不動産登記法第25条
法学>民事法>不動産登記法>コンメンタール不動産登記法>不動産登記令>コンメンタール不動産登記規則>不動産登記事務取扱手続準則
条文
編集(申請の却下)
- 第25条
- 登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。
- 申請に係る不動産の所在地が当該申請を受けた登記所の管轄に属しないとき。
- 申請が登記事項(他の法令の規定により登記記録として登記すべき事項を含む)以外の事項の登記を目的とするとき。
- 申請に係る登記が既に登記されているとき。
- 申請の権限を有しない者の申請によるとき。
- 申請情報又はその提供の方法がこの法律に基づく命令又はその他の法令の規定により定められた方式に適合しないとき。
- 申請情報の内容である不動産又は登記の目的である権利が登記記録と合致しないとき。
- 申請情報の内容である登記義務者(第65条、第77条、第89条第1項(同条第2項(第95条第2項において準用する場合を含む)及び第95条第2項において準用する場合を含む)、第93条(第95条第2項において準用する場合を含む)又は第110条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。
- 申請情報の内容が第61条に規定する登記原因を証する情報の内容と合致しないとき。
- 第22条本文若しくは第61条の規定又はこの法律に基づく命令若しくはその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならないものとされている情報が提供されないとき。
- 第23条第1項に規定する期間内に同項の申出がないとき。
- 表示に関する登記の申請に係る不動産の表示が第29条の規定による登記官の調査の結果と合致しないとき。
- 登録免許税を納付しないとき。
- 前各号に掲げる場合のほか、登記すべきものでないときとして政令で定めるとき。
解説
編集本条の趣旨等
編集本条は、申請の却下事由及び補正について定めたものである。本条第13号の政令で定めるときについては、不動産登記令第20条に規定があり、以下のとおりである。
- 申請が不動産以外のものについての登記を目的とするとき
- 申請に係る登記をすることによって表題部所有者又は登記名義人となる者(別表の12の項申請情報欄ロに規定する被承継人及び第3条第11号ハに規定する登記権利者を除く)が権利能力を有しないとき
- 申請が不動産登記法第32条・第41条・第56条・第73条第2項又は第3項・第80条第3項・第92条の規定により登記することができないとき
- 申請が1個の不動産の一部についての登記(承役地についてする地役権の登記を除く)を目的とするとき
- 申請に係る登記の目的である権利が他の権利の全部又は一部を目的とする場合において、当該他の権利の全部又は一部が登記されていないとき
- 同一の不動産に関し同時に2以上の申請がされた場合(不動産登記法第19条第2項の規定により同時にされたものとみなされるときを含む)において、申請に係る登記の目的である権利が相互に矛盾するとき
- 申請に係る登記の目的である権利が同一の不動産について既にされた登記の目的である権利と矛盾するとき
- 上記に掲げるもののほか、申請に係る登記が民法その他の法令の規定により無効とされることが申請情報もしくは添付情報又は登記記録から明らかであるとき
却下事由に該当するものの例
編集本条の規定に基づくものについては例えば「第1号関係」と、不動産登記令第20条の規定に基づくものについては、「令第1号関係」のように表示し、具体例を以下に示す。
- 第1号関係
- 公有水面埋立地につき、所属するべき市区町村が定まっていないもの(1955年(昭和30年)5月17日民甲930号回答・通達)
- 第2号関係
- 入会権の登記(1901年(明治34年)4月15日民刑434号回答)
- 違約金の定めを登記事項とする抵当権の設定の登記(1969年(昭和34年)7月25日民甲1567号回答・通達)
- 第3号関係
- 重複した表題登記(1962年(昭和37年)10月4日民甲2820号回答・通達)
- 第5号関係
- 登記原因を「仮登記仮処分命令」とした所有権移転請求権の仮登記(1962年(昭和37)年5月12日民甲1321回答)
- 電子申請(不動産登記規則第1条第3号参照。以下同じ)による申請情報で、電子署名が行われていないもの(2005年(平成17年)2月25日民二457号通達第2-2(5)エ)
- 第6号関係
- 競売申立記入(現差押)登記後床面積の更正又は分割の登記がなされた後の、申立記入当時の不動産の表示での競落(現売却決定)による所有権の移転の登記(1954年(昭和29)年7月27日民甲1568電報回答)
- 第7号関係
- 被相続人名義の不動産につき、相続人を登記義務者とする処分の禁止の登記(1964年(昭和39年)5月14日民甲1759号回答)
- 第8号関係
- 登記原因証明情報に記載のある利息を、登記申請情報に記載しない抵当権設定登記(1967年(昭和42年)2月24日民三301号回答)
- 第9号関係
- 親権者と、その親権に服する数人の子全員のために選任された1人の特別代理人との間でされた遺産分割協議による相続の登記(1955年(昭和30年)6月18日民甲1264号電報回答・通達)
- 仮登記後に登記をした第三者の承諾証明情報を添付しないでする仮登記の本登記(1965年(昭和40年)12月25日民甲3711号回答)
- 第11号関係
- 地積の更正の登記につき、実地調査の結果、境界を確認することができないもの(1963年(昭和38年)1月21日民甲129号回答)
- 令第1号関係
- 橋梁の登記(1899年(明治32年)10月23日民刑1895号回答)
- 令第2号関係
- 権利能力なき社団を登記名義人とする登記(1948年(昭和23年)6月21日民甲1897号回答)
- 令第3号関係
- 仮登記のされている不動産の合併の登記(1960年(昭和35年)7月4日民甲1594号回答・通達)
- 令第4号関係
- 一筆の土地の一部を目的とする処分の制限の登記(1952年(昭和27年)9月19日民甲308号民事回答)
- 令第5号関係
- 所有権の一部を目的とする抵当権の設定の登記(1960年(昭和35年)6月1日民甲1340号回答・通達)
- 令第6号関係
- 同一不動産につき同時に申請された、仮登記権利者を異にする2件の所有権移転請求権の仮登記(1955年(昭和30年)4月11日民甲693号電報回答・通達)
- 令第7号関係
- 既に地上権が設定されている不動産に対する地上権の設定の登記(大判明治39年10月31日民録12輯1366頁)
- 令第8号関係
- 利息制限法に違反する利息を登記事項とする抵当権の設定の登記(1954年(昭和29年)6月28日民甲1357号通達)
- 共同相続人の一部の者のみの相続の登記(1955年(昭和30年)10月15日民甲2216号電報回答)
却下の手続き
編集登記官は、申請を却下するときは、決定書を作成して申請人ごとに交付することとされているが、代理人によって申請がされた場合は、当該代理人に交付すればよいとされている(不動産登記規則第38条第1項)。この申請の却下の決定書は、申請人に交付するもののほか、登記所に保存すべきものを1通作成しなければならない(不動産登記事務取扱手続準則(2005年(平成17年)2月25日民二456号通達)第28条第1項。以下「同準則」という)。また、却下の決定書の交付は、送付の方法によりすることができるとされている(不動産登記規則第38条第2項)。この場合において、申請人に送付した決定書の原本が所在不明等を理由として返送されたときでも、何らの措置を要せず、当該返送された決定書の原本は、当該登記の申請書(電子申請の場合は同準則第32条第3項に規定する電子申請管理用紙。以下単に「電子申請管理用紙」という)と共に申請書類つづり込み帳につづり込むこととされている(同準則第28条第5項)。
登記官は、申請を却下するときは、登記所に保存すべき決定書の原本の欄外に決定告知の年月日及びその方法を記載して登記官印を押印し、これを日記番号の順序に従って決定原本つづり込み帳につづり込むこととされている(同準則第28条第2項)。そして、受付帳に「却下」と記録し、書面申請(不動産登記規則第1条第4号参照。以下同じ)の場合は申請書に却下した旨を記載し、これを申請書類つづり込み帳につづり込むこととされており(同準則第28条第3項)、電子申請の場合は電子申請管理用紙に却下した旨を記載し、登記官印を押印することとされている(2005年(平成17年)2月25日民二457号通達第2-4(2)前段)。
登記官は、不動産登記令第4条ただし書の規定により1の申請情報によって2以上の申請がされた場合において、その一部を却下するときは、受付帳に「一部却下」と記録した上、書面申請の場合は申請書に以下に掲げる却下の区分に応じて、それぞれに定める記録をしなければならない(同準則第28条第4項)。
- 2以上の登記の目的に係る申請のうち1の登記の目的に係る申請についての却下の場合、却下に係る登記の目的についての記載の上部に、別記第43号様式による印版(縦約0.8cm・横約3.5cmの枠内に、一部却下と記載したもの)を押印し、当該登記の目的を記録すること
- 2以上の不動産のうち一部についての却下の場合、却下に係る不動産の所在の記載の上部に、別記第43号様式による印版を押印すること
登記官は、書面申請がされた場合において、申請を却下したときは、添付書面を還付することとされているが、偽造された書面その他の不正な登記の申請のために用いられた疑いがある書面については、還付しないとされている(不動産登記規則第38条第3項)。還付しなかった場合は、登記官は、申請書の適宜の余白にその理由を記載し、還付しなかった添付書面は、当該登記の申請書と共に申請書類つづり込み帳につづり込むこととされている(同準則第28条第6項)。また、捜査機関が申請書又は還付しなかった添付書面の押収をしようとするときは、これに応じることとされており、この場合には押収に係る書面の写しを作成し、当該写しに当該捜査機関の名称及び押収の年月日を記載した上、当該書面が捜査機関から返還されるまでの間、申請書類つづり込み帳につづり込むべき箇所に当該写しをつづり込むこととされている(同準則第28条第7項)。
書面申請が却下となった場合において、申請人から申請書に添付した登記識別情報通知書を還付してほしい旨の申し出があったときは、当該登記識別情報通知書を封筒に入れて封をし、とじ代に登記官の職印を契印して還付することとされており(同準則第41条第4項)、更に、申請書には登記識別情報通知書を還付した旨を記載することとされている(2005年(平成17年)2月25日民二457号通達第2-7)。
本条第10号の規定により却下する場合又は、不動産登記法第23条第1項の通知を受けるべき者から申請の内容が真実でない旨の申出があったとき又は通知を受けるべき者の所在不明若しくは受取拒絶を理由に当該通知書が返戻されたときには、期間満了日の翌日の日付をもって却下することとされている(同準則第28条第8項)。
登記申請が却下された場合、納付した登録免許税は還付される。この場合、申請人に対して還付通知がされ(同準則第128条第1項)、書面申請の場合には申請書又は登録免許税納付用紙に、電子申請の場合は電子申請管理用紙に、別記第92号様式による印版(縦約1cm・横約5cmの枠内に、還付通知済と記載されたもの)を押印し、登記官印を押印することとされている(同準則第128条第2項・2005年(平成17年)2月25日民二457号通達第2-8(2)後段)。なお、還付の通知の解説については、w:不動産登記#還付を参照。
補正
編集登記官は、申請の補正をすることができる期間を定めたときは、当該期間内は、当該補正すべき事項に係る不備を理由に当該申請を却下することができない(不動産登記規則第60条第1項)。
登記官は、電子申請についての不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた補正を認める相当期間を当該申請の申請人に告知するときは、補正を要する事項・補正期限の年月日・補正期限内に補正がされなければ申請を却下する旨・補正の方法・管轄登記所の電話番号を記録した補正コメントを作成して、法務省オンライン申請システムに掲示してすることとされている(同準則第36条第1項)。この場合において、申請人が法務省オンライン申請システムのユーザー登録において電子メールのアドレスを登録していたときは、当該アドレスにあてて、申請内容に不備があるため補正の手続を促す旨及び当該補正コメントの参照を促す電子メールが送信される(2005年(平成17年)2月25日民二457号通達第2-4(1)なお書)。
登記官は、書面申請についての不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた補正を認める相当期間を当該申請の申請人に告知するときは、電話その他の適宜の方法により、上記電子申請の場合と同じ事項を連絡してすることとされている(同準則第36条第2項)。
申請の補正は、電子申請の場合は、法務大臣の定めるところにより電子情報処理組織を使用して申請の補正をし、書面申請の場合は、登記所に提出した書面を補正し又は補正に係る書面を登記所に提出する方法によりしなければならない(不動産登記規則第60条第2項)。ただし、電子申請の場合でも、登録免許税の不足額の納付は、登録免許税納付用紙(登録免許税法第24条の2第3項及び第35条4項・同法第21条及び第22条)を用いてすることができる(2005年(平成17年)2月25日民二457号通達第2-4(2)ただし書)。
書面申請の場合において、申請書又は添付書面の不備を補正させるときは、登記官の面前でさせることとされており、当該書面が資格者代理人の作成によるものであるときは、当該資格者代理人本人に補正させることとされている(同準則第36条第3項)。
なお、申請の不備の内容が不動産登記規則第34条第1項各号に掲げる事項に関するものであるとき又は本条の却下事項に該当しないときもしくは申請情報の内容に不備があるが添付情報(公務員が職務上作成したものに限る)により補正すべき内容が明らかなとき、補正の対象とならない(同準則第36条第4項)。
補正期限内に補正されず、又は取り下げられなかった申請は、当該期限の経過後に却下することとされている(同準則第36条第5項)。
参照条文
編集- 不動産登記令第20条(登記すべきものでないとき)
- 不動産登記規則第38条(申請の却下)
- 不動産登記規則第60条(補正)
- 不動産登記事務取扱手続準則第28条(申請の却下)
- 不動産登記事務取扱手続準則第36条(補正期限の連絡等)
参考文献
編集- 河合芳光 『逐条不動産登記令』 金融財政事情研究会、2005年、119頁・120頁・122頁・383頁・397頁、ISBN 4-322-10712-5
- 小池信行・藤谷定勝監修 不動産登記実務研究会編著 『Q&A権利に関する登記の実務II 第1編総論(下)』 日本加除出版、2006年、353頁-355頁、ISBN 4-8178-3764-6
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