ガリア戦記 第3巻
C IVLII CAESARIS COMMENTARIORVM BELLI GALLICI
LIBER TERTIVS
ガリア戦記 第3巻 目次 | |
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アルプス・オクトードゥールスの戦い: |
01節 |
02節 |
03節 |
04節 |
05節 |
06節 |
はじめに
編集コラム「ルカ会談」
編集- Luca Conference(英語記事)などを参照。
- 伝記作家プルータルコスによれば[1]、カエサルはベルガエ人との戦いを成し遂げると、前年に続いてパドゥス川〔Padus ポー川〕流域で越冬しながら、ローマ政界への政治工作を続けた。例えば、カエサルを後援者とする選挙の立候補者たちが有権者を買収するための金銭をばらまいていた。ガッリア人捕虜を奴隷商人に売り払って得た莫大な金銭で。その結果、カエサルの金銭で当選した者たちの尽力で、属州総督カエサルへの新たな資金の支給が可決されるという具合であった。
そのうち、多くの名門貴族たちがカエサルに面会するためにルカ(Luca)の街へやって来た。
こうした中、BC56年の4月に、カエサルと非公式の盟約(三頭政治)を結んでいたクラッススとポンペイウスもルカを訪れて、三者による会談が行われた。
首都ローマでは、三頭政治を後ろ盾とする平民派のクロディウス(Publius Clodius Pulcher)が民衆に暴動をけしかけ、門閥派のミロ(Titus Annius Milo)と激しく抗争するなど、騒然としていた。このクロディウスの暴力的な手法は、クラッススとポンペイウスの関係を傷つけた。また、カエサルのガッリアでの輝かしい勝利に、二人とも不満を感じていた。このように三頭政治は綻び出していたのだ。
三人は三頭政治を延長することで合意した。カエサルは、クラッススとポンペイウスが翌年(BC55年)の執政官に立候補すること、3属州の総督であるカエサルの任期がさらに5年間延長されること、などを求めた。
会談の結果、任期が大幅に延長されたカエサルの野望は、ガッリアに止まらず、ゲルマーニアやブリタンニアの征服へと向かっていく。一方、再び執政官になった二人は、パルティアを攻略するためにクラッススがシリア総督になることを決めるが、これはクラッススの命運とともに三頭政治の瓦解、カエサルとポンペイウスの関係悪化を招来することになる。
アルプス・オクトードゥールスの戦い
編集- Battle of Octodurus(英語記事)Bataille d'Octodure(仏語記事)などを参照。
1節
編集ガルバとローマ第12軍団が、ロダヌス川渓谷のオクトードゥールスにて冬営する
- カエサルが、ガルバと軍団・騎兵をアルプス地方へ派兵
- Cum in Italiam proficisceretur Caesar,
- カエサルは、イタリア〔ガッリア・キサルピーナ〕に出発していたときに、
- Servium Galbam cum legione duodecima(XII.) et parte equitatus
- セルウィウス・ガルバを第12軍団および騎兵隊の一部とともに、
- in Nantuates, Veragros Sedunosque misit,
- ナントゥアーテース族・ウェラーグリー族・セドゥーニー族(の領土)に派遣した。
- qui a finibus Allobrogum et lacu Lemanno et flumine Rhodano ad summas Alpes pertinent.
- Causa mittendi fuit,
- 派遣の理由は(以下のこと)であった:
- quod iter per Alpes,
- アルプスを通る道は、
- quo magno cum periculo magnisque cum portoriis mercatores ire consuerant,
- 大きな危険と多額の関税を伴って商人たちが旅することが常であったので、
- patefieri volebat.
- (カエサルは道が)開かれることを望んでいたのだ。
- (訳注:現在のグラン・サン・ベルナール峠を通ってスイスとイタリアを結ぶ道のことで、
帝制初期にアウグストゥスによって街道が敷設された。
かつてハンニバルが越えたのは諸説あるが、この道であった可能性もある。
ローマ人がこの地に移入・育成した軍用犬は現在のセント・バーナード犬。)
- (訳注:現在のグラン・サン・ベルナール峠を通ってスイスとイタリアを結ぶ道のことで、
- (カエサルは道が)開かれることを望んでいたのだ。
- Huic permisit, si opus esse arbitraretur, uti in his locis legionem hiemandi causa conlocaret.
- 彼〔ガルバ〕に、もし必要と思われるならば、この地に軍団を冬営するために宿営させることを許可した。
- ガルバが、諸部族を攻略して、軍団の冬営を決める
- Galba, secundis aliquot proeliis factis
- ガルバは、いくつかの優勢な戦いをして、
- castellisque compluribus eorum expugnatis,
- 彼ら〔ガッリア諸部族〕の多くの砦が攻略されると、
- missis ad eum undique legatis
- 彼〔ガルバ〕のもとへ四方八方から(諸部族の)使節たちが遣わされ、
- obsidibusque datis et pace facta,
- 人質が供出されて、講和がなされたので、
- constituit
- (ガルバは、以下のことを)決めた。
- cohortes duas in Nantuatibus conlocare
- 2個
歩兵大隊 をナントゥアーテース族(の領土)に宿営させること、
- 2個
- et ipse cum reliquis eius legionis cohortibus
- (ガルバ)自身はその軍団の残りの
歩兵大隊 とともに、
- (ガルバ)自身はその軍団の残りの
- in vico Veragrorum, qui appellatur Octodurus, hiemare;
- ウェラーグリー族のオクトードゥールス村
- qui vicus positus in valle, non magna adiecta planitie,
- その村は、さほど大きくない平地に付随した渓谷の中に位置し、
- altissimis montibus undique continetur.
- とても高い山々で四方八方を囲まれている。
- Cum hic in duas partes flumine divideretur,
- alteram partem eius vici Gallis [ad hiemandum] concessit,
- その村の一方の部分をガッリア人に [越冬するために] 譲った。
- alteram vacuam ab his relictam cohortibus attribuit.
- もう一方の彼ら〔ガッリア人〕により空にされた方を、残りの
歩兵大隊 に割り当てた。
- もう一方の彼ら〔ガッリア人〕により空にされた方を、残りの
- Eum locum vallo fossaque munivit.
- その地を堡塁と塹壕で守りを固めた。
コラム「ガルバの派遣とカティリーナ事件」
編集- セルウィウス・スルピキウス・ガルバにアルプス派兵を指揮させた理由について、カエサルは記していない。
BC63年~BC62年に、ローマの高官だったルーキウス・セルギウス・カティリーナ(Lucius Sergius Catilina)がクーデタを企てるという大事件があった。キケローが『カティリナ弾劾演説』で糾弾し、カエサルが事件の黒幕ではないかと取り沙汰された(スエートニウス[3])。
BC63年の法務官ガーイウス・ポンプティーヌスがキケローを助けて事件を捜査し、アッロブロゲース族からカティリーナへ宛てた手紙を調べた。BC62年にポンプティーヌスは前法務官としてガッリア総督となり、事件に関与していたアッロブロゲース族を平定した。このとき、副官としてポンプティーヌスを助けてアッロブロゲース族を攻めたのがガルバであった。総督がカエサルに替わっても、ガルバは副官として留任し、アッロブロゲース族の近隣部族の鎮定に努めていたわけである。
ポンプティーヌスは、一部の元老院議員の反対で、戦勝将軍の権利である凱旋式ができなかった。これを不満に思っていたガルバは、BC54年に法務官になると尽力して、その年にポンプティーヌスの凱旋式を行なうことに成功した。
2節
編集ガッリア人が再び挙兵して周囲の高峰を押さえ、第12軍団の冬営地を包囲
- Cum dies hibernorum complures transissent frumentumque eo comportari iussisset,
- 冬営の多くの日々が過ぎ去って、穀物がそこに運び集められることを(ガルバが)命じていたときに、
- subito per exploratores certior factus est
- 突然に(以下のことが)偵察隊により報告された。
- ex ea parte vici, quam Gallis concesserat, omnes noctu discessisse
- ガッリア人たちに譲っていた村の一部から、皆が夜に立ち退いており、
- montesque, qui impenderent, a maxima multitudine Sedunorum et Veragrorum teneri.
- Id aliquot de causis acciderat,
- いくつかの理由から、起こっていたことには、
- ut subito Galli belli renovandi legionisque opprimendae consilium caperent:
- 突如としてガッリア人が、戦争を再開して(ローマ人の)軍団を急襲する作戦計画を立てたのだ。
- 第1の理由:ガルバの第12軍団は、兵が割かれていて寡勢である
- primum, quod legionem neque eam plenissimam detractis cohortibus duabus
- et compluribus singillatim, qui commeatus petendi causa missi erant, absentibus,
- 多くの者たちが一人ずつ、糧食を求めるために派遣されていて不在である、──
- propter paucitatem despiciebant;
- (その第12軍団を)少数であるゆえに、見下していたからだ。
- 第2の理由:渓谷にいるローマ人は、山から攻め降りて来るガッリア人の飛道具を受け止められまい
- tum etiam, quod propter iniquitatem loci,
- それからさらに(ローマ勢が冬営している渓谷の)地の利の無さゆえ、
- cum ipsi ex montibus in vallem decurrerent et tela conicerent,
- (ガッリア勢)自身が山々から谷間に駆け下りて飛道具を投じたときに、
- ne primum quidem impetum suum posse sustineri existimabant.
- 自分たちの最初の襲撃を(ローマ勢が)持ちこたえることができない、と判断していたので。
- 第3の理由:人質を取られて、属州に併合される前にローマ人を討て
- Accedebat, quod suos ab se liberos abstractos obsidum nomine dolebant,
- 加えて、人質の名目で自分たちから引き離されている自分の子供たちのことを嘆き悲しんでいたので、
- et Romanos non solum itinerum causa, sed etiam perpetuae possessionis
- かつ、ローマ人たちは道(の開通)のためだけでなく、永続的な領有のためにさえも
- culmina Alpium occupare conari
- アルプスの頂上を占領すること、
- et ea loca finitimae provinciae adiungere
- および(ローマの)属州に隣接する当地を併合することを企てている、
- sibi persuasum habebant.
- と(ガッリア人たちは)確信していたのである。
3節
編集ガルバが軍議を召集し、策を募る
- His nuntiis acceptis Galba,
- ガルバは、これらの報告を受け取ると、
- cum neque opus hibernorum munitionesque plene essent perfectae
- 冬営の普請や防塁構築も十分に完成していなかったし、
- neque de frumento reliquoque commeatu satis esset provisum,
- 穀物や他の糧秣も十分に調達されていなかったので、
- quod deditione facta obsidibusque acceptis
- ── というのも、降伏がなされて、人質が受け取られ、
- nihil de bello timendum existimaverat,
- 戦争について恐れるべきことは何もない、と判断していたためであるが、──
- consilio celeriter convocato sententias exquirere coepit.
- 軍議を速やかに召集して、意見を求め始めた。
- 軍議
- Quo in consilio,
- その軍議において、
- cum tantum repentini periculi praeter opinionem accidisset
- これほどの不意の危険が、予想に反して起こっていたので、
- ac iam omnia fere superiora loca multitudine armatorum completa conspicerentur
- かつ、すでにほぼすべてのより高い場所が、武装した大勢の者たちで満たされていることが、見られていたので、
- neque subsidio veniri
- 救援のために(援軍が)来られることもなかったし、
- neque commeatus supportari interclusis itineribus possent,
- 糧秣が運び込まれることも、道が遮断されているので、できなかったので、
- prope iam desperata salute non nullae eius modi sententiae dicebantur,
- すでにほぼ身の安全に絶望していた幾人かの者たちの以下のような意見が述べられていた。
- ut impedimentis relictis eruptione facta
- 輜重を残して、出撃して、
- isdem itineribus quibus eo pervenissent ad salutem contenderent.
- そこへやって来たのと同じ道によって、安全なところへ急ぐように、と。
- (訳注:レマンヌス〔レマン湖〕湖畔を通ってアッロブロゲース族領へ撤収することであろう。)
- そこへやって来たのと同じ道によって、安全なところへ急ぐように、と。
- Maiori tamen parti placuit,
- しかしながら、大部分の者が賛成したのは、
- hoc reservato ad extremum consilio
- この考え(計画)を最後まで保持しておいて、
- interim rei eventum experiri et castra defendere.
- その間に、事の結果を吟味して、陣営を守備すること、であった。
4節
編集ガッリア勢がガルバの陣営を急襲し、寡兵のローマ勢は劣勢に陥る
- Brevi spatio interiecto,
- (敵の来襲まで)短い間が介在しただけだったので、
- vix ut iis rebus quas constituissent conlocandis atque administrandis tempus daretur,
- 決めておいた物事を配置したり遂行するための時間が、ほとんど与えられないほどであった。
- hostes ex omnibus partibus signo dato decurrere,
- 敵方〔ガッリア勢〕があらゆる方向から、号令が出されて、駆け下りて来て、
- lapides gaesaque in vallum conicere.
- 石や投槍を堡塁の中に投げ込んだ。
- Nostri primo integris viribus fortiter propugnare
- 我が方〔ローマ勢〕は、当初、体力が損なわれていないうちは勇敢に応戦して、
- neque ullum frustra telum ex loco superiore mittere,
- 高所から、いかなる飛道具も無駄に投げることはなかった。
- et quaecumque pars castrorum nudata defensoribus premi videbatur,
- 陣営のどの部分であれ、防戦者たちがはがされて押され気味であることと思われれば、
- eo occurrere et auxilium ferre,
- (ローマ勢が)そこへ駆け付けて、支援した。
- 兵の多寡が、ローマ勢を追い込む
- sed hoc superari
- しかし、以下のことにより(ローマ勢は)打ち破られた。
- quod diuturnitate pugnae hostes defessi proelio excedebant,
- ──戦いが長引いたことにより、疲れ切った敵たちは戦闘から離脱して、
- alii integris viribus succedebant;
- 体力が損なわれていない他の者たちが交代していたのだ。──
- quarum rerum a nostris propter paucitatem fieri nihil poterat,
- 我が方〔ローマ勢〕は少数であるゆえに、このような事〔兵の交代〕は何らなされ得なかった。
- ac non modo defesso ex pugna excedendi,
- 疲弊した者にとっての戦いから離脱することの(機会)のみならず、
- sed ne saucio quidem eius loci ubi constiterat relinquendi ac sui recipiendi facultas dabatur.
- 負傷した者にとってさえも、その持ち場を放棄することや(体力を)回復することの機会も与えられなかったのだ。
5節
編集最後の土壇場で説得されたガルバが、疲労回復後の突撃に命運を賭ける
- Cum iam amplius horis sex continenter pugnaretur,
- すでに6時間より多く引き続いて戦われており、
- (訳注:古代ローマの不定時法では、冬の日中の半日ほどである)
- すでに6時間より多く引き続いて戦われており、
- ac non solum vires sed etiam tela nostros deficerent,
- 活力だけでなく飛道具さえも我が方〔ローマ勢〕には不足していたし、
- atque hostes acrius instarent
- 敵方〔ガッリア勢〕はより激しく攻め立てていて、
- languidioribusque nostris
- 我が方〔ローマ勢〕が弱り切っており、
- vallum scindere et fossas complere coepissent,
- (ガッリア勢は)防柵を破却したり、塹壕を埋め立てたりし始めていたし、
- resque esset iam ad extremum perducta casum,
- 戦況はすでに最後の土壇場に陥っていたので、
- 二人の軍団首脳バクルスとウォルセーヌスが、ガルバに敵中突破を説く
- P. Sextius Baculus, primi pili centurio,
首位百人隊長 プーブリウス・セクスティウス・バクルス- (訳注:Publius Sextius Baculus などの記事を参照。)
- quem Nervico proelio compluribus confectum vulneribus diximus,
- et item C. Volusenus, tribunus militum, vir et consilii magni et virtutis,
- ad Galbam accurrunt
- ガルバのもとへ急いで来て、
- atque unam esse spem salutis docent, si eruptione facta extremum auxilium experirentur.
- 身の安全のただ一つの希望は、出撃をして最後の救済策を試みるかどうかだ、と説く。
- Itaque convocatis centurionibus
- こうして、
百人隊長 たちが召集されて、
- こうして、
- celeriter milites certiores facit,
- (ガルバが以下のことを)速やかに兵士たちに通達する。
- paulisper intermitterent proelium
- しばらく戦いを中断して
- ac tantummodo tela missa exciperent seque ex labore reficerent,
- ただ投げられた飛道具を遮るだけとし、疲労から(体力を)回復するようにと、
- post dato signo ex castris erumperent,
- 与えられた号令の後に陣営から出撃するように、
- atque omnem spem salutis in virtute ponerent.
- 身の安全のすべての希望を武勇に賭けるように、と。
6節
編集第12軍団がガッリア勢を破るが、ガルバはオクトードゥールスでの冬営を断念する
- Quod iussi sunt faciunt,
- (ローマ兵たちは)命じられたことをなして、
- ac subito omnibus portis eruptione facta
- 突然に(陣営の)すべての門から出撃がなされ、
- neque cognoscendi quid fieret
- 何が生じたのかを知ることの(機会)も
- neque sui colligendi hostibus facultatem relinquunt.
- (自軍の兵力を)集中することの機会も、敵方に残さない。
- Ita commutata fortuna
- こうして武運が変転して、
- eos qui in spem potiundorum castrorum venerant undique circumventos intercipiunt,
- (ローマ人の)陣営を占領することを期待してやって来ていた者たちを、至る所で包囲して
屠 る。
- (ローマ人の)陣営を占領することを期待してやって来ていた者たちを、至る所で包囲して
- et ex hominum milibus amplius XXX{triginta},
- 3万より多い人間が
- quem numerum barbarorum ad castra venisse constabat,
- それだけの数の蛮族が(ローマ)陣営のところへ来ていたのは、確実であったが、
- plus tertia parte interfecta
- 3分の1より多く(の者)が
殺戮 されて、
- 3分の1より多く(の者)が
- reliquos perterritos in fugam coiciunt
- (ローマ勢は)残りの者たちを怖気づかせて敗走に追いやり、
- ac ne in locis quidem superioribus consistere patiuntur.
- (ガッリア勢は)より高い場所にさえ留まることさえ許されない。
- Sic omnibus hostium copiis fusis armisque exutis
- そのように敵方の全軍勢が撃破されて、武器が放棄されて、
- se intra munitiones suas recipiunt.
- (ローマ勢は)自分たちの防塁の内側に撤収する。
- ガルバがオクトードゥールスでの冬営を断念して、同盟部族領に撤退する
- Quo proelio facto,
- この戦いが果たされると、
- quod saepius fortunam temptare Galba nolebat
- ──ガルバは、よりたびたび武運を試すことを欲していなかったし、
- atque alio se in hiberna consilio venisse meminerat,
- 冬営に他の計画のために来ていたことを思い出していたが、
- aliis occurrisse rebus videbat,
- 別の事態に遭遇したのを見ていたので、──
- maxime frumenti commeatusque inopia permotus
- とりわけ穀物や糧秣の欠乏に揺り動かされて、
- postero die omnibus eius vici aedificiis incensis
- 翌日にその村のすべての建物が焼き討ちされて、
- in provinciam reverti contendit,
- (ガルバは)属州〔ガッリア・キサルピーナ〕に引き返すことを急ぐ。
- ac nullo hoste prohibente aut iter demorante
- いかなる敵によって妨げられることも、あるいは行軍が遅滞させられることもなく、
- incolumem legionem in Nantuates,
- inde in Allobroges perduxit ibique hiemavit.
- そこから、アッロブロゲース族(の領土)に連れて行き、そこで冬営した。
大西洋岸ウェネティー族の造反
編集- 関連記事:モルビアン湾の海戦、fr:Guerre des Vénètes 等を参照せよ。
7節
編集新たな戦争の勃発
- His rebus gestis
- これらの戦役が遂げられて、
- cum omnibus de causis Caesar pacatam Galliam existimaret,
- カエサルが、あらゆる状況についてガッリアは平定された、と判断していたときに、
- superatis Belgis,
- (すなわち)ベルガエ人は征服され、
- (訳注:第2巻で述べられたこと)
- (すなわち)ベルガエ人は征服され、
- expulsis Germanis,
- victis in Alpibus Sedunis,
- atque ita inita hieme in Illyricum profectus esset,
- こうして冬の初めに(カエサルが)イッリュリクムに出発していたときに、
- quod eas quoque nationes adire et regiones cognoscere volebat,
- ──というのは、これら各部族を訪れて諸地方を知ることを欲していたからであるが、──
- (訳注:属州総督の職務として、巡回裁判を行う必要があったためであろう)
- ──というのは、これら各部族を訪れて諸地方を知ることを欲していたからであるが、──
- subitum bellum in Gallia coortum est.
- 突然の戦争がガッリアで勃発したのである。
- 戦争の背景
- Eius belli haec fuit causa:
- その戦争の原因は、以下の通りであった。
- P. Crassus adulescens cum legione septima(VII.)
- プーブリウス・クラッスス青年は、第7軍団とともに
- proximus mare Oceanum in Andibus hiemarat.
- Is, quod in his locis inopia frumenti erat,
- 彼〔クラッスス〕は、これらの場所においては穀物の欠乏があったので、
- praefectos tribunosque militum complures in finitimas civitates
- frumenti (commeatusque petendi) causa dimisit;
- 穀物や糧食を求めるために送り出した。
- quo in numero est T. Terrasidius missus in Esuvios,
- M. Trebius Gallus in Coriosolităs,
- マールクス・トレビウス・ガッルスは、コリオソリテース族のところに(遣わされ)、
- (訳注:it:Marco Trebio Gallo 等参照)
- (訳注:コリオソリテース族 Coriosolites は、クーリオソリーテース Curiosolites などとも呼ばれ、
現在のコート=ダルモール県コルスール(Corseul)の辺りにいたらしい。)
- マールクス・トレビウス・ガッルスは、コリオソリテース族のところに(遣わされ)、
- Q. Velanius cum T. Sillio in Venetos.
- クゥイーントゥス・ウェラーニウスはティトゥス・シーッリウスとともに、ウェネティー族のところに(遣わされた)。
- (訳注:it:Quinto Velanio, it:Tito Silio 等参照。)
- (訳注:ウェネティー族 Veneti (Gaul) は、アルモリカ南西部、現在のモルビアン県辺りにいた。)
- クゥイーントゥス・ウェラーニウスはティトゥス・シーッリウスとともに、ウェネティー族のところに(遣わされた)。
8節
編集ウェネティー族らの動き
- 沿海地方を主導するウェネティー族
- Huius est civitatis longe amplissima auctoritas omnis orae maritimae regionum earum,
- この部族〔ウェネティー族〕の
影響力 は、海岸のその全地方の中でずば抜けて大きい。
- この部族〔ウェネティー族〕の
- quod et naves habent Veneti plurimas,
- ── というのは、ウェネティー族は、最も多くの船舶を持っており、
- quibus in Britanniam navigare consuerunt,
- それら〔船団〕によってブリタンニアに航海するのが常であり、
- et scientia atque usu rerum nauticarum ceteros antecedunt
- かつ海事の知識と経験において他の者たち〔諸部族〕をしのいでおり、
- et in magno impetu maris atque aperto <Oceano>
- paucis portibus interiectis,
- わずかの港が介在していて、
- quos tenent ipsi,
- 彼ら自身〔ウェネティー族〕がそれら〔港湾〕を制していて、
- omnes fere qui eo mari uti consuerunt, habent vectigales.
- その海を利用するのが常であった者たち〔部族〕ほぼすべてを、貢税者としていたのだ。──
- ウェネティー族が、クラッススの使節たちを抑留する
- Ab his fit initium retinendi Sillii atque Velanii,
- 彼ら〔ウェネティー族〕によって、シーッリウスとウェラーニウスを拘束することが皮切りとなる。
- (訳注:2人は、前節(#7節)でウェネティー族への派遣が述べられた使節)
- 彼ら〔ウェネティー族〕によって、シーッリウスとウェラーニウスを拘束することが皮切りとなる。
- et si quos intercipere potuerunt
- 何らかの者たちを捕えることができたのではないか、と。
- (訳注:下線部は、β系写本だけの記述で、α系写本にはない。)
- 何らかの者たちを捕えることができたのではないか、と。
- quod per eos suos se obsides, quos Crasso dedissent, recuperaturos existimabant.
- というのは、彼らを介して、クラッススに差し出されていた己の人質たちを取り戻すことができると考えていたのである。
- Horum auctoritate finitimi adducti,
- 彼ら〔ウェネティー族〕の影響力によって、近隣の者たち〔諸部族〕が動かされて、
- ut sunt Gallorum subita et repentina consilia,
- ──ガッリア人の判断力というものは、思いがけなく性急なものであるが、──
- eadem de causa Trebium Terrasidiumque retinent
- 同じ理由によりトレビウスとテッラシディウスを拘束する。
- (訳注:トレビウスは、前節でコリオソリテース族に派遣された。
テッラシディウスは、前節でエスウィイー族に派遣された。)
- (訳注:トレビウスは、前節でコリオソリテース族に派遣された。
- 同じ理由によりトレビウスとテッラシディウスを拘束する。
- et celeriter missis legatis
- そして速やかに使節が遣わされて、
- per suos principes inter se coniurant
- 自分らの領袖たちを通して互いに誓約する。
- nihil nisi communi consilio acturos eundemque omnes fortunae exitum esse laturos,
- 合同の軍議なしには何も実施しないであろうし、皆が命運の同じ結果に耐えるであろう、と。
- reliquasque civitates sollicitant,
- 残りの諸部族を扇動する。
- ut in ea libertate quam a maioribus acceperint, permanere quam Romanorum servitutem perferre malint.
- ローマ人への隷属を辛抱することより、むしろ先祖から引き継いでいた自由に留まることを欲すべし、と。
- Omni ora maritima celeriter ad suam sententiam perducta
- すべての海岸(の諸部族)が速やかに自分たち〔ウェネティー族〕の見解に引き込まれると、
- communem legationem ad Publium Crassum mittunt,
- 共同の使節をプーブリウス・クラッススのもとへ遣わす。
- si velit suos recuperare, obsides sibi remittat.
- もし味方の者たち〔ローマ人〕を取り戻すことを望むならば、自分たち〔諸部族〕の人質たちを返すように、と。
9節
編集カエサル到着、ウェネティー族らの作戦と開戦準備
- カエサルが、海戦の準備を手配してから、沿岸地域に急ぐ
- Quibus de rebus Caesar a Crasso certior factus,
- 以上の事について、カエサルはクラッススにより報知されると、
- quod ipse aberat longius,
- (カエサル)自身は非常に遠くに離れていたので、
- (訳注:#ルカ会談などローマへの政界工作のために属州にいたと考えられている。)
- (カエサル)自身は非常に遠くに離れていたので、
- naves interim longas aedificari in flumine Ligeri, quod influit in Oceanum,
- その間に軍船が
大洋〔大西洋〕 に流れ込むリゲル川〔ロワール川〕にて建造されること、- (訳注:艦隊 classis の主力として戦うガレー船は「長船」navis longa と呼ばれていた。
これに対して、軍需物資を運搬する輸送船は navis actuaria と呼ばれていた。)
- (訳注:艦隊 classis の主力として戦うガレー船は「長船」navis longa と呼ばれていた。
- その間に軍船が
- remiges ex provincia institui,
漕ぎ手 が属州〔ガッリア・トランサルピーナ〕から採用されること、
- nautas gubernatoresque comparari iubet.
水夫 や操舵手 が徴募されること、を命じる。- (訳注:船尾の「
舵 」が発明されたのは漢代の中国であって、古代西洋の船に舵 はない。
船の操舵手は「舵櫂 」(steering oar) という櫂の一種を用いて操船したらしい。)
- (訳注:船尾の「
- His rebus celeriter administratis ipse,
- これらの事柄が速やかに処理されると、(カエサル)自身は
- cum primum per anni tempus potuit, ad exercitum contendit.
- 年のできるだけ早い時季に、軍隊のもとへ急いだ。
- ウェネティー族らが、使節団拘留の重大さを勘案して、海戦の準備を進める
- Veneti reliquaeque item civitates cognito Caesaris adventu
- ウェネティー族と残りの部族もまた、カエサルの到着を知り、
- <et de recipiendis obsidibus spem se fefellise> certiores facti,
- <かつ人質を取り戻すという希望に惑わされたことを> 知らされて、
- simul quod quantum in se facinus admisissent intellegebant,
- 同時に、どれほど大それた行為を自分たちが侵していたかを判断していたので、
- [legatos, quod nomen ad omnes nationes sanctum inviolatumque semper fuisset,
- ──(すなわち)あらゆる種族のもとでその名が神聖かつ不可侵の、使節たちが
- retentos ab se et in vincula coniectos,]
- 自分たちによって拘束され、鎖につながれていたわけだが、──
- pro magnitudine periculi bellum parare
- 危機の重大さに見合う戦争を準備すること、
- et maxime ea quae ad usum navium pertinent providere instituunt,
- とりわけ船団を運用するために役立つところのものを調達すること、を着手する。
- hoc maiore spe quod multum natura loci confidebant.
- 地勢を大いに信じていた点に大きな期待をして。
- Pedestria esse itinera concisa aestuariis,
- (ローマ勢の)歩兵の行軍路は入江で遮断されるし、
- navigationem impeditam propter inscientiam locorum paucitatemque portuum sciebant,
- 土地の不案内と港の少なさのゆえに航行が妨げられることを(ウェネティー族らは)知っていた。
- neque nostros exercitus propter inopiam frumenti diutius apud se morari posse confidebant;
- 穀物の欠乏のゆえに、我が軍〔ローマ軍〕がより長く彼らのもとに留まることができないと(ウェネティー族らは)信じ切っていた。
- ac iam ut omnia contra opinionem acciderent,
- やがて、すべてのことが予想に反して生じたとしても、
- tamen se plurimum navibus posse, quam Romanos neque ullam facultatem habere navium,
- けれども自分たち〔ウェネティー族ら〕は艦船において、艦船の備えを何ら持たないローマ人よりも大いに優勢であり、
- neque eorum locorum, ubi bellum gesturi essent, vada, portus, insulas novisse;
- 戦争を遂行しようとしているところの浅瀬・港・島に(ローマ人は)不案内であった(と信じ切っていた)。
- ac longe aliam esse navigationem in concluso mari atque in vastissimo atque apertissimo Oceano perspiciebant.
- His initis consiliis
- この作戦計画が決められると、
- oppida muniunt,
城塞都市 の防備を固め、
- frumenta ex agris in oppida comportant,
- 穀物を耕地から
城塞都市 に運び込み、
- 穀物を耕地から
- naves in Venetiam, ubi Caesarem primum (esse) bellum gesturum constabat, quam plurimas possunt, cogunt.
- カエサルが最初の戦争を遂行するであろうことが明白であったところのウェネティー族領に、ありったけの艦船を集める。
- Socios sibi ad id bellum
- この戦争のために(ウェネティー族は)自分たちのもとへ同盟者として
- Osismos, Lexovios, Namnetes, Ambiliatos, Morinos, Diablintes, Menapios adsciscunt;
- auxilia ex Britannia, quae contra eas regiones posita est, arcessunt.
- 援軍を、この地域の向かい側に位置するブリタンニアから呼び寄せた。
- (訳注:援軍を出したという口実のもと、翌年カエサルがブリタンニアに侵攻することになる。)
- 援軍を、この地域の向かい側に位置するブリタンニアから呼び寄せた。
10節
編集カエサルの開戦への大義名分
- Erant hae difficultates belli gerendi, quas supra ostendimus,
- 上で指摘したような、戦争を遂行することの困難さがあった。
- sed tamen multa Caesarem ad id bellum incitabant:
- にもかかわらず、多くのことがカエサルをその戦争へと駆り立てていたのだ。
- iniuria retentorum equitum Romanorum,
- ①ローマ人の騎士〔騎士階級の者〕たちが拘束されることの無法さ、
- rebellio facta post deditionem,
- ②降伏の後でなされた造反、
- defectio datis obsidibus,
- ③人質を供出しての謀反、
- tot civitatum coniuratio,
- ④これほど多くの部族の共謀、
- in primis ne hac parte neglecta reliquae nationes sibi idem licere arbitrarentur.
- ⑤何よりも第一に、この地方をなおざりにして、残りの種族が自分たちも同じことを許容されると思い込まないように。
- Itaque cum intellegeret
- そこで、(カエサルは以下のように)認識していたので、
- omnes fere Gallos novis rebus studere et ad bellum mobiliter celeriterque excitari,
- ①ほぼすべてのガリア人が政変を熱望して、戦争へ簡単に速やかに奮い立たせられていること、
- omnes autem homines natura libertati studere incitari et condicionem servitutis odisse,
- ②他方ですべての人間は本来的に自由を熱望することに扇動され、隷属の状態を嫌っていること、
- prius quam plures civitates conspirarent,
- 多くの部族が共謀するより前に、
- partiendum sibi ac latius distribuendum exercitum putavit.
- (カエサルは)自分にとって軍隊が分けられるべき、より広範に割り振られるべきであると考えた。
11節
編集ラビエーヌス、クラッスス、サビーヌス、ブルートゥスを前線へ派兵する
- 副官ラビエーヌスをトレウェリー族のもとへ遣わす
- Itaque T. Labienum legatum in Treveros, qui proximi flumini Rheno sunt, cum equitatu mittit.
- こうして、
副官 ティトゥス・ラビエーヌスをレーヌス川〔ライン川〕に最も近いトレーウェリー族に、騎兵隊とともに派遣する。- (訳注:Titus Labienus は、『ガリア戦記』におけるカエサルの片腕。
Treveri はローマの同盟部族だが、第5巻・第6巻で挙兵する。)
- (訳注:Titus Labienus は、『ガリア戦記』におけるカエサルの片腕。
- こうして、
- Huic mandat,
- 彼に(以下のように)命じる。
- Remos reliquosque Belgas adeat atque in officio contineat
- Germanosque, qui auxilio a Gallis arcessiti dicebantur,
- si per vim navibus flumen transire conentur, prohibeat.
- (彼らが)もし力ずくで船で川を渡ることを試みるならば、防ぐように、と。
- クラッスス青年をアクィーターニアに派遣する
- P. Crassum cum cohortibus legionariis XII(duodecim) et magno numero equitatus in Aquitaniam proficisci iubet,
- プーブリウス・クラッススには、軍団の12個
歩兵大隊 と多数の騎兵隊とともに、アクィーターニアに出発することを命じる。- (訳注:Publius Licinius Crassus、#7節から既述。)
- プーブリウス・クラッススには、軍団の12個
- ne ex his nationibus auxilia in Galliam mittantur ac tantae nationes coniungantur.
- これらの種族から援兵がガッリアに派遣され、これほど多くの諸部族が結託することがないように。
- 副官サビーヌスを3個軍団とともにアルモリカ北部へ派兵する
- Quintum Titurium Sabinum legatum cum legionibus tribus
- 副官クィーントゥス・ティトゥーリウス・サビーヌスを3個軍団とともに
- (訳注:Quintus Titurius Sabinus は第2巻5節から言及されている『ガリア戦記』前半で活躍する副官。)
- 副官クィーントゥス・ティトゥーリウス・サビーヌスを3個軍団とともに
- in Unellos(Venellos), Coriosolităs Lexoviosque mittit, qui eam manum distinendam curet.
- ウネッリー族・コリオソリテース族・レクソウィイー族に派遣して、彼らの手勢を分散させるべく配慮するように。
- ブルートゥス青年をウェネティー族領へ派兵する
- D. Brutum adulescentem classi Gallicisque navibus,
- デキムス・ブルートゥス青年に、(ローマの)艦隊とガッリア人の船団を、
- (訳注:Decimus Iunius Brutus Albinus は、カエサルの副官として活躍するが、後に暗殺に加わる。)
- デキムス・ブルートゥス青年に、(ローマの)艦隊とガッリア人の船団を、
- quas ex Pictonibus et Santonis reliquisque pacatis regionibus convenire iusserat,
- ──これら(船団)はピクトネース族・サントニー族やほかの平定された地方から集まるように命じていたものであるが、──
- praeficit et, cum primum possit, in Venetos proficisci iubet.
- (ブルートゥスに船団を)指揮させて、できるだけ早くウェネティー族(の領土)に出発することを命じる。
- Ipse eo pedestribus copiis contendit.
- (カエサル)自身は、そこへ歩兵の軍勢とともに急ぐ。
12節
編集ウェネティー族の城塞都市の地勢、海洋民の機動性
- Erant eiusmodi fere situs oppidorum,
- ut posita in extremis lingulis promunturiisque
砂嘴 や岬の先端部に位置しているので、- (訳注:lingula ⇒ lingua terrae (舌状地) ≒
砂嘴 (くちばし状の砂地)。)
- (訳注:lingula ⇒ lingua terrae (舌状地) ≒
- neque pedibus aditum haberent, cum ex alto se aestus incitavisset,
- 沖合から
潮 汐 が押し寄せて来たとき〔満潮〕に、徒歩での接近路 を持っていなかった。
- 沖合から
- quod bis accidit semper horarum XII(duodenarum) spatio,
- というのは(満潮が毎日)2度、常に12時間の間隔で起こるためである。
- neque navibus,
- 船で(のアプローチ)もなく、
- quod rursus minuente aestu naves in vadis adflictarentur.
- というのは、潮が再び減ると〔干潮〕、船団が浅瀬で損傷してしまうためである。
- Ita utraque re oppidorum oppugnatio impediebatur;
- このように(陸路・海路)どちらの状況においても、
城塞都市 の攻略は妨げられていた。
- このように(陸路・海路)どちらの状況においても、
- ac si quando magnitudine operis forte superati,
- あるとき、期せずして(ウェネティー族がローマ人の)
構造物 の大きさに圧倒されて、
- あるとき、期せずして(ウェネティー族がローマ人の)
- extruso mari aggere ac molibus
- (ローマ人が建造した)
土手 や防波堤 により海水が押し出され、
- (ローマ人が建造した)
- atque his oppidi moenibus adaequatis,
- これら〔堡塁〕が
城塞都市 の城壁と(高さにおいて)等しくされ、
- これら〔堡塁〕が
- suis fortunis desperare coeperant,
- (ウェネティー族らが)自分たちの命運に絶望し始めていたとしても、
- magno numero navium adpulso,
- 船の多数を接岸して、
- cuius rei summam facultatem habebant,
- それら〔船〕の供給に最大の備えを持っていたので、
- omnia sua deportabant seque in proxima oppida recipiebant;
- 自分たちの
一切合財 を運び去って、最も近い城塞都市 に撤収していた。
- 自分たちの
- ibi se rursus isdem opportunitatibus loci defendebant.
- そこにおいて再び同じような地の利によって防戦していたのだ。
- Haec eo facilius magnam partem aestatis faciebant,
- 以上のことが、夏の大部分を(ウェネティー族にとって)より容易にしていた。
- quod nostrae naves tempestatibus detinebantur,
- なぜなら、我が方〔ローマ人〕の船団は嵐により(航行を)阻まれており、
- summaque erat
- (航行することの困難さが)非常に大きかった。
- vasto atque aperto mari,
- 海は広大で開けており、
- magnis aestibus,
潮流 が激しく、
- raris ac prope nullis portibus
- 港は
疎 らでほとんどないので、
- 港は
- difficultas navigandi.
- 航行することの困難さが(非常に大きかった)。
13節
編集ウェネティー族の帆船の特徴
ウェネティー族の船の再現画(左下に兵士の大きさが示されている) | |||
- Namque ipsorum naves ad hunc modum factae armataeque erant:
- 竜骨
- carinae aliquanto planiores quam nostrarum navium,
- quo facilius vada ac decessum aestus excipere possent;
- 船首と船尾
- 船体の材質
- naves totae factae ex robore ad quamvis vim et contumeliam perferendam;
- 横梁
- 錨(いかり)の索具
- 帆の材質
- [hae] sive propter inopiam lini atque eius usus inscientiam,
- sive eo, quod est magis veri simile,
- あるいは、この方がより真実に近いのだろうが、
- quod tantas tempestates Oceani tantosque impetus ventorum sustineri
- ac tanta onera navium regi
- 船のあれほどの重さを制御することは、
- velis non satis commode posse arbitrabantur.
帆 布 にとって十分に具合良くできないと、(ウェネティー族は)考えていたためであろう。
- ウェネティー船団とローマ艦隊の優劣
- Cum his navibus nostrae classi eiusmodi congressus erat,
- 彼ら〔ウェネティー族〕の船団と、我が方〔ローマ軍〕の艦隊は、以下のように交戦していた。
- ut una celeritate et pulsu remorum praestaret,
- 迅速さと
櫂(かい) を漕 ぐのだけは(ローマ艦隊が)よりまさっていたのだが、
- 迅速さと
- reliqua pro loci natura, pro vi tempestatum
- そのほかのことは、地勢や嵐の勢いを考慮すると、
- illis essent aptiora et adcommodatiora.
- 彼ら〔ウェネティー族〕にとってより適しており、より好都合であった。
- Neque enim his nostrae rostro nocere poterant
- なぜなら、我が方〔ローマ艦隊〕の
衝 角 によって彼ら(の船)に対して損壊することができず、
- なぜなら、我が方〔ローマ艦隊〕の
- ── tanta in iis erat firmitudo ──,
- ──それら〔ウェネティー族の船〕においては(船体の)それほどの頑丈さがあったのだが──
- neque propter altitudinem facile telum adigebatur,
- (ウェネティー族の船体の)高さのゆえに、飛道具がたやすく投げ込まれなかったし、
- et eadem de causa minus commode copulis continebantur.
- Accedebat ut,
- さらに加えて、
- cum [saevire ventus coepisset et] se vento dedissent,
- [風が荒々しく吹き始めて] 風に身を委ねて(航行して)いたときに、
- (訳注:β系写本では [ ] 部分を欠く。)
- [風が荒々しく吹き始めて] 風に身を委ねて(航行して)いたときに、
- et tempestatem ferrent facilius
- (ウェネティー族の船団は)嵐により容易に耐えていたし、
- et in vadis consisterent tutius
- 浅瀬により安全に停留して、
- et ab aestu relictae
- 潮に取り残されても、
- nihil saxa et cautes timerent;
- 岩石やごつごつした石を何ら恐れることがなかった。
- quarum rerum omnium nostris navibus casus erant extimescendi.
- それらのすべての事が、我が〔ローマ人の〕船団にとっては、恐怖すべき危険であったのだ。
- (訳注:ウェネティー族の船は竜骨がローマ人の船より平たいため、
浅瀬や引き潮を容易に持ち応えられた。本節の冒頭を参照。)
- (訳注:ウェネティー族の船は竜骨がローマ人の船より平たいため、
- それらのすべての事が、我が〔ローマ人の〕船団にとっては、恐怖すべき危険であったのだ。
14節
編集カエサル待望のブルートゥスの艦隊が来航し、ウェネティー族との海戦が始まる
- Compluribus expugnatis oppidis
- いくつもの(ウェネティー族の)
城塞都市 が攻略されると、
- いくつもの(ウェネティー族の)
- Caesar ubi intellexit frustra tantum laborem sumi
- カエサルは、これほどの労苦が無駄に費やされること(を知り)、
- neque hostium fugam captis oppidis reprimi
- (すなわち)
城塞都市 が占領されても、敵の逃亡が阻まれないし、
- (すなわち)
- neque iis noceri posse,
- 彼ら〔ウェネティー族〕に損害が与えられることも不可能であると知るや否や、
- statuit exspectandam classem.
- ローマ艦隊が来航すると、約220隻のウェネティー船団が迎え撃とうとする
- Quae ubi convenit ac primum ab hostibus visa est,
- それ〔ローマ艦隊〕が集結して敵方により目撃されるや否や、
- circiter CCXX(ducentae viginti) naves eorum paratissimae
- 約220隻の彼ら〔ウェネティー族〕の船団が準備万端を整え、
- atque omni genere armorum ornatissimae
- あらゆる種類の武器で完全武装された状態で
- ex portu profectae nostris adversae constiterunt;
- 港から出航して、我が方〔ローマ艦隊〕と向かい合って停止した。
- neque satis Bruto, qui classi praeerat,
- 艦隊を統率していたブルートゥスには十分(明らか)ではなかった。
- (訳注:デキムス・ブルートゥス Decimus Brutus に艦隊を指揮させることが11節で述べられた。)
- 艦隊を統率していたブルートゥスには十分(明らか)ではなかった。
- vel tribunis militum centurionibusque, quibus singulae naves erant attributae,
- constabat quid agerent aut quam rationem pugnae insisterent.
- 何をすべきなのか、どのような戦法に取り掛かるべきなのか、明らかではなかった。
- Rostro enim noceri non posse cognoverant;
- turribus autem excitatis tamen has altitudo puppium ex barbaris navibus superabat,
- ut neque ex inferiore loco satis commode tela adigi possent
- その結果、より低い場所から十分に具合良く(敵船に)
飛道具 が投げ込まれることは不可能で、
- その結果、より低い場所から十分に具合良く(敵船に)
- et missa a Gallis gravius acciderent.
- ガッリア人により放られたものがより激しく降ってきていた。
- ローマ艦隊の切り札
- Una erat magno usui res praeparata a nostris,
- ただ一つの大いに役立つ物が、我が方〔ローマ艦隊〕によって準備されていた。
- falces praeacutae insertae adfixaeque longuriis,
- (それは)先の尖った鎌が
長い竿 に挿入されて固定されたもので、
- (それは)先の尖った鎌が
- non absimili forma muralium falcium.
(攻城用の)破城の鎌 に形が似ていなくもない。- (訳注:「破城の鎌」falx muralis に似たもので、falx navalis とも呼ばれている。)
- His cum funes qui antemnas ad malos destinabant, comprehensi adductique erant,
- これによって、
帆 桁 を帆 柱 に縛り付けていた綱具 が捕捉されて引っ張られた状態で、
- これによって、
- navigio remis incitato praerumpebantur.
艦艇 が櫂によってすばやく推進されると、(綱具が)引き裂かれていた。
- Quibus abscisis antemnae necessario concidebant,
- それら〔綱具〕が切断されると、
帆 桁 は必然的に倒れてしまっていた。
- それら〔綱具〕が切断されると、
- ut, cum omnis Gallicis navibus spes in velis armamentisque consisteret,
- その結果、ガッリア人の船団にとって、すべての期待は帆と索具に依拠していたので、
- (訳注:armamentum (英 rigging)⇒「索具」:帆と帆柱を支える綱や器具など。)
- その結果、ガッリア人の船団にとって、すべての期待は帆と索具に依拠していたので、
- his ereptis omnis usus navium uno tempore eriperetur.
- これらが引き裂かれると、船のすべての運用能力も
一時 に奪い取られていた。
- これらが引き裂かれると、船のすべての運用能力も
- Reliquum erat certamen positum in virtute,
- 残りの争闘は、武勇いかんに
懸 かっており、
- 残りの争闘は、武勇いかんに
- qua nostri milites facile superabant,
- その点では我が方〔ローマ勢〕の兵士たちが容易に上回っていた。
- 沿岸はカエサルとローマ軍によって占領されていた
- atque eo magis quod in conspectu Caesaris atque omnis exercitus res gerebatur,
- ut nullum paulo fortius factum latere posset;
- (普通より)より少し勇敢ならどんな行動も知らずにはおかないほどであった。
- omnes enim colles ac loca superiora, unde erat propinquus despectus in mare, ab exercitu tenebantur.
- なぜなら、そこから海への眺望が近いところのすべての丘や高地は、(ローマ人の)軍隊によって占領されていたのである。
15節
編集接舷戦でローマ艦隊がウェネティー船団を圧倒し、わずかな船だけが逃げ帰る
- Deiectis, ut diximus, antemnis,
- 上述したように(ウェネティー族の船の)
帆 桁 が奪い取られると、
- 上述したように(ウェネティー族の船の)
- cum singulas binae ac ternae naves circumsteterant,
- milites summa vi transcendere in hostium naves contendebant.
- (ローマの)兵士たちはあらん限りの力で敵の船団に乗り移ることに努めていた。
- Quod postquam barbari fieri animadverterunt,
- そのことが行なわれていることに蛮族たちが気付いた後で、
- expugnatis compluribus navibus,
- かなり多くの(ウェネティー族の)船が
拿捕 されて、
- かなり多くの(ウェネティー族の)船が
- cum ei rei nullum reperiretur auxilium,
- その戦況に対して何ら救援が見出されなかったので、
- fuga salutem petere contenderunt.
- 逃亡に身の安全を求めることに努めた。
- Ac iam conversis in eam partem navibus quo ventus ferebat,
- すでに風が運んでいた方角へ船団の向きが変えられていたが、
- tanta subito malacia ac tranquillitas exstitit,
- 突如としてあれほどの
凪 や静けさが生じたので、
- 突如としてあれほどの
- ut se ex loco movere non possent.
- (ウェネティー族の船団が)その場所から動くことができないほどであった。
- (訳注:このビスケー湾海域は、風や潮の勢いが強いため、
ウェネティー族は漕ぎ手を使わない帆船を用いていたのだろう。
風力のみに頼る帆船は、無風時には進むことができない。)
- (訳注:このビスケー湾海域は、風や潮の勢いが強いため、
- (ウェネティー族の船団が)その場所から動くことができないほどであった。
- Quae quidem res ad negotium conficiendum maximae fuit oportunitati:
- このような事態はまさに(ローマ艦隊が)軍務を遂行するために最大の機会であった。
- nam singulas nostri consectati expugnaverunt,
- 実際、(ウェネティー族の船)1隻ずつを我が方(ローマ艦隊)が追跡して攻略したので、
- ut perpaucae ex omni numero noctis interventu ad terram pervenirent,
- その結果(ウェネティー族の船の)総数のうちごく少数が、夜のとばりに包まれて、陸地に達しただけであった。
- cum ab hora fere IIII.(quarta) usque ad solis occasum pugnaretur.
- (海戦が)ほぼ第四時から日が没するまで戦われていたけれども。
- (訳注:第四時は、古代ローマの不定時法で日の出から3~4時間後。
フランスの6月頃なら、日の出が午前6時頃で、第四時は午前10時近くと思われる。
6月頃なら、日の入は午後10時近くとかなり遅い。)
- (訳注:第四時は、古代ローマの不定時法で日の出から3~4時間後。
- (海戦が)ほぼ第四時から日が没するまで戦われていたけれども。
16節
編集ウェネティー族らがカエサルに降伏するが、・・・
- Quo proelio bellum Venetorum totiusque orae maritimae confectum est.
- Nam cum omnis iuventus, omnes etiam gravioris aetatis,
- なぜなら、すべての青年はもとより、すべての年長の者たちさえも、
- in quibus aliquid consilii aut dignitatis fuit eo convenerant,
- 何らかの思慮分別のある者、あるいは地位のある者たちは、そこ(戦場)へ集結していたから。
- tum navium quod ubique fuerat in unum locum coegerant;
- quibus amissis reliqui
- それらを喪失すると、生き残った者たちは、
- neque quo se reciperent
- どこへ退却するべきなのかも、
- neque quem ad modum oppida defenderent habebant.
- どのような方法で
城塞都市 を防衛するべきなのかも、わからなかった。
- どのような方法で
- ウェネティー族らが降伏する
- Itaque se suaque omnia Caesari dediderunt.
- こうして、(ウェネティー族らは)自らとその一切合財をカエサルに委ねた〔降伏した〕。
- In quos eo gravius Caesar vindicandum statuit
- カエサルは、これらの者たちはより厳重に処罰されるべきである、と決定した。
- quo diligentius in reliquum tempus a barbaris ius legatorum conservaretur.
- そのことにより、今後、蛮族によって(ローマの)使節たちの権利がいっそう保たれるように。
- Itaque omni senatu necato
- reliquos sub corona vendidit.
- 残りの者たちに葉冠をかぶせて〔奴隷として競売で〕売却した。
- (訳注:sub corona vendere 「葉冠のもとに売る=奴隷として競売で売る」)
- 残りの者たちに葉冠をかぶせて〔奴隷として競売で〕売却した。
大西洋岸ウネッリー族の造反
編集17節
編集ウィリドウィークス率いるウネッリー族らの背反。対するサビーヌスの作戦
- Dum haec in Venetis geruntur,
- 以上のことがウェネティー族(の領国)で行なわれている間に、
- Quintus Titurius Sabinus cum iis copiis, quas a Caesare acceperat
- クィーントゥス・ティトゥーリウス・サビーヌスは、カエサルから受け取っていた軍勢とともに
- in fines Unellorum(Venellorum) pervenit.
- His praeerat Viridovix
- 彼ら〔ウネッリー族〕を統率していたのはウィリドウィークスで、
- ac summam imperii tenebat earum omnium civitatum, quae defecerant,
- (ローマの支配に)背いていた全部族の最高司令権を保持していた。
- ex quibus exercitum [magnasque copias] coegerat;
- (ウィリドウィークスは)これら(の部族国家)から大軍勢を駆り集めていた。
- アウレルキー=エブロウィーケース族とレクソウィイー族の籠城
- atque his paucis diebus Aulerci Eburovices Lexoviique,
- それからこの数日内に、アウレルキー=エブロウィーケース族とレクソウィイー族は、
- (訳注:アウレルキー族 Aulerci はいくつもの支族から成り、
エブロウィーケース族 Eburovices は四つの主要な支族の一つ。)
- (訳注:アウレルキー族 Aulerci はいくつもの支族から成り、
- それからこの数日内に、アウレルキー=エブロウィーケース族とレクソウィイー族は、
- senatu suo interfecto, quod auctores belli esse nolebant,
- portas clauserunt
- (ローマ人の襲来に備えて)城門を閉じて、
- seseque cum Viridovice coniunxerunt;
- (ウネッリー族の)ウィリドウィークスと結託していた。
- magnaque praeterea multitudo undique ex Gallia perditorum hominum latronumque convenerat,
- そのうえに、ガッリアの至る所から大勢の無頼漢や略奪者が集まって来ていた。
- quos spes praedandi studiumque bellandi ab agri cultura et cotidiano labore revocabat.
- これらの者たちを、略奪への期待と戦争への熱望が、農耕や毎日の労働から呼び戻していたのだ。
- サビーヌスが、陣営を設置して、勝機の到来を待つ
- Sabinus idoneo omnibus rebus loco castris se tenebat,
- サビーヌスは、陣営にとってあらゆる点で適切な場所を占拠していた。
- cum Viridovix contra eum duorum milium spatio consedisset
- cotidieque productis copiis pugnandi potestatem faceret,
- 毎日、軍勢を繰り出して、闘う機会を作っていた。
- ut iam non solum hostibus in contemptionem Sabinus veniret,
- その結果もはや、サビーヌスは敵方によって軽蔑されるに至ったのみならず、
- sed etiam nostrorum militum vocibus non nihil carperetur;
- 我が方〔ローマ勢〕の兵士の少なからぬ者によってさえも、声に出して非難されていたほどであった。
- tantamque opinionem timoris praebuit,
- これほどの
怖気 の評判を呈したので、
- これほどの
- ut iam ad vallum castrorum hostes accedere auderent.
- その結果ついには、陣営の堡塁の辺りにまで敵方が敢えて近寄って来るほどであった。
- Id ea de causa faciebat
- (サビーヌスが)以上のことをしていたのは、以下の理由による。
- quod cum tanta multitudine hostium,
- これほどの多勢の敵と、
- praesertim eo absente qui summam imperii teneret,
- とりわけ(ローマ勢の)最高司令権を保持していた者〔カエサル〕が不在のままで、
- nisi aequo loco aut opportunitate aliqua data
- 対等な場所、あるいは何らかの好機が与えられない限り、
- legato dimicandum non existimabat.
- (最高司令官ならぬ)
副 官 にとって戦うべきではない、と判断していたのである。
- (最高司令官ならぬ)
18節
編集サビーヌスの計略
- Hac confirmata opinione timoris
- このような(サビーヌスについての)
怖気 の評判が確かめられると、
- このような(サビーヌスについての)
- idoneum quendam hominem et callidum delegit Gallum,
- (サビーヌスは)適任かつ明敏なガッリア人のとある男を選び出す。
- ex iis quos auxilii causa secum habebat.
- Huic magnis praemiis pollicitationibusque persuadet uti ad hostes transeat,
- この者に、多大な報酬を約束して、敵方に渡るように説得し、
- et quid fieri velit edocet.
- (サビーヌスが)何がなされんと欲しているのか、説き教える。
- Qui ubi pro perfuga ad eos venit,
- その者は、脱走兵として彼ら(ウネッリー族)のところへ来るや否や、
- timorem Romanorum proponit,
- ローマ人の
怖気 を知らせて、
- ローマ人の
- quibus angustiis ipse Caesar a Venetis prematur docet,
- いかなる窮状によって、カエサル自身がウェネティー族により苦戦させられているかを教える。
- neque longius abesse, quin proxima nocte
- 遅くとも次の晩には、
- Sabinus clam ex castris exercitum educat
- サビーヌスはひそかに陣営から軍隊を導き出して、
- et ad Caesarem auxilii ferendi causa proficiscatur.
- カエサルのもとへ支援をもたらすために出発するであろう、と。
- Quod ubi auditum est, conclamant
- そのことが聞かれるや否や、(ウネッリー族らは)声を上げる。
- omnes occasionem negotii bene gerendi amittendam non esse:
- 事態をうまくやり遂げるためのあらゆる機会を失うべきではない、
- ad castra iri oportere.
- (ローマ人の)陣営のもとへ行かねばならぬ、と。
- Multae res ad hoc consilium Gallos hortabantur:
- (以下の)多くの事情が、この作戦計画へとガッリア人たちを駆り立てていた。
- superiorum dierum Sabini cunctatio,
- 先日来のサビーヌスのためらい、
- perfugae confirmatio,
- 脱走兵の確言、
- inopia cibariorum, cui rei parum diligenter ab iis erat provisum,
- 彼ら〔ガッリア人〕によって、その供給が注意深く充分に準備されていなかった糧食の欠乏、
- spes Venetici belli,
- ウェネティー族の戦争への希望、
- et quod fere libenter homines id quod volunt credunt.
- および、人間はたいてい(自らが)欲することを喜んで信ずるものであること、である。
- (訳注:この " (fere libenter) homines id quod volunt credunt " は、
『ガリア戦記』で最も良く知られた文句のひとつ。
格言として People's beliefs are shaped largely by their desires.
「人々の信念は、彼ら自身の欲望によって大きく形作られる」などと解釈される。)
- および、人間はたいてい(自らが)欲することを喜んで信ずるものであること、である。
- His rebus adducti
- これらの事態に促されて、
- non prius Viridovicem reliquosque duces ex concilio dimittunt,
- (ウネッリー族の者らは)ウィリドウィークスや他の指導者を会議から解散させなかった。
- quam ab his sit concessum arma uti capiant et ad castra contendant.
- Qua re concessa laeti, ut explorata victoria,
- この事が承認されると、まるで勝利が確実にされたかのように喜んで、
- sarmentis virgultisque collectis, quibus fossas Romanorum compleant,
- 小枝や薮を集めて、それらでもってローマ人の塹壕を埋めるべく、
- ad castra pergunt.
- (ローマの)陣営のもとへ前進する。
19節
編集ウネッリー族らとの決戦
- Locus erat castrorum editus et paulatim ab imo acclivis circiter passus mille.
- Huc magno cursu contenderunt,
- (ウネッリー勢は)ここへ、大いに駆けて急いで、
- ut quam minimum spatii ad se colligendos armandosque Romanis daretur,
- ローマ人にとって集結して武装するための時間ができるだけ与えられないようにして、
- exanimatique pervenerunt.
- 息を切らして到着した。
- サビーヌスが、坂の上の陣営から軍勢を繰り出す
- Sabinus suos hortatus cupientibus signum dat.
- サビーヌスは、自分の部下たちを励まして、はやる者たちに号令を出す。
- Impeditis hostibus propter ea quae ferebant onera,
- 敵方が、彼らが担いでいた重荷のために妨げられていたので、
- subito duabus portis eruptionem fieri iubet.
- (サビーヌスは)突然に(左右の)二つの門から出撃がなされることを命じる。
- ローマ勢がウネッリー族らを一蹴して、敗走するところを虐殺する
- Factum est
- (ut以下のことが)なされた。
- opportunitate loci,
- 地の利の好都合により、
- hostium inscientia ac defatigatione,
- 敵方の(武具や戦術の)不案内や疲労により、
- virtute militum
- 兵士たちの武勇により、
- et superiorum pugnarum exercitatione,
- および先頃の戦いの熟練によって、
- ut ne primum quidem nostrorum impetum ferrent
- 我が方〔ローマ勢〕の最初の突撃さえも持ちこたえることなく、
- ac statim terga verterent.
- (ウネッリー勢は)すぐさま背を向けた〔敗走した〕。
- Quos impeditos
- これらの難渋している者たちを、
- integris viribus milites nostri consecuti
- 健全な力で我が方〔ローマ勢〕の兵士たちが追跡して、
- magnum numerum eorum occiderunt;
- 彼ら〔ウネッリー族ら〕の大多数を
斃 した。
- 彼ら〔ウネッリー族ら〕の大多数を
- reliquos equites consectati paucos, qui ex fuga evaserant, reliquerunt.
- 残りの者たちを(ローマ側の)騎兵が追跡したが、逃亡によって逃れたので、見逃した。
- Sic uno tempore et de navali pugna Sabinus et de Sabini victoria Caesar est certior factus,
- このようにして一度に、海戦についてサビーヌスが、サビーヌスの勝利についてカエサルが、報告を受けて、
- civitatesque omnes se statim Titurio dediderunt.
- (造反していた)全部族がすぐにティトゥーリウス(・サビーヌス)に降伏した。
- Nam ut ad bella suscipienda Gallorum alacer ac promptus est animus,
- こうなったのは、ガッリア人は戦争を実行することについては性急で、心は敏捷であるが、
- sic mollis ac minime resistens ad calamitates ferendas mens eorum est.
- と同様に柔弱で、災難に耐えるには彼らの心はあまり抵抗しないためである。
クラッススのアクィーターニア遠征
編集20節
編集クラッススのアクィーターニア遠征、ソティアーテース族
- Eodem fere tempore Publius Crassus, cum in Aquitaniam pervenisset,
- ほぼ同じ時期にプーブリウス・クラッススがアクィーターニアに到達していたときに、
- quae pars, ut ante dictum est, et regionum latitudine et multitudine hominum
- この地方は、前述されたように、領域の広さと人間の多さの点で
- ex tertia parte Galliae est aestimanda,
- ガッリアの第三の地方であると考えられるべきであるが、
- (訳注:前述されたように とは
第1巻1節の冒頭部および「ガッリアの地理区分について」のくだりであるが、
少なくとも冒頭部では第二の部分として言及されている。)
- (訳注:前述されたように とは
- ガッリアの第三の地方であると考えられるべきであるが、
- cum intellegeret in illis locis sibi bellum gerendum,
- (クラッススは)かの場所で自らにとって戦争がなされるべきであると考えていたので、
- ubi paucis ante annis Lucius Valerius Praeconinus legatus exercitu pulso interfectus esset
- atque unde Lucius Manlius proconsul impedimentis amissis profugisset,
- かつここから
執政官代理 ルーキウス・マーンリウスが輜重を失って敗走しており、- (訳注:この人物は、BC79年に
法務官 、BC78年にガッリア・トラーンサルピーナを統治する執政官代理となり、
セルトーリウスの副官ヒルトゥレイウス Lucius Hirtuleius に敗れたと考えられている。)
- (訳注:この人物は、BC79年に
- かつここから
- non mediocrem sibi diligentiam adhibendam intellegebat.
- 己にとって尋常ならざる注意深さが適用されるべきだと考えていたのだ。
- Itaque re frumentaria provisa,
- こうして、糧食補給が準備され、
- auxiliis equitatuque comparato,
- multis praeterea viris fortibus Tolosa et Carcasone et Narbone,
- ── quae sunt civitates Galliae provinciae finitimae, ex his regionibus ──
- ──それらは、この地域に隣接する(ローマの)ガッリア属州の都市であるが、──
- (訳注:ガッリア属州とは、現在の南仏に当たるガッリア・トラーンサルピーナのこと。)
- ──それらは、この地域に隣接する(ローマの)ガッリア属州の都市であるが、──
- nominatim evocatis,
- 名指しで徴集されると、
- in Sotiatium fines exercitum introduxit.
- Cuius adventu cognito
- 彼〔クラッスス〕の到着を知ると、
- Sotiates magnis copiis coactis,
- ソティアーテース族は大軍勢を集めて、
- equitatuque, quo plurimum valebant, in itinere agmen nostrum adorti
- それにより彼らが大いに力があったところの騎兵隊で、行軍中の我が方〔ローマ勢〕の隊列を襲撃して、
- primum equestre proelium commiserunt,
- はじめに、騎兵戦を戦った。
- deinde equitatu suo pulso atque insequentibus nostris
- それから、その(敵の)騎兵隊が撃退され、我が方が追跡したが、
- subito pedestres copias, quas in convalle in insidiis conlocaverant, ostenderunt.
- Iis nostros disiectos adorti proelium renovarunt.
- これら(の軍勢)によって追い散らされた我が方〔ローマ軍〕に襲いかかり、戦いを再び始めた。
21節
編集ソティアーテース族の敗勢
- Pugnatum est diu atque acriter,
- 長く激しく戦われた。
- cum Sotiates superioribus victoriis freti
- というのもソティアーテース族は、かつての(ローマ勢に対する)勝利を信頼しており、
- in sua virtute totius Aquitaniae salutem positam putarent,
- 自分たちの武勇の中に全アクィーターニアの安全が立脚していると、みなしていたからだ。
- nostri autem,
- 我が方〔ローマ勢〕はそれに対して
- quid sine imperatore et sine reliquis legionibus adulescentulo duce efficere possent,
- perspici cuperent;
- 注視(吟味)されることを欲していたのだ。
- tandem confecti vulneribus hostes terga verterunt.
- ついに負傷で消耗して、敵勢は背を向けた〔敗走し始めた〕。
- Quorum magno numero interfecto
- これらの者の大多数を殺戮し、
- Crassus ex itinere oppidum Sotiatium oppugnare coepit.
- Quibus fortiter resistentibus
- これらの勇敢に抵抗している者たちに対して、
- vineas turresque egit.
- (ローマ勢は)
工兵小屋 や攻城櫓 を駆った。
- (ローマ勢は)
- Illi alias eruptione temptata,
- 彼ら〔アクィーターニア人たち〕は、あるときは突撃を試みて、
- alias cuniculis ad aggerem vineasque actis
- ── cuius rei sunt longe peritissimi Aquitani,
- ── こういった事〔坑道戦術〕に、アクィーターニア人は長らくきわめて熟練している。
- propterea quod multis locis apud eos aerariae secturaeque sunt ──,
- というのも、彼らのもとの多くの場所に銅山や採石所があることのためである。──
- (訳注:aerāria, -ae [11]は銅の鉱山や精錬所、銅に限らないときは fodīna, -ae という。
sectūra, -ae [12] は採石場のこと。)
- (訳注:aerāria, -ae [11]は銅の鉱山や精錬所、銅に限らないときは fodīna, -ae という。
- というのも、彼らのもとの多くの場所に銅山や採石所があることのためである。──
- ubi diligentia nostrorum nihil his rebus profici posse intellexerunt,
- 我が方〔ローマ勢〕の注意深さによって こうした事〔坑道〕によっても何ら得られぬと理解するや否や、
- legatos ad Crassum mittunt,
- (ソティアーテース族は)使節たちをクラッススのところへ遣わして、
- seque in deditionem ut recipiat petunt.
- 自分たちを降伏へと受け入れるように求める。
- Qua re impetrata arma tradere iussi faciunt.
- この事が達せられると、武器の引渡しが命じられて、(ソティアーテース族は)実行する。
- (訳注:この一文を、次の22節に含める校訂版もある。)
- この事が達せられると、武器の引渡しが命じられて、(ソティアーテース族は)実行する。
22節
編集ソティアーテース族の領袖アディアトゥアーヌスと従臣たちの突撃
- Atque in ea re omnium nostrorum intentis animis,
- この事に我が方〔ローマ勢〕の皆が没頭していると、
- alia ex parte oppidi Adiatuanus, qui summam imperii tenebat,
城塞都市 の他の方面から、最高司令権を保持していたアディアトゥアーヌスが- (訳注:この人物の名は α系写本では Adiatunnus で、Adiatuanos, などさまざまな呼び方がある。
Adiatuanus は当時の貨幣をもとに修正提案された読み。)
- (訳注:この人物の名は α系写本では Adiatunnus で、Adiatuanos, などさまざまな呼び方がある。
- cum DC(sescentis) devotis, quos illi soldurios appellant,
- 彼ら〔ガッリア人〕がソルドゥリイー〔従臣〕と呼んでいる600名の献身的な者たちとともに(突撃することを試みた)。
- (訳注:主文の述語動詞は、ソルドゥリイーの状況を説明する部分を挟んだ後に出て来る。)
- 彼ら〔ガッリア人〕がソルドゥリイー〔従臣〕と呼んでいる600名の献身的な者たちとともに(突撃することを試みた)。
アディアトゥアーヌスの従臣たち
- ── quorum haec est condicio,
- ── これらの者たち〔ソルドゥリイー〕の条件は以下の通りである。
- uti omnibus in vita commodis una cum iis fruantur quorum se amicitiae dediderint,
- 人生におけるあらゆる利益を、忠心に身を捧げていた者たちと一緒に享受する。
- si quid his per vim accĭdat,
- もし彼ら〔従臣仲間〕に何らかの力ずくの沙汰が起こったら、
- aut eundem casum una ferant
- 同じ
災厄 を一緒に耐え忍ぶか、
- 同じ
- aut sibi mortem consciscant;
- あるいは、自決するか、のどちらかである。
- (訳注:sibi mortem consciscere 「自らに死を課す」=「自害する」)
- あるいは、自決するか、のどちらかである。
- neque adhuc hominum memoria repertus est quisquam qui, eo interfecto, cuius se amicitiae devovisset, mortem recusaret ──
- 忠心に身を捧げていた者が殺されても自決を拒むような何者も、人々の記憶においてこれまでに見出されていない。──
- cum his Adiatuanus eruptionem facere conatus
- アディアトゥアーヌスは、この者たち〔ソルドゥリイー〕とともに突撃することを試みた。
- (訳注:ソルドゥリイーの状況を説明する部分を挟んで、主語が繰り返されている。)
- アディアトゥアーヌスは、この者たち〔ソルドゥリイー〕とともに突撃することを試みた。
アディアトゥアーヌスの敗退
- clamore ab ea parte munitionis sublato
- 防塁のその方面から雄叫びが上げられて、
- cum ad arma milites concurrissent vehementerque ibi pugnatum esset,
- 武器のところへ(ローマ勢の)兵士たちが急ぎ集まって、そこで激しく戦われた状況で、
- repulsus in oppidum
- (アディアトゥアーヌスは)
城塞都市 の中に撃退された
- (アディアトゥアーヌスは)
- tamen uti eadem deditionis condicione uteretur a Crasso impetravit.
- けれども(前述のと)同じ降伏条件を用いるように、クラッススによってかなえた。
23節
編集ウォカーテース族・タルサーテース族・ヒスパーニア勢とクラッススが対峙する
- Armis obsidibusque acceptis,
- (ソティアーテース族から引き渡された)武器と人質を受け取ると、
- Crassus in fines Vocatium et Tarusatium profectus est.
- Tum vero barbari commoti,
- だがそのとき、蛮族たちは動揺させられて、
- quod oppidum et natura loci et manu munitum
- ── というのも、地勢と部隊で防備された(ソティアーテース族の)
城塞都市 が
- ── というのも、地勢と部隊で防備された(ソティアーテース族の)
- paucis diebus, quibus eo ventum erat, expugnatum cognoverant,
- (ローマ人が)そこへ来てからわずかな日数で攻め落とされたことを知っていたためであるが、──
- legatos quoque versus dimittere,
- 使節たちをあらゆる方面に向けて遣わすこと、
- (訳注:quoque versus [16] 「あらゆる方向に向けて」)
- 使節たちをあらゆる方面に向けて遣わすこと、
- coniurare,
- 共謀すること、
- obsides inter se dare,
- 互いに人質を供出し合うこと、
- copias parare coeperunt.
- Mittuntur etiam ad eas civitates legati quae sunt citerioris Hispaniae finitimae Aquitaniae;
- アクィーターニアに隣接するヒスパーニア・キテリオルにいる部族たちにさえ、使節が派遣された。
- inde auxilia ducesque arcessuntur.
- そこから援兵と指揮官たちが呼び寄せられる。
- Quorum adventu
- これらの者たちの到着によって、
- magna cum auctoritate et magna [cum] hominum multitudine
- 大きな影響力と、大勢の人間とともに、
- bellum gerere conantur.
- 戦争を遂行することを企てる。
- セルトーリウスの乱の残党たち
- Duces vero ii deliguntur,
- それから、指揮官には(以下の者たちが)選ばれる。
- qui una cum Quinto Sertorio omnes annos fuerant
- 皆が何年にもわたり、クィーントゥス・セルトーリウスと一緒にいて、
- summamque scientiam rei militaris habere existimabantur.
- 軍事の最高の知識を有すると考えられていた(者たちである)。
- (訳注:クィーントゥス・セルトーリウス Quintus Sertorius は、マリウスとスッラの内戦でマリウス側につき、戦後もスッラの独裁に抵抗して乱を起こした武将で。ヒスパーニアの住民にローマ軍の戦術を教えて共和政ローマに対して反乱を起こしたが、ポンペイウスによって鎮圧された。)
- 軍事の最高の知識を有すると考えられていた(者たちである)。
- Hi consuetudine populi Romani
- この者たちは、ローマ人民の(軍事上の)慣習によって
- loca capere,
- (陣営に適した)土地を占拠すること、
- castra munire,
- 陣営を防備で固めること、
- commeatibus nostros intercludere instituunt.
- 我が方〔クラッスス指揮下のローマ勢〕を軍需物資から遮断すること、を決める。
- クラッススが短期決戦を決意する
- Quod ubi Crassus animadvertit,
- クラッススは(以下の事情に)気づくや否や、(すなわち)
- suas copias propter exiguitatem non facile diduci,
- 配下の軍勢が寡兵であるために(戦場において)展開するのが容易でないこと、
- hostem et vagari et vias obsidere et castris satis praesidii relinquere,
- 敵はうろつき回って道を遮断して、陣営に十分な守備兵を残していること、
- ob eam causam minus commode frumentum commeatumque sibi supportari,
- その理由のために糧食や軍需品をあまり都合良く自陣に持ち運べていないこと、
- in dies hostium numerum augeri,
- 日に日に敵方の数が増していること、(これらの諸事情に気づくや否や)
- non cunctandum existimavit quin pugna decertaret.
- (クラッススは)戦闘で雌雄を決することをためらうべきではないと考えたのだ。
- Hac re ad consilium delata,
- この事情が軍議に報告されて、
- ubi omnes idem sentire intellexit,
- (クラッススは)皆が同じことを考えていることを知るや否や、
- posterum diem pugnae constituit.
- 戦闘を翌日に決めた。
24節
編集クラッススが軍勢を繰り出すが、安全策を採るアクィーターニア勢は陣営に留まる
- Prima luce productis omnibus copiis,
- (クラッススは)夜明けに(陣営から)全軍勢を出陣させると、
- duplici acie instituta,
- auxiliis in mediam aciem coniectis,
- quid hostes consilii caperent exspectabat.
- 敵方がいかなる作戦計略をとるのか、を待っていた。
- Illi,
- 彼ら〔アクィーターニア人〕は、
- etsi propter multitudinem et veterem belli gloriam paucitatemque nostrorum se tuto dimicaturos existimabant,
- (味方の)多勢、昔の戦争の栄誉、我が方〔ローマ勢〕の寡勢のために、安全に闘えると考えていたにも拘らず、
- tamen tutius esse arbitrabantur obsessis viis commeatu intercluso sine ullo vulnere victoria potiri,
- それでもより安全と思われるのは、道を封鎖して兵站を遮断し、何ら傷なしに勝利をものにすることであり、
- et si propter inopiam rei frumentariae Romani se recipere coepissent,
- もし糧食供給の欠乏のためにローマ人が退却し始めたならば、
- impeditos in agmine et sub sarcinis infirmiores animo
- (ローマ人が)隊列において背嚢を背負って妨げられて臆病になっているところを、
- adoriri cogitabant.
- 襲いかかれると考えていたのだ。
- Hoc consilio probato ab ducibus,
- この作戦が指揮官たちによって承認されると、
- productis Romanorum copiis,
- ローマ人の軍勢が進撃しても、
- sese castris tenebant.
- 彼らは陣営に留まっていた。
- Hac re perspecta Crassus,
- クラッススはこのことに注目すると、
- cum sua cunctatione atque opinione timidiores hostes
- (敵)自身のためらいや、評判より臆病な敵方が
- nostros milites alacriores ad pugnandum effecissent
- 我が方〔ローマ勢〕の兵士たちを戦うことにおいてやる気にさせていたので、
- atque omnium voces audirentur exspectari diutius non oportere quin ad castra iretur,
- かつ(敵の)陣営へ向かうことをこれ以上待つべきではないという皆の声が聞かれたので、
- cohortatus suos omnibus cupientibus
- 配下の者たちを励まして、(戦いを)欲する皆で、
- ad hostium castra contendit.
- 敵の陣営のもとへ急行する。
25節
編集クラッススの軍勢が、アクィーターニア人の陣営へ攻めかかる
- Ibi cum alii fossas complerent, alii multis telis coniectis
- そこで(クラッスス配下の)ある者は堀を埋め、ある者は多くの飛道具を投げ込んで、
- defensores vallo munitionibusque depellerent,
- auxiliares[17]que, quibus ad pugnam non multum Crassus confidebat,
- lapidibus telisque subministrandis et ad aggerem caespitibus comportandis
- speciem atque opinionem pugnantium praeberent,
- 戦っている者たちの様子や評判を呈していた。
- cum item ab hostibus constanter ac non timide pugnaretur
- 敵方〔アクィーターニア勢〕もまたしっかりと臆せずに戦って、
- telaque ex loco superiore missa non frustra acciderent,
- より高い所から放られた飛道具は無駄なく落ちてきたので、
- equites circumitis hostium castris Crasso renuntiaverunt
- 騎兵は、敵の陣営を巡察してクラッススに報告した。
- non eadem esse diligentia ab decumana porta castra munita
- (敵の)陣営は第十の門では(他の門と)同じほどの入念さでは防備されておらず、
- (訳注:「第十の門」は、ローマ人の陣営では第10大隊が守備することになっていた門で、陣営の裏門を指す。右図を参照。)
- (敵の)陣営は第十の門では(他の門と)同じほどの入念さでは防備されておらず、
- facilemque aditum habere.
- 容易に接近できると。
26節
編集クラッススが、別動隊を迂回させ、敵陣を圧倒する
- Crassus equitum praefectos
- cohortatus, ut magnis praemiis pollicitationibusque suos excitarent,
- かなりの恩賞の約束によって配下の者たちを奮起させるように、促して、
- quid fieri velit ostendit.
- 何がなされることを(クラッススが)欲しているか、を指示した。
- Illi, ut erat imperatum,
- この者ら〔騎兵の指揮官たち〕は、命じられていたように、
- eductis iis cohortibus quae praesidio castris relictae intritae ab labore erant,
- 守備隊として陣営に残されていて、労苦により消耗していなかった
歩兵大隊 を連れ出して、
- 守備隊として陣営に残されていて、労苦により消耗していなかった
- et longiore itinere circumductis, ne ex hostium castris conspici possent,
- 敵の陣営から気づかれないように、より遠回りの道程を巡って、
- omnium oculis mentibusque ad pugnam intentis
- (彼我の)皆の目と意識が戦闘に注がれているときに
- celeriter ad eas quas diximus munitiones pervenerunt atque his prorutis
- 速やかに、前述した(後門の)防塁のそばに至って、これを倒壊させて、
- prius in hostium castris constiterunt,
- 敵の陣営に立ちはだかった。
- quam plane ab his videri aut quid rei gereretur cognosci posset.
- 彼ら〔敵勢〕によりはっきりと見られ、あるいはいかなる事が遂行されているかを知られるよりも早くのことだった。
- Tum vero clamore ab ea parte audito
- そのときまさにこの方角から雄叫びが聞かれたので、
- nostri redintegratis viribus,
- 我が方〔ローマ勢〕は活力を回復し、
- quod plerumque in spe victoriae accidere consuevit,
- ── そのことは、たいてい勝利を期待していると生じるのが常であったが、──
- acrius impugnare coeperunt.
- より激烈に攻め立て始めたのであった。
- Hostes undique circumventi desperatis omnibus rebus
- 敵方は四方八方から攻囲されて、すべての戦況に絶望し、
- se per munitiones deicere et fuga salutem petere intenderunt.
- 防塁を越えて飛び降り、敗走によって身の安全を求めることに懸命になった。
- Quos equitatus apertissimis campis consectatus
- この者たち〔敵勢〕を(ローマ方の)騎兵隊が非常に開けた平原で追撃し、
- ex milium L(quinquaginta) numero, quae ex Aquitania Cantabrisque convenisse constabat,
- アクィーターニアとカンタブリアから集結していた(敵勢の)数は5万名がわかっていたが、
- (訳注:カンタブリア Cantabria は、現在のスペイン北部のカンタブリア州の辺りで、
Cantabri と呼ばれた部族連合は、カエサル死後の征服戦争 Cantabrian Wars まで独立を保った。)
- (訳注:カンタブリア Cantabria は、現在のスペイン北部のカンタブリア州の辺りで、
- アクィーターニアとカンタブリアから集結していた(敵勢の)数は5万名がわかっていたが、
- vix quarta parte relicta,
- やっとその四分の一が生き残り、
- multa nocte se in castra recepit.
- 夜更けに(ローマ勢は)陣営に撤収した。
27節
編集アクィーターニア諸部族の降伏
- Hac audita pugna
- この戦闘(の敗北)を聞いて、
- maxima pars Aquitaniae sese Crasso dedidit obsidesque ultro misit;
- アクィーターニアの大部分がクラッススに降伏して、自発的に人質を送った。
- quo in numero fuerunt
- その数の中には以下の部族がいた。
- Tarbelli, Bigerriones, Ptianii, Vocates, Tarusates,
- タルベッリー族、ビゲッリオーネース族、プティアーニイー族、ウォカーテース族、タルサーテース族、
- (訳注:ビッゲリオーネース Bigerriones は、ビッゲリー Bigerri など表記多数。
- タルベッリー族、ビゲッリオーネース族、プティアーニイー族、ウォカーテース族、タルサーテース族、
- Elusates, Gates, Ausci, Garunni, Sibuzates, Cocosates:
- エルサテース族、ガーテース族、アウスキー族、ガルンニー族、シブザーテース族、ココサテース族、である。
- paucae ultimae nationes
- 若干の最遠の種族たちは、
- anni tempore confisae,
- 時季を頼りにして、
- quod hiems suberat,
- というのも冬が迫っていたためであるが、
- id facere neglexerunt.
- そのこと(降伏と人質)を怠った。
モリニー族・メナピイー族への遠征
編集28節
編集カエサル、モリニー族・メナピイー族へ遠征
- Eodem fere tempore Caesar,
- (前節までに述べたクラッススのアクィーターニア遠征と)ほぼ同じ時期にカエサルは、
- etsi prope exacta iam aestas erat,
- すでに夏はほとんど過ぎ去っていた
- tamen quod omni Gallia pacata
- にもかかわらず、全ガッリアが平定されても、
- Morini Menapiique supererant,
- モリニー族とメナピイー族は生き残っていて、
- qui in armis essent,
- 武装したままであり、
- neque ad eum umquam legatos de pace misissent,
- 彼〔カエサル〕のもとへ決して和平の使節たちを派遣しようとしなかったので、
- arbitratus id bellum celeriter confici posse,
- (カエサルは、両部族との)その戦争は速やかに完遂できると思って、
- eo exercitum duxit;
- そこへ軍隊を率いて行った。
- qui longe alia ratione ac reliqui Galli bellum gerere instituerunt.
- 彼ら〔両部族〕は、他のガッリア人とはまったく別の方法で戦争遂行することを決めた。
- Nam quod intellegebant maximas nationes, quae proelio contendissent, pulsas superatasque esse,
- なぜなら(ローマと)戦闘を戦った極めて多くの部族が撃退され、征服されていることを知っており、
- continentesque silvas ac paludes habebant,
- eo se suaque omnia contulerunt.
- そこへ自分たちとそのすべての物を運び集めたのだ。
- Ad quarum initium silvarum cum Caesar pervenisset castraque munire instituisset
- かかる森の入口のところへカエサルが到着して陣営の防備にとりかかったときに、
- neque hostis interim visus esset,
- 敵はその間に現れることはなく、
- dispersis in opere nostris
- 工事において分散されている我が方〔ローマ勢〕を
- subito ex omnibus partibus silvae evolaverunt et in nostros impetum fecerunt.
- 突然に(敵勢が)森のあらゆる方面から飛び出してきて、我が方に襲撃をしかけたのだ。
- Nostri celeriter arma ceperunt
- 我が方〔ローマ勢〕は速やかに武器を取って
- eosque in silvas reppulerunt et compluribus interfectis
- 彼らを森の中に押し戻して、かなり(の敵勢)を殺傷して
- longius impeditioribus locis secuti
- 非常に通りにくい場所を追跡したが、
- paucos ex suis deperdiderunt.
- 我が方〔ローマ勢〕のうちで傷を負ったのは少数であった。
29節
編集カエサル、むなしく撤退して、軍を冬営させる
- Reliquis deinceps diebus Caesar silvas caedere instituit,
- カエサルは、続く(冬が近づくまでの)残りの日々で、森を伐採することを決めた。
- et ne quis inermibus imprudentibusque militibus ab latere impetus fieri posset,
- 丸腰で(敵襲を)予期せぬ兵士たちが側面からいかなる襲撃もなされないように、
- omnem eam materiam quae erat caesa conversam ad hostem conlocabat
- 伐採されたすべての材木を、敵の方へ向きを変えて配置して、
- et pro vallo ad utrumque latus exstruebat.
- 防柵の代わりに、両方の側面に積み上げていた。
- (訳注:伐採に従事する兵士らを不意の敵襲から守るために、防壁代わりに置いていた。)
- 防柵の代わりに、両方の側面に積み上げていた。
- Incredibili celeritate magno spatio paucis diebus confecto,
- 信じがたいほどの迅速さで、大きな空間(の伐採)が、わずかな日数で完遂されて、
- cum iam pecus atque extrema impedimenta a nostris tenerentur,
- ipsi densiores silvas peterent,
- 自身は(敵が潜んでいる)森の最も密生したところを目指していたときに、
- eiusmodi sunt tempestates consecutae, uti opus necessario intermitteretur
- 工事をやむなく中断せざるを得ないほどの、暴風雨が続いて起こり、
- et continuatione imbrium diutius sub pellibus milites contineri non possent.
- 大雨が続いて、これ以上は皮〔天幕〕の下に兵士たちを留めることはできなかったほどだった。
- Itaque vastatis omnibus eorum agris,
- こうして、彼ら〔モリニー族とメナピイー族〕のすべての畑を荒らして、
- vicis aedificiisque incensis,
- 村々や建物を焼き打ちして、
- Caesar exercitum reduxit
- カエサルは軍隊を連れ戻して、
- et in Aulercis Lexoviisque, reliquis item civitatibus quae proxime bellum fecerant,
- アウレルキー族とレクソウィイー族や、他の同様に最近に戦争をしていた部族たちのところに
- in hibernis conlocavit.
- 冬営に配置した。
- 「ガリア戦記 第3巻」了。「ガリア戦記 第4巻」へ続く。
脚注
編集- ^ プルータルコス『対比列伝』の「カエサル」20,21
- ^ s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_Galbae#III.
- ^ s:la:De_vita_Caesarum_libri_VIII/Vita_divi_Iuli#XIV., #XVII. を参照。
- ^ ビスケー湾とは - コトバンク
- ^ w:en:Roman mosaic
- ^ cum … tum - Latin is Simple Online Dictionary 等を参照。
- ^ Praeconinus - Ancient Greek (LSJ)
- ^ Sontiates - Latein-Deutsch Übersetzung | PONS 等を参照。
- ^ ラテン語版ウィキソース s:la:Naturalis_Historia/Liber_IV#XXXIII を参照。
- ^ The Latin Library Pliny the Elder: Natural History, Book IV を参照。
- ^ aeraria, aerariae (f.) A - Latin is Simple Online Dictionary
- ^ sectura, secturae (f.) A - Latin is Simple Online Dictionary
- ^ Vocates - Latein-Deutsch Übersetzung (PONS)
- ^ 14.0 14.1 s:la:Naturalis_Historia/Liber_IV#XXXIII を参照。
- ^ Tarusates - Latein-Deutsch Übersetzung (PONS)
- ^ quoqueversum - Latein-Deutsch Übersetzung (PONS)
- ^ auxiliaris, auxiliaris (m.) M - Latin is Simple Online Dictionary