民法第399条
条文
編集(債権の目的)
- 第399条
- 債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。
解説
編集債権の目的の有効要件について、一般的な取引行為以外の約束についてこれを含めるものとした。
債権の目的
編集債権の目的というタイトルのついた条文は本条だけであるが、債権の目的の一般的要件としてはむしろ通常は以下の三つ(正確には四つ)が挙げられる。
- 適法性(民法第91条)・社会的妥当性(民法第90条類推)
- 実現可能性(契約時に目的物が存在する等、物理的ないし常識的に履行可能であること。条文無し)
- 確定可能性(内容がある程度具体的に特定できること。条文無し)
債権の発生により[1]国家による法的な拘束力が付加される[2]ものであることの論理的帰結であるとされる。すなわち、不可能なことは義務付けられないという法原則[3]による。しかし、たとえ本来の債務そのものが元々履行不可能なものであったとしてもこれを有効であると信じて費やした信頼利益については債務不履行によって生じた損害として賠償の対象になりうる(民法第415条)ためその限りでは債権の有効性とその効力は認められるし、医療行為などは患者の状態によってその履行内容は臨機応変に変わりうる。したがってこれらの根拠条文の無いこれら二つの原則は必ずしも厳密なものではない。
以上の三つはいずれも債権に固有のものというわけではなく、民法総則における法律行為の部分で論じられる問題(法律行為の有効要件ー客観的要件)と同一である。本条はその有効要件として債権特有のものを追加したものということである。
金銭に見積もることができないものとは
編集一般的に金銭に換算することのできない債権をいう。一般社会において取引の対象とならないような、当事者個人にとってのみ特別な価値を持つものであっても債権の対象となる。
- Aは、葬儀業者Bに対し、親Cの肉体を火葬する前に遺髪の一部を保管し引き渡すよう依頼しBは了承した。
- Aは、親Bの尊敬する僧侶Cに法事で読経をするよう依頼しCは了承したが、実際に来たのは同じ寺に所属する別の僧侶Dであった。
もっとも現代の日本民法においては個人的な精神的苦痛(民法第710条)でさえも慰謝料によって金銭に換算することができる(民法第417条)。したがって、金銭に評価できない債権は事実上存在しないと考えることもでき、その意味で本条は確認的な規定であるとも言われる。
その目的とすることができるとは
編集債権の法的な拘束力を認め、不履行時には究極的には国家による強制執行による債務履行の実現をも可能とする。
保険法における例外規定
編集保険法第3条は、損害保険の対象については一般的に金銭的に評価しないものをその対象としないとしており、本条の例外規定と言える。
脚注
編集- ^ 債権の発生前においても契約締結段階の過失があれば債務者は債権者が契約は有効であると信じたために支出した費用(信頼利益)を払わなければならないという理論は、判例においても採用されてきている。もっとも、債権債務は有効に存在していないため法的構成としては信義則(民法第1条)か不法行為(民法第709条)による
- ^ 民法第414条・民法第415条・民法第417条・民法第703条・民法第704条・民法第709条・民法第710条・民事執行法等参照。但し自然債務については履行された時に無理に取り戻そうとする行為に対してしか国家が強制力をもって関与する(民法第709条、または物権的請求権)ことしかできない。
- ^ ドイツ法における通説に由来する。Impossibilium nulla obligatioという。
参照条文
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