法学民事法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

条文

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消費寄託

第666条
  1. 受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合には、受寄者は、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還しなければならない。
  2. 第590条及び第592条の規定は、前項に規定する場合について準用する。
  3. 第591条第2項及び第3項の規定は、預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合について準用する。

改正経緯

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2017年改正により以下の条項から全面的に改正された。

  1. 第5節消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。
  2. 前項において準用する第591条第1項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。
    改正前準用条項
    1. 民法第587条(消費貸借)
    2. 旧・民法第588条(準消費貸借)
    3. 旧・民法第589条(消費貸借の予約と破産手続の開始)
    4. 旧・民法第590条(貸主の担保責任)
    5. 旧・民法第591条(返還の時期)
    6. 民法第592条(価額の償還)

解説

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消費寄託、即ち寄託であって、受寄者が契約により寄託物を消費することができ、寄託された物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還するもの(第1項)の典型は、現金(又はその等価物)の寄託である預金(銀行預金、郵便貯金、証券口座預り金 等)である。国民生活上、非常に重要、かつ、不可欠な契約であるが、民法上の規定は本条1条のみであり、準用条数も3条と少ない。実際の運用においては、非常に詳細なものとなるため、銀行等で「統一約款」等が、政府の厳しい統制の下作成され規律されている。その他、それを運用する受寄者たる金融機関についての銀行法他金融機関の存立業法の存在や、預金者(寄託者)を保護する 「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)」や「預金等に係る不当契約の取締に関する法律」などの各種法令が存在している。

消費貸借の規定の準用

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消費貸借の規定が準用される。以下読み替え。

  1. 寄託者(esp. 預金者)の引渡義務等(民法第590条の準用)
    1. 民法第551条(贈与者の引渡義務等)の規定は、利息を付す特約(民法第590条第1項)のない消費寄託について準用する。
      • 民法第551条のあてはめ
        1. 寄託者は、寄託物を、寄託の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。
        2. 受寄者(esp. 金融機関)に負担が生ずる寄託については、寄託者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。
    2. 利息を付す特約の有無にかかわらず、寄託者から引き渡された物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないものであるときは、受寄者は、その物の価額を返還することができる。
  2. 価額の償還(民法第592条の準用)
    受寄者が寄託者から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは、その時における物の価額を償還しなければならない。ただし、民法第402条第2項に規定する場合は、この限りでない。
    • 民法第402条第2項のあてはめ
      寄託された特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは、債務者は、他の通貨で返還をしなければならない。
      • 預入時点は強制流通力を持っていた通貨が返還時に強制流通力を失っていた場合、寄託された通貨そのものの価値(古銭価値)ではなく、現行の通貨での返還を要する。
  3. 預金又は貯金に係る契約により金銭を寄託した場合の返還の時期(民法第591条の準用)
    実際の運用は標準約款などにより規律されているため、適用局面はほとんどない。
    1. 当事者が返還の時期を定めなかったときは、寄託者(預金者)は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。(1項は準用されない。)
    2. 受寄者(金融機関)は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。
    3. 当事者が返還の時期を定めた場合において、寄託者(預金者)は、受寄者(金融機関)がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、 受寄者(金融機関)に対し、その賠償を請求することができる。

両建て

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金融において、しばしば、預金(金銭の消費寄託)をしているものに対して貸付(金銭の消費貸借)がなされる場合があり、これを「両建て」などという。両建てに関しては消費寄託契約と消費貸借契約となるが、前者が後者の担保となっており、これらの契約については、「相殺」や商法上の「交互計算」に関する法令上の取り扱いが深く関与している。

参照条文

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判例

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  1. 無記名定期預金請求(最高裁判決  昭和32年12月19日)民法第86条3項,民法第467条1項,民法第505条
    1. いわゆる無記名定期預金債権の性質
      いわゆる無記名定期預金債権は無記名債権でなく指名債権に属する。
    2. 無記名定期預金の債権者の判定
      甲が乙に金員を交付して甲のため無記名定期預金の預入れを依頼し、よつて乙がその金員を無記名定期預金として預入れた場合、乙において右金員を横領し自己の預金としたものでない以上、その預入れにあたり、乙が、届出印鑑として乙の氏を刻した印鑑を使用し、相手方の銀行が、かねて乙を知つており、届出印鑑を判読して預金者を乙と考え、預金元帳にも乙を預金者と記載した事実があつたとしても、右無記名定期預金の債権者は乙でなく、甲と認めるのが相当である。
    3. 無記名定期預金の債権者でない者が単に届出印鑑を使用してなした相殺の効力
      右無記名定期預金において、相手方の銀行は、無記名定期預金証書と届出印鑑を呈示した者に支払をすることにより免責される旨の特約がなされている場合、届出印鑑のみを提出した乙との間に、右無記名定期預金と乙の銀行に対する債務と相殺する旨の合意をしても、右銀行はこれによつて、甲に対する無記名定期預金払戻債務につき、免責を得るものではない。
  2. 定期預金払戻供託金還付請求権確認、定期預金払戻(最高裁判決  昭和52年08月09日)
    預入行為者名義でされた記名式定期預金の預金者が出捐者であるとされた事例
    記名式定期預金が預入行為者名義のものであり、その名義の使用が出捐者の意思に基づく場合であつても、出捐者が預入行為者に対し、自己の預金とするために金員を出捐して預入行為者の名義による記名式定期預金の預入手続を一任し、預入行為者が出捐者の使者又は代理人として預金契約を締結したものであり、かつ、預金証書及び届出印章は出捐者が所持しているなど、判示のような事情があるときは、その預金者は出捐者である。
  3. 第三者異議(最高裁判決  平成8年04月26日)民法第91条
    振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合における振込みに係る普通預金契約の成否
    振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、両者の間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立する。
  4. 預金返還,仮執行の原状回復及び損害賠償請求事件(最高裁判決  平成15年02月21日)
    損害保険代理店が保険契約者から収受した保険料のみを入金する目的で開設した普通預金口座の預金債権が損害保険会社にではなく損害保険代理店に帰属するとされた事例
    損害保険会社甲の損害保険代理店である乙が,保険契約者から収受した保険料のみを入金する目的で金融機関に「甲代理店乙」名義の普通預金口座を開設したが,甲が乙に金融機関との間での普通預金契約締結の代理権を授与しておらず,同預金口座の通帳及び届出印を乙が保管し,乙のみが同預金口座への入金及び同預金口座からの払戻し事務を行っていたという判示の事実関係の下においては,同預金口座の預金債権は,甲にではなく,乙に帰属する。
  5. 債権差押処分無効確認等請求事件(最高裁判決  平成15年06月12日) 民法第649条
    債務整理事務の委任を受けた弁護士が委任事務処理のため委任者から受領した金銭を預け入れるために弁護士の個人名義で開設した普通預金口座に係る預金債権の帰属
     債務整理事務の委任を受けた弁護士甲が,委任事務処理のため委任者乙から受領した金銭を預け入れるために甲の名義で普通預金口座を開設し,これに上記金銭を預け入れ,その後も預金通帳及び届出印を管理して,預金の出し入れを行っていた場合には,当該口座に係る預金債権は,甲に帰属する。
  6. 預金払戻請求事件(最高裁判決 平成19年04月24日)民法第91条,民法第166条1項
    いわゆる自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効の起算点
    いわゆる自動継続特約付きの定期預金契約における預金払戻請求権の消滅時効は,それ以降自動継続の取扱いがされることのなくなった満期日が到来した時から進行する。
  7. 預金払戻請求事件(最高裁判決  平成20年10月10日) 民法第1条3項
    振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合における受取人による当該振込みに係る預金の払戻請求と権利の濫用
    受取人の普通預金口座への振込みを依頼した振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しない場合において,受取人が当該振込みに係る預金の払戻しを請求することについては,払戻しを受けることが当該振込みに係る金員を不正に取得するための行為であって,詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど,これを認めることが著しく正義に反するような特段の事情があるときは,権利の濫用に当たるとしても,受取人が振込依頼人に対して不当利得返還義務を負担しているというだけでは,権利の濫用に当たるということはできない。
  8. 預金取引記録開示請求事件(最高裁判決 平成21年01月22日)民法第645条民法第656条民法第252条民法第264条民法第898条
    1. 金融機関の預金者に対する預金口座の取引経過開示義務の有無
      金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う。
    2. 共同相続人の一人が被相続人名義の預金口座の取引経過開示請求権を単独で行使することの可否
      預金者の共同相続人の一人は,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。

前条:
民法第665条の2
(混合寄託)
民法
第3編 債権

第2章 契約

第11節 寄託
次条:
民法第667条
(組合契約)
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