刑事訴訟法第250条

公訴時効 から転送)

法学コンメンタールコンメンタール刑事訴訟法=コンメンタール刑事訴訟法/改訂

条文

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(公訴時効の期間)

第250条
  1. 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑に当たるものについては、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
    1. 無期拘禁刑に当たる罪については30年
    2. 長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については20年
    3. 前二号に掲げる罪以外の罪については10年
  2. 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
    1. 死刑に当たる罪については25年
    2. 無期拘禁刑に当たる罪については15年
    3. 長期15年以上の拘禁刑に当たる罪については10年
    4. 長期15年未満の拘禁刑に当たる罪については7年
    5. 長期10年未満の拘禁刑に当たる罪については5年
    6. 長期5年未満の拘禁刑又は罰金に当たる罪については3年
    7. 拘留又は科料に当たる罪については1年
  3. 前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる罪についての時効は、当該各号に定める期間を経過することによつて完成する。
    1. 刑法第181条の罪(人を負傷させたときに限る。)若しくは同法第241条第1項の罪又は盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和5年法律第9号)第4条の罪(同項の罪に係る部分に限る。)
      20年
    2. 刑法第177条若しくは第179条第2項の罪又はこれらの罪の未遂罪
      15年
    3. 刑法第176条若しくは第179条第1項の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法第60条第1項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。)
      12年
  4. 前二項の規定にかかわらず、前項各号に掲げる罪について、その被害者が犯罪行為が終わつた時に18歳未満である場合における時効は、当該各号に定める期間に当該犯罪行為が終わつた時から当該被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間を経過することによつて完成する。

改正経緯

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2023年改正

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第3項及び第4項を新設。2023年7月13日施行。

2022年改正

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以下のとおり改正。2025年6月1日施行。

  1. 第1項本文を以下のとおり改正
    (改正前)時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
    (改正後)時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑に当たるものについては、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
  2. 第1項第1号及び第2項第2号について以下のとおり改正
    (改正前)無期の懲役又は禁錮
    (改正後)無期拘禁刑
  3. 第2項本文を以下のとおり改正
    (改正前)禁錮以上の刑に当たるもの
    (改正後)拘禁刑以上の刑に当たるもの
  4. その他の箇所について以下のとおり改正
    (改正前)「懲役又は禁錮」又は「懲役若しくは禁錮」
    (改正後)拘禁刑

2010年改正

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2010年(平成22年)改正により、以下の条項(現行第2項)から改正。「人を死亡させた罪」であって、法定刑の上限が死刑である犯罪については公訴時効はなくなった。

時効は、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
  1. 死刑に当たる罪については25年
  2. 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については15年
  3. 長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年
  4. 長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年
  5. 長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年
  6. 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
  7. 拘留又は科料に当たる罪については1年

解説

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Wikipedia
ウィキペディア公訴時効の記事があります。
公訴時効の期間について規定する。
各犯罪類型に定められた法定刑の拘禁刑の長期期間、拘禁刑が定められていない場合は重い罰が罰金または拘留・科料であるかを基準として定め、それを徒過すると刑事訴追できなくなる。
2010年(平成22年)改正により、構成要件に「人を死亡させた(故意の有無を問わない)」を含み、法定刑に死刑を含むものについては、公訴時効の適用がなくなった。
なお、法定刑に死刑が定められていても、「人を死亡させた」が構成要件となっていない犯罪(内乱罪、外患誘致・援助罪、現住建造物等放火等)は、その犯罪行為の結果死亡者が発生したとしても、なお、公訴時効の適用があるということになる[1]。ただし、故意があって人を殺害をするという手段のために放火をするという場合などは、一つの行為で両方の犯罪を犯すという形で観念的競合になり殺人罪も適用されるということで公訴時効の制約を受けることはなくなる[2][3]。しかしながら、内乱罪、外患誘致・援助罪については、故意の殺人行為も吸収されるとの解釈が一般的であるので観念的競合の適用があるかは不明である[4]

参照条文

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時効期間の計算

刑法 第6章 刑の時効及び刑の消滅

適用

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  1. 「人を死亡させた罪(犯罪行為において故意の有無に関わらず致死の結果が現実に生じたもの)」であって法定刑に死刑を含むもの。
    公訴時効なし - 法律において公訴時効の定めがない。
  2. 「人を死亡させた罪」であって、法定刑が拘禁刑であって、死刑を含まないもの(第1項)
    1. 法定刑の上限が無期拘禁刑であるもの。-公訴時効30年(第1項第1号)
    2. 法定刑の上限が20年以上の有期拘禁刑であるもの。-公訴時効20年(第1項第2号)
    3. 法定刑の上限が20年未満の有期拘禁刑であるもの。-公訴時効10年(第1項第2号)
  3. 「人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの」以外の罪(第2項)
    上記1.及び2.以外の罪であるが、換言すると①「法定刑が拘禁刑以上の罪であって、構成要件に『人を死亡させた』を含まないもの」または②「『人を死亡させた罪(構成要件に致死の結果を含む罪)』で法定刑の上限が拘禁刑に満たないもの[5]」をいう。
    1. 法定刑の上限が死刑であるもの。-公訴時効25年(第2項第1号)
    2. 第3項により、公訴時効を20年に延長するもの
    3. 法定刑の上限が無期拘禁刑であるもの。-公訴時効15年(第2項第2号)
    4. 第3項により、公訴時効を15年に延長するもの
    5. 第3項により、公訴時効を12年に延長するもの
    6. 法定刑の上限が15年以上の有期拘禁刑であるもの。-公訴時効10年(第2項第2号)
    7. 法定刑の上限が10年以上15年未満の有期拘禁刑であるもの。-公訴時効7年(第2項第3号)
    8. 法定刑の上限が5年以上10年未満の有期拘禁刑であるもの。-公訴時効5年(第2項第4号)
    9. 法定刑の上限が5年未満の有期拘禁刑又は罰金に当たるもの。-公訴時効3年(第2項第5号)
    10. 拘留又は科料に当たる罪に当たるもの。-公訴時効1年(第2項第6号)

判例

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  1. 業務上過失致死、同傷害(最高裁決定昭和63年2月29日)
    1. 被害者が受傷後期間を経て死亡した場合における業務上過失致死罪の公訴時効
      業務上過失致死罪の公訴時効は、被害者の受傷から死亡までの間に業務上過失傷害罪の公訴時効期間が経過したか否かにかかわらず、その死亡の時点から進行する。
    2. 結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合の公訴時効
      結果の発生時期を異にする各業務上過失致死傷罪が観念的競合の関係にある場合につき公訴時効完成の有無を判定するに当たつては、その全部を一体として観察すべきであり、最終の結果が生じたときから起算して同罪の公訴時効期間が経過していない以上、その全体について公訴時効は未完成である。
  2. 強盗殺人被告事件(最高裁判決 平成27年12月3日)日本国憲法第31条, 日本国憲法第39条
    公訴時効を廃止するなどした「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)の経過措置を定めた同法附則3条2項と憲法39条,31条
    公訴時効を廃止するなどした「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)の経過措置として,同改正法律施行の際公訴時効が完成していない罪について改正後の刑訴法250条1項を適用する旨を定めた同改正法律附則3条2項は,憲法39条,31条に違反せず,それらの趣旨にも反しない。
    • 公訴時効制度の趣旨は,時の経過に応じて公訴権を制限する訴訟法規を通じて処罰の必要性と法的安定性の調和を図ることにある。本法は,その趣旨を実現するため,人を死亡させた罪であって,死刑に当たるものについて公訴時効を廃止し,懲役又は禁錮の刑に当たるものについて公訴時効期間を延長したにすぎず,行為時点における違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではない。そして,本法附則3条2項は,本法施行の際公訴時効が完成していない罪について本法による改正後の刑訴法250条1項を適用するとしたものであるから,被疑者・被告人となり得る者につき既に生じていた法律上の地位を著しく不安定にするようなものでもない。

脚注

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  1. ^ 法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会 第5回会議(平成22年1月20日開催)議事録より
    「例えば放火罪は法定刑は殺人と全く同じでありますけれども,定型的には人の死亡という結果を伴わないということでこの廃止からは抜けているわけですけれども,殺意はないにしても重過失で放火,現住建造物に放火して重過失致死が併合罪ないし観念的競合になるような場合,あるいは傷害致死が観念的競合になるような場合は,この中からはもう抜け落ちてしまうということになるのですね。人は死亡している,かつ故意の殺意はない,しかし現住建造物放火はしているのだ。そういう場合は,廃止の対象にはならないということですね。」
    「はい,廃止の対象にはならないということでございます。放火をして人が亡くなった。亡くなった人に対して殺意が認められないというときに,現住建造物放火と別に過失致死罪なり重過失致死罪が成立するのかしないのかということについては,解釈が分かれるところでございますけれども,現住建造物等放火罪は,この骨子案として示している「人を死亡させた罪」には含まれないと考えておりますので,現住建造物等放火罪については現行の25年という時効期間のままになります。それと別に重過失致死が成立するとすると,甲案によると重過失致死については現行の5年が10年になるという扱いになるということです。」
  2. ^ 第174回国会参議院法務委員会第10号平成22年4月13日
    千葉景子法務大臣「これは常々問題になるところでございますけれども、要するに、放火の罪というのは人を言わば死亡させた罪というのには該当しないということになります。確かに、特に現住建造物放火などというのは人の命にかかわりは大変多いわけですし、それからそれによって亡くなられるというようなことがあり得る、これは想像ができるわけですけれども、この放火罪自体は人を必ずしも死亡させる目的でということではないものですから、人を死亡させる罪には当たっていないということでございます。
    ただ、人を殺す、故意があって人を殺害をするという手段のために放火をするということになりますと、先ほどお話がありましたけれども、殺人罪そしてこの放火罪と、一つの行為で両方の犯罪を犯すという形で観念的競合ということになりますので、こういう場合だと殺人罪も適用されるということで公訴時効の制約を受けることはなくなるという解釈になろうというふうに思います。
  3. ^ 不同意わいせつ/不同意性交等致死の場合、最高刑が無期拘禁刑であるが、元々殺意を持って不同意性交等(強姦等)を行った場合、そもそも、別個に殺人罪が成立しているとするのが判例(最高裁判決昭和31年10月25日)・通説である。
  4. ^ 法制審議会刑事法(公訴時効関係)部会 第6回会議(平成22年1月28日開催)議事録より
    「内乱罪というのがあって,一般の解釈だと,故意で人を殺した場合も内乱罪に吸収されると考えられている。他方,内乱自体は,人を死亡させるという要素は犯罪の要素になっていませんので,そうなると,内乱罪を持ち出すというのは非現実的かもしれませんけれども,犯罪としては放火罪と全く同じ問題になってくるので,これは故意でもって人を殺した場合でもむしろ25年になってしまうのかという感じがあるのですが,そこはどう考えればよろしいですか。」
    「そうならざるを得ない。現行の要綱骨子(案)であると,そうならざるを得ないと思います。」
  5. ^ 過失致死罪(刑法第210条)のみ。

前条:
第249条
(公訴の効力の人的範囲)
刑事訴訟法
第2編 第一審
第2章 公訴
次条:
第251条
(時効期間の基準となる刑1)
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