法学民事法民法コンメンタール民法第3編 債権

条文 編集

(債権譲渡の対抗要件)

第467条
  1. 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
  2. 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

改正経緯 編集

2017年改正により、以下のとおりの改正がなされた。

  • 見出し
    改正により、債権概念が整理され、旧指名債権以外の債権は有価証券にまとめられたため、単に「債権」とした。
    • (改正前)指名債権譲渡の対抗要件
    • (改正後)債権譲渡の対抗要件
  • 第1項
    前条により、債権譲渡の対象に「将来債権」を含むことが明示されたことに伴う改正。
    • (改正前)指名債権の譲渡は、
    • (改正後)債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、

解説 編集

債権(改正前は指名債権)の譲渡の対抗要件を定めた規定である。債務者に対する対抗要件と債務者以外の第三者に対するそれとで違いがある。
債権の二重譲渡の場合は、確定日付ある証書の到達の先後([[#二重譲渡|最判昭和49年3月7日])、又は、確定日付ある債務者の承諾の日時の先後によつて優劣を決すると考えるのが判例である。
債務者の承諾の通知は、債権の譲渡人又は、譲受人のいずれに対するものでも良い。一方、譲渡の通知は必ず譲渡人から債務者に対して行う必要があり、譲受人が譲渡人に「代位」して債務者に通知しても無効である。もっとも譲受人が譲渡人に「代理」して債務者に通知するのは差し支えない。

債権譲渡の予約 編集

現在他人が有する債権について、債権者が譲渡に先立って債務者に通知することにより、債権の譲渡がなされた際に、譲渡を予約することも有効とされる(最判昭和43年8月2日

参照条文 編集

判例 編集

  1. 無記名定期預金請求(最高裁判決  昭和32年12月19日)民法第86条3項,民法第505条民法第666条
    1. いわゆる無記名定期預金債権の性質
      いわゆる無記名定期預金債権は無記名債権でなく指名債権に属する。
    2. 無記名定期預金の債権者の判定
      甲が乙に金員を交付して甲のため無記名定期預金の預入れを依頼し、よつて乙がその金員を無記名定期預金として預入れた場合、乙において右金員を横領し自己の預金としたものでない以上、その預入れにあたり、乙が、届出印鑑として乙の氏を刻した印鑑を使用し、相手方の銀行が、かねて乙を知つており、届出印鑑を判読して預金者を乙と考え、預金元帳にも乙を預金者と記載した事実があつたとしても、右無記名定期預金の債権者は乙でなく、甲と認めるのが相当である。
    3. 無記名定期預金の債権者でない者が単に届出印鑑を使用してなした相殺の効力
      右無記名定期預金において、相手方の銀行は、無記名定期預金証書と届出印鑑を呈示した者に支払をすることにより免責される旨の特約がなされている場合、届出印鑑のみを提出した乙との間に、右無記名定期預金と乙の銀行に対する債務と相殺する旨の合意をしても、右銀行はこれによつて、甲に対する無記名定期預金払戻債務につき、免責を得るものではない。
  2. 不動産所有権移転登記手続請求(最高裁判決  昭和35年04月26日)民法第579条民法第581条1項,民法第129条
    1. 買戻特約の登記をしなかつた場合における不動産買戻権譲渡の方法
      買戻の特約を登記しなかつた場合、不動産買戻権は売主の地位と共にのみ譲渡することができる。
    2. 買戻特約の登記をしなかつた場合における不動産買戻権譲渡の対抗要件
      買戻の特約を登記しなかつた場合における不動産買戻権の譲渡を買主に対抗するには、これに対する通知またはその承諾を必要とし且つこれをもつて足りる。
  3. 強制執行異議(最高裁判決 昭和35年11月24日)民法第556条不動産登記法第2条不動産登記法第7条
    1. 仮登記によつて保全された不動産売買予約上の権利の譲渡と対抗要件
      不動産売買予約上の権利を仮登記によつて保全した場合に、右予約上の権利の譲渡を予約義務者その他の第三者に対抗するためには、仮登記に権利移転の附記登記をすれば足り、債権譲渡の対抗要件を具備する心要はないと解すべきである。
    2. 売買予約上の権利の譲渡以前になされた仮差押の効力
      右の場合において、仮登記後附記登記前に第三者により仮差押の登記がなされたとしても、その後右不動産につき売買予約完結の意思表示がなされ、これに基いて所有権移転の本登記がなされた以上、仮差押債権者はその仮差押をもつて所有権取得者に対抗することはできない。
  4. 転付金請求(最高裁判決 昭和43年08月02日)民法第466条民法第560条
    他人の有する債権を譲渡する契約をしてその譲渡通知をした者がその後同債権を取得した場合における右譲渡および通知の効力
    他人の有する債権を譲渡する契約をし、その債権の債務者に対して確定日附のある譲渡通知をした者が、その後同債権を取得した場合には、なんらの意思表示を要しないで、当然に同債権は譲受人に移転し、右譲受人は、同債権の譲受をもつて、その後右譲渡人から同債権の譲渡を受けた第三者に対抗することができる。
  5. 約束手形金請求(最高裁判決 昭和49年02月28日)手形法第11条
    裏書によらない手形債権の譲渡の性質
    約束手形の受取人甲が、乙からその手形の割引を受け、裏書をしないでこれを乙に交付したときは、甲は、指名債権譲渡の方法によつて乙に右手形債権を譲渡したものと解するのが相当である。
  6. 第三者異議(最高裁判決 昭和49年03月07日)
    1. 指名債権の二重譲渡と優劣の基準
      指名債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の問の優劣は、確定日付ある通知が債務者に到達した日時又は確定日付ある債務者の承諾の日時の先後によつて決せられる。
    2. 民法467条2項の確定日付ある通知と認められた事例
      債権者が、債権譲渡証書に確定日付を受け、これを即日短時間内に債務者に交付したときは、民法467条2項所定の確定日付ある通知があつたものと認めることができる。
  7. 譲受債権(最高裁判決 昭和55年01月11日)
    指名債権が二重に譲渡され確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達した場合における譲受人の一人からする弁済請求
    指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達したときは、各譲受人は、債務者に対しそれぞれの譲受債権全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由が存在しない限り、弁済の責を免れることができない。
  8. 供託金還付同意(最高裁判決 昭和58年06月30日)民法第364条1項
    指名債権に対する質権設定を第三者に対抗しうる要件としての第三債務者に対する通知又はその承諾と質権者特定の要否
    指名債権に対する質権設定を第三者に対抗しうる要件としての第三債務者に対する通知又はその承諾は、具体的に特定された者に対する質権設定についてされることを要する。
  9. 運送代金(最高裁判決 昭和61年04月11日)民事訴訟法第232条民法第478条
    1. 指名債権が二重に譲渡された場合に対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済と民法478条の適用
      指名債権が二重に譲渡された場合に、民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済についても、同法478条の適用がある。
    2. 二重に譲渡された指名債権の債務者が対抗要件を後れて具備した譲受人に対してした弁済について過失がないというための要件
      二重に譲渡された指名債権の債務者が民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信じてした弁済について過失がないというためには、対抗要件を先に具備した譲受人の債権譲受又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることを要する。
  10. 供託金還付請求権確認請求本訴、同反訴(最高裁判決 平成5年03月30日)国税徴収法62条,国税徴収法67条
    1. 同一の債権について差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合における差押債権者と債権譲受人との間の優劣
      同一の債権について、差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合、差押債権者と債権譲受人とは、互いに自己が優先的地位にある債権者であると主張することができない。
    2. 同一の債権について差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合と当該債権に係る供託金の還付請求権の帰属
      同一の債権について、差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明であるため、第三債務者が債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得する。
  11. ゴルフ会員権地位確認請求本訴、同等請求反訴(最高裁判決 平成8年07月12日)
    預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡を第三者に対抗するための要件
    預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡をゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗するには、指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれをゴルフ場経営会社に通知し、又はゴルフ場経営会社が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りる。
  12. 取立債権(最高裁判決 平成10年01月30日) 民法第304条民法第372条
    抵当権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡
    抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
    • (原審判断)
      民法304条1項ただし書が払渡し又は引渡しの前の差押えを必要とする趣旨は、差押えによって物上代位の目的債権の特定性を保持し、これによって物上代位権の効力を保全するとともに、第三者が不測の損害を被ることを防止することにあり、この第三者保護の趣旨に照らせば、払渡し又は引渡しの意味は債務者(物上保証人を含む。)の責任財産からの逸出と解すべきであり、債権譲渡も払渡し又は引渡しに該当するということができるから、目的債権について、物上代位による差押えの前に対抗要件を備えた債権譲受人に対しては物上代位権の優先権を主張することができず、このことは目的債権が将来発生する賃料債権である場合も同様である。
    • (最高裁判断)
      民法372条において準用する304条1項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
      右のような民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
  13. 取立債権請求事件(最高裁判決 平成13年11月27日)民法第556条
    指名債権譲渡の予約についての確定日付のある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾をもって予約の完結による債権譲渡の効力を第三者に対抗することの可否
    指名債権譲渡の予約についてされた確定日付のある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾をもって,当該予約の完結による債権譲渡の効力を第三者に対抗することはできない。
    • 譲渡予約については確定日付ある証書により債務者の承諾を得たものの,予約完結権の行使による債権譲渡について第三者に対する対抗要件を具備していない譲受人は,債権の譲受けを第三者に対抗することはできない。

前条:
民法第466条
(債権の譲渡性)
民法
第3編 債権

第1章 総則

第4節 債権の譲渡
次条:
民法第468条
(債権の譲渡における債務者の抗弁)
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