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条文 編集

【集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密】

第21条
  1. 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
  2. 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

解説 編集

 
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表現の自由 編集

表現の自由も参照。

検閲の禁止・通信の秘密 編集

検閲と事前抑制の禁止も参照。

検閲とは 編集

「行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるもの」(『札幌税関検査事件最判昭和59年12月12日)
「表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合」(『北方ジャーナル事件最判昭和61年6月11日
  • 主体: 行政機関
  • 行為: 対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止すること/表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制
    「網羅的一般的な審査」
  • 目的: その全部又は一部の発表の禁止/事前規制

参照条文 編集

判例 編集

  1. 雇傭契約解除無効確認俸給支払請求(最高裁判決 昭和27年02月22日)日本国憲法第19条,日本国憲法第21条
    政治活動をしないことを条件とする雇傭契約と基本的人権の制限
    憲法で保障されたいわゆる基本的人権も絶対のものではなく、自己の自由意思に基く特別な公法関係または私法関係上の義務によつて制限を受けるものであつて、自己の自由意思により、校内において政治活動をしないことを条件として教員として学校に雇われた場合には、その契約は無効ではない。
  2. 猥褻文書販売チャタレー事件 最高裁判決昭和32年3月13日刑集11巻3号997頁)刑法175条, 刑法38条1項,憲法76条3項,出版法(明治26年法律15号)27条,刑訴法400条
    1. 刑法第175条にいわゆる「猥褻文書」の意味
      刑法第175条にいわゆる「猥褻文書」とは、その内容が徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する文書をいう。
    2. 「猥褻文書」に当るかどうかは事実問題か法律問題か。
      文書が「猥褻文書」に当るかどうかの判断は、当該文書についてなされる事実認定の問題でなく、法解釈の問題である。
    3. 「猥褻文書」に当るかどうかの判断の基準。
      文書が、「猥褻文書」に当るかどうかは、一般社会において行われている良識、すなわち、社会通念に従つて判断すべきものである。
    4. 社会通念とは何か。
      社会通念は、個々人の認識の集合又はその平均値でなく、これを超えた集団意識であり、個々人がこれに反する認識をもつことによつて否定されるものでない。
    5. 刑法第175条にいわゆる「猥褻文書」に当る一事例。
      Aの翻訳にかかる、昭和25年4月2日株式会社小山書店発行の「チヤタレイ夫人の恋人」上、下二巻(ロレンス選集1・2)は、刑法第175条にいわゆる猥褻文書に当る。
    6. 芸術的作品と猥褻性。
      芸術的作品であつても猥褻性を有する場合がある。
    7. 猥褻性の存否と作者の主観的意図。
      猥褻性の存否は、当該作品自体によつて客観的に判断すべきものであつて、作者の主観的意図によつて影響されるものではない。
    8. 刑法第175条に規定する猥褻文書販売罪における犯意。
      刑法第175条に規定する猥褻文書販売罪の犯意がありとするためには、当該記載の存在の認識とこれを頒布、販売することの認識があれば足り、かかる記載のある文書が同条所定の猥褻性を具備するかどうかの認識まで必要とするものではない。
    9. 憲法第21条に保障する表現の自由と公共の福祉。
      憲法第21条の保障する表現の自由といえども絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することは許されない。
    10. 旧出版法第27条と刑法第175条との関係。
      旧出版法第27条と刑法第175条とは特別法と普通法の関係にある。
    11. 憲法第21条第2項による検閲の禁止と猥褻文書販売罪。
      憲法第21条第2項によつて事前の検閲が禁止されたことによつて、猥褻文書の頒布、販売を禁止し得なくなつたものではない。
    12. 憲法第76条第3項にいう裁判官が良心に従うとの意味。
      憲法第76条第3項にいう裁判官が良心に従うとは、裁判官が有形、無形の外部の圧迫ないし誘惑に屈しないで自己の内心の良識と道徳感に従う意味である。
  3. 猥褻文書販売、同所持(悪徳の栄え事件 最高裁判決 昭和44年10月15日)刑法175条憲法23条刑訴法400条
    1. 芸術的思想的価値のある文書と猥褻性
      芸術的・思想的価値のある文書であつても、これを猥褻性を有するものとすることはさしつかえない。
    2. 文書の部分についての猥褻性と文書全体との関係
      文書の個々の章句の部分の猥褻性の有無は、文書全体との関連において判断されなければならない。
    3. 憲法21条・23条と公共の福祉
      憲法21条の表現の自由や同法23条の学問の自由は、絶対無制限なものではなく、公共の福祉の制限の下に立つものである。
  4. 在留期間更新不許可処分取消(マクリーン事件 最高裁判決 昭和45年06月24日)
    憲法第10条判例節参照
  5. 職業安定法違反(全農林警職法事件 最高裁判決 昭和48年4月25日 刑集12巻7号1351頁)憲法28条憲法18条憲法31条、国家公務員法(昭和40年法律第69号による改正前のもの)98条5項(現・国家公務員法第98条第2項)、110条1項17号(現・国家公務員法第111条の2第1号)
    • 国家公務員法第98条第2項
      職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。
    • 国家公務員法第111条の2
      次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
      1. 何人たるを問わず第98条第2項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、唆し、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者
    1. 国家公務員法98条5項、110条1項17号の合憲性
      国家公務員法98条5項、110条1項17号は憲法28条に、国家公務員法110条1項17号は憲法18条、21条、31条に違反しない。
    2. 国家公務員法110条1項17号にいう「あおり」および「企て」の意義
      国家公務員法110条1項17号にいう「あおり」とは、同法98条5項前段に規定する違法行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、または、すでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることをいい、「企て」とは、右違法行為を共謀し、そそのかし、または、あおる行為の遂行を計画準備することであつて、違法行為発生の危険性が具体的に生じたと認めうる状態に達したものをいう。
    3. 国家公務員法98条5項、110条1項17号の法意
      国家公務員法98条5項、110条1項17号は、公務員の争議行為のうち同法によつて違法とされるものとされないものとを区別し、さらに違法とされる争議行為についても違法性の強いものと弱いものとを区別したうえ、刑事制裁を科さるのはそのうち違法性の強い争議行為に限るものとし、あるいは、あおり行為等につき、争議行為の企画、共謀、説得、慫慂、指令等を争議行為にいわゆる通常随伴するものとして争議行為自体と同一視し、これを刑事制裁の対象から除くものとする趣旨ではない。
    4. 政治的目的のための争議行為と憲法28条
      私企業の労働者であると、公務員を含むその他の勤労者であるとを問わず、使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係のない警察官職務執行法の改正に対する反対のような政治的目的のために争議行為を行なうことは、憲法28条とは無関係なものである。
  6. 異議申出棄却決定取消(札幌税関検査事件 最高裁判決 昭和59年12月12日)
    1. 憲法21条2項前段の検閲禁止の趣旨
      憲法21条2項前段の検閲禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨と解すべきである。
    2. 憲法21条2項にいう「検閲」
      憲法21条2項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。
    3. 関税定率法21条2項3号所定の物件に関する税関検査と憲法21条2項にいう「検閲」
      関税定率法21条1項3号所定の物件に関し、輸入手続において税関職員が行う検査は、憲法21条2項にいう「検閲」にあたらない。
      1. 輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては既に発表済みのものであつて、その輸入を禁止したからといつて、それは、当該表現物につき、事前に発表そのものを一切禁止するというものではない。また、当該表現物は、輸入が禁止されるだけであつて、税関により没収、廃棄されるわけではないから、発表の機会が全面的に奪われてしまうというわけのものでもない。
      2. 税関検査は、関税徴収手続の一環として、これに付随して行われるもので、思想内容等の表現物に限らず、広く輸入される貨物及び輸入される郵便物中の信書以外の物の全般を対象とし、三号物件についても、右のような付随的手続の中で容易に判定し得る限りにおいて審査しようとするものにすぎず、思想内容等それ自体を網羅的に審査し規制することを目的とするものではない。
      3. 税関は、関税の確定及び徴収を本来の職務内容とする機関であつて、特に思想内容等を対象としてこれを規制することを独自の使命とするものではなく、また、思想内容等の表現物につき税関長の通知がされたときは司法審査の機会が与えられているのであつて、行政権の判断が最終的なものとされるわけではない。
    4. 関税定率法21条2項3号の規定による猥褻表現物の輸入規制と憲法21条1項
      関税定率法21条1項3号の規定による猥褻表現物の輸入規制は、憲法21条1項に違反しない。
      • 表現の自由は、憲法の保障する基本的人権の中でも特に重要視されるべきものであるが、さりとて絶対無制限なものではなく、公共の福祉による制限の下にあることは、いうまでもない。また、性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持することは公共の福祉の内容をなすものであつて、猥褻文書の頒布等は公共の福祉に反するものであり、これを処罰の対象とすることが表現の自由に関する憲法21条1項の規定に違反するものでないことも、明らかである(最高裁昭和32年3月18日大法廷判決最高裁昭和44年10月15日大法廷判決参照)。そして、わが国内における健全な性的風俗を維持確保する見地からするときは、猥褻表現物がみだりに国外から流入することを阻止することは、公共の福祉に合致するものであり、猥褻刊行物ノ流布及取引ノ禁止ノ為ノ国際条約(昭和11年条約第3号)1条の規定が締約国に頒布等を目的とする猥褻な物品の輸入行為等を処罰することを義務づけていることをも併せ考えると、表現の自由に関する憲法の保障も、その限りにおいて制約を受ける。
    5. 表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許される場合
      表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない。
      • 限定解釈をすることが許されるためには以下の二つの要件を満たす必要がある。
        1. その解釈により,規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され,かつ,合憲的に規制しうるもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合であること。
        2. 一般国民の理解において,具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものであること。
    6. 関税定率法21条2項3号の「風俗を害すべき書籍、図画」等との規定の意義及びその合憲性
      関税定率法21条1項3号の「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、猥褻な書籍、図画等を指すものと解すべきであり、右規定は広汎又は不明確の故に憲法21条1項に違反するものではない。
      • 伊藤正己裁判官他4裁判官による反対意見(過度に広汎性ゆえ無効の法理
        • 表現の自由を規制する法律の規定は、それ自体明確な基準を示すものでなければならない。殊に、表現の自由の規制が事前のものである場合には、その規定は、立法上可能な限り明確な基準を示すものであることが必要である。それ故、表現の自由を規制する法律の規定が、国民に対し何が規制の対象となるのかについて適正な告知をする機能を果たし得ず、また、規制機関の恣意的な適用を許す余地がある程に不明確な場合には、その規定は憲法21条1項に違反し、無効であると判断されなければならない。
        • 表現の自由を規制する法律の規定の適用範囲が広汎に過ぎ、右規定が本来規制の許されるべきでない場合にまで適用される可能性を無視し得ない場合には、やはり憲法21条1項によつて違憲無効と判断されなければならない。
        • 同号の「風俗を害すべき書籍、図画」等という規定は、不明確であると同時に広汎に過ぎるものであり、かつ、それが本来規制の許されるべきでない場合にも適用される可能性を無視し得ないと考えられるから、憲法21条1項に違反し、無効であるといわなければならない。
          「風俗」という用語の意味内容は性的風俗、社会的風俗、宗教的風俗等多義にわたるものであり、これを多数意見のいうように性的風俗に限定し、「風俗を害すべき書籍、図画」等を猥褻表現物に限ると解すべき根拠はない。現在の税関検査の実務においては、被上告人の自陳する如く、右の書籍、図画等を猥褻物に限定する取扱いがされているとしても、その文言自体からみれば、右規定が猥褻物以外の物に適用される可能性を否定することはできない。
  7. 損害賠償(北方ジャーナル事件 最高裁判決 昭和61年6月11日 民集40巻4号872頁)憲法13条
    1. 出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めと憲法21条2項前段にいう検閲
      雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、憲法21条2項前段にいう検閲に当たらない。
      • 一定の記事を掲載した雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、裁判の形式によるとはいえ、口頭弁論ないし債務者の審尋を必要的とせず、立証についても疎明で足りるとされているなど簡略な手続によるものであり、また、いわゆる満足的仮処分として争いのある権利関係を暫定的に規律するものであつて、非訟的な要素を有することを否定することはできないが、仮処分による事前差止めは、表現物の内容の網羅的一般的な審査に基づく事前規制が行政機関によりそれ自体を目的として行われる場合とは異なり、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所により、当事者の申請に基づき差止請求権等の私法上の被保全権利の存否、保全の必要性の有無を審理判断して発せられるものであつて、右判示にいう「検閲」には当たらないものというべきである。
    2. 名誉侵害と侵害行為の差止請求権
      名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。
    3. 公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めの許否
      人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。
    4. 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合と口頭弁論又は債務者審尋
      公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経ることを要するが、債権者の提出した資料によつて、表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法21条の趣旨に反するものとはいえない。
  8. 損害賠償(家永教科書裁判 最高裁判決平成5年3月16日 民集第47巻5号3483頁)学校教育法21条1項(昭和45年法律第48号による改正前のもの),学校教育法51条(昭和49年法律第70号による改正前のもの),旧教科用図書検定規則(昭和23年文部省令第4号)1ないし3条,憲法23条憲法26条教育基本法10条国家賠償法1条1項
    教科書検定は検閲に当たるか。
    教科書検定は検閲に当たらない。
    • 憲法21条2項にいう検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的とし、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを特質として備えるものを指すと解すべきである。本件検定は、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、検閲に当たらず、憲法21条2項前段の規定に違反するものではない。
  9. 広島市暴走族追放条例違反被告事件(広島市暴走族追放条例事件 最高裁判決平成19年9月18日 刑集第61巻6号601頁)憲法31条,広島市暴走族追放条例(平成14年広島市条例第39号)16条1項1号,17条,19条
    • 広島市暴走族追放条例16条1項
      何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
      1.公共の場所において、当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで、公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと。
    広島市暴走族追放条例16条1項1号,17条,19条の規定を限定解釈により憲法21条1項,31条に違反しないとした事例
    • 事案
      指定暴力団の関係者で暴走族である組織Aのリーダーをしていた被告人が,判示の広場において,引退式と称する集会を強行して暴走族の存在を誇示しようと考え,組織Aなどの暴走族構成員約40名と共謀し,所属する暴走族のグループ名を刺しゅうした「特攻服」と呼ばれる服を着用し,顔面の全部又は一部を覆い隠し,円陣を組み,旗を立てる等の威勢を示して,公衆に不安又は恐怖を覚えさせるような集会を行い,市長からの中止・退去命令が出されたのに,これに従わなかった。
    • 論点
      広島市暴走族追放条例116条1項1号,17条,19条の規定の文言からすれば,その適用範囲が広範に過ぎ、「過度に広汎性ゆえ無効」か否か。
    広島市暴走族追放条例16条1項1号にいう「集会」は,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団によって行われるものに限定されると解され,このように解釈すれば,同条例16条1項1号,17条,19条は,憲法21条1項,31条に違反しない。
    • 本条例の全体から読み取ることができる趣旨,さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば,本条例が規制の対象としている「暴走族」は,本条例2条7号の定義にもかかわらず,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され,したがって,市長において本条例による中止・退去命令を発し得る対象も,被告人に適用されている「集会」との関係では,本来的な意味における暴走族及び上記のようなその類似集団による集会が,本条例16条1項1号,17条所定の場所及び態様で行われている場合に限定されると解される。このように限定的に解釈すれば,本条例16条1項1号,17条,19条の規定による規制は,広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと,規制に係る集会であっても,これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく,市長による中止命令等の対象とするにとどめ,この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると,その弊害を防止しようとする規制目的の正当性,弊害防止手段としての合理性,この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし,いまだ憲法21条1項,31条に違反するとまではいえない。
      藤田宙靖裁判官及び田原睦夫裁判官の反対意見
      • 表現の刑罰規制の場面では、必ずしも法律に明るくない一般人が辞書的な率直な解釈をしたときに、当該条項から萎縮的効果(Chilling Effect)を受けるのであれば、文面違憲もしくは(適用審査の上)法令違憲で臨むべき。
  10. 助成金不交付決定処分取消請求事件(最高裁判決令和5年11月17日)独立行政法人日本芸術文化振興会法第3条,第14条
    独立行政法人日本芸術文化振興会の理事長がした、劇映画の製作活動に対する助成金を交付しない旨の決定が、上記理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとされた事例
    • 芸術的な観点からは助成の対象とすることが相当といえる活動につき、本件助成金を交付すると当該活動に係る表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されることを理由とする交付の拒否が広く行われるとすれば、公益がそもそも抽象的な概念であって助成対象活動の選別の基準が不明確にならざるを得ないことから、助成を必要とする者による交付の申請や助成を得ようとする者の表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性がある。このような事態は、本件助成金の趣旨ないし被上告人の目的を害するのみならず、芸術家等の自主性や創造性をも損なうものであり、憲法21条1項による表現の自由の保障の趣旨に照らしても、看過し難いものということができる。
    • 助成金の交付に係る判断において、これを交付するとその対象とする活動に係る表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されるということを消極的な考慮事情として重視し得るのは、当該公益が重要なものであり、かつ、当該公益が害される具体的な危険がある場合に限られるものと解するのが相当である。

前条:
日本国憲法第20条
【信教の自由・政教分離】
日本国憲法
第3章 国民の権利及び義務
次条:
日本国憲法第22条
【居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由】
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