法学民事法民法コンメンタール民法第3編 債権 (コンメンタール民法)

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条文

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不当利得の返還義務)

第703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

解説

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本条では不当利得の一般類型たる要件と、善意の受益者の利得返還義務について規定している。不当利得の特殊類型については第705条ないし第708条に規定があり、悪意の受益者の返還義務については第704条に規定がある。

要件

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他人の給付による受益

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損失者の損失

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受益と損失の因果関係

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法律上の原因がないこと

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効果

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給付の目的物

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果実

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必要費・有益費

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参照条文

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  • 民法第248条(付合、混和又は加工に伴う償金の請求)
  • 民法第704条(悪意の受益者の返還義務等)

判例

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  1. 業務上横領、背任(最高裁判決 昭和29年11月05日)民法第192条,刑法第247条
    貯蓄信用組合理事が組合名義で組合員以外の者から貯金を受入れた場合とその金銭所有権の帰属
    貯蓄信用組合理事がその資格をもつて、組合の名において、組合に対する貯金として受入れたものである以上、たとえ、右貯金が組合員以外の者のした貯金であるが故に、組合に対する消費寄託としての法律上の効力を生じないものであるとしても、貯金の目的となつた金銭の所有権は組合に帰属する。
    • 金銭は通常物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権は特段の事情のないかぎり金銭の占有の移転と共に移転するものと解すべきであつて、金銭の占有が移転した以上、たとえ、その占有移転の原由たる契約が法律上無効であつても、その金銭の所有権は占有と同時に相手方に移転するのであつて、こゝに不当利得返還債権関係を生ずるに過ぎない。
  2. 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和35年9月20日)借地法10条(現借地借家法14条),民法第709条
    1. 建物取得後借地法10条(現借地借家法14条)の買取請求権行使までの間における敷地不法占有と損害の有無。
      借地法10条(現借地借家法14条)の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない
    2. 借地法10条(現借地借家法14条)の買取請求権行使後における敷地占有と不当利得の成否。
      借地法10条(現借地借家法14条)の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代金の支払を受けるまで右建物の引渡を拒むことができるが、これにより敷地をも占有するかぎり、敷地占有に基く不当利得としてその賃料相当額を返還する義務がある。
  3. 不当利得返還請求(最高裁判決 昭和38年12月24日)民法第189条1項
    1. 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益と民法第189条第1項の適用の有無
      銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益については、民法第189条第1項の類推適用により同人に右利益の収取権が認められる余地はない。
    2. 銀行業者が不当利得した金銭によつて得た法定利率による利息相当額以内の運用利益につき返還義務があるとされた事例
      第一項の運用利益が商事法定利率による利息相当額(臨時金利調整法所定の一箇年契約の定期預金の利率の制限内)であり損失者が商人であるときは、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が不当利得された財産から当然取得したであろうと考えられる収益の範囲内にあるものと認められるから、受益者は、善意のときであつても、これが返還義務を免れない。
    3. 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益についての返還義務の範囲
      不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益については、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が右財産から当然取得したであろうと考えられる範囲において損失があるものと解すべきであり、その範囲の収益が現存するかぎり、民法第703条により返還されるべきである。
  4. 養育料償還等請求(最高裁判決 昭和42年02月17日)民法第878条民法第879条
    過去の扶養料の求償と民法第878条および第879条
    扶養権利者を扶養してきた扶養義務者が他の扶養義務者に対して求償する場合における各自の扶養分担額は、協議がととのわないかぎり、家庭裁判所が審判で定めるべきであつて、通常裁判所が判決手続で定めることはできない。
  5. 不当利得返還請求(ブルドーザー事件)(最高裁判決 昭和45年07月16日)
    賃借中のブルドーザーの修理を依頼した者がその後無資力となつた場合と修理者のブルドーザー所有者に対する不当利得返還請求
    甲が乙所有のブルドーザーをその賃借人丙の依頼により修理した場合において、その後丙が無資力となつたため、同人に対する甲の修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、その限度において、甲は乙に対し右修理による不当利得の返還を請求することができる。
  6. 不当利得返還等請求(最高裁判決 昭和46年04月09日) 民法第91条商法第641条
    保険金受領の際差し入れられた「後日保険者に保険金支払の義務のないことが判明したときは、いつさいの責任を負い、保険者に迷惑をかけない」旨の誓約文言の効力
    火災保険の保険金を受領するにあたり、保険契約者兼被保険者が保険者に対して差し入れた「後日保険者に保険金支払の義務のないことが判明したときは、いつさいの責任を負い、保険者に迷惑をかけない」旨の誓約文言は、保険者に対し、不当利得返還義務の範囲を特約するものであつて、有効である。
  7. 金員返還請求(最高裁判決 昭和49年09月26日)
    1. 金銭を騙取又は横領された者の損失と騙取又は横領した者より債務の弁済を受けた者の利得との間に不当利得における因果関係がある場合
      甲が、乙から騙取又は横領した金銭を、自己の金銭と混同させ、両替し、銀行に預け入れ、又はその一部を他の目的のため費消したのちその費消した分を別途工面した金銭によつて補填する等してから、これをもつて自己の丙に対する債務の弁済にあてた場合でも、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認めるに足りる連結があるときは、乙の損失と丙の利得との間には、不当利得の成立に必要な因果関係があると解すべきである。
    2. 騙取又は横領した金銭により債務の弁済を受けた者の悪意又は重過失と不当利得における法律上の原因
      甲が乙から騙取又は横領した金銭により自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合において、右弁済の受領につき丙に悪意又は重大な過失があるときは、丙の右金銭の取得は、乙に対する関係においては法律上の原因を欠き、不当利得となる。
  8. 不当利得(最高裁判決 平成3年03月22日) 民事執行法第84条1項,民事執行法第85条民事執行法第89条
    債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対する抵当権者からの不当利得返還請求の可否
    抵当権者は、債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対して、その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の返還を請求することができる。
  9. 保険金返還(最高裁判決 平成3年04月26日)民法第167条1項,商法第522条,商法第641条
    商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に支払われた保険金に関する不当利得返還請求権の消滅時効期間
     法定の免責事由があるにもかかわらず、商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に保険金が支払われた場合の不当利得返還請求権の消滅時効期間は、10年である。
  10. 不当利得返還(最高裁判決 平成3年11月19日)
    1. 金銭の不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任
      金銭の交付によって生じた不当利得の利益が存しないことについては、不当利得返還請求権の消滅を主張する者が主張・立証すべきである。
    2. 不当利得者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅と返還義務の範囲
      不当利得をした者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅は、返還義務の範囲を減少させない。
  11. 不当利得金(最高裁判決 平成7年09月19日)
    建物賃借人から請け負って修繕工事をした者が賃借人の無資力を理由に建物所有者に対し不当利得の返還を請求することができる場合
    甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られる。
  12. 土地建物共有物分割等(最高裁判決 平成8年12月17日)民法第249条民法第593条民法第898条民訴法第185条
    遺産である建物の相続開始後の使用について被相続人と相続人との間に使用貸借契約の成立が推認される場合
    共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。
    • 以下の原審判断に対する判決
      自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用していない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負う。
  13. 約束手形金(最高裁判決 平成10年05月26日)民法第96条1項,民法第537条,民法第587条
    甲が丁の強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消した場合の乙から甲に対する不当利得返還請求につき甲が右給付により利益を受けなかったものとされた事例
    甲が丁の強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消したが、甲と丙との間には事前に何らの法律上又は事実上の関係はなく、甲が丁の言うままに乙に対して貸付金を丙に給付するように指示したなど判示の事実関係の下においては、乙から甲に対する不当利得返還請求について、甲が右給付によりその価額に相当する利益を受けたとみることはできない。
  14. (参考)債務不存在確認請求本訴,不当利得請求反訴事件 (最高裁判決 平成13年11月27日)
    いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合に民法565条(旧)を類推適用して売主が代金の増額を請求することの可否
    いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,売主は民法565条(旧)の類推適用を根拠として代金の増額を請求することはできない。
    • いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。しかしながら,同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから,数量指示売買において数量が超過する場合に,同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできない。
    • いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,超過分は不当利得に当たらない。
  15. 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成16年11月05日)
    「無所有共用一体社会」の実現を活動の目的としている団体に加入するに当たり全財産を出えんした者がその後同団体から脱退した場合に合理的かつ相当と認められる範囲で不当利得返還請求権を有するとされた事例
    甲が,「無所有共用一体社会」の実現を活動の目的としている団体乙に加入するに当たり,乙との約定に基づき乙に対し全財産を出えんし,その後乙から脱退した場合において,終生乙の下で生活を営むことを目的とし,これを前提として出えんをしたこと,脱退するまでの相当期間乙の下で生活をしていたこと,自己の提供する財産が乙や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で出えんをしたことなど判示の事情の下では,甲は,乙に対し,出えんした財産の総額,甲が乙の下で生活をしていた期間,その間に甲が乙から受け取った利得の総額,甲の年齢,稼働能力等の諸般の事情及び条理に照らし,甲の脱退の時点で甲への返還を肯認するのが合理的かつ相当と認められる範囲につき,不当利得返還請求権を有する。
  16. 預金払戻,不当利得返還請求事件(最高裁判決 平成17年07月11日)民法第478条,民法第899条
    銀行が相続財産である預金債権の全額を共同相続人の一部に払い戻した場合について他の共同相続人にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても当該銀行には民法703条所定の「損失」が発生するものとされた事例
    甲銀行に対し預金債権を有していた丁の死亡により,乙,丙及び戊が当該預金債権を相続したのに,甲銀行が当該預金債権の全額を乙及び丙に払い戻したこと,乙及び丙は,戊の法定相続分相当額の預金については,これを受領する権限がなかったにもかかわらず,払戻しを受けたものであり,この払戻しが債権の準占有者に対する弁済に当たるということもできないことなど判示の事情の下においては,甲銀行が戊にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても,甲銀行には民法703条所定の「損失」が発生したものというべきである。
  17. 損害賠償請求事件(最高裁判例 平成18年12月21日)民法第362条
    破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして上記賃料等の現実の支払を免れた場合において破産管財人は敷金返還請求権の質権者に対して不当利得返還義務を負うとされた事例
    破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際し,賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れた場合において,当時破産財団には上記賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,これを現実に支払うことに支障がなかったなど判示の事情の下では,破産管財人は,敷金返還請求権の質権者に対し,敷金返還請求権の発生が阻害されたことにより優先弁済を受けることができなくなった金額につき不当利得返還義務を負う。
  18. 不当利得返還請求事件(最高裁判決 平成19年03月08日)
    法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者が利得した物を第三者に売却処分した場合に負う不当利得返還義務の内容
    法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者は,利得した物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負う。
  19. 不当利得返還等請求事件(最高裁判決 平成21年01月22日)民法第166条1項,利息制限法第1条1項
    継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合における,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点
    継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する。

前条:
民法第702条
(管理者による費用の償還請求等)
民法
第3編 債権
第4章 不当利得
次条:
民法第704条
(悪意の受益者の返還義務等)
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