商法総則/商号
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商号
編集- 「商号」とは、商人がその営業活動・事業活動において自己を表示する名称をいう。
商号自由の原則と限界
編集- 商号の選定は、自然人における名前と同様、その主体が選択することができ、命名については自由である(商号自由の原則)。
- 商号は、自由に名乗ることができるが、慣習的な利用を超え法的な効果を得るためには登記を要する。特に、会社は登記を必須とする。また、営業活動において商号は主体を代表するものであるから、会社ではない商人は一営業につき商号は一つしか登記することができず、会社は一つしか登記できない。また、小商人は商号を登記できない(商法第7条)。
- 商業登記にあたっては、制度上の制限がある。
登記にかかる限界
編集使用できる文字
編集- 登記は日本語でなされるため、日本語で使用される「ひらがな」「カタカナ」「漢字」及び数種の記号が認められる。ローマ字(ローマン・アルファベット)やアラビア数字は、商法制定後長く認められていなかったが、2002年(平成14年)商業登記規則等の改正により、認められるようになった(商業登記規則第50条、法務省HP『商号にローマ字等を用いることについて』)。その他の文字(ギリシア文字、キリル文字等)や記号("@"、"¥"等)は使用を認められていない。
- 漢字は、常用漢字のみならず、市中の辞書に掲載されるほぼ全ての漢字の字体[1]を使用することができる(登記統一文字)。
- 記号は、文字の区切りに用いられ、商号の先頭又は末尾[2]には用いないなどの制限がある。
使用できる語句
編集- 原則として長さなどに制限はないが[3]、以下の文言については、受理を拒否されうる。
- 犯罪、わいせつ、明確な誹謗中傷にあたるなど公序良俗を害するもの。
- (例)強盗商会、売春宿株式会社、合名会社○○の詐欺を暴く
- 一般的な会社等組織の一部等を表す文言。
- (例)株式会社○○札幌支社、□□経理部株式会社
- 犯罪、わいせつ、明確な誹謗中傷にあたるなど公序良俗を害するもの。
用語の独占
編集- 商号を登記するにあたって、法令により、組織形態や業種により、該当する場合は商号に必ず含まなければならず、逆に、該当しない場合は使用を禁じられる語句がある。
組織形態にかかる用語の独占
編集- 会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない(会社法第7条)。
- 会社でない商人は、商号中に「会社」と誤認させる文字を用いてはならない。
- 会社は、株式会社、合名会社、合資会社又は、合同会社の種類に従い、それぞれその商号中に株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならず、一方、他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない(会社法第6条)。
業種にかかる用語の独占
編集- 法律で定められた一定の事業(銀行業など)を営む会社はその旨の文言を用いなければならず、逆に、それを営まない会社はそれを用いてはならない。
- (例)
- 「株式会社知識銀行」は不可、「株式会社ナレッジバンク」は可。なお、「株式会社バンク」は不可とされる。
- (例)
- 制限ある文言
-
- 「銀行」(銀行法第6条)
- 「生命保険会社」、「損害保険会社」(保険業法第7条)
- 「証券会社」など
- 金融商品取引法第31条の3
- 金融商品取引業者でない者は、金融商品取引業者という商号若しくは名称又はこれに紛らわしい商号若しくは名称を用いてはならない。
- 金融商品取引法第31条の3
不正目的利用の排除
編集- 商号は、商行為において会社及び商人を代表するものであるため、既存の他人の商号と同一のもの乃至類似したもの(類似商号等)を使用することにより、不正な事業活動が行われる可能性があり、これを避けるために、類似商号等を回避する手当がなされている。
不正目的による類似商号使用の禁止
編集- 不正の目的をもって、他の会社又は商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない(会社法第8条、商法第12条)。
- 不正競争防止法第2条(定義)
- 「商品等表示」を「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」、「特定商品等表示」を「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するもの」と定義し、他人に属するこれらのものと同一又は類似のものを使用等した場合を「不正競争」として規制する。
同一行政区域での重複の禁止
編集- 同一の所在場所において、同一の商号の登記は禁止される(商業登記法第27条)。
- 「所在場所」とは、最小の行政単位、すなわち、市町村及び東京都特別区をいうが、その範囲において、同一の商号を名乗るのは、何らかの不正目的があるものと擬制ないし推定するものである。
- ただし、商標権他知的財産権と異なり、先願主義的なものではなく、登記に際して不正の目的があることが明らかであれば、先に登記しているものの登記が無効になる場合がある(東京瓦斯事件 最高裁昭和36年9月29日判決)
商号利用の効果
編集名板貸
編集- 「名板貸」とは、自己の商号の使用して事業を行うことを他人に許諾する行為を言う(商法第14条、会社法第9条)。「暖簾分け」など、古くから見られる商習慣であり、現在においても「フランチャイズ契約」に典型的に見られる。但し、商号の有効範囲は非常に狭いものであるため、多くのフランチャイズ契約は「商標」による名板貸行為によっており、商法・会社法を直接適用する局面は非常に限られたものとなっている。
- その他、許認可等を要する営業などで、許認可を受けた会社や商人の名義で営業を行う「名義貸し」も名板貸の一種である。
- 法の趣旨としては、他人に対して自己の行為と紛らわしい外観を形成するのに責任ある場合は、他人の行為について責任を有するという権利外観理論の発露のひとつである。
要件と効果
編集要件
編集- 他人に、自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを許諾していること
- 許諾を受けた者(以下、「名板借人」。一方、許諾したものを「名板貸人」という)が、当該商号を掲げて営業又は事業を行ったこと
- 名板貸人が会社である場合、名板借人も会社であることを要する。
- 名板借人が、名板貸人のもともとの事業から大きく離れて営業をした場合その営業については、名板貸の効果は及ばない。
- (例)名板貸人の事業は「料亭」であったが、名板貸人は、これに加え「旅館営業」を始めた。
- 他人に自己の商号を使用して営業を営むことを許諾した場合においても、その許諾を受けた者が当該商号を使用して業種の異なる営業を営むときは、特段の事情がないかぎり、責任を負わない(最高裁判決昭和43年06月13日)。
- (例)名板貸人の事業は「料亭」であったが、名板貸人は、これに加え「旅館営業」を始めた。
- 取引相手が、名板借人を相手方であると誤認して取引を行ったこと
- 誤認に対して重大な過失がある場合を除く
- 例えば、名板貸人の下で働いていた者が「暖簾分け」で、名板貸により店を出し(又は、もとの店を買い受け)、従来の卸業者などが誤認することは、重大な過失があるとまではいえないが、銀行が融資を行う場合など、相手方に対して、十分な注意を要する場合は、名板貸を認めることは困難となる(最高裁判決昭和41年01月27日)。
- 誤認に対して重大な過失がある場合を除く
効果
編集- 名板借人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
- 「当該取引によって生じた債務」には、債務不履行などにより生じた損害賠償責任等も含む。
- 連帯責任であるので、取引相手は、名板借人を通さず、直接、債権の行使を求めうる。一方、名板貸人は、名板借人が有する法的権利(例.同時履行の抗弁)を行使することができ、債務の履行時には、名板借人に代位して債権を得る。
- 名板貸人は、名板借人に求償することができる
参照判例
編集関連法令
編集商号については、以下の法令などにおいて規定される(再掲等)。
商法
編集会社法
編集- 会社法 第1編総則 第2章会社の商号
- 会社法第978条【商号不正使用に対する罰則】
商業登記法
編集註
編集- ^ 非公表であるが、60000字種以上と言われる。
- ^ 省略を意味する".(ピリオド)"を除く。
- ^ 137文字の商号が受理された例がある(ウィキペディア記事『w:サブスク (企業)』参照)。