民法第419条
条文編集
(金銭債務の特則)
- 第419条
- 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
- 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
- 第1項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
改正経緯編集
2017年改正により、第1項を以下のとおり改正。
- (改正前)法定利率によって
- (改正後)債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって
解説編集
本条は、金銭債権(金銭債務)の不履行に基づく損害賠償請求についての特則を定める。
第1項編集
- 金銭債権
- 一定額の金銭の給付(支払)を目的とする債権を、金銭債権という。
- 金銭債務の不履行
- 金銭債務の不履行についての特則
- 非金銭債権の場合、債務不履行に基づく損害賠償については、債務者は、通常生ずべき損害(通常損害)及び特別の事情によって生じた損害のうち当事者が予見し、又は予見することができた損害(特別損害)を賠償する責任を負う(民法第416条1項、2項)。これに対し、金銭債権の場合は、実際にどれだけの損害が生じたかを問題とすることなく、定型的に法定利率による損害賠償をさせる点で、本項は416条の特則となっている。
- 法定利率
- 約定利率
- 約定利率とは、当事者が合意によって定めた利率をいう。本項ただし書により、約定利率が法定利率を超えるときは、損害賠償額は約定利率による。たとえば、消費貸借契約において、利息を年15%と定めていたときは、遅延損害金の利率も年15%となる。
- なお、消費貸借契約などで、利息の利率の定めのほか、遅延損害金の利率を定めることがあるが、これは民法第420条1項の損害賠償額の予定として有効である。たとえば、利息を年15%、遅延損害金を年21.9%と定めていた場合、返還期限(弁済期)までは年15%の利息が発生し、返還期限経過後は年21.9%の遅延損害金が発生する。
- ただし、金銭消費貸借上の約定利率及び損害賠償額の予定については利息制限法による制限がある。
第2項編集
- 損害の証明を要しない
- 非金銭債務の不履行に基づく損害賠償請求をする債権者は、前記の通常損害及び特別損害(民法第416条)の発生及びその額を証明(立証)する必要がある。しかし、金銭債務の場合、債権者は、法定利率を超える損害を受けたことを立証してもその賠償を受けられない代わりに、法定利率による賠償を求める際には、本項によって、何ら損害の立証をする必要がない。この点で、本項も416条の特則を設けるものである。
第3項編集
- 不可抗力
- 一般の債務不履行に基づく損害賠償については、債務者の帰責事由が必要とされている(民法第415条後段参照)。これに対し、金銭債務の不履行については、本項によって、天災等の不可抗力すら抗弁とすることができず、債務者は絶対的責任を負う。この点で、本項は415条の損害賠償請求の要件に対する特則を設けるものである。
参照条文編集
判例編集
- 貸金請求(最高裁判決 昭和43年7月17日)利息制限法第1条1項,利息制限法第4条1項
- 賃金等請求(最高裁判決 昭和51年7月9日)労働基準法第114条,商法第4条,商法第503条,商法第514条,民法第404条
- 収用補償金増額(最高裁判決 平成9年1月28日)民法第404条
|
|