宣明し、すべて国民が人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会関係上差別的な取扱を受けない旨を規定したのは、人格の価値がすべての人間について同等であり、従つて人種、宗教、男女の性職業、社会的身分等の差異にもとずいて、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならぬという大原則を示したものに外ならない。奴隷制や貴族等の特権が認められず、又新民法において妻の無能力制、戸主の特権的地位が廃止せられたごときは畢竟するにこの原則に基くものである。しかしながら、このことは法が、国民の基本的平等の原則の範囲内において、各人の年齢、自然的素質、職業、人と人との間の特別の関係等の各事情を考慮して、道徳正義、合目的性等の要請より適当な具体的規定をすることを妨げるものではない。刑法において尊属親に対する殺人、傷害致死等が一般の場合に比して重く罰せられているのは、法が子の親に対する道徳的義務をとくに重要視したものであり、これ道徳の要請にもとずく法にある具体的規定に外ならないのである。
  2. 尊属殺人(最高裁判決昭和25年10月25日)
    尊属殺人の規定(刑法第200条)の合憲性(第14条)
    刑法第200条は、憲法第14条に違反するものでないことは、当裁判所が昭和25年あ第292号事件について、同年10月11日言渡した大法廷判決の趣旨に徴して、明らかである

違憲判例等

編集
  1. 尊属殺人(尊属殺法定刑違憲事件 最高裁判決 昭和48年4月4日 刑集第27巻3号265頁) 憲法第14条刑法199条
    刑法200条と憲法14条1項
    刑法200条は憲法14条1項に違反する。
    • 尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもつてただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法14条1項に違反するということもできない。
    • しかしながら、刑罰加重の程度いかんによつては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない。すなわち、加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない。
      cf.罪刑の均衡:憲法第36条【拷問・残虐刑の禁止】
  2. 尊属傷害致死(最高裁判決 昭和49年9月26日) 刑法199条刑法205条第2項
    刑法205条2項と憲法14条1項
    尊属傷害致死に関する刑法205条2項の規定は、憲法14条1項に違反しない。
    • 尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義であつて、このような普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するから、尊属に対する傷害致死を通常の傷害致死よりも重く処罰する規定を設けたとしても、かかる差別的取扱いをもつて、直ちに合理的根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法14条1項に違反するということもできないことは当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかである。
    • 尊属傷害致死罪に対する刑罰加重の程度によつては、その差別的取扱いの合理性を欠き、憲法14条1項に違反するものといわなければならないことも、前記判例の趣旨とするところであるが、尊属傷害致死に関する刑法205条2項の定める法定刑は、合理的根拠に基づく差別的取扱いの域を出ないものであつて、憲法14条1項に違反するものとはいえない。

前条:
刑法第199条
(殺人)
刑法
第2編 罪
第26章 殺人の罪
次条:
刑法第201条
(予備)